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第1.5部 諸国連合軍侵略編
第6話 ソ国軍との戦闘
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ソ国軍、ギ国軍、シン国軍は、拒馬柵を互い違いに立て、最前列に大盾を構えた槍兵を並べることで夜襲に備えていた。
「我々は攻めている側のはずだ。なのにこれでは守りに入ってるようではないか。馬鹿らしい」
幕の中で、ソ国軍総大将のドウシは不満げに呟いていた。
トモエなる人間が国王や大魔皇帝の間でどれほど恐れられ憎まれているのかは、ドウシもよく理解していた。そもそも彼女が恐れられていなければ、たかが人間一人にこのような大軍を用意するはずはないのであるから、察せられないはずもない。
奴めを討ち取れば、出世栄達は間違いないであろう。だから、攻撃あるのみ、である。
夜闇の中、じっと敵を待ち構えるソ国軍の前列。その頭上に、何かが降ってきた。放物線を描いて落下したそれは、一体の傀儡兵の頭部を砕き、地面に突き刺さった。
降ってきたものの正体は、一本の槍であった。その槍は魔族軍に使われているのと同じものだ。恐らく初日の戦闘で破壊された傀儡兵のものが鹵獲されたのであろう。
「きっ……来たぞ!」
前線の下級武官が、声を震わせながら叫んだ。前列の武官たちに、恐怖の混じった緊張が走った。肌寒い夜だというのに、叫んだ下級武官の額には脂汗が浮かんでいる。
続いてもう一本、槍が降ってきた。それは先程と同様に、傀儡兵の頭を貫いた。
「ソ国軍を舐めるなよ! 弩兵隊放て!」
前線の武官の指令で、前列の弩兵が矢弾を斉射した。おびただしい数の矢が、暗闇の向こうへと放たれる。セイ国軍を襲った敵が同士討ちを誘うような動きを見せたことは、ソ国軍、ギ国軍、シン国軍にも伝えられていた。一方向への射撃であれば、同士討ちは起こらない。乱戦になる前に一斉射撃を行えば、味方は安全だ。
だが、国王を討ったような相手が、弩兵の斉射如きで倒れようはずもなかった。矢を放った暗闇の向こうから、何かが猛烈な速さで接近してきていた。
「ソ国軍……大したことないわね!」
奥へと引っ込もうとした弩兵が、次々と残骸に変えられていった。木の砕ける音が止むことなく響き渡っている。その音が武官たちを恐怖させた。
炬火に照らされて、トモエが姿を現した。破壊と暴力の化身が、ソ国軍の陣地に襲来したのだ。
「短兵と長兵を前に出せ! 弩兵を守るのだ!」
大盾を構えた短兵と槍兵が、すかさず壁を作った。その動きの速さを見て、夜襲をかけた側のトモエは、
――この軍、戦い慣れしている。
そういった感想を抱いた。惰弱さを存分に見せていたセイ国軍とは違う。一筋縄ではいかなさそうな相手だ。けれどもすべきことはそう変わらない。
「 攻撃あるのみ!」
トモエは敵が落とした槍を拾い、ソ国軍に襲い掛かった。大盾を並べた兵によって作られた壁が、瞬く間に突き崩されてゆく。
「ええい! この俺キンショウがやってやる!」
ソ国軍の武官キンショウが、トモエの前に出た。その手には威斗を携えている。
「水の魔術、忍び寄る死氷!」
威斗の先から、先の尖った氷柱が放たれた。それは矢のように高速でトモエ目掛けて飛んでいく。だが、矢を避けられるトモエが、こんな単調な攻撃を避けられないはずもない。
だが、氷柱を躱したトモエを見て、キンショウは陰険な笑みを浮かべた。
なんと、氷柱はトモエの背後でUターンし、そのまま彼女の背を貫かんと迫ってきていたのだ。完全に、死角からの奇襲であった。
「……なんて、そんな攻撃が通じると思った?」
言うが早いか、トモエの回し蹴りが、氷を叩き折った。粉々になった氷柱が、割れたガラスのように地面に散らばった。
「ええい! 馬鹿な!」
キンショウはやけになったのか、氷柱を矢継ぎ早に連射してきた。だが、トモエは槍を振り回してそれらを砕きながら、武官との距離を詰めていく。
やがて、トモエが槍を構えた。キンショウは震える手で何とか腰の剣の柄を掴み、引き抜いた。
槍の一撃に備えて、剣を構えるキンショウ。だが、トモエは槍を振りかぶった。そして、それを上空高らかに放り投げたのだ。
「投げた!?」
キンショウの視線が、一瞬上を向いた。トモエはその隙を見逃さない。疾風迅雷の速さで肉薄すると、拳の一撃をキンショウのみぞおちに叩き込んだ。
「があっ……」
胴を打たれたキンショウは、血を吐きながらうつ伏せに倒れた。
「槍は便利だけど、やっぱり自分の拳でヤるのが一番よね」
そう言うと、トモエは後方からやってきた傀儡兵の一隊に目を向け、そちらに向かって駆け出した。
これがソ国軍とトモエの、初めての接敵であった。ソ国軍は多くの被害を出したが、同士討ちによる損耗は少なく、流石にセイ国軍ほどの醜態は晒さなかった。流石は尚武の国、といった所か。
「しかし……これは酷いな……」
明け方に陣中を見て回ったドウシは、前線部隊の生々しい戦闘の痕跡を目にして、苦い顔をせざるを得なかった。ドウシは傀儡兵の残骸や武官たちの死体を運ぶように命じながら、
