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第1部 エン国編 人間解放戦線
第58話 ガクキの奸計
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「トモエさん! どうせ俺たちゃ助からねぇんだ! そいつをぶちのめしてくれ!」
フツリョウが、車台の中で叫んだ。他の男たちも、そうだそうだと騒ぎ始めた。
本来、魔族にとって人間は皆殺しの対象である。奴隷としてこき使うようなことさえない。だから、捕虜を取るなどという行動自体、前代未聞である。
それ故に、こうも考えられる。トモエが彼らの要求通りに無抵抗を貫いたとしても、トモエの首を取った敵が自分たちを許すはずもない。全員が殺されて、それで終わりだ。だから、死ぬのは自分たちだけでいい。トモエには、最後まで抵抗を貫いてほしい。
フツリョウも、その他の男たちも、そう考えたのであった。
その時であった。
「水の魔術、氷槍雨!」
「火の魔術、火炎弾掃射!」
突然、北西の方から、尖った氷の塊や火球が降ってきた。明らかに、魔術攻撃である。それらは馬車の車台……ではなく、その周りを固める傀儡兵たちの胸を正確に射抜いていった。
「なっ、どういうことだ!」
キキョウの視線が、魔術攻撃の飛んできた方角に視線を移した。
「我らはエルフの森よりはるばる参上仕った! 義によって助太刀致す!」
いささか武士めいた口調の美男子を先頭に、耳の尖った美男美女が姿を現した。誰が見ても、あれがエルフであるのは明白である。
「エルフだと!? もしや我々に対する報復か!?」
エルフたちは干渉することもされることも嫌う。だから、人間と魔族との戦争においても、彼らは森に引きこもり、中立を守って不干渉主義を貫いた。けれどもエルフたちの社会は細かい村落に分かれており、大賢者という緩やかなまとめ役こそいるもののエルフ全体に統一的な見解があるわけではない。報復に走るエルフの村があってもおかしくはない。
「私たちは人間と連帯し、共同で魔族と戦うことを決めました。これはエルフの森そのものの総意です」
古風な口調の隣にいた美少女エルフが、凛々しい声で言い放った。
「ちぃ……余計な横槍を……この私が相手をしてやる!」
キキョウは憤激しながら、威斗を構え、エルフと向かい合った。
「ええい! もう少しで首を取れたのに!」
憤激していたのはキキョウだけではない。ガクキもまた同様であった。ガクキは破れかぶれに剣を構えてトモエに突撃した。先程受けた傷は決して浅いものではなく、もう素早い剣技は披露できなかった。
「必殺! 破刃手刀!」
剣の切っ先を避けたトモエは、チョップを剣の腹に叩き込んだ。普通の人間がそのようなことをしても、自分の手を痛めるだけである。だがそこはトモエのことだ。剣はチョップを叩き込まれた部分を断ち割られてしまった。割られた剣先が、空しく宙を舞い、地面に落下した。
「オラァ!」
トモエの攻撃は、まだまだ終わらない。ガクキの胸に、思い切り蹴りを食らわせたのだ。鋭い蹴りを受けたガクキの体は、大きく後方に吹き飛び、針葉樹の幹に激突した。
ガクキは、それでも尚起き上がろうとした。そこに。トモエが近づいてくる。形勢はまたしても逆転した。
だが、その時、ガクキの口角が吊り上がった。これから敗者となるものが浮かべるものではないような、不気味な笑みであった。
ふと、トモエの耳が、音を拾った。聞き慣れた音である。
「来たか! 援軍!」
現れたのは、お馴染みの傀儡兵たちであった。それらはガクキの前にまたしても壁を作った。
「まぁたこれかぁ……魔族軍っていつもそうよね」
ガクキの引き連れた九万の軍は、薄く引き伸ばされて防衛線を張っている。そして、何処かの軍が接敵すれば、周囲の部隊も即応して応援に駆けつけるようになっている。周辺の部隊が、ようやくこの場所にやってきたのだ。
トモエは、一人で傀儡兵に立ち向かった。倒しても倒しても、どんどん兵が集まってきて穴を埋めてくる。面倒なことこの上ない。助けにきてくれたエルフたちは、キキョウなる敵と戦っており、こちらを手伝う余裕はなさそうだ。
それでも、彼女は孤独に戦う。もう、戦い続きで疲労は最高潮に達していたが、今拳を振るうのをやめることはできなかった。
「流石にきっついかな……」
トモエが腕を上げるのも辛くなってきた。その時、
「闇の魔術、暗黒重榴弾!」
黒い球体が敵陣に向かって放り込まれ、多数の傀儡兵を巻き添えにして爆発を巻き起こした。そればかりではない。矢が一直線に飛んできて、傀儡兵の胸を貫いたのだ。
「トモエさんすみません! 遅れました……」
「途中で敵の援軍に道を塞がれたの……でも、お姉さんが生きててよかった……」
後ろから、リコウ、シフ、エイセイが駆けつけてくれた。再び、四人が揃った。
「よぅし、じゃあ皆行くよ!」
最早万の軍隊が来ようとも、止めることは叶わない。今のトモエたち四人からは、そういった気迫が溢れ出していた。
