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第1.5部 諸国連合軍侵略編
第2話 報復戦争
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「カイを討った賊どもを、野放しにはしておけぬ」
シン国、ギ国、ソ国、セイ国の四か国連合軍は、大魔皇帝の鶴の一声によって結成された。これは、単なる報復戦争というだけではない。エン国に起こり得ることは、セイ国にもギ国にもソ国にも起こり得るし、シン国大魔皇帝にもまた起こり得る。だから、将来の禍根は摘み取っておくに越したことはなく、それはなるべくなら早い方がよい。
シン国軍が十万、ギ国軍、ソ国軍、セイ国軍がそれぞれ五万。それが連合軍の編成であった。総勢二十五万。加えて戦車も四軍合計で四千台以上が動員されている。凄まじい大軍である。
ソ国軍は北上してセイ国軍と合流し、シン国軍は東進してギ国軍と合流した。そしてエン州内で四軍は合流し、共同で山脈越えにかかった。
整地されておらず山道の通っていない山脈に二十五万の大軍を通す労苦は、並大抵のものではなかった。特に四千台を超す戦車の山越えは、困難極まるものである。戦車は強力な兵器であるが、地形の制約を大いに受ける。広い平原では無類の強さを発揮するが、小回りが利かず悪路の走行には全く向かないのだ。この点を鑑みれば、エン国が戦車主体から歩兵主体の軍へと軍制度を改革したことは至極当然な流れであり、その潮流は他の魔族国家にも現れ始めている。
そこまでの道のりで、抵抗らしい抵抗は受けなかった。この数の魔族連合軍と野戦でぶつかり合えるような軍勢を人間側は編成できないのだから、至極当然のことである。
山を越えた連合軍は、そのままヤタハン砦がそびえている小山を包囲してしまった。
「あれが連合軍……」
「多すぎだろ……あれと戦うのかよ……」
四か国連合軍侵攻の方に騒然としていた城兵たちは、いざその軍容を目の当たりにして、完全に泡を食ってしまった。
地に、兵が満ちている。山の四方に、まるで雲霞の如くに軍勢が押し寄せ、四色の旗を風になびかせていた。四色というのは、シン国軍、ギ国軍、ソ国軍、セイ国軍それぞれの旗の色である。シン国は黒、ギ国は白、ソ国は赤、セイ国は青とそれぞれ決まっているのだ。因みに、エン国軍は黄色であった。
山をぐるりと囲んだ連合軍は、それぞれ布陣を始めた。兵の陣形を整え、後方には帷幕を張っている。
日が中天に昇る中、トモエとリコウの両名は、フツリョウとともに城壁の上から敵の陣容を眺めていた。
「いや~凄いね……」
トモエでさえ、敵の威容には感服せざるを得なかった。山を包囲される展開は、エルフの森での戦いでもあった。シフ、エイセイとともに戦った、初めての戦場である。ただ、その時に相手取ったのは、スウエン率いる五千の軍勢であった。今、トモエが見下ろしている眼下の軍は、あの五千が寡兵に見えるほどの凄まじい規模であった。
「このまま門を閉ざして守っていてもいずれやられる。トモエさんならどちらを攻めるか、教えていただきたいのだが」
フツリョウが、隣のトモエに尋ねた。彼とてこのような大軍との戦いは全く経験がない。対してトモエはエン国軍との死闘の末に国王を討ち果たした実績がある。知恵を借りたいと思うのは当然のことであろう。
「うーん……」
トモエは四方に視線を巡らせながら、顎に手を当てている。
「あたし、あんまり戦術的なこと、分からないんだよね……」
それが、出された解答であった。トモエは武術家であって兵法家ではないのだ。それを聞いたフツリョウの顔に落胆の色が浮かんだ。
「……あそこ、見てください」
発言者は、リコウであった。リコウが指を差した先には、青い旗を掲げる軍がある。セイ国軍だ。
「あの軍だけ、布陣が遅くないですか?」
黒い旗、白い旗、赤い旗の布陣はすでに完了しており、がっちりと陣を組んでいたが、青い旗だけはまだ動きがある。
「なるほど……その情報は使えるかも知れん。ありがとうリコウ」
「いやいや」
フツリョウの大きな手が、リコウの頭をわしわしと撫でた。
夜が明けた。東の空が明るみ、血の滲むような朝の日差しが、黒塗りされた地面を明るく照らしていく。
甲を被りなおしたリコウは、城壁の上に矢を詰めた箱を並べていた。
「そろそろ来るはずだ……」
リコウは眼下の敵軍を睨みつけていた。他の城兵たちも、弓や弩――弩の方は砦に残されたエン国軍のものをそのまま使っている――を構えて肩を強張らせている。
やがて、敵軍が動き出した。山に向かってきている。
城壁の四方に、長い耳を持つ美男美女たちが立っている。エルフの遠距離攻撃部隊だ。
「魔術攻撃、発射用意!」
隊長を務めるエルフの号令で、城壁の上に立つエルフたちが一斉に杖を構えた。この杖は木で作られたもので、魔族の使う威斗を模倣したものだ。威斗には劣るが、同じような機能を持っている。その上、これらの杖の先端部分には魔鉱石がはめ込まれている。この魔鉱石は先の戦争の折にエン国軍、ギ国軍から奪ったものだ。これによって、杖からも魔力を取り出すことができる。
「放て!」
