もし、僕が、私が、あの日、あの時、あの場所で

伊能こし餡

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  あの人は私を映す鏡だ。私が笑えば笑い、私が悲しそうにすれば悲しそうにする。だから彼の前では私は楽しそうな明るいキャラを演じていた。だって私は、彼が楽しそうに笑うところが大好きだったから。

  出逢いは高校一年生だった。めでたいはずの入学式の日に、一人でうつむく彼をからかってやりたかった。

  そうして、最初に声をかけたのは私。その日のうちに名前を覚えて、次の日の登校中に声をかけた。思えばあの時から彼のことを少し好きだったのかもしれない。だからもっと彼のことを知りたかったし、そのために私は自分のことを彼にたくさん話した。最初はぎこちない関係だったけど、彼が心を開いてからは早かった。

  私と仲良くなってからも彼の俯く癖は直らなかったけどね。すぐ下を見るから目の前にこんな良い女がいても見過ごすんだよ。もったいないなぁ、もう。

  いつだったかな? いつかを境に彼はよく笑うようになった。何故なのかは思い出せないし、もしかしたら当時の私も知らなかったかもしれない。でもその笑顔は、なんだか泣いてるようにも見えた。

  他人と一定の距離を置いて、他人をどこかで見下していて、でも他人を敬う心を忘れないでいる彼が他の人間と目線を合わせて笑って足並みをそろえて歩くようになった。彼はクラスに溶け込めるようになったけれど、私は知ってる人間が居なくなったようで寂しかった。

  きっとあれは彼が社会で生き抜くための策だったのだろうと、人生経験を重ねた今ならそう思える。

  彼は、あの時から一人で生きていく覚悟が出来ていたのだ。
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