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第10話 鮫滅隊の最終決戦
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市街地では、消防団を中心とした避難活動が始まっていた。人々は自分の住まいを捨てて、内陸の方へと逃げ出している。
「貴方たちも早く逃げて。ここは危険です」
旅館にも、消防団の青年がやってきてそう告げた。宿泊客たちはその言葉に従い、旅館を出て内陸の方へと歩いた。
一行が向かったのは、島の小学校の体育館であった。小学校の体育館は冷房設備がなく、ひどい蒸し暑さであった。申し訳程度に扇風機が稼働しているが焼け石に水である。
ゼーニッツは、水泳部員に混じって避難所の体育館に入った。彼はしきりに腰の刀を触りながら、怯えた目で周囲をきょろきょろ見渡していた。
「どうした? 怖いの?」
「あー……赤木くん、ワタシは大丈夫デスから……」
「いや、全然大丈夫に見えないよ」
ゼーニッツの脚は、がくがくと小鹿のように震えていた。どう見ても、正常な精神状態ではない。
「う……うう……」
その時、赤木とゼーニッツの近くにいた中年の女性が、突然うめき声を上げた。
「あの……大丈夫デスか?」
心優しいゼーニッツは、その中年女に近寄って声をかけた。だが、この女が問いかけに答えることはなかった。
女の頭がぐにゃりと曲がり、やがてサメ頭となった。女は鮫人間に姿を変えたのだ。
「うわっ!」
ゼーニッツと赤木が叫んだのは、ほぼ同時であった。
体育館を見渡すと、年も性別もばらばらな数人の避難民が一斉に鮫人間と化していた。彼らはうめき声を発しながら人を襲い、食らった。たちまち、体育館は騒然となり、悲鳴が響き渡った。
中年女が変化した鮫人間は、赤木とゼーニッツに迫っていた。二人は後ずさったが、壁際に追い詰められてしまった。
「君鮫滅隊でしょ!? 戦ってよ!」
「えー……ワタシ日本語分かりマセン」
「分かってんじゃん! 早く刀を抜いてよ!」
「うー……仕方ありマセン……」
ゼーニッツが鯉口を切ろうと鍔に手を添えた、その時であった。
鮫人間による強烈な平手が、金髪少年の頬を打ったのだ。
「あっ!」
赤木が叫びを発した。吹っ飛ばされたゼーニッツは肋木に側頭部をぶつけ、気を失って動かなくなってしまったのだ。
鮫人間が、赤木に向かってじりじりと距離を詰めてくる。万事休す。このままでは食われてしまう……赤木は死を覚悟した。
――かちり。
赤木の耳が捉えたこの音は、鯉口を切る音であった。
次の瞬間、赤木に迫っていた鮫人間の頭部は、綺麗に切り離されていた。
「ゼーニッツ!」
この金髪の剣士は、気を失った状態で刀を抜いたのであった。
***
「やったぜ! 第三部完!」
爆煙に包まれた巨大鮫を見て、射地助はガッツポーズしてはしゃいだ。流石の巨大鮫も、あの凄まじい大爆発に遭っては死なないはずもない。そう思えるほどの規模の爆発であった。
もうもうと、天まで立ち上る黒い爆煙。それが、ようやく晴れた。
煙の中から、巨大鮫が猛然と突進を仕掛けてきた。
「何っ!?」
巨大鮫の突進を、二人は避けようとした。……が、間に合わなかった。巨体による追突の衝撃が二人の小さな体を襲う。
「があっ……」
凪義の体は、後方の木造小屋に叩きつけられた。衝突による骨格や内臓へのダメージは相当なものだったのだろう。あばら骨に激痛が走り、喉の奥からも血がこみ上げてきた。
「射地助……」
射地助の姿を探すと、彼は地面に突っ伏していた。駆け寄った凪義は彼を抱き起したが、何の反応も示さなかった。
「そうか……」
まるで悲しみを表す術がないかのように、凪義は静かに押し黙っていた。打ちひしがれた凪義の心は、もはや仲間の死に捧げる涙さえ出せないほどに麻痺しきっていたのである。
