上 下
10 / 25
第一章

結果と名前の書き忘れ

しおりを挟む
 次の日。シルヴァはギルドへと赴いた。昨日の試験の結果を見るために。

「まぁ大丈夫だろうな。逆にこれで不合格だったら俺泣くわ」

 ギルドの依頼書が張り出されている所の横、冒険者関連の台紙には、毎週月曜日9時より掲載と表示されていた。

(え、これ週に一回なん? 昨日出来て良かったわ)

 そこには、冒険者合格者一覧の張り紙の欄の他に、冒険者ランク上昇の張り紙の欄も出されていた。昇格したのではないかと期待の目を向ける冒険者達、いい人材を獲得するために、各クランからのスカウトも首を揃えている。

 受付嬢と同じ衣服を来た少女が、丸めてある巨大な紙を抱えてくる。ギルド内の熱気も、それと比例するかのように上昇する。

「それでは、発表です!」

 よく通る声と共に、紙が開かれる。自分の名前を見つけた冒険者達の感性が渦を巻いた。

「えーっと、俺の名前は……」

 冒険者合格者一覧の紙には、シルヴァと他三名全員の名前が記されていた。そして、四人分の冒険者カードが貼り付けられていた。

「ほぉーん。これが身分証になるんか。なんか嬉しいな。あ、それじゃ換金しましょうか」

 冒険者カードを取り、そのまま受付に向かう。受付には、早速冒険者カードの更新をする人で溢れかえっていた。

「あの、換金をお願いします」
「はい、冒険者カードをご提示ください」

 シルヴァがカードを出す。受付嬢はそのカードを天に凝らし、シルヴァに返した。

「承りました。それでは換金する素材、鉱石をお出し下さい」

 叡黎書アルトワールを広げ、そこから売却素材を決める。単価がよく分からないシルヴァは、適当に売ることにした。

「えーっと、それじゃこれで」

 ダンジョンから退出する時に断られたシルリアの原石三個、犠牲の墳主サクリファイスの眼球と皮膜を取り出した。

犠牲の墳主サクリファイスですか。鉄級冒険者にしてはかなり凄いですね」
「あぁ。まぁ冒険者になる前に仕留めたやつだけどな」
「確定しました。〆て76マーズですね」
「ありがとう」
「あの、ギルドにお金を預けませんか?冒険者カードはキャッシュ機能を備えておりますので、提携店での使用が可能です」
「へぇ。提携店ってのはどれくらいあるの?」
「この都市の全ての店はギルドと提示を結んでおります」
「じゃあ全ての店で使えるってことか。それじゃあ、50マーズ預けます」
「ありがとうございます。50マーズ、確かに確認しました」

 文無しから脱却したシルヴァは、顔が少し緩んだ。やはりお金があるのは嬉しい。

「さてと……シャルロッテから借りたのは7マーズだったな。正午まで時間あるしどうしようか……」

 顎にてを当てるシルヴァ。その時、シルヴァは知っている顔を見つけた。

「よし! やっぱ受かってる!」
「合格なんて当たり前でしょう?ほら、スコアも出てるし」
「誰が一番スコアが高いか競走しよう……ビリは今晩奢り」

 あの少年少女達だ。三人はスコアを皆からやいのやいの言い合っていた。

「へぇ、スコアなんてあるのか。どれどれ」

 シルヴァも気になって紙を見る。自分の名前の隣にスコアが書いてあった。

 «シルヴァ 合格 スコア:筆記25/50|実技42/50|合計67/100»

(え? ちょ、なぜこうなった!? 筆記なんて簡単だっただろうよ!)

 驚愕を隠せなかった。赤子の手を捻るかのように解いた問題がたったの25点ということの納得がいかなかった。

(なんであいつらは出来てるのに俺は出来てない! どこがどう違うのか教えて欲しいくらいだわ!)