――これではセイ国軍のことを笑えないではないか。
と、密かに自嘲した。
この一夜の戦闘がソ国軍全体に大いなる衝撃を与えたことは、言うまでもないことである。
「我々は攻めている側のはずだ。なのにこれでは守りに入ってるようではないか。馬鹿らしい」
幕の中で、ソ国軍総大将のドウシは不満げに呟いていた。
トモエなる人間が国王や大魔皇帝の間でどれほど恐れられ憎まれているのかは、ドウシもよく理解していた。そもそも彼女が恐れられていなければ、たかが人間一人にこのような大軍を用意するはずはないのであるから、察せられないはずもない。
奴めを討ち取れば、出世栄達は間違いないであろう。だから、攻撃あるのみ、である。
夜闇の中、じっと敵を待ち構えるソ国軍の前列。その頭上に、何かが降ってきた。放物線を描いて落下したそれは、一体の傀儡兵の頭部を砕き、地面に突き刺さった。
降ってきたものの正体は、一本の槍であった。その槍は魔族軍に使われているのと同じものだ。恐らく初日の戦闘で破壊された傀儡兵のものが鹵獲されたのであろう。
「きっ……来たぞ!」
前線の下級武官が、声を震わせながら叫んだ。前列の武官たちに、恐怖の混じった緊張が走った。肌寒い夜だというのに、叫んだ下級武官の額には脂汗が浮かんでいる。
続いてもう一本、槍が降ってきた。それは先程と同様に、傀儡兵の頭を貫いた。
「ソ国軍を舐めるなよ! 弩兵隊放て!」
前線の武官の指令で、前列の弩兵が矢弾を斉射した。おびただしい数の矢が、暗闇の向こうへと放たれる。セイ国軍を襲った敵が同士討ちを誘うような動きを見せたことは、ソ国軍、ギ国軍、シン国軍にも伝えられていた。一方向への射撃であれば、同士討ちは起こらない。乱戦になる前に一斉射撃を行えば、味方は安全だ。
だが、国王を討ったような相手が、弩兵の斉射如きで倒れようはずもなかった。矢を放った暗闇の向こうから、何かが猛烈な速さで接近してきていた。
「ソ国軍……大したことないわね!」
奥へと引っ込もうとした弩兵が、次々と残骸に変えられていった。木の砕ける音が止むことなく響き渡っている。その音が武官たちを恐怖させた。
炬火に照らされて、トモエが姿を現した。破壊と暴力の化身が、ソ国軍の陣地に襲来したのだ。
「短兵と長兵を前に出せ! 弩兵を守るのだ!」
大盾を構えた短兵と槍兵が、すかさず壁を作った。その動きの速さを見て、夜襲をかけた側のトモエは、
――この軍、戦い慣れしている。
そういった感想を抱いた。惰弱さを存分に見せていたセイ国軍とは違う。一筋縄ではいかなさそうな相手だ。けれどもすべきことはそう変わらない。
「 攻撃あるのみ!」
トモエは敵が落とした槍を拾い、ソ国軍に襲い掛かった。大盾を並べた兵によって作られた壁が、瞬く間に突き崩されてゆく。
「ええい! この俺キンショウがやってやる!」
ソ国軍の武官キンショウが、トモエの前に出た。その手には威斗を携えている。
「水の魔術、忍び寄る死氷!」
威斗の先から、先の尖った氷柱が放たれた。それは矢のように高速でトモエ目掛けて飛んでいく。だが、矢を避けられるトモエが、こんな単調な攻撃を避けられないはずもない。
だが、氷柱を躱したトモエを見て、キンショウは陰険な笑みを浮かべた。
なんと、氷柱はトモエの背後でUターンし、そのまま彼女の背を貫かんと迫ってきていたのだ。完全に、死角からの奇襲であった。
「……なんて、そんな攻撃が通じると思った?」
言うが早いか、トモエの回し蹴りが、氷を叩き折った。粉々になった氷柱が、割れたガラスのように地面に散らばった。
「ええい! 馬鹿な!」
キンショウはやけになったのか、氷柱を矢継ぎ早に連射してきた。だが、トモエは槍を振り回してそれらを砕きながら、武官との距離を詰めていく。
やがて、トモエが槍を構えた。キンショウは震える手で何とか腰の剣の柄を掴み、引き抜いた。
槍の一撃に備えて、剣を構えるキンショウ。だが、トモエは槍を振りかぶった。そして、それを上空高らかに放り投げたのだ。
「投げた!?」
キンショウの視線が、一瞬上を向いた。トモエはその隙を見逃さない。疾風迅雷の速さで肉薄すると、拳の一撃をキンショウのみぞおちに叩き込んだ。
「があっ……」
胴を打たれたキンショウは、血を吐きながらうつ伏せに倒れた。
「槍は便利だけど、やっぱり自分の拳でヤるのが一番よね」
そう言うと、トモエは後方からやってきた傀儡兵の一隊に目を向け、そちらに向かって駆け出した。
これがソ国軍とトモエの、初めての接敵であった。ソ国軍は多くの被害を出したが、同士討ちによる損耗は少なく、流石にセイ国軍ほどの醜態は晒さなかった。流石は尚武の国、といった所か。
「しかし……これは酷いな……」
明け方に陣中を見て回ったドウシは、前線部隊の生々しい戦闘の痕跡を目にして、苦い顔をせざるを得なかった。ドウシは傀儡兵の残骸や武官たちの死体を運ぶように命じながら、
――これではセイ国軍のことを笑えないではないか。
と、密かに自嘲した。
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