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コーポ強井
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私が住んでいる四〇三号室の隣、四〇四号室には音鳴さんという女性が住んでいる。それを知ったのはつい最近のことだ。
私が今の団地、コーポ強井に引っ越してきたのは一か月前。四階建ての単身者用ワンルームアパートで、バストイレ別、エアコン付きのオール電化。最寄り駅までは徒歩七分とやや遠めだが、そのぶん家賃が少々安めなことと、築年数が浅いのとが決め手になった。
四〇三号室は四階なので階段の上り下りが大変だが、最上階なので上の階からの騒音を気にする必要がない。前に住んでいたアパートでは上の階の住人の足音に悩まされていたので、それもここに決めた理由の一つだった。
引っ越してきたときには、洗剤を手に両隣の四〇二号室と四〇四号室へ挨拶に行った。右隣の四〇二号室は尾向さんという名の、私と同い年くらいのぼっちゃりめの女性で、挨拶をすることができたのだが、四〇四号室はあいにくの留守で出会えなかったのだ。
それで、もう一つの洗剤は玄関先に置いておいて、廊下で出会った際にでも渡そうと思っていたのだが、顔を合わせる機会がなく、挨拶用の洗剤は玄関に放置されっぱなしだった。
実のところ、お隣は誰も入居していない空き部屋なんじゃないかと、私は思いはじめていた。
だれも入居していない部屋は、一階の郵便受けや扉のポストがチラシなどで溢れている。それをときどきビルの管理会社の人間が回収しに来る。四〇四の番号はいつも郵便物が溜まっている様子はなかったから、誰かが入居しているのだとはわかっていた。
それでも本当に誰か住んでいるのだろうかと私がいぶかったのは、左隣の部屋から生活音らしきものをまったく聞いたことがなかったからだ。コーポ強井の壁は別に薄いわけではないけど、必要以上に防音がしっかりしているわけでもない。誰か人が生活していれば、それなりの空気というのは感じられるものだ。
けれども音鳴さんは、その名前に反してまったく音を立てない人だった。
だから私は、お隣の四〇四号室はひょっとして無人なのじゃないかと、思いかけていたのだった。
私が今の団地、コーポ強井に引っ越してきたのは一か月前。四階建ての単身者用ワンルームアパートで、バストイレ別、エアコン付きのオール電化。最寄り駅までは徒歩七分とやや遠めだが、そのぶん家賃が少々安めなことと、築年数が浅いのとが決め手になった。
四〇三号室は四階なので階段の上り下りが大変だが、最上階なので上の階からの騒音を気にする必要がない。前に住んでいたアパートでは上の階の住人の足音に悩まされていたので、それもここに決めた理由の一つだった。
引っ越してきたときには、洗剤を手に両隣の四〇二号室と四〇四号室へ挨拶に行った。右隣の四〇二号室は尾向さんという名の、私と同い年くらいのぼっちゃりめの女性で、挨拶をすることができたのだが、四〇四号室はあいにくの留守で出会えなかったのだ。
それで、もう一つの洗剤は玄関先に置いておいて、廊下で出会った際にでも渡そうと思っていたのだが、顔を合わせる機会がなく、挨拶用の洗剤は玄関に放置されっぱなしだった。
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けれども音鳴さんは、その名前に反してまったく音を立てない人だった。
だから私は、お隣の四〇四号室はひょっとして無人なのじゃないかと、思いかけていたのだった。
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