雷撃、火球、光線など、城壁の上からありとあらゆる魔術攻撃が繰り出され、迫りくる軍勢の頭上に降り注いだ。
絶望的な戦いの先端が、ここに開かれた。
シン国、ギ国、ソ国、セイ国の四か国連合軍は、大魔皇帝の鶴の一声によって結成された。これは、単なる報復戦争というだけではない。エン国に起こり得ることは、セイ国にもギ国にもソ国にも起こり得るし、シン国大魔皇帝にもまた起こり得る。だから、将来の禍根は摘み取っておくに越したことはなく、それはなるべくなら早い方がよい。
シン国軍が十万、ギ国軍、ソ国軍、セイ国軍がそれぞれ五万。それが連合軍の編成であった。総勢二十五万。加えて戦車も四軍合計で四千台以上が動員されている。凄まじい大軍である。
ソ国軍は北上してセイ国軍と合流し、シン国軍は東進してギ国軍と合流した。そしてエン州内で四軍は合流し、共同で山脈越えにかかった。
整地されておらず山道の通っていない山脈に二十五万の大軍を通す労苦は、並大抵のものではなかった。特に四千台を超す戦車の山越えは、困難極まるものである。戦車は強力な兵器であるが、地形の制約を大いに受ける。広い平原では無類の強さを発揮するが、小回りが利かず悪路の走行には全く向かないのだ。この点を鑑みれば、エン国が戦車主体から歩兵主体の軍へと軍制度を改革したことは至極当然な流れであり、その潮流は他の魔族国家にも現れ始めている。
そこまでの道のりで、抵抗らしい抵抗は受けなかった。この数の魔族連合軍と野戦でぶつかり合えるような軍勢を人間側は編成できないのだから、至極当然のことである。
山を越えた連合軍は、そのままヤタハン砦がそびえている小山を包囲してしまった。
「あれが連合軍……」
「多すぎだろ……あれと戦うのかよ……」
四か国連合軍侵攻の方に騒然としていた城兵たちは、いざその軍容を目の当たりにして、完全に泡を食ってしまった。
地に、兵が満ちている。山の四方に、まるで雲霞の如くに軍勢が押し寄せ、四色の旗を風になびかせていた。四色というのは、シン国軍、ギ国軍、ソ国軍、セイ国軍それぞれの旗の色である。シン国は黒、ギ国は白、ソ国は赤、セイ国は青とそれぞれ決まっているのだ。因みに、エン国軍は黄色であった。
山をぐるりと囲んだ連合軍は、それぞれ布陣を始めた。兵の陣形を整え、後方には帷幕を張っている。
日が中天に昇る中、トモエとリコウの両名は、フツリョウとともに城壁の上から敵の陣容を眺めていた。
「いや~凄いね……」
トモエでさえ、敵の威容には感服せざるを得なかった。山を包囲される展開は、エルフの森での戦いでもあった。シフ、エイセイとともに戦った、初めての戦場である。ただ、その時に相手取ったのは、スウエン率いる五千の軍勢であった。今、トモエが見下ろしている眼下の軍は、あの五千が寡兵に見えるほどの凄まじい規模であった。
「このまま門を閉ざして守っていてもいずれやられる。トモエさんならどちらを攻めるか、教えていただきたいのだが」
フツリョウが、隣のトモエに尋ねた。彼とてこのような大軍との戦いは全く経験がない。対してトモエはエン国軍との死闘の末に国王を討ち果たした実績がある。知恵を借りたいと思うのは当然のことであろう。
「うーん……」
トモエは四方に視線を巡らせながら、顎に手を当てている。
「あたし、あんまり戦術的なこと、分からないんだよね……」
それが、出された解答であった。トモエは武術家であって兵法家ではないのだ。それを聞いたフツリョウの顔に落胆の色が浮かんだ。
「……あそこ、見てください」
発言者は、リコウであった。リコウが指を差した先には、青い旗を掲げる軍がある。セイ国軍だ。
「あの軍だけ、布陣が遅くないですか?」
黒い旗、白い旗、赤い旗の布陣はすでに完了しており、がっちりと陣を組んでいたが、青い旗だけはまだ動きがある。
「なるほど……その情報は使えるかも知れん。ありがとうリコウ」
「いやいや」
フツリョウの大きな手が、リコウの頭をわしわしと撫でた。
夜が明けた。東の空が明るみ、血の滲むような朝の日差しが、黒塗りされた地面を明るく照らしていく。
甲を被りなおしたリコウは、城壁の上に矢を詰めた箱を並べていた。
「そろそろ来るはずだ……」
リコウは眼下の敵軍を睨みつけていた。他の城兵たちも、弓や弩――弩の方は砦に残されたエン国軍のものをそのまま使っている――を構えて肩を強張らせている。
やがて、敵軍が動き出した。山に向かってきている。
城壁の四方に、長い耳を持つ美男美女たちが立っている。エルフの遠距離攻撃部隊だ。
「魔術攻撃、発射用意!」
隊長を務めるエルフの号令で、城壁の上に立つエルフたちが一斉に杖を構えた。この杖は木で作られたもので、魔族の使う威斗を模倣したものだ。威斗には劣るが、同じような機能を持っている。その上、これらの杖の先端部分には魔鉱石がはめ込まれている。この魔鉱石は先の戦争の折にエン国軍、ギ国軍から奪ったものだ。これによって、杖からも魔力を取り出すことができる。
「放て!」
雷撃、火球、光線など、城壁の上からありとあらゆる魔術攻撃が繰り出され、迫りくる軍勢の頭上に降り注いだ。
絶望的な戦いの先端が、ここに開かれた。
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