自分と射地助。それを分けたものは一体何であったか……凪義は思考した。
――自分は鮫人間だから耐えられた。普通の人間だったら耐えられなかった。
ふと、凪義の耳が足音を拾った。視線を上に向けると、黒スーツの男――鮫辻が近づいてきていた。
凪義の行動は素早かった。チェーンソーを握り、下から上に振るって切りかかった。
鮫辻はひらりと身を翻して、その刃を躱した。その動きには、この男の余裕のほどが感じられる。
「ふふ……無駄だ。やれ! 悪魔巨鮫《デビル・メガロドン》!」
鮫辻の指示で、巨大鮫が再び突進を仕掛けてきた。今度は大口を開けている。凪義を食ってしまう気だ。
だが、その時、巨大鮫の鼻っ面で爆発が起こり、サメは一瞬、怯んだ。
「射地助!?」
「あんな所でくたばるオレ様じゃねぇ!」
射地助は走りながら、連続して爆弾を投げつけた。が、そのどれもが致命傷にはなりえない。サメの表情は読めないが、射地助のしつこい攻撃に怒ったのか、巨大鮫は射地助の背を追い始めた。
この時、凪義は射地助の考えを察した。出発前に教えたプランB、彼はそれを実行しようとしているのだ。
巨大鮫が射地助を追ったことで、この場には凪義と鮫辻だけが残された。雑多な木々の生い茂る林の中で、両者は向かい合った。
凪義は刃を回転させると、無言で踏み込み切りかかった。先ほどと同じように、鮫辻は身を翻して回避する。チェーンソーは重く、斬撃が単調になりやすい。元々武器ではないのだから当然である。
鮫辻は凪義に向かって左手をかざした。その掌からは……何と火炎が噴き出た。
「くっ!」
凪義は横方向に走り、火炎を避ける。だが、今度は鮫辻の右手が持ち上がった。その手には、あの宿泊鮫が装備していたのと同じビーム銃が握られている。
ビームが立て続けに二発、放たれる。一発目は命中しなかったものの、二発目が凪義の左肩を撃ち抜いた。その部分にはぽっかりと丸い穴が開き、鮮血が噴出している。
「が、ああ……」
凪義は、がっくりと膝から崩れ落ちた。
「貴方たちも早く逃げて。ここは危険です」
旅館にも、消防団の青年がやってきてそう告げた。宿泊客たちはその言葉に従い、旅館を出て内陸の方へと歩いた。
一行が向かったのは、島の小学校の体育館であった。小学校の体育館は冷房設備がなく、ひどい蒸し暑さであった。申し訳程度に扇風機が稼働しているが焼け石に水である。
ゼーニッツは、水泳部員に混じって避難所の体育館に入った。彼はしきりに腰の刀を触りながら、怯えた目で周囲をきょろきょろ見渡していた。
「どうした? 怖いの?」
「あー……赤木くん、ワタシは大丈夫デスから……」
「いや、全然大丈夫に見えないよ」
ゼーニッツの脚は、がくがくと小鹿のように震えていた。どう見ても、正常な精神状態ではない。
「う……うう……」
その時、赤木とゼーニッツの近くにいた中年の女性が、突然うめき声を上げた。
「あの……大丈夫デスか?」
心優しいゼーニッツは、その中年女に近寄って声をかけた。だが、この女が問いかけに答えることはなかった。
女の頭がぐにゃりと曲がり、やがてサメ頭となった。女は鮫人間に姿を変えたのだ。
「うわっ!」
ゼーニッツと赤木が叫んだのは、ほぼ同時であった。
体育館を見渡すと、年も性別もばらばらな数人の避難民が一斉に鮫人間と化していた。彼らはうめき声を発しながら人を襲い、食らった。たちまち、体育館は騒然となり、悲鳴が響き渡った。
中年女が変化した鮫人間は、赤木とゼーニッツに迫っていた。二人は後ずさったが、壁際に追い詰められてしまった。
「君鮫滅隊でしょ!? 戦ってよ!」
「えー……ワタシ日本語分かりマセン」
「分かってんじゃん! 早く刀を抜いてよ!」
「うー……仕方ありマセン……」
ゼーニッツが鯉口を切ろうと鍔に手を添えた、その時であった。
