もし、僕が、私が、あの日、あの時、あの場所で

伊能こし餡

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私の場合

造られた

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  そうして母と抱き合って、その男も消えた。最後まで泣きながら、お互いを呼び合いながら消えた。

  泣くというのはどういう感情なのだろうか。泣いたことがない私には想像もつかない。私はただここで死人しびとを見送るだけ。

  と言っても私はただ<導く> だけだ。

  ここにくる人間はみな後悔に満ちている。

  そもそも、後悔に満ちていない人間などいない。なぜかって私は人間の後悔の念が膨れ上がって造られた存在だからだ。

  しかし後悔を後悔と思わず、強がって生きる人間もいる。そういう人間ほど最後は私に泣いて礼を言うものだ。

  だが『泣く』 というのはどういうことなのだろう。あの人間たちは嬉しくて泣いてるのか、悲しくて泣いているのだろうか、それとももっと別の感情で泣いているのだろうか。

  いやはや、興味深い。

  人が私を造ってから、もうどれほどの時間が経つだろう。その果てしない時の中で、これほど興味深いと思ったことは今までない。

  それもきっと、さっきの親子のせいだろう。

  自分に向けられた涙ではなく、心から愛する人に向けた涙は今まで見た中でずっとずっと興味をそそられた。

  さて、また景色が変わる。今度は学生が過ごしている教室とかいうやつの景色になった。私はかなりの頻度でこの景色を見ている。それだけ学生時代の後悔が一生続くのか。

  今度の相手は女性のようだ。その人間の意識がここにくれば、私にはその人間の一生が手に取るように分かる。

  今回は・・・・・・なるほど、恋愛についての後悔か。腐るほど溢れかえってる話だ。

  その人間の意識がしっかりし始めて、段々と体が形作られていくのを見ながら内心ガッカリした。こんなありふれた『後悔』 ではきっと私の満足がいくものは見れないだろう。

  人間の形が出来上がるのを待ってから声をかけた。

「こんにちは、初めまして。あなた、自分の人生に後悔はありませんか?」
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