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第2部 セイ国編 アニマル・キングダム 前編 犬人族編
第9話 フライングシャーク! トルネードホエール!
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飛行鮫と竜巻鯨。この二種の魔獣は共生関係にある。
飛行鮫は体内に宿した魔石の質量が大きく、そこから供給される魔力で飛行することのできるサメである。この能力により水中に餌となる動物が減った場合に上空を飛行し、鳥類を捕食したり、或いは急降下してシカやクマなどを捕食したりするのだ。だが、あくまで体つきはサメのそれであり、飛行に向かず、魔力で無理矢理飛んでいるに過ぎない。そのために彼らの飛行は非効率であり、高度を上げて飛行することが苦手である。
そこで、彼らは沿岸に近づいてきた竜巻鯨を利用する。竜巻鯨はその巨大すぎる体故に、体内に溜まった水分を噴出する際に竜巻上に空気を巻き上げる性質があり、これは体内に宿した魔力によって起こしている。飛行鮫はこの竜巻に接近し、自分から巻き上げられることで高高度を飛行することができるのだ。
実は、竜巻鯨の方も、飛行鮫の恩恵を受けている。竜巻鯨はろ過摂食動物といい、小型の甲殻類などを水ごと飲み込み捕食する。飛行鮫が水中に戻ってくる際に口からこぼれ出る食べかすを、そうした小型動物が食べに集まってくるのだ。だから、飛行鮫のいる場所には小型の甲殻類などが繁殖しやすく、竜巻鯨の方も豊富な餌にありつくことができる。以上のことから、竜巻鯨が飛行鮫の捕食を助けるように、飛行鮫の方もまた、間接的に竜巻鯨の捕食を手伝っているといえる。
三匹のサメは、真っ直ぐトモエたちの方へ向かってきている。
「くそっ! オレたち何かとサメに縁があるな!」
「……サメかぁ……エルフの森にもいるけど、あんまり出会いたくはない生き物だ……」
リコウは剣を引き抜き、構えた。エイセイも威斗をサメの方へ向ける。
「サメ! しつこい!」
トモエの拳が、サメの頭に叩き込まれた。それと同じタイミングでリコウは剣でサメを切り裂き、エイセイは「暗黒重榴弾」を撃ち込んでサメを爆殺した。
だが、その後ろからまたしてもサメが飛んできた。トモエはすかさず飛び蹴りを食らわせる。蹴りを食らったサメは白い木に激突して動かなくなった。
「これじゃキリがない……どうすりゃいいんだ」
「……なら、あのサメとクジラのいる川ごと攻撃すればいい。闇の魔術、暗黒雷電!」
クジラの頭上に、黒い雲が集まった。エイセイは暗黒雷電で水中にいるサメとクジラをまとめて感電させる作戦に出たのである。
だが、その目論見は、脆くも崩れ去った。
「なっ……そんな……」
集まった黒雲が、クジラの巻き上げた竜巻によって散らされ消滅してしまったのである。これでは雷を落とすことはできない。
「……ならあのクジラから始末してやる。暗黒重榴弾!」
エイセイは黒い球体をクジラに向かって放った。巨大なクジラといっても、所詮は生き物だ。暗黒重榴弾の直撃を食らって無事でいられるはずもない。
だが、黒い球体は、竜巻の中に入った途端、爆発を起こしてしまった。クジラの体に直撃はしていない。爆発により一瞬竜巻が消えたものの、またすぐに竜巻が巻き起こった。
竜巻鯨自体が進路を塞いでいる上に、そこから巻き上げられる飛行鮫がこちらを攻撃してくる。本体のクジラの守りは硬い……と、厄介この上ない相手である。
「……そんな馬鹿な……ボクの闇魔術が全く通じないなんて……」
エイセイは、茫然自失といった有様であった。渾身の魔術攻撃が効き目を示さなかったのだからそうもなろう。
「あのクジラをヤッちゃいたいけど……川の中にいるんじゃあね……」
トモエは拳を固く握りながら、渋い顔をしてクジラを見つめている。如何に最強無双の戦士であるトモエも、水中の相手には手出しできない。
クジラ自体が一行の進路を塞いでいる上に、そこからサメが飛んでくる。かといって渡河を躊躇っていては、エン州軍が背後から迫ってくる。
「トウケンくん、何か……対処法とかない?」
「ううん……分からないのだ……飛行鮫も竜巻鯨も直接戦う相手じゃないのだ……」
トモエの問いに対してトウケンがそう答えるのも、至極当然のことである。飛行鮫にしろ竜巻鯨にしろ、ケット・シーたちには戦闘経験がないのだ。だから、対処法など教えられるはずもない。
「と、取り敢えずサメが飛んでこない場所に隠れよう」
そう提案したのはリコウである。確かに、彼の言う通り、ここは一旦安全な場所に退避した方がよい状況である。
一行は丘を下り、ファン河に対して陰になる場所に身を潜めた。サメに襲われないためである。
暫く、五人は作戦を必死に考えていた。だが、誰も名案と呼べるものは捻り出せない。
「うーん……」
トモエも、うんうん唸りながら突破口となる策を考えていた。もう朧気になった前世の記憶をも総動員して、頭をフル回転させていた。
