2 / 13
美少年転入生現る
しおりを挟む
「滝川玄冬といいます。よろしくお願いします」
目の前にいたのは、あの夜に見た、ロボットと思しきそれと全く同じ容姿をしていた。雪のように白い肌とショートボブの黒髪、眉目秀麗な目鼻立ちは、見間違えようがない。
彼の容貌は、イケメンというよりは中性的な美少年であった。彼はどんな男子よりも美男子で、どんな女子よりも美少女であった。
彼は、薫のすぐ後ろの席を当てがわれ、そこに着席した。薫の心中は、未だにざわざわと落ち着かない。彼が席に着くためにすぐ隣を通りかかった時、薫はこっそりと耳をそば立ててみたが、機械の駆動音のようなものは全く聞こえなかった。
玄冬は忽ち人気者になった。その日は三校時で下校になったのだが、彼は、主に女子からであるが、質問攻めにあっていた。皆して玄冬のことが気になって仕方がないようである。
そして、ここに、彼のことが誰よりも気になっているのに、それ故に容易に近寄れないでいる少年がいた。
「転入生がロボットって、まさかそんな筈はないよなぁ……」
薫は、ただ一人、あの晩のことを思い出していた。例の晩の出来事が何かの見間違いであるならば、一体どれほど良かったであろうか。しかし、そうは思えないほどに、薫の脳裏にはあの時の光景がはっきりと焼き付いている。頭の中で如何に思考を巡らせてみたとて、答えが得られる筈もなかった。
ところで、薫と同じように玄冬を遠巻きから眺める者の中に、如何にもな不満顔をしている少年がいた。
「何だい、あんな女みてぇな男にキャーキャー言いやがって」
周りの男子よりも一回り大きな体躯のこの少年は名を平剛介といい、その性猛々しく、いつも佞言使いの腰巾着二人を従えている餓鬼大将であった。
「おい、おかっぱ!」
彼は玄冬が包囲を解かれて一人になった隙を見て、その目の前に立ち塞がるように躍り出た。
「黙って見てりゃちやほやされやがって」
剛介は殺気立った眼差しで、目の前の転入生を睨みつけている。その左右で、彼の腰巾着二人が、今にも面白いものが見られそうだと、嫌味な微笑を浮かべているのが見える。
薫は嫌な空気を鋭敏に感じ取った。転入早々、あの粗暴な男の餌食になるのは見てはおれないと思って、一瞬、止めに入ろうか、それとも先生を呼ぼうかと考えたが、その必要がなかったことを、薫はすぐに知った。
剛介は苛立ちを乗せた拳を繰り出したが、玄冬はそれを避け、空振った腕を掴み、柔道のように投げ飛ばしてしまった。
「な、何だこいつ……」
起き上がった剛介に最早覇気はなく、青い顔をして逃げ出していった。腰巾着も、その後を追って逃走した。
「大丈夫か!?」
薫は玄冬の方に駆け寄った。
「ああ、別にどうということはないよ」
玄冬はまるで何事もなかったかのように、けろりとした表情をしていた。間近で彼を見ると、その顔は精緻な作り物のようで、直視するのも憚られるような気さえした。
「ああ、君は後ろの席の本条くんかな」
「そう。名前覚えてくれたんだ」
言いながら、薫は玄冬の腕に視線を落とした。その腕はほっそりとしていて、剛介を投げ飛ばしたような力は何処から出たのだろう、と訝ってしまうばかりであった。
薫は友人である佐竹真と亀山寛二《かめやまかんじ》と一緒に帰るつもりであったが、この転入生の帰路もどうやら同じ方角だったらしく、彼も伴って四人で歩いた。佐竹と亀山も転入生への興味からか、好きなゲームの話だとか、スポーツはやっているかだとか、色々な質問を投げかけていた。
「それじゃ、俺こっちだから、じゃあな」
「おう」
そうして、薫は佐竹と亀山と別れた。この三人、亀山が一番学校に近く、その次は佐竹が近いため、いつも最後の三分の一ぐらいの道は薫一人になる。
ところが、今日は一人ではなかった。転入生、滝川玄冬は、依然として薫の隣にいたのである。
「あれ、もしかして滝川くんもこっち?」
「ああ、そうだよ。君もなんだね」
そう言って、玄冬はくすりと微笑んだ。二人きりになった途端に、薫は気まずさを覚え始めた。彼と二人きりという状況が、薫の緊張を高め、変に肩に力が入ってしまって、上手く話しかけられない。そのまま、二人の間に静寂が保たれたまま、薫の自宅の前まで来てしまった。
「俺の家ここだから、それじゃまた明日」
そう言って、薫は玄冬と別れて家に入った。
まだ半日しか経っていないとは思えない、濃密な半日であった。その日はずっと、玄冬が教室に入ったきた時のことや、喧嘩を売った平剛介を投げ飛ばしたことが頭から離れなかった。
目の前にいたのは、あの夜に見た、ロボットと思しきそれと全く同じ容姿をしていた。雪のように白い肌とショートボブの黒髪、眉目秀麗な目鼻立ちは、見間違えようがない。
彼の容貌は、イケメンというよりは中性的な美少年であった。彼はどんな男子よりも美男子で、どんな女子よりも美少女であった。
彼は、薫のすぐ後ろの席を当てがわれ、そこに着席した。薫の心中は、未だにざわざわと落ち着かない。彼が席に着くためにすぐ隣を通りかかった時、薫はこっそりと耳をそば立ててみたが、機械の駆動音のようなものは全く聞こえなかった。
玄冬は忽ち人気者になった。その日は三校時で下校になったのだが、彼は、主に女子からであるが、質問攻めにあっていた。皆して玄冬のことが気になって仕方がないようである。
