もし、僕が、私が、あの日、あの時、あの場所で

伊能こし餡

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????の場合

スカーレット・カッパ・ヴィルギニス

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  あかねさす紫野行き、と額田王ぬかたのおおきみんだ時に思い浮かべたのは、きっとこんな綺麗な茜の空だったに違いない。今私がこの歌を詠めば彼はどう返すだろうか? 高校の頃から博識だった彼のことだから、紫草むらさきのにほへるいもを、と返してくれるだろうか、それともねて黙り込んでしまうだろうか。そんな想像をしてしまうくらい綺麗な夕焼けに胸が締め付けられる。

  あの後私たちの母校周辺を適当に散歩して、いつもの喫茶店でマロニエの並木を見ながら思い出を語り合って、夕焼けが反射する茜の海辺へと来ていた。

  当時もここに来たんだったっけ?

  あまり覚えていない。もしかしたら私の言動に当時と小さな差異があって少しだけ運命が変わったのかもしれない。
  なるべく、当時と同じように振る舞ったつもりだったが・・・・・・。

  昼は暖かかったとは言え、宵の時間になると流石に冷える。昼間とは違い、私はカーディガンを、彼はジャンパーをそれぞれ羽織っていた。まだ夜風になりきれてない渇いた風が頬を撫でて行く、彼が寒そうに肩を丸めた。その仕草一つ一つが愛おしくてたまらない。

夕陽ゆうひって、赤いよね」

  ねえ、なんで夕陽が赤いのか、君は知ってる? 太陽が発してるたくさんの光の中でも、赤が一番遠くまで届くからなんだって。それってまるで君みたいじゃない? 死んでからも私を縛り付ける鎖。別に悪い意味じゃないよ、あなたに縛られて生きて、私は幸せだったよ。

  私は知ってた。あなたが私に抱いていた想いを。

  私は知ってた。あなたが私の前からいなくなった理由わけを。

  でも、残念だったね。君の思惑おもわく通りにはいかなかったよ。君と離れてからも私は君に縛られてたし、君もきっと私に縛られてたんでしょ? 一生お互いを苦しめて・・・・・・・そんな生き方嫌でしょ?

  私たちは傷つけ合うために生まれてきたんじゃないって、私が証明してみせるよ。

「ね、鷹斗くん、あそこまで歩こうよ」

  そう言ってテトラポッドのさきを指差した。昔の記憶が定かではないけど、ロマンチックな雰囲気が大好きな私はきっとこんなことを言うはずだ。あの先まで歩いたら、当時の自分をなぞるのはもうやめよう。君への想いを、包み隠さず全て話そう。

  君は戸惑うかな。戸惑うよね。別の人と結婚するはずの人間がいきなり告白してきて戸惑わない人なんていないよね。でもそれが私の後悔だから・・・・・・。それを晴らさないっていう選択肢は私にはないんだよ。

  私はやっぱり、あなたと生きてみたかった。
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