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いじめっ子同盟
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五十嵐が殺された……
自らの彼女が惨殺されたことを知った平田は、自室の布団の中でスマホを握りながら震えていた。彼女は以前、平田とともに秋野から金を巻き上げたことがあった。やはり、この連続殺人は秋野と何か関わりがある――
恋人が死んだことよりも、家にいたのにも関わらず襲われて殺されたということが恐ろしかった。このまま籠城を続けても、いずれは殺される……自宅の壁や窓が、途端に頼りないものに見えてきた。警察の捜査も虚しく、犯人の目星はついていない。
恋人の敵討ちをしようなどという殊勝な心掛けは、この男になかった。頭の中にあったのは、ただ死の恐怖のみである。
布団にくるまって震えていると、急に手の中のスマホが鳴り出した。スマホの通知画面を見てみると、そこには意外な人物の名前が表示されていた。
***
意を決して外に出た平田は、急ぎ足で待ち合わせ場所に向かった。久しぶりに吸う外の空気は冷たくて、もう冬の足音がすぐそこまで来ていることを感じさせる。空は清々しいばかりに澄み渡っているが、平田の心境はちっとも晴れやかなものではない。パトロール中の警官をちらほら見かけたことは、この怯える少年にとって少しだけ心強かった。
平田は待ち合わせ場所の公園にたどり着いた。その公園の隅で待っていたのは、煙草をふかしている大柄な少年――鈴木であった。クラスが別々なためそこまで深く関わり合いはなく、メッセージアプリの同じグループに属している程度の相手だ。今村や吉井が小学生時代に親しくしていた友達であるから、平田にとって鈴木はいわば「友人の友人」のような間柄である。
鈴木は平田の姿を認めると、煙草を地面に落とし、足で踏んづけて火を消した。未成年喫煙の上にポイ捨てという、悪童の極みのような所業である。
「鈴木、本当に大丈夫なのか?」
「昼間だし人多いし、流石に襲ってはこねぇだろ」
休日とあって、公園では小さい子を連れた親が多かった。連続殺人の犠牲になった生徒は、いずれも人目につきにくい場所で遺体が発見されている。ならば、白昼堂々襲ってくることは考えづらいだろう。
「平田お前さ、秋野から金巻き上げてたんだろ。今村とか吉井辺りと一緒によ」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。借りてただけだ」
「それをカツアゲって言うんだろ」
「それを言いに呼び出したのか? いい加減にしてくれ」
平田は鈴木に対して、今にも掴みかからんばかりにむかっ腹を立てた。とはいえ人目のある所で取っ組み合いを始めるほど、平田は考え無しな男ではない。
「今まで死んでるの、全員秋野に恨み買ってんだろ。このままじゃ死ぬぜ。お前も、俺も」
「……そうか。確かキミも小学生の頃……」
平田は今村から聞いていた。鈴木が主犯格となって、複数人で秋野をいじめていたことを。今村はまるで武勇伝かのように、ひいこら逃げる秋野をどつき回したことを雄弁に語っていたのだ。もっとも、それを語った今村はもうこの世の人ではない。正体不明の殺人鬼によって、その命を奪われてしまった。
「だからさ、二人で戦うんだよ。一人なら駄目でも二人なら勝てるかもしれねぇだろ」
「……は? 戦う? 殺人鬼と?」
「逃げてたっていつかは殺されるんだからよ、そうするしかねぇ」
鈴木に強弁された平田は、確かにそれも一理ある、と考えを改めた。家にいても安全とは言い切れない以上、逃げの一手だけではいずれ命を奪われる。だから、死中に活を求めるような勇気が、今は必要なのかも知れない……
「俺が家から持って来たんだ。お前も一本持っとけ」
鈴木は肩にかけていた二本の黒いバットケースの内、片方を平田に手渡した。平田がバットケースのジッパーを開けて中身を取り出してみると、中からは金属バットが出てきた。青く塗装されたバッドは手に持ってみるとずっしり重く、そしてひんやりと冷たかった。しかしその重さが、今は却って頼もしい。これを思いっきり叩きつければ、かなりの威力になるだろう。包丁や金づちなどより、よほど頼りになる。
「……で、どうするんだ? これから」
「それなんだけどよ、秋野ん家行ってみねぇか? 何か分かるかも知れねぇし」
「なぜ?」
「秋野に恨まれてる人ばっかり死んでるんなら、奴の家に何か手がかりになるもんがあるんじゃねぇのか? それぐらいしか手がかりないだろ」
「そりゃそうだが……」
「どの道何もしなけりゃ殺されんだ。行くぞ平田」
「……分かったよ」
