魔界からの贈り物

武州人也

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蜜月の始まり

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 そのようなことがあってから、大吾とリリアの間は気まずくなってしまった。それと反比例するように、大吾の姉である美咲とリリアは、何かと一緒に出掛けているようであった。大吾にとってそれは誠に歯痒いことであったが、袖手傍観しょうしゅぼうかんするより他になかった。完全に、関係修復の時機を逸してしまったとしか言いようがない。
 心苦しい。心苦しい。心苦しい。大吾は、つまらぬ意地がために想い人を邪険にし、愚かな怯懦がためにそれを詫びなかった己を責めた。責めたとて、どうにもならない。初恋を、自分の手で壊したのだ。今更どうして彼と懇ろになることができようか……

 湿り気を含んだ風が吹き寄せる六月の昼下がり、美咲はリリアを伴って友達と遊び歩いた後、帰路に就いていた。
 美咲は友人にリリアのことを見せて回っており、彼女の通う高校でリリアは有名人と化していた。流石に高校に連れて行く訳にはいかなかったが、それでも校門の前で待ってもらって一緒に帰ったりはしていた。リリアの方も
「思春期の人間の集団を観察するのも悪くはない」
 と、乗り気であったようだ。
 二人が最寄り駅に降りた丁度そのタイミングで、湿った空気は、雨を地上に呼び込んだ。ぽつりと降った雨粒はすぐさま強い雨に変わり、凄まじい豪雨が人々の頭上に降り注いで、駅前は一時騒然となった。
「傘忘れた! 走って帰るよ!」
 そう叫ぶや否や、美咲はリリアの腕を掴み、脱兎の如く駆け出した。リリアは自らの能力で、傘程度は空中から取り出すことができたのであるが、衆目の前で魔術など使っては人の目を引きすぎるだろう、と、それを憚った。この世界に関する知識はまだ豊富と言えないリリアであるが、そういったことを配慮できる程度には魯鈍ではなかった。
 家に到着する頃には、すでに二人ともずぶ濡れになっていた。
「取り敢えずこれ脱いで、風呂入ってきなよ」
 そう言って、美咲はリリアの身に付けている修道服風の真っ黒な服を脱がせようとした。ところが雨に濡れて貼り付いた服は、容易には脱げない。美咲は殆ど意地になって、リリアの服を脱がせた。
 露わになったリリアの裸体。すらっとした細身の体と眩いばかりに照り輝く白い肌は、嫉妬せんばかりに美しい。なるほど沈魚落雁とはこのことを言うのかも知れない、と思わせる。
 だが、その裸体の股間の辺りに、男性にしか備わっていないものが存在していた。
「……え、リリアって男だったの」
「ああ、言ってなかったね……ボクは男だよ」
 衝撃であった。確かに、言われてみれば男女どちらともとれるような顔立ちである。だが、美咲は直感で、リリアを女と信じて疑わなかったのである。
 急に気恥ずかしくなった美咲は、殆ど反射的にリリアを残したまま脱衣所を飛び出して扉を閉めてしまった。
「リリアが男……男……」
 心臓が、これ以上ない程に高鳴っている。美咲は三回ほど大きく深呼吸をしたが、やはり落ち着かない。
 気づけば、自分はまだ濡れたままだった。美咲はいそいそと自室に戻って着替えを済ませた。着替えが済むと、脱衣所に残したままのリリアが気になった。けれども、どんな顔で彼と対面したらよいのか分からない。前まであれだけ気安く連れ回していたのに、である。リリアはリリアのままであるのに何故だろう。
 ……そういえば、彼は着替えを持っているんだろうか。いつもあの真っ黒な格好をしている気がする。あの空間から物を取り出す魔法でどうにかしているんだろうか……
 美咲は自分の使っている寝巻を箪笥から出すと、自分の脱いだ濡れた服と一緒に、リリアのいる脱衣所へ持っていった。そして素早く脱衣所の戸を開けると、その中に持ってきた寝巻を放り込んだ。
「他になかったから、とりまそれ着ておいて」
 緊張のあまり、妙に上擦った声になってしまった。全く、恥ずかしいことこの上ない。
「ああ、ごめん、待たせた。それ、籠に入れておくよ」
 そう言って、リリアは濡れた服の方を美咲から受け取り、洗濯籠に入れた。その間も、美咲の心中は全く穏やかでなかった。

「邪魔するよ」
 リリアが、美咲の部屋に入ってきた。彼が無断で入ってくることはない。美咲の方から呼んだのである。
 美咲の頬が、まるで林檎の如くに赤く染まっている。
「ねえ、リリアって本当に男なの?」
「如何にも、その通りだけれど」
「それじゃやっぱり……エッチなこととかに興味あるの?」
 美咲とて、全く初心うぶ生娘きむすめというわけではない。今はもう別れてしまったものの彼氏がいたことはあるし、その彼とは事を致す仲にまでなった。リリアにも前の彼氏と同じ欲求が宿るかというのは、とても気になる。
「エッチなこと……というのは生殖行為のこと、でいいのかな」
 そういう行為を漢語で堅苦しく言い表されると、何だが滑稽みを感じてしまって、美咲は危うく笑いそうになった。
「ボクらもキミたちと同じように、有性生殖によって個体を生産している。だから勿論、そういう衝動自体は持ち合わせている」
「へぇ、ちょっと意外。てっきり私たち人間とは違うものだと思ってた」
「そうか、じゃあキミたちと同じかどうか、見せてあげようか」
 そう言うと、彼は空間から取り出した針で、自らの指を刺して見せた。彼の出自は美咲も聞き及んでいるため、魔術を見ても驚かない。針の先が人差し指の皮膚を突き破ると、白い肌の上にぶわり、と赤い玉が浮かんだ。
「ほら、キミたちと変わらないだろう。ボクも痛いのは嫌だから、これで勘弁してほしい」
「魔族も、私たちみたいな血が流れているんだ」
「如何にも」
「じゃあ……これとか気持ちいい?」
 美咲は、リリアの股にある物を服の上から撫でさすった。
「美咲……何を……?」
 リリアは抵抗こそしないまでも、戸惑いの色を顔に表出させている。
「これならどう……?」
 美咲は調子に乗って、パンツの中に手を突っ込んで直接擦った。生暖かい肉の感触は、まさしく血の通った人間のそれである今の美咲は、淫媟いんせつな欲望に突き動かされていた。
「あっ……美咲……それ……駄目かも……」
 リリアの表情が、段々と切なげになってゆく。。普段は何処か浮雲のように掴みどころのない雰囲気のある彼から余裕が失われていく様に、美咲は興奮と共に仄かな優越感を感じた。
 もう邪魔だ、とばかりに、美咲はリリアの下半身を脱がせた。細く白い脚に小さな尻は、嘆息するばかりに婉媚えんびであった。リリアは自身を攻め立てられ、その呼吸は甚だしく乱れている。
「ああっ……もう……あっ……」
 そうしてとうとう、彼は暴発した。飛び散ったそれは、前の彼氏のものと変わらないように見えた。少し違うのは、心なしかリリアの方が薄くさらっとしているように見えることである。
 リリアは疲労したのか、美咲の部屋のベッドでぐったりと寝込んでしまった。そのなよやかな様は、女の自分でも敵わぬ、と美咲に思わせた。
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