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第1話 雪山大ムカデ復活
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北太平洋に浮かぶ孤島、セーレル島。
沖縄本島よりも少しばかり大きなこの島は王政が敷かれており、アメリカとソ連に挟まれながらも独立を守り続けている。この島は高緯度に位置し、冬ともなると降り積もる雪で一面真っ白に染め上げられる。今年も首都の市街地にそびえ立つ建物の数々が、その屋根を白くする季節がやってきたのだ。
島の中央部には、セーレ山という島で最高峰の山がある。この山を、三人の男が登っていた。毛皮の外套を着込んだ男三人は、倒壊して見るも無残な姿となった山小屋を前にして困った顔をしている。
「あーあ……こりゃひでぇ……やられちまってんなぁ……」
先日、この山で土砂崩れが起こった。晴れが続いたせいで雪解け水がしみ込んだ斜面が崩落し、大量の雪と土砂が雪崩をうったのである。
三人の男たちは皆揃って猟師であり、狩りの際にはこの山小屋を仮の拠点としていた。そのため心配になって小屋の様子を伺いに来たのであるが、彼らの悪い予想は的中してしまっていた。山小屋は雪崩の被害を受け、ものの見事に倒壊してしまったのである。
一人の男が手袋をした右手でぽりぽりと頭をかいた、その時であった。
「な、何だ!?」
何かの物音が、こちらに近づいてきていた。一瞬、ヒグマが出たのかと思って、三人は音のする方にライフルを向けた。もうヒグマは冬眠の季節であるが、冬眠に失敗した、「穴持たず」と呼ばれる個体がうろついている可能性がある。
秋に十分な餌を採れず冬ごもりに十分な栄養が蓄えられなかったり、あるいは体が大きすぎて隠れるのに適切な場所が見つけられなかったヒグマなどが「穴持たず」となる。このような個体は餌に飢えており、目につく手頃な動物を見つけるとこれ幸いとばかりに襲い掛かる。当然人間も例外ではないため、危険性は非常に高い。男たちの肩はぴりりと強張った。
だが、どうも様子が違う。音のする方に、ヒグマの姿は認められない。その上、音はどう聞いても雪を踏みしめる獣の足音ではなかった。まるで土をかき分けて地中を進むような、そんな音である。ヒグマよりも、もっと恐ろしい相手が近づいてきているのではないか……そんな予感は、その場の三人が揃って抱いていた。
そして、地中から迫りくるモノは、雪と土を跳ね飛ばして地上に姿を現した。
「ば、化け物!」
長い体にたくさんの脚、頭から伸びる二本の触覚……雪のように真っ白な色をしたそれは、見たこともない巨大なムカデであった。
三人の男たちは、まさしく蛇に睨まれた蛙のように足を震わせていた。腕も脚も硬くなって、思うように動いてくれない。チンアナゴのように地面から飛び出している巨大ムカデは、地上に出ている部分だけでも五メートルはゆうに超えるであろう。地面に埋まっている部分を含めれば、これの倍はあるのではないかと思わせる長躯だ。
「死ね! 化け物め!」
男たちは必死に自らを奮い立たせてライフルを構え、三方向からめった撃ちにした。猟師とあって銃の扱いには慣れており、この非常時にあってもしっかりと狙いをつけて発砲することができた。
しかし、相手は巨大ムカデである。ここまでの大きさとなれば、体を覆う外骨格の硬さも相当なものだ。三丁の銃から放たれる弾丸を浴びても、まるで怯む様子がない。
「き、効かねぇ……どうしろってんだ……」
三人の男たちは死を覚悟した。逃げようとしたが、恐怖ですくんだ脚は満足に動いてくれない。鎌首をもたげたムカデの頭は、じっと三人を見下ろしている。その触覚は、男たちの鼻先に触れんばかりの所をゆらゆらしていた。
「やめてくれ……俺には妻も子どももいるんだ……許してくれ……」
真ん中の男は、とうとうムカデに向かって命乞いをした。けれども、そうした悲痛な叫びをかき消すかのように、化け物ムカデの頭部から、真っ白なガス状のものが噴霧された。
身を突き刺すような、酷烈極まる冷気を含んだガスが男たちを覆う。肉体を芯まで凍らせる冷気に包まれながら、三人の男たちの意識は手放され、冷え冷えとした空へと消えていった。
***
山の麓の男性三人が、山小屋の様子を見に行くと言い残して消息を絶った。滑落事故が有力とされ、山小屋の周辺を中心に捜索が続けられたものの、遺体が発見されることのないまま捜索は打ち切られてしまった。