トモエたちが傀儡兵を掃討しきった頃には、ガクキはすでに戦場を離脱していた。いつの間にか、上空からはあの青白い偽太陽は消え去っていた。あの重傷ぶりでは、再び光線を放つことはできないであろう。
フツリョウが、車台の中で叫んだ。他の男たちも、そうだそうだと騒ぎ始めた。
本来、魔族にとって人間は皆殺しの対象である。奴隷としてこき使うようなことさえない。だから、捕虜を取るなどという行動自体、前代未聞である。
それ故に、こうも考えられる。トモエが彼らの要求通りに無抵抗を貫いたとしても、トモエの首を取った敵が自分たちを許すはずもない。全員が殺されて、それで終わりだ。だから、死ぬのは自分たちだけでいい。トモエには、最後まで抵抗を貫いてほしい。
フツリョウも、その他の男たちも、そう考えたのであった。
その時であった。
「水の魔術、氷槍雨!」
「火の魔術、火炎弾掃射!」
突然、北西の方から、尖った氷の塊や火球が降ってきた。明らかに、魔術攻撃である。それらは馬車の車台……ではなく、その周りを固める傀儡兵たちの胸を正確に射抜いていった。
「なっ、どういうことだ!」
キキョウの視線が、魔術攻撃の飛んできた方角に視線を移した。
「我らはエルフの森よりはるばる参上仕った! 義によって助太刀致す!」
いささか武士めいた口調の美男子を先頭に、耳の尖った美男美女が姿を現した。誰が見ても、あれがエルフであるのは明白である。
「エルフだと!? もしや我々に対する報復か!?」
エルフたちは干渉することもされることも嫌う。だから、人間と魔族との戦争においても、彼らは森に引きこもり、中立を守って不干渉主義を貫いた。けれどもエルフたちの社会は細かい村落に分かれており、大賢者という緩やかなまとめ役こそいるもののエルフ全体に統一的な見解があるわけではない。報復に走るエルフの村があってもおかしくはない。
「私たちは人間と連帯し、共同で魔族と戦うことを決めました。これはエルフの森そのものの総意です」
古風な口調の隣にいた美少女エルフが、凛々しい声で言い放った。
「ちぃ……余計な横槍を……この私が相手をしてやる!」
キキョウは憤激しながら、威斗を構え、エルフと向かい合った。
「ええい! もう少しで首を取れたのに!」
憤激していたのはキキョウだけではない。ガクキもまた同様であった。ガクキは破れかぶれに剣を構えてトモエに突撃した。先程受けた傷は決して浅いものではなく、もう素早い剣技は披露できなかった。
「必殺! 破刃手刀!」
剣の切っ先を避けたトモエは、チョップを剣の腹に叩き込んだ。普通の人間がそのようなことをしても、自分の手を痛めるだけである。だがそこはトモエのことだ。剣はチョップを叩き込まれた部分を断ち割られてしまった。割られた剣先が、空しく宙を舞い、地面に落下した。
「オラァ!」
トモエの攻撃は、まだまだ終わらない。ガクキの胸に、思い切り蹴りを食らわせたのだ。鋭い蹴りを受けたガクキの体は、大きく後方に吹き飛び、針葉樹の幹に激突した。
ガクキは、それでも尚起き上がろうとした。そこに。トモエが近づいてくる。形勢はまたしても逆転した。
だが、その時、ガクキの口角が吊り上がった。これから敗者となるものが浮かべるものではないような、不気味な笑みであった。
ふと、トモエの耳が、音を拾った。聞き慣れた音である。
「来たか! 援軍!」
現れたのは、お馴染みの傀儡兵たちであった。それらはガクキの前にまたしても壁を作った。
「まぁたこれかぁ……魔族軍っていつもそうよね」
ガクキの引き連れた九万の軍は、薄く引き伸ばされて防衛線を張っている。そして、何処かの軍が接敵すれば、周囲の部隊も即応して応援に駆けつけるようになっている。周辺の部隊が、ようやくこの場所にやってきたのだ。
トモエは、一人で傀儡兵に立ち向かった。倒しても倒しても、どんどん兵が集まってきて穴を埋めてくる。面倒なことこの上ない。助けにきてくれたエルフたちは、キキョウなる敵と戦っており、こちらを手伝う余裕はなさそうだ。
それでも、彼女は孤独に戦う。もう、戦い続きで疲労は最高潮に達していたが、今拳を振るうのをやめることはできなかった。
「流石にきっついかな……」
トモエが腕を上げるのも辛くなってきた。その時、
「闇の魔術、暗黒重榴弾!」
黒い球体が敵陣に向かって放り込まれ、多数の傀儡兵を巻き添えにして爆発を巻き起こした。そればかりではない。矢が一直線に飛んできて、傀儡兵の胸を貫いたのだ。
「トモエさんすみません! 遅れました……」
「途中で敵の援軍に道を塞がれたの……でも、お姉さんが生きててよかった……」
後ろから、リコウ、シフ、エイセイが駆けつけてくれた。再び、四人が揃った。
「よぅし、じゃあ皆行くよ!」
最早万の軍隊が来ようとも、止めることは叶わない。今のトモエたち四人からは、そういった気迫が溢れ出していた。
トモエたちが傀儡兵を掃討しきった頃には、ガクキはすでに戦場を離脱していた。いつの間にか、上空からはあの青白い偽太陽は消え去っていた。あの重傷ぶりでは、再び光線を放つことはできないであろう。
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