となりの音鳴さん

翠山都

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繰り返す予感

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 翌日、コーポ強井と民泊施設を挟む道路上にコーヒーの空き缶やタバコの吸い殻が散乱しているのを見てげんなりした。しかも外国人客ではなく、どう考えても日本人客。つまり外国人よりも、同じ日本人の旅行客の方がマナーが悪いのだ。このことをどう考えればいいのだろうか。
 これがそのとき限りのことであれば、まあ仕方ないかと割り切って、その間だけ我慢すればいい。民泊のよくないところは、そこに施設が存在している限り、同じような事態が何度も繰り返されるところだ。
 私が引っ越してきて二か月目に入った。ようやく周辺の地理も大まかに覚えられて、普段買い物に使うスーパーや銀行、郵便局の位置なんかも把握できてきた。
 生活のリズムも決まってきて、ようやくこちらでの新生活にも馴染んできただろうかという頃だ。
 例の民泊施設に、また若い男女の集団がやってきた。このときも私は偶然彼らが施設内に入っていくところに出くわしたのだが、彼らの雰囲気が前回の集団と似通っていたので、やっぱりすごく嫌な予感がした。
 ああ、また、夜中まで騒ぐのかな。今晩もまた、眠れないのかな。そう思った。建物の右側に設置してある駐輪場へ行きかけて、後ろから階段を下りてくる足音を聞きつけ、振り向いた。
 黒いセーターに同色のパンツという全身黒ずくめの音鳴さんをみつけた。
「ああ、音鳴さん、おはようございます」
「おはようございます……。どうも、ご無沙汰してます」
「そうですね、めったにお会いしませんもんねぇ」
 私たちはお互い小さく笑いあう。
 音鳴さんの視線が、閉まりゆく民泊施設のドアに向けられていた。
「あそこ……なかなか繁盛してるみたいですね……」
「ですねぇ。いつも静かな人ばかりだったらいいんですけど。前にああいう若い人が来られたときはすごく騒いでうるさかったので、心配です」
「そんなことが……あったんですか……?」
「ええ。一か月くらい前なんですけど……」
 私は音鳴さんに、一か月ほど前に遭った民泊施設の大騒ぎについて話した。
「そうですか……。私が部屋に、いないときだったのかな……」
「あれだけの騒音だったら、部屋にいられたらきっと気付いていたと思いますから、きっとそうですね」
「そうですか……そんなことが……」
 顎に手を当てて考え込む音鳴さんの姿は、細見と長身と相まってすごく決まって見える。キレイというよりもカッコイイという印象だ。
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