沖縄本島よりも少しばかり大きなこの島は王政が敷かれており、アメリカとソ連に挟まれながらも独立を守り続けている。この島は高緯度に位置し、冬ともなると降り積もる雪で一面真っ白に染め上げられる。今年も首都の市街地にそびえ立つ建物の数々が、その屋根を白くする季節がやってきたのだ。
島の中央部には、セーレ山という島で最高峰の山がある。この山を、三人の男が登っていた。毛皮の外套を着込んだ男三人は、倒壊して見るも無残な姿となった山小屋を前にして困った顔をしている。
「あーあ……こりゃひでぇ……やられちまってんなぁ……」
先日、この山で土砂崩れが起こった。晴れが続いたせいで雪解け水がしみ込んだ斜面が崩落し、大量の雪と土砂が雪崩をうったのである。
三人の男たちは皆揃って猟師であり、狩りの際にはこの山小屋を仮の拠点としていた。そのため心配になって小屋の様子を伺いに来たのであるが、彼らの悪い予想は的中してしまっていた。山小屋は雪崩の被害を受け、ものの見事に倒壊してしまったのである。
一人の男が手袋をした右手でぽりぽりと頭をかいた、その時であった。
「な、何だ!?」
何かの物音が、こちらに近づいてきていた。一瞬、ヒグマが出たのかと思って、三人は音のする方にライフルを向けた。もうヒグマは冬眠の季節であるが、冬眠に失敗した、「穴持たず」と呼ばれる個体がうろついている可能性がある。
秋に十分な餌を採れず冬ごもりに十分な栄養が蓄えられなかったり、あるいは体が大きすぎて隠れるのに適切な場所が見つけられなかったヒグマなどが「穴持たず」となる。このような個体は餌に飢えており、目につく手頃な動物を見つけるとこれ幸いとばかりに襲い掛かる。当然人間も例外ではないため、危険性は非常に高い。男たちの肩はぴりりと強張った。
だが、どうも様子が違う。音のする方に、ヒグマの姿は認められない。その上、音はどう聞いても雪を踏みしめる獣の足音ではなかった。まるで土をかき分けて地中を進むような、そんな音である。ヒグマよりも、もっと恐ろしい相手が近づいてきているのではないか……そんな予感は、その場の三人が揃って抱いていた。
そして、地中から迫りくるモノは、雪と土を跳ね飛ばして地上に姿を現した。
「ば、化け物!」
長い体にたくさんの脚、頭から伸びる二本の触覚……雪のように真っ白な色をしたそれは、見たこともない巨大なムカデであった。
三人の男たちは、まさしく蛇に睨まれた蛙のように足を震わせていた。腕も脚も硬くなって、思うように動いてくれない。チンアナゴのように地面から飛び出している巨大ムカデは、地上に出ている部分だけでも五メートルはゆうに超えるであろう。地面に埋まっている部分を含めれば、これの倍はあるのではないかと思わせる長躯だ。
「死ね! 化け物め!」
男たちは必死に自らを奮い立たせてライフルを構え、三方向からめった撃ちにした。猟師とあって銃の扱いには慣れており、この非常時にあってもしっかりと狙いをつけて発砲することができた。
しかし、相手は巨大ムカデである。ここまでの大きさとなれば、体を覆う外骨格の硬さも相当なものだ。三丁の銃から放たれる弾丸を浴びても、まるで怯む様子がない。
「き、効かねぇ……どうしろってんだ……」
三人の男たちは死を覚悟した。逃げようとしたが、恐怖ですくんだ脚は満足に動いてくれない。鎌首をもたげたムカデの頭は、じっと三人を見下ろしている。その触覚は、男たちの鼻先に触れんばかりの所をゆらゆらしていた。
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真ん中の男は、とうとうムカデに向かって命乞いをした。けれども、そうした悲痛な叫びをかき消すかのように、化け物ムカデの頭部から、真っ白なガス状のものが噴霧された。
身を突き刺すような、酷烈極まる冷気を含んだガスが男たちを覆う。肉体を芯まで凍らせる冷気に包まれながら、三人の男たちの意識は手放され、冷え冷えとした空へと消えていった。
***
山の麓の男性三人が、山小屋の様子を見に行くと言い残して消息を絶った。滑落事故が有力とされ、山小屋の周辺を中心に捜索が続けられたものの、遺体が発見されることのないまま捜索は打ち切られてしまった。
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