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渡航
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東京都・網底島
その島に向かって、一隻の客船が航行していた。水を裂く音を立てながら、白い船体が、滄海の上を突き進んでいく。
この客船は、網底島と八丈島を結ぶ連絡船である。本州直通の連絡船がないため、八丈島を出航したこの船は、空港もない小さな絶海の孤島と本州とを結んでいる唯一の交通手段なのである。
その船の一室に、青野優李少年は腰を落ち着けていた。その部屋には、彼の両親もいる。
優李は窓の外から海を眺めてみた。青空の下に眩く輝く大海原を期待した彼であったが、どうやら段々と上空に雲が立ち込めてきているようで、鉛色の陰気な風景と、冷たそうな海面が広がるばかりであった。
――何となく、嫌な気分だ。
決して船酔いしたのではない。しかし、優李は何となく、気分が悪くなった。よく分からないが、「気分が悪い」としか言いようがない不快な感覚に襲われたのである。
「ちょっと、外に行ってくる」
きっと、空気がこもっているせいだ。そう思って、優李はデッキに出た。
やはり、空は分厚い雲に覆われていた。吹き抜ける風は湿気ていて、決して心地のよいものではない。
ざわざわと、海が震えている。優李は眼下に広がる海を見て感じた。
「……ん?」
海中で何かが蠢いていたような……優李は今しがた自分が見た何ものかが気になった。けれども、その正体は確かめようがない。そのまま、船は白波を蹴立てて突き進んでいった。
その島に向かって、一隻の客船が航行していた。水を裂く音を立てながら、白い船体が、滄海の上を突き進んでいく。
この客船は、網底島と八丈島を結ぶ連絡船である。本州直通の連絡船がないため、八丈島を出航したこの船は、空港もない小さな絶海の孤島と本州とを結んでいる唯一の交通手段なのである。
その船の一室に、青野優李少年は腰を落ち着けていた。その部屋には、彼の両親もいる。
優李は窓の外から海を眺めてみた。青空の下に眩く輝く大海原を期待した彼であったが、どうやら段々と上空に雲が立ち込めてきているようで、鉛色の陰気な風景と、冷たそうな海面が広がるばかりであった。
――何となく、嫌な気分だ。
決して船酔いしたのではない。しかし、優李は何となく、気分が悪くなった。よく分からないが、「気分が悪い」としか言いようがない不快な感覚に襲われたのである。
「ちょっと、外に行ってくる」
きっと、空気がこもっているせいだ。そう思って、優李はデッキに出た。
やはり、空は分厚い雲に覆われていた。吹き抜ける風は湿気ていて、決して心地のよいものではない。
ざわざわと、海が震えている。優李は眼下に広がる海を見て感じた。
「……ん?」
海中で何かが蠢いていたような……優李は今しがた自分が見た何ものかが気になった。けれども、その正体は確かめようがない。そのまま、船は白波を蹴立てて突き進んでいった。
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