となりの音鳴さん

翠山都

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住人のこと

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 引っ越しは部屋や立地も重要だけど、そこにどんな人が住んでいるかも重要だ。そして、部屋と立地は契約前に知ることができるけど、住人のことを知るのは難しい。現在、オーナーや不動産屋さんが、トラブルを頻繁に起こしている住民がいるのを知っていても、客に教える必要はないことになっているが、これは一種の詐欺に近いと私は思う。実際、それで引っ越さざるを得ない経験をしてきたし、それ以上に見てきたから。
 近頃では、近隣であまりに有名になっている場合なら、地域検索で情報を得ることもできるようになった。昔よりは自衛ができるようになったといえるが、こういう方面は法整備も含めてもっともっと進んで欲しいと思う。
 コーポ強井では両隣の人間に恵まれたと思う。どちらも温厚そうな人柄だし、大きな物音も出さないので、現在のところとても安らかな気持ちで住んでいられている。特に、四〇四号の音鳴さんのような、部屋は借りているけどほとんどそこにいないという住人は、正直なところ、お隣に住んでくれるにしては最適な人物だ。音鳴さんには悪いけど。
 エレベーターなしの最上階の四階というのもいい。毎日の階段の上り下りは正直堪えるけれども、裏を返せばそれは、オートロックのないアパートとしては、防犯的に最上の効果を発揮する。意図的に特定の住人や部屋を狙うのではない限り、わざわざ階段を四階まで上ってきて仕事をする泥棒や変質者はまずいない。四階の部屋がすべて中高年未満の女性で埋まっているのは、偶然ではないと思う。
 怖いのは火事だけれども、それはもう、こういう場所に住むからにはあきらめるしかない。
 一か月間住んでみた範囲では、隣近所の人間関係に関しては、今回は当たりだったと思う。長く住んでいるうちに気づかなかった色々な面が見えてくるかもしれないけれども、これまでの経験上、はじめの一か月で大きな問題がなかったなら、早々ひどいことにはならないはずだった。
 そう信じたい。
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