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輝くシーン
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「でも、音鳴さんが収めてくれたみたいで、よかったです。何を言ったんですか?」
「ええ……あちらのお客さんはご旅行のようだったから……嫌な思い出はない方がいいんじゃないですか……みたいなことを……」
「なるほど」
友人たちと一緒の旅行中であれば、それは確かにいい思い出ばかりを残しておきたいと思うだろう。こんなところでトラブルになった思い出なんてそりゃない方がいいだろうから、頭を下げてそれで収まるなら引き下がりもするだろう。上手な諭し方だと思った。
「でも、おじいさんもあっさりと矛を収めましたね」
「まあ……長く怒り続けるのって……難しいですからね……」
自分が間に入らなくてもそろそろ収束していただろうと音鳴さんは言う。私はそんなことはないと思うのだけれども、当の本人が淡々としているので、そういうことにしておくことにする。
「まあでもこれで……今晩は……ちょっとは静かになるんじゃないかな……。今晩は部屋にいる予定なんで……そうだといいんですが……」
「それは本当にそうですね。その点だけは、おじいさんに感謝しなきゃ」
「人間……誰しも輝くシーンというのはあるものです……」
含蓄あるのかないのかわからないようなことを言う音鳴さんと別れて、私は部屋へと戻った。
しかし今日は初めて、音鳴さんと長々と喋ったなあと思う。相変わらずとらえどころのない人だけど、やはり理知的で物静かな人だという印象は変わらない。
同じ団地の隣人とは仲良くしておくには越したことがない。だが、親密になりすぎるのも問題だとは個人的には思っている。親密さが、別のトラブルを呼び寄せる引き金になることもあるからだ。特に、親密なご近所付き合いの代名詞ともいわれる、昔からこの国に根付いている自治会というシステムは、今やトラブルの温床と化している。
私にとっては幸いなことだが、このアパートは戸数が少ないこともあって、自治会が存在しない。これは重要なことなので、引っ越し先を探す際に、そこに自治会が存在しないことは必ず確認していた。
「ええ……あちらのお客さんはご旅行のようだったから……嫌な思い出はない方がいいんじゃないですか……みたいなことを……」
「なるほど」
友人たちと一緒の旅行中であれば、それは確かにいい思い出ばかりを残しておきたいと思うだろう。こんなところでトラブルになった思い出なんてそりゃない方がいいだろうから、頭を下げてそれで収まるなら引き下がりもするだろう。上手な諭し方だと思った。
「でも、おじいさんもあっさりと矛を収めましたね」
「まあ……長く怒り続けるのって……難しいですからね……」
自分が間に入らなくてもそろそろ収束していただろうと音鳴さんは言う。私はそんなことはないと思うのだけれども、当の本人が淡々としているので、そういうことにしておくことにする。
「まあでもこれで……今晩は……ちょっとは静かになるんじゃないかな……。今晩は部屋にいる予定なんで……そうだといいんですが……」
「それは本当にそうですね。その点だけは、おじいさんに感謝しなきゃ」
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しかし今日は初めて、音鳴さんと長々と喋ったなあと思う。相変わらずとらえどころのない人だけど、やはり理知的で物静かな人だという印象は変わらない。
同じ団地の隣人とは仲良くしておくには越したことがない。だが、親密になりすぎるのも問題だとは個人的には思っている。親密さが、別のトラブルを呼び寄せる引き金になることもあるからだ。特に、親密なご近所付き合いの代名詞ともいわれる、昔からこの国に根付いている自治会というシステムは、今やトラブルの温床と化している。
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