そして、ここに、彼のことが誰よりも気になっているのに、それ故に容易に近寄れないでいる少年がいた。
「転入生がロボットって、まさかそんな筈はないよなぁ……」
薫は、ただ一人、あの晩のことを思い出していた。例の晩の出来事が何かの見間違いであるならば、一体どれほど良かったであろうか。しかし、そうは思えないほどに、薫の脳裏にはあの時の光景がはっきりと焼き付いている。頭の中で如何に思考を巡らせてみたとて、答えが得られる筈もなかった。
ところで、薫と同じように玄冬を遠巻きから眺める者の中に、如何にもな不満顔をしている少年がいた。
「何だい、あんな女みてぇな男にキャーキャー言いやがって」
周りの男子よりも一回り大きな体躯のこの少年は名を平剛介といい、その性猛々しく、いつも佞言使いの腰巾着二人を従えている餓鬼大将であった。
「おい、おかっぱ!」
彼は玄冬が包囲を解かれて一人になった隙を見て、その目の前に立ち塞がるように躍り出た。
「黙って見てりゃちやほやされやがって」
剛介は殺気立った眼差しで、目の前の転入生を睨みつけている。その左右で、彼の腰巾着二人が、今にも面白いものが見られそうだと、嫌味な微笑を浮かべているのが見える。
薫は嫌な空気を鋭敏に感じ取った。転入早々、あの粗暴な男の餌食になるのは見てはおれないと思って、一瞬、止めに入ろうか、それとも先生を呼ぼうかと考えたが、その必要がなかったことを、薫はすぐに知った。
剛介は苛立ちを乗せた拳を繰り出したが、玄冬はそれを避け、空振った腕を掴み、柔道のように投げ飛ばしてしまった。
「な、何だこいつ……」
起き上がった剛介に最早覇気はなく、青い顔をして逃げ出していった。腰巾着も、その後を追って逃走した。
「大丈夫か!?」
薫は玄冬の方に駆け寄った。
「ああ、別にどうということはないよ」
玄冬はまるで何事もなかったかのように、けろりとした表情をしていた。間近で彼を見ると、その顔は精緻な作り物のようで、直視するのも憚られるような気さえした。
「ああ、君は後ろの席の本条くんかな」
「そう。名前覚えてくれたんだ」
言いながら、薫は玄冬の腕に視線を落とした。その腕はほっそりとしていて、剛介を投げ飛ばしたような力は何処から出たのだろう、と訝ってしまうばかりであった。
薫は友人である佐竹真と亀山寛二《かめやまかんじ》と一緒に帰るつもりであったが、この転入生の帰路もどうやら同じ方角だったらしく、彼も伴って四人で歩いた。佐竹と亀山も転入生への興味からか、好きなゲームの話だとか、スポーツはやっているかだとか、色々な質問を投げかけていた。
「それじゃ、俺こっちだから、じゃあな」
「おう」
そうして、薫は佐竹と亀山と別れた。この三人、亀山が一番学校に近く、その次は佐竹が近いため、いつも最後の三分の一ぐらいの道は薫一人になる。
ところが、今日は一人ではなかった。転入生、滝川玄冬は、依然として薫の隣にいたのである。
「あれ、もしかして滝川くんもこっち?」
「ああ、そうだよ。君もなんだね」
そう言って、玄冬はくすりと微笑んだ。二人きりになった途端に、薫は気まずさを覚え始めた。彼と二人きりという状況が、薫の緊張を高め、変に肩に力が入ってしまって、上手く話しかけられない。そのまま、二人の間に静寂が保たれたまま、薫の自宅の前まで来てしまった。
「俺の家ここだから、それじゃまた明日」
そう言って、薫は玄冬と別れて家に入った。
まだ半日しか経っていないとは思えない、濃密な半日であった。その日はずっと、玄冬が教室に入ったきた時のことや、喧嘩を売った平剛介を投げ飛ばしたことが頭から離れなかった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
梁国奮戦記——騎射の達人美少年と男色の将軍——
武州人也
BL
以下の方々には特におすすめしたいです。
・年下従者×年上主人BLが好きな方
・中性的な美少年・美青年が好きな方
・三国志やキングダム、項羽と劉邦、その他中国史創作が好きな方
・戦国時代などの前近代の戦記が好きな方
大秦大陸の東の国家群の中に、梁(りょう)と陳(ちん)という二つの国があった。梁の侵攻に対して陳は粘り強く守り、戦いは長期戦の様相を呈していた。厭戦気分が漂い始めた梁の首都の女たちは、和平を求め、夫たちの元を抜け出して宝物庫を占拠し、和平を求めた。男しか愛せない若い武官張章(ちょうしょう)は、彼が見出した、騎射の名人である美貌の少年魏令(ぎれい)に私兵を与えて女たちと戦わせるが……
知将張章、若い美貌の勇将魏令、陳を支える老将周安邑など、様々な武将が戦場で煌めく、中国史風架空戦記。
この物語は同性愛、少年愛の描写を含みます。
夏の出口
阿沙🌷
BL
鹿野たけるは、夏の連休を利用して実家に帰省している最中、高校時代に惚れていた元同級生・井宮健司に再会する。
高校最後の夏、夏祭りの夜に、いい雰囲気になった二人だったが、たけるは健司にこばまれて、それ以来、彼とはただの友人を演じていた。
数年ぶりに、ふたりで夏祭りに行くことになったが、たけるはそのことを気にしていて――。
ひとなつの再会ものBL。
n番煎じだけど、どうしても書きたくなる再会ものでございます。
あと、若干受けに攻めが振り回されるようなされないような話にしてえ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる