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山本勇の場合
始まり
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「おぉ、懐かしい」
眼前に広がるのは俺が幼少の頃に過ごしていた山の中の集落。藁葺き屋根の家々と、山の斜面に沿うようにつくられた棚田がなんとも美しい。今の日本ではこういう風景はなかなか見れない。
<これが天国というやつか>
そう心の底で感じ取って、思いっきり深呼吸する。ついさっきまで体に着いていた俺を延命させるためのたくさんの管が取れて、本当の意味でスッキリした。
しかし、ここは懐かしい。てっきり天国というやつはもっと豪華で色んな人がいるものだとばっかり思っていたが、今のところ、ここにいるのは俺だけのようだ。こんな素朴な場所を天国だと思えるのは俺みたいな変人しかいないんだろうか?
「どうやら、気に入ってもらえたみたいですね」
突然、俺の目の前にいかにも堅苦しそうな背広姿の男が現れた。口ぶりからするに、この、俺より少し背が高い平凡な男が神様なのか?
「ここは、あなたが小さい頃に過ごした小さな集落です。実に懐かしいでしょう?」
「そがんよ、おおきにな」
ずっと過ごしてきた地域の方言が無意識に飛び出す。
「しかし、ここは天国ではありませんよ」
「そがんな? そしたら早よう天国さんへと連れてってください。そいじゃなかったら、俺は天国に行けんとですか?」
「いえいえ、そういうわけではありません。ただ、これまでの人生でなにか、やり残したことはありませんか?」
やり残した、こと?
「なんば言いよっとです? 俺はしっかり寿命まで生きて、子宝にも恵まれて、最期は子供と孫たちに看取られながら死にました。これ以上、なんばすれば良かとです?」
そう言うと男はニッコリ微笑んで俺の足先から頭のてっぺんまで視線を動かして手を胸の前で叩いた。
「それは、あなたが一番知ってますよ」
それと同時に、俺の体がボヤッと光り始めた。
「頑張ってくださいね、山本勇さん」
眼前に広がるのは俺が幼少の頃に過ごしていた山の中の集落。藁葺き屋根の家々と、山の斜面に沿うようにつくられた棚田がなんとも美しい。今の日本ではこういう風景はなかなか見れない。
<これが天国というやつか>
そう心の底で感じ取って、思いっきり深呼吸する。ついさっきまで体に着いていた俺を延命させるためのたくさんの管が取れて、本当の意味でスッキリした。
しかし、ここは懐かしい。てっきり天国というやつはもっと豪華で色んな人がいるものだとばっかり思っていたが、今のところ、ここにいるのは俺だけのようだ。こんな素朴な場所を天国だと思えるのは俺みたいな変人しかいないんだろうか?
「どうやら、気に入ってもらえたみたいですね」
突然、俺の目の前にいかにも堅苦しそうな背広姿の男が現れた。口ぶりからするに、この、俺より少し背が高い平凡な男が神様なのか?
「ここは、あなたが小さい頃に過ごした小さな集落です。実に懐かしいでしょう?」
「そがんよ、おおきにな」
ずっと過ごしてきた地域の方言が無意識に飛び出す。
「しかし、ここは天国ではありませんよ」
「そがんな? そしたら早よう天国さんへと連れてってください。そいじゃなかったら、俺は天国に行けんとですか?」
「いえいえ、そういうわけではありません。ただ、これまでの人生でなにか、やり残したことはありませんか?」
やり残した、こと?
「なんば言いよっとです? 俺はしっかり寿命まで生きて、子宝にも恵まれて、最期は子供と孫たちに看取られながら死にました。これ以上、なんばすれば良かとです?」
そう言うと男はニッコリ微笑んで俺の足先から頭のてっぺんまで視線を動かして手を胸の前で叩いた。
「それは、あなたが一番知ってますよ」
それと同時に、俺の体がボヤッと光り始めた。
「頑張ってくださいね、山本勇さん」
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