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歓びの里 [ランド、七日間の記録]編

日録7 パンツを剥ぐのは誰だ (前)

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 小褲パンツネタを引っ張って、ゆっくり展開。。
 大変、申し訳ありませんm(__)m

 お付合いいただけますと、幸いです。

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「――いや、それはダメだろ」

  チャンジは腕組みしながら 仁王立ちになり、バッサリと切り捨てた。

 彼の前には項垂うなだれる、双子の姉妹の姿があった。気まずく思いながらも、ランドはすこし離れたところからその様子を見守る。

 正直、これ以上ひん剥かれてはかなわない。その点では、チャンジと同じ意見だった。

 目をやれば、引き締まった逞しい肉体美に、完璧に整った面持ち。

 男前と呼ぶにふさわしい姿は今、迫力ある強面こわもてで目の前の二人を見据え、その強い眼差しは相手に圧すら与えている。

 男は静かに言った。

「――コムジたち」
コムジです」
コムジです」
「そこは重要じゃねえよな?」

 怒りを孕みながらも静かな声に、さしもの姉妹もびくりと体を震わせた。思った以上に剣呑な声音に、ランドもドキリとする。

 先ほどチュンジを、切れ味の良い刃物のように鋭く諭していたのが嘘のように、二人はシュンと顔を伏して小さくなった。

「…相手は子供と言っても、ほどなく成人を迎える年頃だ。小褲パンツまで剥ぎ取ろうとするとは何事だ――しかも裸に剥いて全身を拭き倒しただと?」
「裸にいておりません――残念ですが」
小褲パンツ、剥ぎ取れませんでした。未遂です」

 反省の色が見えない発言に、ぎゅっとチャンジは眉間の辺りを指で押さえると、気を鎮めるためか、ふうと深いひと息を吐き出す。

 ランドは耳を押さえたい衝動を、かろうじてこらえた。ついでにいいかげんその話題パンツから離れてくれないものかと、意識を遠くに飛ばしそうになってしまう。

 そんなランドを尻目に、チャンジは姉妹を粛々と説き伏せる。だが今後、ランドへの過剰な世話焼きを止めるようにという話になったその時。

 それまでじっと俯いていたウコムジが、意を決したように顔を上げた。

「お兄様。納得いきません。私たちは困っている里の者たちにするように、お客様のお手伝いをしただけです。ただのお世話に恥ずかしがるようなことなどありません。そもそも里の皆も、とても喜んでくれて――」
コムジ」

 ウコムジの言葉にかぶせて、その先を遮った。その声にウコムジだけでなく、自然と皆の視線がチャンジに集まる。

「――そうか。誰も恥ずかしがらなかったと…?」
「え…はい。その通りですわ」
「では聞くが、最近、誰の手伝いをした?」
「ええ…と。ドマの下の娘です」
「…それ、二歳な。あとは?」
「あとは…パサンのお宅のおじい様です」

 ボソリと「…そっちは七十を越えたご老人だな…」と聞こえたのは、一歩後ろにたたずむチュンジから放たれた乾いた声だった。

 しばらく顔を押さえて黙り込んでいたチャンジは、「こんなことわざわざ言うのも馬鹿らしいが」と前置きをすると、深い溜め息を吐いた。

「いいか? 客人は花も恥じらう十七だ。十七って言えば、もう立派な男も同然。お前たちのような若い娘が世話をすれば、色々もあるだろうし――普通に恥じらう年頃。そんなこと分かりきったことだろうに」

 一歩間違えば、大火傷しかねない微妙な年齢だ――あと単純に恥ずかしい。ランドは心の中で大いに頷いた。

 それでも、ウコムジは諦めきれなかったのだろう。ツンと顎をあげると――頑張ってしまった。

「あら? 障りってどんなことでしょう? 私には何のことだか…」
「…ほう?」
 
 ついにチャンジの口から剣呑な声が出た。途端にジワリと周囲の空気が二、三度下がったかのように冷え始める。けして気のせいではない。
 
 ぎょっとしてランドは思わずチャンジの横顔を見るも、その表情に先ほどと何ら変わったところはない。それが一層見る者をヒヤリとさせた。

 これと同じような怒り方をする人物を、ランドは一人だけ知っている――リヴィエラだ。

 過去に一度だけリヴィエラがこんな風に怒りを表したところを見たことがあるが、それはもう――恐ろしかった。

 辺りに漂い始める不穏な気配に気づくと、姉妹は揃ってそわそわと視線を泳がせ始める。

「ひ・久しぶりのお客様なので、少し気合いが入り過ぎたかもしれません…」
「ふうん。なるほど…コムジ、お前もそうなのか?」
「え――そ、その…チュンジお兄様ぁ~」

 サコムジは涙目で、一歩後ろで場を見守る、もう一人の兄に呼びかける。その声は助け船を出してくれと分かりやすく訴えかけていた。

「…無理だ」

 助けるのは無理。チュンジはゆっくりとかぶりを振る。先ほど冷えたはずの空気に、今度はユラリと熱が帯びつつあった。

 男の怒気を痛いほど肌にピリリと感じ取り、姉妹はついに膝を折った。

「「申し訳ありませんでしたー!」」


「―――ったく」

 額が床につくほど頭を下げた双子を前にチャンジがぼやく。張り詰めた空気がわずかに緩むのを感じて、ランドもホッと息を吐いた。

 恐ろしいほどの覇気だ。なかなか心臓が痛いほどに。
 チャンジはちらりとランドを横目に見た後で、床にひれ伏した二人の背中に向かって言い放つ。

「いいか…お前たち、覚えておけ。一人前になった男の小褲パンツを最初に剥ぐのが許されるのは、たった一人だ」
「そ、それは…誰なのでしょう?」
 
 恐る恐るウコムジとサコムジが顔を上げる。ランドもまた、一体何を言うつもりかと戦々恐々と耳を傾ける。男の口から語られる次の言葉に備えて、無意識に体が緊張で硬くなるのが分かった。

「もちろん――古今東西、男の小褲パンツを剥ぐのは、己の最愛の者だけの特権と決まってる」

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 読んでいただき、ありがとうございます。

 次話は3日後、更新予定です。
 次回更新も頑張ります。

 どうぞよろしくお願いします。
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