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花
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鼈を平らげてしまった宋に、酒が振舞われた。珪と名乗った少年が、彼の盃に酒を注いだ。
「おお、こりゃ美味い酒だ」
振舞われた酒は、自らの生涯において今まで飲んできた酒は安酒に過ぎなかったのだ、と思わされる程の美酒であった。
「君たちがいるから美味いのかも知れんなぁ」
宋は酔いの回り始めた勢いで、少年の内の一人の肩を抱き寄せた。それは珪と名乗った少年であった。やや吊り目気味の涼しげな目元と、真っ直ぐ横に切り揃えた前髪が特徴的な美少年である。
「食だけではございません。私たちも貴方を楽しませたいと思います……」
珪の口元が一瞬、妖しげな笑みを湛えたかのように見えた。
宋は珪と蘭に体を支えられて、寝床へと移された。桃の花のような香りが、宋の鼻孔を擽る。
「君、本当に綺麗な顔してるなぁ……僕の故郷にはこんな綺麗な人いないよ」
「ふふ、光栄でございます」
素面で見ても、きっと珪は絶世の美少年であったろう。いや、珪だけなく、他の二人、麗と蘭もそうだ。けれども酒が回ったことで、より目の前の少年が艶めかしく、情欲を掻き立てられるような存在に見えていたのである。珪の方も、宋を拒むでもなく、寧ろ誘うような、焚きつけるような風であった。珪の着物がはだけて白い首筋や鎖骨の覗く様は、月も恥じらってその身を隠さんばかりである。
どちらともなく、二人は唇を重ね合った。互いが相手の口を啄む度に、淫靡な水音が響き渡る。舌を絡め合いながら、宋は珪の背中に手を伸ばして摩った。その肌触りは得も言われぬもので、絹の着物など着たことはなかったが、絹のような肌触りというのはこのことを言うのかも知れない、と思った。
口を離すと、唾液が糸を引いて二人の唇の間に橋を架した。珪はそれを右の人差し指で断ち切った後に、油のようなものを塗りつけた手で宋の股間へと伸ばした。既に宋のそれは怒れる龍の如くであった。珪が宋の陽物を扱き始めると、その先端からは、透明な先走り液が、早くも滲み出てきた。
宋にはこれまで、男色の気は殆どなかった。けれども、ここで出会った三人は、人生の内で出会った誰よりも美しく、惚れてしまうには十分であった。
宋は興奮のあまり、珪を床に押し倒して服を脱がせた。薄い胸板と細い首筋が目に入る。色素の薄い肌は血の透けるようで、その柔肌はほんのり赤みを帯びていた。
「いいですよ……来てください」
珪は宋に組み伏せられながら、挑発的な笑みを浮かべていた。宋は意を決し、己が男根を珪の後孔に突き入れた。
「ああっ……」
珪が艶めかしい嬌声を上げる。その締まりは宋の妻のそれとは比較にならないものであった。宋の抽送に合わせて、珪は淫らに喘いだ。
「うっ……出る……」
思いのほか、限界は早くに訪れた。早々に音を上げた陽物から、欲望の白濁液が放たれ、少年の後庭に染み渡った。
明くる日のこと。
「豚の肩肉でございます」
麗と名乗った少年が、豚肉の乗った皿を宋の目の前に出した。それに続いて、蘭と名乗った少年が菜を運んできた。麗は垂目の可愛らしい温麗な容貌をしており、一方の蘭は蠱惑的な項と凛々しげ目鼻立ちをした、凛々しげな総髪の少年であった。
宋は目の前に出された肉を見たが、どう見てもそれは生肉で、火が通っているとは思えないものであった。
「これは生ではないのか」
「ああ、外の世界の豚はともかく、我々の里の豚は生でも食べられるのですよ」
答えたのは麗であった。そう言われると、昨晩も御馳走になった身であるからして、食べないのは悪いような気がしてくる。
宋は試しに一口、口に運んだ。美味い。豚の生肉など怖くて食べられなかったが、焼いたものとはまた違った触感に病みつきになりそうだ。
「それにしても生の豚の肩肉とはまるで鴻門の会の樊噲みたいだ」
その昔、漢の高祖劉邦がまだ沛公と呼ばれていた頃、秦都咸陽に先に入ったことで西楚覇王項羽の怒りを買い、その弁明のために鴻門の会と呼ばれる会合が開かれた。その時の故事を、宋は思い出したのだ。この会において漢の猛将樊噲は劉邦を助けるために、盾を構えて衛兵を押しのけ宴席に突入し、項羽の前で大酒を飲み、生の豚の肩肉を食らい、己の勇を示したことで項羽に壮士であると称えられたのである。この会合で劉邦が生き延びたことが、後の漢帝国の統一に繋がったのであった。
「樊噲、とはどなたでしょうか」
蘭は怪訝な顔をして宋に問うた。麗と珪も、きょとんとした表情をしている。
「何、知らないのか。漢のために戦った猛将だよ」
「ははぁ……外の世界には漢という国があるのですね」
よくよく聞いてみると、三人は漢のことを知らなかった。それどころか、王莽の新も、三国も晋も、彼らは何一つ知らなかったのである。
「黙っておりましたが、我々は秦の暴政から逃れてこの地に移り住んだのです。ですからその後の世のことは全く存じておりません……」
驚愕だった。彼らは秦の頃にこの地に幽隠し、そのまま歴史と隔絶されたのだ。そこに宋が偶然にも迷い込んだ、というわけだ。
それにしてもおかしなことがある。先程麗が「我々は秦の暴政から逃れた」と言っていたが、まるで自分たちが逃れてきたような口ぶりである。秦のころからもう数百年経つというのに、それはおかしいのではないか。宋はそのことを問うた。
「ああ、そのことですか。我々は登仙した仙人なのです。ですから、秦の頃からずっとこの姿のままなのです」
麗がそう述べたのを聞いて、そうか、そういうことだったのか、と、宋は思った。それなら、自分たちは何も食べなかったのも合点がいく。ここは仙人の里だったのだ。
「おお、こりゃ美味い酒だ」
振舞われた酒は、自らの生涯において今まで飲んできた酒は安酒に過ぎなかったのだ、と思わされる程の美酒であった。
「君たちがいるから美味いのかも知れんなぁ」
宋は酔いの回り始めた勢いで、少年の内の一人の肩を抱き寄せた。それは珪と名乗った少年であった。やや吊り目気味の涼しげな目元と、真っ直ぐ横に切り揃えた前髪が特徴的な美少年である。
「食だけではございません。私たちも貴方を楽しませたいと思います……」
珪の口元が一瞬、妖しげな笑みを湛えたかのように見えた。
宋は珪と蘭に体を支えられて、寝床へと移された。桃の花のような香りが、宋の鼻孔を擽る。
「君、本当に綺麗な顔してるなぁ……僕の故郷にはこんな綺麗な人いないよ」
「ふふ、光栄でございます」
素面で見ても、きっと珪は絶世の美少年であったろう。いや、珪だけなく、他の二人、麗と蘭もそうだ。けれども酒が回ったことで、より目の前の少年が艶めかしく、情欲を掻き立てられるような存在に見えていたのである。珪の方も、宋を拒むでもなく、寧ろ誘うような、焚きつけるような風であった。珪の着物がはだけて白い首筋や鎖骨の覗く様は、月も恥じらってその身を隠さんばかりである。
どちらともなく、二人は唇を重ね合った。互いが相手の口を啄む度に、淫靡な水音が響き渡る。舌を絡め合いながら、宋は珪の背中に手を伸ばして摩った。その肌触りは得も言われぬもので、絹の着物など着たことはなかったが、絹のような肌触りというのはこのことを言うのかも知れない、と思った。
口を離すと、唾液が糸を引いて二人の唇の間に橋を架した。珪はそれを右の人差し指で断ち切った後に、油のようなものを塗りつけた手で宋の股間へと伸ばした。既に宋のそれは怒れる龍の如くであった。珪が宋の陽物を扱き始めると、その先端からは、透明な先走り液が、早くも滲み出てきた。
宋にはこれまで、男色の気は殆どなかった。けれども、ここで出会った三人は、人生の内で出会った誰よりも美しく、惚れてしまうには十分であった。
宋は興奮のあまり、珪を床に押し倒して服を脱がせた。薄い胸板と細い首筋が目に入る。色素の薄い肌は血の透けるようで、その柔肌はほんのり赤みを帯びていた。
「いいですよ……来てください」
珪は宋に組み伏せられながら、挑発的な笑みを浮かべていた。宋は意を決し、己が男根を珪の後孔に突き入れた。
「ああっ……」
珪が艶めかしい嬌声を上げる。その締まりは宋の妻のそれとは比較にならないものであった。宋の抽送に合わせて、珪は淫らに喘いだ。
「うっ……出る……」
思いのほか、限界は早くに訪れた。早々に音を上げた陽物から、欲望の白濁液が放たれ、少年の後庭に染み渡った。
明くる日のこと。
「豚の肩肉でございます」
麗と名乗った少年が、豚肉の乗った皿を宋の目の前に出した。それに続いて、蘭と名乗った少年が菜を運んできた。麗は垂目の可愛らしい温麗な容貌をしており、一方の蘭は蠱惑的な項と凛々しげ目鼻立ちをした、凛々しげな総髪の少年であった。
宋は目の前に出された肉を見たが、どう見てもそれは生肉で、火が通っているとは思えないものであった。
「これは生ではないのか」
「ああ、外の世界の豚はともかく、我々の里の豚は生でも食べられるのですよ」
答えたのは麗であった。そう言われると、昨晩も御馳走になった身であるからして、食べないのは悪いような気がしてくる。
宋は試しに一口、口に運んだ。美味い。豚の生肉など怖くて食べられなかったが、焼いたものとはまた違った触感に病みつきになりそうだ。
「それにしても生の豚の肩肉とはまるで鴻門の会の樊噲みたいだ」
その昔、漢の高祖劉邦がまだ沛公と呼ばれていた頃、秦都咸陽に先に入ったことで西楚覇王項羽の怒りを買い、その弁明のために鴻門の会と呼ばれる会合が開かれた。その時の故事を、宋は思い出したのだ。この会において漢の猛将樊噲は劉邦を助けるために、盾を構えて衛兵を押しのけ宴席に突入し、項羽の前で大酒を飲み、生の豚の肩肉を食らい、己の勇を示したことで項羽に壮士であると称えられたのである。この会合で劉邦が生き延びたことが、後の漢帝国の統一に繋がったのであった。
「樊噲、とはどなたでしょうか」
蘭は怪訝な顔をして宋に問うた。麗と珪も、きょとんとした表情をしている。
「何、知らないのか。漢のために戦った猛将だよ」
「ははぁ……外の世界には漢という国があるのですね」
よくよく聞いてみると、三人は漢のことを知らなかった。それどころか、王莽の新も、三国も晋も、彼らは何一つ知らなかったのである。
「黙っておりましたが、我々は秦の暴政から逃れてこの地に移り住んだのです。ですからその後の世のことは全く存じておりません……」
驚愕だった。彼らは秦の頃にこの地に幽隠し、そのまま歴史と隔絶されたのだ。そこに宋が偶然にも迷い込んだ、というわけだ。
それにしてもおかしなことがある。先程麗が「我々は秦の暴政から逃れた」と言っていたが、まるで自分たちが逃れてきたような口ぶりである。秦のころからもう数百年経つというのに、それはおかしいのではないか。宋はそのことを問うた。
「ああ、そのことですか。我々は登仙した仙人なのです。ですから、秦の頃からずっとこの姿のままなのです」
麗がそう述べたのを聞いて、そうか、そういうことだったのか、と、宋は思った。それなら、自分たちは何も食べなかったのも合点がいく。ここは仙人の里だったのだ。
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