となりの音鳴さん

翠山都

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嫌な予感

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 ちょうど先週末、私が外出する際に見かけたのは、ちょっと毛色の違う集団だった。若い男女のグループで、日本語をしゃべっている。外見や振る舞いからも、日本人かそれに近しい人種の集団であるように見受けられた。
 彼らは互いに大声で喋り、笑いあっていた。そして「あ、ここだここ」とか言いながら、民泊業者ののぼりが立った住宅に入っていった。そのときはまだ昼間だったのだが、私はすでに嫌な予感がしていた。
 その日私が帰宅したのは夜の十八時頃だったが、はす向かいの邸宅はすでに騒がしい状態だった。嫌な予感は増したが、何事もないようにと祈って四階まで上った。
 祈りは届かなかった。夜中の十二時を回っても、宿泊客たちは騒ぎを止めなかった。次の日朝が早かった私は、我慢して何とか眠りに就いた。
 目を覚ましたのは夜中の二時頃だった。あまりにも大きな笑い声が外から響いてきて、どうやらそれで目を覚ましてしまったようだ。
 ドアを開けて廊下から向かいの道を見ると、例の宿泊客たちの何人かが邸宅の外に出て、タバコを吸いながら談笑している。
 私は怒りを覚えた。今すぐ注意をするべきだと、そう思った。
 気持ち的にはそうしたかった。だが向こうには四人もいる。注意して、逆切れされたらどうしよう。見た目で判断したくはないが、そうしてもおかしくないような人たちに私には見えた。
 注意したい。そうしたいのに、結局私には勇気が出なかった。ドアから外に踏み出せなかった。
 悔しさとやるせなさを感じながら、私は部屋の中に戻った。
 こんなときに、はっきりと言った方がいいことは、わかっている。こうやって黙っている人間が増えれば、好き放題、自分勝手に生きている人間ほどどんどん得をして、私のようなものを言えない人間はどんどんと社会で生きていきづらくなる。でも、わかっていても行動に移せない。そんな私が、私は嫌いだ。
 口惜しさと自己嫌悪を抱えて、布団に潜り込む。文句を言ったところで、何かが変わるわけでもない。こうして一度起こされてしまった時点で、安眠を取り戻すことは不可能で、もうすでに、明日の仕事がつらいことは確定している。手遅れなのだ。
 こういう事態を避けたかったなら、事前に放火でもして、あの民泊施設を燃やしてしまうほかなかった。でも、そんなことはできない。だからただただ布団に潜り込んで、悔しさを噛みしめるしかない。
 私はただここに住んでいるだけなのに。どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。どうしてこんな気持ちにならなくちゃいけないんだろう。
 その夜は結局、ほとんど眠ることができなかった。
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