梁国復興記——美貌の男子たちが亡き国を復興するまで

武州人也

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最終話 弔い

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 よく晴れた日であった。空は見渡す限りの群青色ぐんじょういろで、暖かな風がそよそよと吹き寄せ、木々の枝葉が細やかに揺すられている。時折、小鳥がさえずりながら、枝の上で跳ねていた。
 小高い山の上に立てられた墓標の前に、田管は佇んでいた。その墓標には、魏遼の名が記されている。その下には、彼の遺骨が眠っているのだ。田管はそこに向かって、静かに手を合わせた。
 田管は、幾度となく戦った好敵手に敬意を表して、彼の遺骨を供養した。魏遼は、遠い西方の民を親に持ち、騎馬民の住む地で過ごしてきたのだという。故に、彼の骨を拾う者は誰もなかったし、故郷の土に葬ることも叶わない。であるから、田管はせめて彼の故郷である夷狄の地や、王敖と共にあった北辺を眺められるよう、この山の上に彼を葬った。
 こうして手を合わせていると、魏遼との戦いの記憶が、ありありと思い出される。銀の三つ編みを揺らしながら戦場を疾駆する、仮面の少年。奇妙な縁から、田管は何度も彼と矢を交わした。彼との戦い、その全てが激しく、苦しいものであった。自分を愛してくれた孟桃も、彼がために命を落としてしまった。本当に、色々なことがあった。
 田管は、左腕を撫でさすった。そこには、彼の剣によってつけられた刀傷の痕が、斜めに大きく走っている。ただでは死なぬぞ、という魏遼の声が、この傷から聞こえてきそうに思えた。彼程の者を討ち取るには、これぐらいの代償は払うべきものなのであろう。今となっては、彼につけられたこの傷さえ、何処か愛おしく感じられる。
 その時、がさり、と、近くの草むらから音がした。よもや獣か、と田管は弓を手に取ってそちらを向いた。
 そこにいたのは、一匹の狼であった。草に隠れて体は見えないが、その顔は間違いなく狼のそれである。襲われてはたまらない、と、田管はすぐに矢を番えた。
 二人、いや、一人と一匹は、暫くじっと睨み合っていた。田管には、鋭い眼光を放つ狼の双眸が、魏遼のそれに見えて仕方がなかった。もしかしたら、死霊となった彼が狼に乗り移ったか、それとも化けて出たのかも知れない。そうして、今一度、自分に再び戦いを挑んできたのか……。
 だが、予想に反して、狼はきびすを返し、静かにその場を立ち去っていった。田管の肩の緊張が緩むと、自分の空想が、えらく馬鹿らしいものに思えた。自分の思考は、どうやらここまで魏遼に毒されていたらしい。
「魏遼……」
 田管は、その名を呟かずにはいられなかった。しかし、田管の口は、次に続く言葉を紡げなかった。

 穏やかな風が、田管の頬を優しく撫でる。魏遼の墓標に止まった小鳥が、北の空へ向かって羽ばたいた――
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