鮫人間による強烈な平手が、金髪少年の頬を打ったのだ。
「あっ!」
赤木が叫びを発した。吹っ飛ばされたゼーニッツは肋木に側頭部をぶつけ、気を失って動かなくなってしまったのだ。
鮫人間が、赤木に向かってじりじりと距離を詰めてくる。万事休す。このままでは食われてしまう……赤木は死を覚悟した。
――かちり。
赤木の耳が捉えたこの音は、鯉口を切る音であった。
次の瞬間、赤木に迫っていた鮫人間の頭部は、綺麗に切り離されていた。
「ゼーニッツ!」
この金髪の剣士は、気を失った状態で刀を抜いたのであった。
***
「やったぜ! 第三部完!」
爆煙に包まれた巨大鮫を見て、射地助はガッツポーズしてはしゃいだ。流石の巨大鮫も、あの凄まじい大爆発に遭っては死なないはずもない。そう思えるほどの規模の爆発であった。
もうもうと、天まで立ち上る黒い爆煙。それが、ようやく晴れた。
煙の中から、巨大鮫が猛然と突進を仕掛けてきた。
「何っ!?」
巨大鮫の突進を、二人は避けようとした。……が、間に合わなかった。巨体による追突の衝撃が二人の小さな体を襲う。
「があっ……」
凪義の体は、後方の木造小屋に叩きつけられた。衝突による骨格や内臓へのダメージは相当なものだったのだろう。あばら骨に激痛が走り、喉の奥からも血がこみ上げてきた。
「射地助……」
射地助の姿を探すと、彼は地面に突っ伏していた。駆け寄った凪義は彼を抱き起したが、何の反応も示さなかった。
「そうか……」
まるで悲しみを表す術がないかのように、凪義は静かに押し黙っていた。打ちひしがれた凪義の心は、もはや仲間の死に捧げる涙さえ出せないほどに麻痺しきっていたのである。
自分と射地助。それを分けたものは一体何であったか……凪義は思考した。
――自分は鮫人間だから耐えられた。普通の人間だったら耐えられなかった。
ふと、凪義の耳が足音を拾った。視線を上に向けると、黒スーツの男――鮫辻が近づいてきていた。
凪義の行動は素早かった。チェーンソーを握り、下から上に振るって切りかかった。
鮫辻はひらりと身を翻して、その刃を躱した。その動きには、この男の余裕のほどが感じられる。
「ふふ……無駄だ。やれ! 悪魔巨鮫《デビル・メガロドン》!」
鮫辻の指示で、巨大鮫が再び突進を仕掛けてきた。今度は大口を開けている。凪義を食ってしまう気だ。
だが、その時、巨大鮫の鼻っ面で爆発が起こり、サメは一瞬、怯んだ。
「射地助!?」
「あんな所でくたばるオレ様じゃねぇ!」
射地助は走りながら、連続して爆弾を投げつけた。が、そのどれもが致命傷にはなりえない。サメの表情は読めないが、射地助のしつこい攻撃に怒ったのか、巨大鮫は射地助の背を追い始めた。
この時、凪義は射地助の考えを察した。出発前に教えたプランB、彼はそれを実行しようとしているのだ。
巨大鮫が射地助を追ったことで、この場には凪義と鮫辻だけが残された。雑多な木々の生い茂る林の中で、両者は向かい合った。
凪義は刃を回転させると、無言で踏み込み切りかかった。先ほどと同じように、鮫辻は身を翻して回避する。チェーンソーは重く、斬撃が単調になりやすい。元々武器ではないのだから当然である。
鮫辻は凪義に向かって左手をかざした。その掌からは……何と火炎が噴き出た。
「くっ!」
凪義は横方向に走り、火炎を避ける。だが、今度は鮫辻の右手が持ち上がった。その手には、あの宿泊鮫が装備していたのと同じビーム銃が握られている。
ビームが立て続けに二発、放たれる。一発目は命中しなかったものの、二発目が凪義の左肩を撃ち抜いた。その部分にはぽっかりと丸い穴が開き、鮮血が噴出している。
「が、ああ……」
凪義は、がっくりと膝から崩れ落ちた。
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