二人は公園を出て、その足で秋野の家を目指した。道中、襲撃を受けやしないかと、二人は神経を尖らせて辺りを見回しながら歩いていた。
自らの彼女が惨殺されたことを知った平田は、自室の布団の中でスマホを握りながら震えていた。彼女は以前、平田とともに秋野から金を巻き上げたことがあった。やはり、この連続殺人は秋野と何か関わりがある――
恋人が死んだことよりも、家にいたのにも関わらず襲われて殺されたということが恐ろしかった。このまま籠城を続けても、いずれは殺される……自宅の壁や窓が、途端に頼りないものに見えてきた。警察の捜査も虚しく、犯人の目星はついていない。
恋人の敵討ちをしようなどという殊勝な心掛けは、この男になかった。頭の中にあったのは、ただ死の恐怖のみである。
布団にくるまって震えていると、急に手の中のスマホが鳴り出した。スマホの通知画面を見てみると、そこには意外な人物の名前が表示されていた。
***
意を決して外に出た平田は、急ぎ足で待ち合わせ場所に向かった。久しぶりに吸う外の空気は冷たくて、もう冬の足音がすぐそこまで来ていることを感じさせる。空は清々しいばかりに澄み渡っているが、平田の心境はちっとも晴れやかなものではない。パトロール中の警官をちらほら見かけたことは、この怯える少年にとって少しだけ心強かった。
平田は待ち合わせ場所の公園にたどり着いた。その公園の隅で待っていたのは、煙草をふかしている大柄な少年――鈴木であった。クラスが別々なためそこまで深く関わり合いはなく、メッセージアプリの同じグループに属している程度の相手だ。今村や吉井が小学生時代に親しくしていた友達であるから、平田にとって鈴木はいわば「友人の友人」のような間柄である。
鈴木は平田の姿を認めると、煙草を地面に落とし、足で踏んづけて火を消した。未成年喫煙の上にポイ捨てという、悪童の極みのような所業である。
「鈴木、本当に大丈夫なのか?」
「昼間だし人多いし、流石に襲ってはこねぇだろ」
休日とあって、公園では小さい子を連れた親が多かった。連続殺人の犠牲になった生徒は、いずれも人目につきにくい場所で遺体が発見されている。ならば、白昼堂々襲ってくることは考えづらいだろう。
「平田お前さ、秋野から金巻き上げてたんだろ。今村とか吉井辺りと一緒によ」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいな。借りてただけだ」
「それをカツアゲって言うんだろ」
「それを言いに呼び出したのか? いい加減にしてくれ」
平田は鈴木に対して、今にも掴みかからんばかりにむかっ腹を立てた。とはいえ人目のある所で取っ組み合いを始めるほど、平田は考え無しな男ではない。
「今まで死んでるの、全員秋野に恨み買ってんだろ。このままじゃ死ぬぜ。お前も、俺も」
「……そうか。確かキミも小学生の頃……」
平田は今村から聞いていた。鈴木が主犯格となって、複数人で秋野をいじめていたことを。今村はまるで武勇伝かのように、ひいこら逃げる秋野をどつき回したことを雄弁に語っていたのだ。もっとも、それを語った今村はもうこの世の人ではない。正体不明の殺人鬼によって、その命を奪われてしまった。
「だからさ、二人で戦うんだよ。一人なら駄目でも二人なら勝てるかもしれねぇだろ」
「……は? 戦う? 殺人鬼と?」
「逃げてたっていつかは殺されるんだからよ、そうするしかねぇ」
鈴木に強弁された平田は、確かにそれも一理ある、と考えを改めた。家にいても安全とは言い切れない以上、逃げの一手だけではいずれ命を奪われる。だから、死中に活を求めるような勇気が、今は必要なのかも知れない……
「俺が家から持って来たんだ。お前も一本持っとけ」
鈴木は肩にかけていた二本の黒いバットケースの内、片方を平田に手渡した。平田がバットケースのジッパーを開けて中身を取り出してみると、中からは金属バットが出てきた。青く塗装されたバッドは手に持ってみるとずっしり重く、そしてひんやりと冷たかった。しかしその重さが、今は却って頼もしい。これを思いっきり叩きつければ、かなりの威力になるだろう。包丁や金づちなどより、よほど頼りになる。
「……で、どうするんだ? これから」
「それなんだけどよ、秋野ん家行ってみねぇか? 何か分かるかも知れねぇし」
「なぜ?」
「秋野に恨まれてる人ばっかり死んでるんなら、奴の家に何か手がかりになるもんがあるんじゃねぇのか? それぐらいしか手がかりないだろ」
「そりゃそうだが……」
「どの道何もしなけりゃ殺されんだ。行くぞ平田」
「……分かったよ」
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