となりの音鳴さん

翠山都

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民泊施設

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 もう一つの困った問題は、アパートのすぐ近くに民泊の施設があることだ。
 民泊は宿泊用としてはもともとつくられていない一般住居を旅行者の宿泊用に提供する制度で、法律で規制が緩和されてからその数を急速に増やした。
 外国からの旅行客、いわゆるインバウンドを増やすために拙速に進められた感のある政策で、もとよりいろいろと問題のある制度なのだが、一番の問題は、もともとは住居施設であるため普通の街中に存在していること、そしてやはりもとが住居施設であるため、騒音を防止するための対策がなされていないことだと思う。
 このことも、私は契約前に知らされていなかった。というかどうも民泊業がはじまったのが私が引っ越してきたちょうど翌日からであったらしく、はす向かいにあった比較的新しめの一軒家の前に急にのぼりが立てられていたので驚いた。
 こうした民泊業をはじめる際は大抵、開業の一か月か二か月前ほどに、付近の住民に知らせるための説明会を開くことになっており、コーポ強井の管理会社も当然、私が契約する時期にはもう近くに民泊施設が開業することは知っていたはずである。だがやはり、そういった情報を教えてくれることはなかった。自分で周辺事情を調べていなかった私が悪いということなのだろうか。
 ちなみに、周辺住民も大抵は説明会開催の通知がポストに届いたことで、その事実を知ることになる。で、周辺住民のほぼ八割方は民泊開業に反対するのだけれど、仮に反対運動が起こったとして、それで開業が取り消されることはまずない。政府が後押ししている事業でもあるので、よほどのことでもない限り法と行政は事業者の味方だし、事業者はただ時間を耐えてやり過ごすだけで事足りる。住民側は知らされた時点でもう手遅れなのだ。
 なので私もその事実を知った後は半ばあきらめ気分で、何事もなければいいと願っていた。実際には、そうはならなかったけど。
 民泊住居は常に利用されているわけではないが、それでも毎週末は夜に明かりが灯っていて、そこそこの利用率を保っているようだ。付近でキャリーケースを引いた外国語を話す人をしばしば見かけることもある。
 意外、といってはおかしいかもしれないが、最初のうちは思ったような事態にはならなかった。最初のうちは近所の人たちの間で民泊の件についていろいろ騒がれていたのだけれども、民泊事業の二大問題ともいえる騒音についてもゴミの問題にしても、私たち住人が危惧していたような問題行動は起きなかった。それで住民たちも、あまり民泊のことを話題にしないように次第になっていった。
 これはおそらく、外国人旅行客の皆さんが、契約の際に事業者から、滞在時に注意する点についてこと細かく指導を受けていたからだと思う。実際、きちんとした民泊事業者では、こういったルール・マナーの喚起に力を入れていて、周辺住民との関係が悪化しないよう注意を払っているのだとか。すべての業者がそうであればいいのだが、現実にはそういった良心ある事業者というのは数少なく、法律を盾に必要最低限のことしかしない事業者の方が圧倒的に多い。そういった事業者が平気でのさばっている限り、民泊業者が嫌われるのも仕方のないことだと思う。

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