「……閃いた!」
突然、トモエの頭に天啓が降りてきた。
飛行鮫は体内に宿した魔石の質量が大きく、そこから供給される魔力で飛行することのできるサメである。この能力により水中に餌となる動物が減った場合に上空を飛行し、鳥類を捕食したり、或いは急降下してシカやクマなどを捕食したりするのだ。だが、あくまで体つきはサメのそれであり、飛行に向かず、魔力で無理矢理飛んでいるに過ぎない。そのために彼らの飛行は非効率であり、高度を上げて飛行することが苦手である。
そこで、彼らは沿岸に近づいてきた竜巻鯨を利用する。竜巻鯨はその巨大すぎる体故に、体内に溜まった水分を噴出する際に竜巻上に空気を巻き上げる性質があり、これは体内に宿した魔力によって起こしている。飛行鮫はこの竜巻に接近し、自分から巻き上げられることで高高度を飛行することができるのだ。
実は、竜巻鯨の方も、飛行鮫の恩恵を受けている。竜巻鯨はろ過摂食動物といい、小型の甲殻類などを水ごと飲み込み捕食する。飛行鮫が水中に戻ってくる際に口からこぼれ出る食べかすを、そうした小型動物が食べに集まってくるのだ。だから、飛行鮫のいる場所には小型の甲殻類などが繁殖しやすく、竜巻鯨の方も豊富な餌にありつくことができる。以上のことから、竜巻鯨が飛行鮫の捕食を助けるように、飛行鮫の方もまた、間接的に竜巻鯨の捕食を手伝っているといえる。
三匹のサメは、真っ直ぐトモエたちの方へ向かってきている。
「くそっ! オレたち何かとサメに縁があるな!」
「……サメかぁ……エルフの森にもいるけど、あんまり出会いたくはない生き物だ……」
リコウは剣を引き抜き、構えた。エイセイも威斗をサメの方へ向ける。
「サメ! しつこい!」
トモエの拳が、サメの頭に叩き込まれた。それと同じタイミングでリコウは剣でサメを切り裂き、エイセイは「暗黒重榴弾」を撃ち込んでサメを爆殺した。
だが、その後ろからまたしてもサメが飛んできた。トモエはすかさず飛び蹴りを食らわせる。蹴りを食らったサメは白い木に激突して動かなくなった。
「これじゃキリがない……どうすりゃいいんだ」
「……なら、あのサメとクジラのいる川ごと攻撃すればいい。闇の魔術、暗黒雷電!」
クジラの頭上に、黒い雲が集まった。エイセイは暗黒雷電で水中にいるサメとクジラをまとめて感電させる作戦に出たのである。
だが、その目論見は、脆くも崩れ去った。
「なっ……そんな……」
集まった黒雲が、クジラの巻き上げた竜巻によって散らされ消滅してしまったのである。これでは雷を落とすことはできない。
「……ならあのクジラから始末してやる。暗黒重榴弾!」
エイセイは黒い球体をクジラに向かって放った。巨大なクジラといっても、所詮は生き物だ。暗黒重榴弾の直撃を食らって無事でいられるはずもない。
だが、黒い球体は、竜巻の中に入った途端、爆発を起こしてしまった。クジラの体に直撃はしていない。爆発により一瞬竜巻が消えたものの、またすぐに竜巻が巻き起こった。
竜巻鯨自体が進路を塞いでいる上に、そこから巻き上げられる飛行鮫がこちらを攻撃してくる。本体のクジラの守りは硬い……と、厄介この上ない相手である。
「……そんな馬鹿な……ボクの闇魔術が全く通じないなんて……」
エイセイは、茫然自失といった有様であった。渾身の魔術攻撃が効き目を示さなかったのだからそうもなろう。
「あのクジラをヤッちゃいたいけど……川の中にいるんじゃあね……」
トモエは拳を固く握りながら、渋い顔をしてクジラを見つめている。如何に最強無双の戦士であるトモエも、水中の相手には手出しできない。
クジラ自体が一行の進路を塞いでいる上に、そこからサメが飛んでくる。かといって渡河を躊躇っていては、エン州軍が背後から迫ってくる。
「トウケンくん、何か……対処法とかない?」
「ううん……分からないのだ……飛行鮫も竜巻鯨も直接戦う相手じゃないのだ……」
トモエの問いに対してトウケンがそう答えるのも、至極当然のことである。飛行鮫にしろ竜巻鯨にしろ、ケット・シーたちには戦闘経験がないのだ。だから、対処法など教えられるはずもない。
「と、取り敢えずサメが飛んでこない場所に隠れよう」
そう提案したのはリコウである。確かに、彼の言う通り、ここは一旦安全な場所に退避した方がよい状況である。
一行は丘を下り、ファン河に対して陰になる場所に身を潜めた。サメに襲われないためである。
暫く、五人は作戦を必死に考えていた。だが、誰も名案と呼べるものは捻り出せない。
「うーん……」
トモエも、うんうん唸りながら突破口となる策を考えていた。もう朧気になった前世の記憶をも総動員して、頭をフル回転させていた。
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突然、トモエの頭に天啓が降りてきた。
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