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第53話.麦茶とコップ

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自分の部屋にりえがいる。

ちょっと気恥ずかしいような、そんな感じがする。そういえば僕以外の誰かを部屋に入れたのはいつ以来だろう。姉ちゃんが最初に僕にご飯を作ってくれた日以来な気がする。

りえは待っている間、僕の部屋を勝手にいろいろ物色する・・・・・・ようなことはせず、おおよそ真ん中付近にチョコンと座っていた。

「男の子の部屋って意外と片付いてるんだね」

ベッドや机の上をチラチラ横目で見ながらそう言われた。いわゆる目のやり場に困る、というやつだろうか。

僕の部屋は片付いている、というよりはただ物がないだけで散らかりようがないと言った方が当てはまる。裕介の家にあるようなゲームもないし本やCDも持ってない。あるのは勉強机とテーブル、あとは教科書を立てるために買った本棚くらいで、女の子が喜ぶようなぬいぐるみや暇つぶしに読む漫画なんかは一切ない。

「ごめんね、あんまり面白いものもなくって」
「私の部屋も似たようなもんだしむしろ親近感わくよ」
「そう言ってもらえると助かる」

さあこの何もない部屋でどうやってりえを楽しませようか。普段使わなくて錆びついてしまった脳みそを“りえ”という潤滑油で無理やり動かす。

しかしどれだけ目まぐるしく脳みそをフル回転させても何も思い浮かばない。そりゃそうだ、そもそも僕の部屋じゃ素材が少なすぎる。

どうしようか悩んでいるとりえが口を開いた。

「男の子の部屋って、もっと緊張すると思ってた」
「そう?」
「幸一くんは私の部屋に来た時は緊張しなかったの?」

言われてみると少し緊張していた気もする。でもあの時は香山先生も一緒だったし「そこまでしなかったと思う」 それよりも今まで数度顔を合わせていた相手が実はクラスメイトだったという動揺の方が大きかったと思う。

「普通の男女が2人で同じ部屋に入ったらどういうことするのかな?」

唐突にりえの口から出たその言葉の意味が少し理解できなかった。

数瞬後にりえが言おうとしてることが分かった気がしたが僕はすぐにその考えを振りほどき「ゲームとかじゃないかな」 とあえて的外れなことを言ってのけた。

しばらく沈黙が続く、最近沈黙が嫌いになった。たまらず「飲み物取ってくるね」 と言いその場を立った。

このところ雨が降らないせいかものすごく暑く感じる。冷蔵庫に冷やしてある麦茶を2つのコップに注いで部屋に戻った。

「私ね、男の人が怖い」

注いできた麦茶を一口飲むとりえがそう言ってきた。ちょっと重い雰囲気に、僕は? と思いつつも「うん」 と返した。

「お父さんのせいかな、男の人って野蛮で暴力的で女の体が目当てで・・・・ってイメージがあるの」
「それは・・・・」

そこで言葉に詰まった。それは間違いだ、とも間違いじゃない、とも言えない。そういう男も実際いるだろうし、紳士で優しくて体目当てじゃない男だっているだろう。

頭ではそう思っていてもなぜか言葉にはできなかった。りえの、今までの人生を考えると僕なんかがそんな人生分かってますよ顔で軽いことを言ってはいけないような気がする。
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