11 / 17
言い争い
しおりを挟む
その夜、私の嫌な予感はやはり当たっていて、夜になっても例の民泊施設からは騒がしい音が漏れ聞こえてきていた。
遅い時間には静かになってくれればいいけど、と願いながら家事をしていると、外が一層騒がしい。手を止めて部屋の外に出てみると、民泊施設の前で誰かが言い争っている。暗がりの中で目を凝らして見てみれば、片方はおそらく宿泊客の一人、もう片方は一階に入居しているエサやり隊のうちの一人だ。
おそらくは、騒音の件で文句をつけに言ったのだろう。宿泊客たちは知らないことだが、住人側からすれば迷惑な騒音は二回目だから、一階の老人たちも今回は我慢できなかったのだろうと思う。
通り過ぎる彼らにとっては一過性のことでも、住人たちにとってはそうではない。管理者側が対処を怠れば、積もり積もった怒りや恨みはその場にいる人間に向けられる。民泊の管理会社はそのことをわかっていながら、おそらく意図的に使用者に矛先が向くように仕向けている。
それで、今アパートの下で繰り広げられているような、本来起こらずに済んでいたような諍いが、各地で発生し、世の中全体のストレスを増やし続けている。
私はといえば、どうでもいいから早く終わってくれと願いながら、その光景を眺めていた。心情的には老人に味方したいが、あの人たちにはできるだけ関わり合いになりたくないし、私があそこに加わったからといって事態が好転するとは思えない。それに、騒音をとがめている本人の声が一番うるさいってのはどうなんだろう。うるさいって叫ぶヤツの声が一番うるさいっていうのはあるあるだけども。
そんなときに前の道を通る人影が見える。目を凝らして見ると、やけに目立つ痩身はどうやら音鳴さんだ。ちょうど帰りに行き当ってしまったらしい。
無視するのもはばかられたのか、音鳴さんは言い争う二人の方に近寄ってゆく。そして何やら話をすると、二人の声は次第に小さくなっていった。
しばらくして、若者が施設の中に戻ってゆく。音鳴さんと老人も互いに話をしながら、コーポ強井の敷地内へと戻ってきた。
私は外で、音鳴さんが上ってくるのを待っていた。
「……おや」
「音鳴さん、こんばんは」
「見ていたんですか……」
「ええ。ちょっと、気になって……」
「まあ……そうですよね……。あれだけ……騒がしければ……」
音鳴さんは初めて見るスーツ姿だった。立ち姿がきれいな音鳴さんはかっちりした姿も様になっている。
遅い時間には静かになってくれればいいけど、と願いながら家事をしていると、外が一層騒がしい。手を止めて部屋の外に出てみると、民泊施設の前で誰かが言い争っている。暗がりの中で目を凝らして見てみれば、片方はおそらく宿泊客の一人、もう片方は一階に入居しているエサやり隊のうちの一人だ。
おそらくは、騒音の件で文句をつけに言ったのだろう。宿泊客たちは知らないことだが、住人側からすれば迷惑な騒音は二回目だから、一階の老人たちも今回は我慢できなかったのだろうと思う。
通り過ぎる彼らにとっては一過性のことでも、住人たちにとってはそうではない。管理者側が対処を怠れば、積もり積もった怒りや恨みはその場にいる人間に向けられる。民泊の管理会社はそのことをわかっていながら、おそらく意図的に使用者に矛先が向くように仕向けている。
それで、今アパートの下で繰り広げられているような、本来起こらずに済んでいたような諍いが、各地で発生し、世の中全体のストレスを増やし続けている。
私はといえば、どうでもいいから早く終わってくれと願いながら、その光景を眺めていた。心情的には老人に味方したいが、あの人たちにはできるだけ関わり合いになりたくないし、私があそこに加わったからといって事態が好転するとは思えない。それに、騒音をとがめている本人の声が一番うるさいってのはどうなんだろう。うるさいって叫ぶヤツの声が一番うるさいっていうのはあるあるだけども。
そんなときに前の道を通る人影が見える。目を凝らして見ると、やけに目立つ痩身はどうやら音鳴さんだ。ちょうど帰りに行き当ってしまったらしい。
無視するのもはばかられたのか、音鳴さんは言い争う二人の方に近寄ってゆく。そして何やら話をすると、二人の声は次第に小さくなっていった。
しばらくして、若者が施設の中に戻ってゆく。音鳴さんと老人も互いに話をしながら、コーポ強井の敷地内へと戻ってきた。
私は外で、音鳴さんが上ってくるのを待っていた。
「……おや」
「音鳴さん、こんばんは」
「見ていたんですか……」
「ええ。ちょっと、気になって……」
「まあ……そうですよね……。あれだけ……騒がしければ……」
音鳴さんは初めて見るスーツ姿だった。立ち姿がきれいな音鳴さんはかっちりした姿も様になっている。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
いつもと違う日常
k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
【本当にあった怖い話】
ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、
取材や実体験を元に構成されております。
【ご朗読について】
申請などは特に必要ありませんが、
引用元への記載をお願い致します。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる