迷い家

武州人也

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迷い家

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 翔一が目を覚ました時外はすっかり暗くなっていて、板の間の上で眠りこくってしまったのがいつの間にか蒲団の上で寝かされていた。「寝て起きたら自分の家だった」というようなことを密かに期待はしていたが、自分がいるのは、迷い込んだ挙句上がりこんだ例の家の中であった。
 ふと、翔一は冷静になって考えてみた。いくら見た目が綺麗だと言っても、あの古風な出で立ちの少年は、明らかに自分に変態的な行為を働いた変質者である。否、変質者という俗な言葉に押し込めていいものですら分からない、正体不明の怪人物と言うべき存在だ。そもそも自分が迷い込んだ竹林や、この家と少年の正体は何なのか。翔一の頭の中に様々な思考が駆け巡るが、答えを得ることは叶わない。しかし、この家の中に居続けることに、漠然とした危機感を覚え始めた。
 抜け出そう。そう思い、翔一は蒲団から起き、抜き足差し足、玄関を目指して歩き出した。元はと言えば勝手に上がり込んだ自分が悪いとは言え、自分の体を好き放題に弄り回される謂れはない。されるがままであった当初はあまりの官能に恍惚としていた自分であったが、いざ冷静になってから思い返すと、大事な部分を晒され、手で弄られたり咥えられたりしたという事実に、翔一は激しい慙恚ざんいと嫌悪の念に苛まれた。大人が知れば忽ちその表情は峻峭しゅんしょうなるものに変わるような、非道徳的な行いであると、翔一は認識していた。同級生の内でも品性欠けたる狡児たちの言う所のエロであるとかエッチであるとか、そのような類の行為であると。
 「何処へ行かれるので?」
 もう少しで玄関に至るという所で、突然背後から、ある種の冷たさを帯びたような声がした。翔一がぎこちなく振り返ると、はたしてそこには両手で御膳を持った件の美少年が立っていた。御膳の上には竹箸と湯気を立てている丼が乗っており、その中には汁に浸かった饂飩うどんがあった。
 「夜分遅くですけれども、空き腹でしょうから。」
 先程の彼を思うと、そのような妙ちきりんな気遣いさえ、翔一には不気味なものにしか感じられなかった。今の翔一の心中は、一刻も早く逃げ出したい気持ちで一杯であった。和装の美少年は、そんな翔一の心を読むかのように、じっと目を見つめながら口を開いた。
 「ここを出たとして、貴方は帰れるとでもお思いなのでしょうか。」
 翔一の心を小さな針でちくちく刺すような、慇懃な物言いで言い放った。しかし、実際の所、ここに来る前から、翔一は得体の知れない竹林から出られなくなっているのである。よしんばここから外に出たとして、その後どうすればいいのか、翔一自身には皆目見当もつかない。
 「ごめんなさい。僕はそんなつもりじゃあなくて……」
 力ない声で、翔一は釈明した。今ここで目の前の少年に良くない感情を抱かれることこそ最も避けなければならないと、翔一は悟ったのである。確かに彼は正体不明の怪人物ではあるのだが、そうであるからこそ、竹林を脱出するための鍵を握っているのはその人以外にありえない。
 「私が助けると言ったでしょう。取り敢えず腹拵えでも如何いかが?。」
 言いながら、和装の美少年は最奥の、あの御膳が並べられていた例の部屋へと翔一を導いた。翔一はそれに黙ってついていくしかなかった。部屋に着くと、美少年は翔一の前に御膳を置いた。部屋には、二人とこの御膳以外は何もなく、最初に見たあの汁物や刺身の載った御膳は、いつの間にか片付けられていたのか、最早影も形もない。
 「お気に召しませんか?」
 箸に手をつけないでいる翔一の顔を美少年が覗き込む。翔一は、何だか急かされているような気がしていそいそと箸を手に取り饂飩を食べ始めた。翔一自身、饂飩は別段嫌いな食べ物ではないし、腹が減っているのも事実なのだが、何となく食べる気になれなかったのである。
 「喉も渇いたでしょう。お茶をどうぞ。」
 翔一が饂飩を啜っていると、いつの間にか目の前に茶褐色の陶器の湯飲みが置かれ、急須を持った美少年が緑茶を注いでいた。変に気を回されていることに、ようよう調子が狂ってくる。
 饂飩とお茶を腹に収めた翔一は、何だか、ぽかぽかと体が温かくなっていくのを感じた。最初は食事後であるから当然の、至極真っ当な生理的反応であると思っていた翔一だったが、次第に体が異常なほどの熱を帯び始め心臓の鼓動も早まり、いよいよおかしいと翔一も思い始めた。
 「御免なさいね。お茶の方に少しばかり悪戯をしてしまいまして。」
 それを聞いた時、既に翔一の下半身は開帳されていた。自身の股座またぐらについているそれが天を衝かんばかりに怒張しているのを、翔一も見ることが出来た。正面に目を向けると、件の美少年も服を脱ぎその裸を晒していた。
 その裸体は、言いようもないほど美しいものであった。雪を乗せているかのように白くきめ細かい肌。腕から肩、腰、脚に至るまで嫋娜じょうだたるえん甚だしい肉体。その股座にある男性の象徴物は既に充血し上を向いおり、翔一の目の前のこの美しい少年が性的な興奮を覚えていることを黙示していた。男性としては未発達な少年の肉体でありながら、否、そうであるからこそ、成長にあたって削ぎ落とされる様々なものが妖艶な光を放つのである。
 裸体を晒した美少年は自らの右手に何かの油のようなものを塗りつけると、翔一の下半身に跨った。翔一自身の物をその手で握り、その油のような液体で一物を濡らすと、それを自分の尻に充てがった。寸刻経て、翔一は自分の一物が、何か狭い、それでいて温かみを伴ったものに飲み込まれたのを感じたのである。その時の快感は、手や口で扱かれた時以上のものであった。翔一は最初、何が起こったのか理解出来ず、目の前の美少年の尻に自分の一物が侵入している、ということに気づいたのは、幾許かの時を経てのことであった。その刺激だけで、翔一の一物は脈打ち、精を吐き出してしまった。
 「おや、もう出してしまいましたか。でもこれで終わりではない筈ですよ。」
 美少年の言う通り、翔一の一物は精を放って尚萎えしぼむことはなかった。未だにその一物は、熱と硬度を保ったまま尻の中にある。
 美少年は翔一の物と繋がったまま、腰を上下に動かし始めた。性器と粘膜が擦れ淫靡な音を立てながら、絞蛇こうだの如く媚肉が一物を絞め上げる。美少年が上げ始めた嬌声も、翔一の官能をより高めていった。
 もう少しで達するという所で、美少年は突如として腰を持ち上げ、自らの中に埋め込まれた物を引き抜いた。油のようなものと最初に放った精液とで濡れそぼり、限界まで怒張したそれが再び外気に晒される。
 「何で……?」
 翔一は生殺しに遭ったような気分に見舞われた。思わぬお預けに額に汗を浮かべながら悶々としている翔一を一瞥すると、美少年は仰向けに寝転がり、両膝を少し開いた、その奥には、先ほどまで一物が埋められていた後孔の門があった。
 「さぁ、どうぞ。私の体を存分に愉しんでください。」
 美少年のその一言で、翔一は、何をすれば良いのか察することが出来た。右手で自分のそれを握りながら左手で目の前の美少年の膝を退け、秘所に物を充てがう。ずぶり、と、先端部分が埋め込まれると、後はもう一直線、奥までぐいと突き込んだ。その時美少年が上げた嬌声が、より一層、翔一の心を滾らせる。翔一の内側に眠っていた獣の如き本能が目覚めを迎え、その腰は快楽を貪るための律動を始めた。中を擦り、奥を突くたびに物を受け入れている美少年が言葉にならない声を上げる。一物で貫かれている目の前の少年が果たして気持ちいいのかどうかは翔一には分かりかねることであったが、そんなことは最早どうでもいいことであった。翔一は抽送を続けながら美少年の顔に自らの顔を近づけると、少し前まで恐怖を覚えた存在であったことなど忘れ、最初に自分がされたことへの返礼とばかりに唇同士を重ねた。熱を帯びた互いの頬は珊瑚珠色さんごしゅいろに染まり、額には脂ぎった汗を浮かばせている。突然唇を奪われたことに意外と思ったのか、美少年は少しく目を丸くしたかに見えたのであるが、性器の抽送を受けてまたも眉根を寄せた。触れてもいない美少年の陽物から液体が溢れ、自らの腹を汚している。やがて限界を迎えた翔一はぐい、と自分の物を突き入れると、その最奥に精を放散したのであった。
 それでも、翔一の猛りは尚収まらず、二人は何度も繋がり、その分だけ翔一は熱い飛沫しぶきを奥に放った。次第に肉体の方が限界を迎え始めた翔一は、ぐったりと、腰が抜けたかのようにその場にへたり込んだ。
 大人たちは顔をしかめるけれど、気持ちよくなることが果たして道徳的でない、悪いことなのだろうか。うっすらと残る思考を巡らせる。もしそうであるなら、自分は周りよりも一足先に、悪い子になってしまったんだろう。そんなことを考えながら、翔一の意識は、微睡まどろみの中に没していった。
 「ふふ、良い子でしたね。愉しませてもらいましたよ。」
 体の中に精をたっぷりと放たれた美少年は、自身の後庭からその精を垂れながら、眠りこくった翔一の顔を見て、まるで自分の好きなものを心行くまで食べて満足した子どものような、満足げな笑みを浮かべていた。

 気がついた時には、翔一は病院の寝室にいた。もっと、ずっと長い間竹林の中にある件の家にいたような気がしたが、まだ時刻はその日の夜七時であった。聞けば、何時までも見つからない翔一に業を煮やした友人たちが総出であちこちを探してみたものの見つからず、諦めかけていた所に竹藪の倒竹の上で寝ている彼を発見したのだという。何故か汗でぐっしょりと濡れていた彼はどんなことをしても起きなかったため、友達の一人が救急車を呼んで搬送してもらったのだという。

 その体験は、翔一にとって忘れられない出来事になった。またあの美少年に逢いたい。彼に逢って、また気持ち良いことがしたい。そう思って、悶々とした気分で何度も例の竹藪へと足を運んだが、そこにはぐるりと周囲を一回りしても一分そこら程度しかかからないような広さの、倒竹ばかりで足を踏み入れることさえ出来ないみすぼらしい竹藪があるばかりであった。整然と青竹の並んだ竹林も、水気を含んだ霧のような空気も、花の香りも、勿論和装の美少年の住む家も、何処にもありはしなかった。次に迷い込めば今度こそはあの竹林から戻れなくなるかも知れないと根拠もなく類推していたが、同時にまた例の美少年に逢えるのであればそれでもいい、とも翔一は考えていた。そう思っていても尚、再びその竹林に入ることも、あの和装の美少年に逢うことも叶わなかった。
 月日が経ち、中学に上がっても、翔一は件の竹藪に足繁く通うことを止めることが出来ないでいた。周囲も次第に性に目覚め、誰某だれそれが可愛いだとか、エロいだとか、そのような話をするものも現れ始めたが、彼はどのような異性を見ても、如何ばかりも魅力を感じることが出来なかった。彼の目に映る如何なるものも、あの時逢った美少年の艶美の足元にも及ばないからである。
 思い出の中だけの存在になって久しい彼も、翔一の頭の中でその像は漸う擦り切れ不明瞭になっていく。それでも、翔一は彼と過ごした淫靡な一時ひとときを思い出し煩悶しながら、今日も手淫に耽り惨めに精を吐き出すのであった。
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