 シルヴァは一つ下に明記されている、アルのスコアを見る。

 «アル 合格 スコア:筆記48/50|実技47/50|合計95/100»

(おっかしいだろーよ! なんで筆記がこんなに低いんだよ! これは聞いてみるしかないか)

 シルヴァがギルドの受付嬢に向かって歩き出す。そして、机を殴り、言った。

「試験監督はどこにいる」
「ひ、ひゃい!」

 シルヴァに睨まれた受付嬢は蛙のようであった。直ぐに裏へ引っ込み、何やら話し込んでいる。

「つ、連れてきました」
「なんだ? 何か不備でもあったのか?」
「いやそうじゃなくてですね! なんで筆記があそこまで点が低いのですか?」
「あぁ、それはだな……」

 監督が口篭る。

「名前が書かれていなかったんだ。本来0点なんだが、温情で半分だけ点を付けてやることにした」
「えっ?名前……?あっ」

 そう。筆記具のゴタゴタで名前を書くのを忘れてしまっていたのだ。

「本来君は満点だったのだが、名前を書いていないことにはな。感謝の一つでも欲しいくらいだ」
「あ、ありがとうございます……」
「うむ。じゃあ私はこれで失礼させて貰う」

 とぼとぼと歩くシルヴァは、そのまま紙の前まで歩いてきた。自身の25点の文字をなぞり、はぁ、とため息を付いた。

 そのシルヴァのため息を、必死な声がかき消した。

「あの、新人さんですか?」
「そうですが」
「ウチのクランに来ません?鉄級冒険者から金級冒険者まで総勢26名でやってます。先週合格した方もいるので安心ですよ」
「あっ、いやいや、そんなとこよりウチのクランはどうですか?クラン長はミスリル級冒険者ですよ」
「いえ、是非ウチのクランに!ウチに入っていただけるのであれば、初めの一ヶ月のダンジョンの入退出料はクランが負担します!」
「えー、でも私達は……」

 クランの勧誘だ。だが、それはシルヴァへの勧誘ではない。少年少女達への勧誘だった。

「あなた達みたいな優秀な人材を他のクランで埋もれさせる訳には行きません! ぜひ私達と共に歩みましょう!」
「いやいや私のクランの方がいいですよ~」
「是非私のクランへ!」

 熱烈な勧誘を受ける少年少女達を他所に、シルヴァは人混みから離れた。当然といえば当然なのかもしれないが、シルヴァに勧誘はこない。簡単な筆記を半分しか取れない程度の知識しかない冒険者は、足でまといに他ならないのだ。

 その時、ギルドの中がざわついた。

「お……おい、あれ紅蓮の大狼だよな。遠征から帰ってきたのか?」
「あぁ……セイレーンの討伐任務が終わったんだろう。ほら、あれ」
「ほんとだ。セイレーンの首までひっさげてやがる。さすが四大クランは違うなぁ……」

 そのまま、紅蓮の大狼のメンバー達はギルドを進み、専属の受付嬢の元で討伐完了の手続きをした。すると、そこの中から兎耳の少女が一人、冒険者ランク上昇の紙を見るために歩いてきた。

「へぇ……私はまだオリハルコンのままかぁ……」

 そのまま、隣の紙に目をやる。

「ほうほう、いや~、懐かしいねぇ。私もこの頃があったなぁ。……ん? どうやら逸材が紛れ込んでるみたいだね」

 少年少女達の目が輝いた。そして、アルがさりげなく咳払いをし、自分の存在をアピールする。

「ん~……この子欲しいなぁ。ねぇ君!」

 声をかけられたのはアル。憧れの四大クランからの勧誘に、アルはにやけるのを抑えられないようだ。

 だが、アルにかけられた言葉は、屈辱と言えるものだった。

「君の名前は? さっきから熱心にここ見てたけど」
「はい!俺はアルっていいます! ほら、ここの95点が俺です!」
「なんだ違うか」

 バッサリと切り捨てられたアル。自分がこの中で一番の成績だ。自分以上の成績の人はいない。

「そ、そんな訳ないですよね? この中で一番得点が高いのは俺なんですから」
「自意識過剰も大概にしなよ。ねぇ、それよりこのシルヴァって子知らない?」
「シルヴァ……だと?」

 シルヴァは、今回合格者の中で一番最低スコアだ。そんな歯牙にかける必要すらない雑魚を、四大クランが気にかける方がおかしかった。

 その様子を見ていたシルヴァは、まだシャルロッテとの約束の時間までかなりあるので、お呼ばれというのなら自分から出てみようと思った。

「あの……シルヴァは俺ですけど」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】悪役令嬢の断罪現場に居合わせた私が巻き込まれた悲劇

藍生蕗
ファンタジー
悪役令嬢と揶揄される公爵令嬢フィラデラが公の場で断罪……されている。 トリアは会場の端でその様を傍観していたが、何故か急に自分の名前が出てきた事に動揺し、思わず返事をしてしまう。 会場が注目する中、聞かれる事に答える度に場の空気は悪くなって行って……

処理中です...