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第三章 女の涙
仲村まどか②
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春が出逢いの季節だと言うのなら秋は何の季節だろう?
食欲の秋? スポーツの秋? 読書の秋? 実りの秋? 芸術の秋? 読書の秋?勉強の秋?
これだけ沢山の『◯◯の秋』という言葉が存在するのは、きっと秋の気候が何をするにも適しているからで、でないとこんなに沢山の秋が存在するはずがない。
するはずがないのだが・・・・・・。
今は九月。暦上では秋のはずだ。なのになんだこの残暑の厳しさは、太陽が僕を殺しに来ているとしか思えない。
おかげで季節外れの夏風邪を引いた。熱はそこまで高くないがとにかく体が怠い。ゴールデンウィークの時と言い、こんなに体が弱かったかと自分を疑ってしまう。
しかも、よりにもよって今日は実行委員の定例会の日だ。うちのクラスは僕がいなくて大丈夫だろうか。
休みの日ってのは暇だなあ。暇が一番嫌いだ。何もしないこの時間が最高に憎たらしい。
暇つぶしに部屋から出て家の中をぐるりと一周回ってみる。まずは階段を降りてすぐ右手にある居間に入って、押入れの中に何か食べ物はないかと物色してみるが、残念なことに薬の箱や、あと二ヶ月後には活躍しているであろうコタツ布団だけが寂しく保管されているだけだった。
次に居間を出てまた右に進む。浅尾家のキッチンがあるが、そのまま食べれそうなものは置いていない。野菜や半分だけ残った肉のパックはあるが、軽く何か作る気力も今はない。
その後も座敷や両親の寝室などを適当にブラッとしてみたが目ぼしいものはなく、期待もしていなかったので特に落胆もせず自室へと戻った。
ベッドに寝転んで、窓から差し込む夕日を受けてオレンジ色に染まったアナログの壁掛け時計を見る。
午後四時半過ぎか・・・・・・。恐らく丁度実行委員が終わったくらいだろう。今日はどういう話し合いだったのだろうか。
うちのクラスは結局喫茶店をやることになった。クラスの半分程からは劇をやりたいなどと声が上がったが、当日のステージは演劇部や吹奏楽部などの文化部と二年四組のダンス、一年一組の劇で埋まってしまっていたため、決めるのが遅くなったうちのクラスはやむなく教室での出し物に変更になった。
まあ、喫茶店なら劇と違って配役による諍いなんかも起こりづらいし、妥当なところに落ち着いたと思う。大がかりなセットの手配なんかもしなくていいし、面倒ごとが減って万々歳だ。
不意に携帯がピローンと音を立てた。
誰だ? 船井か? 田中か? まさか美麗?
しかし画面に表示された名前は僕の予想とは違って、最近仲良くなったばかりの一つ年下の女の子だった。
仲村>大丈夫ですか? 今日の定例会は各クラスの進捗状況を確認するだけでそれほど重要なものではなかったので欠席でも特に問題はありませんでした。早く良くなってください。心配です。
「はは、心配性だな、まったく」
仲村さんとはあの後、数度学校で言葉を交わすうちに仲良くなった。最初は真面目くさっただけ面白くない子という印象だったが、話してみると案外そうでもない。コンビニでアルバイトをしているということもあるのか、意外とユーモアがあって話していて楽しい。
浅尾>大丈夫だよ、もう熱も下がったし明日は普通に行けそう。心配かけてごめんね
仲村>それを聞いて安心しました。また学校で会いましょう。
「・・・・・・真面目過ぎるんだよなあ」
真面目で責任感も強く、成績も上々らしい。まあ、一年から生徒会に入る人間なんて案外そんなものだよな。
明日からの学校に備えて今日はゆっくりしてよう。まだ若干体も怠いし、寝て時間を潰そう。
◇◇
「私、人を好きになったことないんですよね」
それはあまりに突然で、あまりに自然な告白だった。
いつものように学校が終わって、僕はすぐに教室を出た。今日は船井と田中が委員会の話し合いで遅くなるからと、たまたま僕一人で帰ろうとしていた時だった。
いつも通り玄関まで来て、いつも通り上履きからローファーに履き替えて、いつも通り外に出ると、少し急ぎ気味の仲村さんと目が合った。
「今日アルバイトは?」 と声をかけると「今日は休みです」 と短い返事が返ってきて、次はどう話題を振ろうかと悩んでいたところに突然その告白を受けたのだから驚く暇もなかった。
「へ、へえ。今まで仲村さんのお眼鏡に叶う相手はいなかったんだね」
「そうですね、なんか同じ世代くらいの男の子ってみんな恋愛の話ばっかりで子供に見えちゃうんですよね。人を好きになるのがそんなに素敵なことなのかと思っちゃいます」
ああ・・・・・・。僕と少なからず理由は違うが、確かに僕と同じような感覚でこの子は生きているんだ。
ここで「僕も同じだよ」 なんて言ってしまえば楽になれるのだろうか。
「浅尾先輩はどう思います? 人を好きになるってそんなに良いものなんですか?」
「え? う、うーん、そうだなあ」
僕が誰かを好きになったことあるの前提か、いやまあそりゃそうか、高二にもなって好きな人がいない方がおかしいはずだ。
この際言ってしまおうか、「僕も人を好きな気持ちが分からない」 と。
「なーんて、ちょっと意地悪な質問でしたね。そんなの明確な答えを持ってる人なんてなかなかいませんよね」
そう言って彼女は右手を口に当ててクスクスと笑った。
僕も仲村さんにつられて変な告白をしてしまうところだった。危ない危ない。
「あ‼︎ もうこんな時間・・・・・・私、今日は用事があるので失礼します」
ペコリと頭を下げて、早歩きで駅の方へと行ってしまった。用事があるのは仕方ない。仕方ないしこれ以上さっきの話を続けられるのもそれはそれで面倒だ。
僕ももう帰ろう。仲村さんが歩いて行ったのとは逆方向のバス停に向けて歩き始めた時、背中越しに聞き慣れた声が聞こえた。
「さっきの誰?」
最悪だ・・・・・・。中学の頃から数え切れないほど聞いた声。
星川美麗だ・・・・・・。振り向かずとも、声の主が美麗であることはすぐに分かった。
無視するわけにもいかず、ゆっくりと振り向いた。
◇◇
「蓮が女子と一緒にいるなんて珍しいじゃん」
「久しぶり、美麗。と・・・・・・?」
振り向いた先には予想通りの星川美麗、そして予想外の男子生徒が一人。
「あれ? 蓮は初めてだっけ? 彼氏」
僕が疑いの目で見ていたからだろう。こちらから聞く前に美麗から紹介された。
「どうも、平田空です。さっきのまどかちゃんスよね? 同じクラスなんすよ」
同じクラス、ということは一年生か。前に美麗が一年と付き合い始めたって噂を聞いたしこの子がそうかな? 美麗にしてはまあまあ続いてるな。
「へえー、見慣れないと思ったら一年生だったんだ。蓮にもとうとう春が来たんだねえ」
「え⁉︎ 浅尾先輩彼女いないんスか?」
いないよ。いて何になる。というかなぜ僕のことを知ってるんだ。
「そうなんだよー。蓮って理想高いからさ」
「別にそういうわけじゃないよ」
「浅尾先輩って一年からも結構人気ですけどねー。まあ星川先輩ほどじゃないですけど」
「仲村さんってどんな子なの?」
平田くん、と言ったっけか。彼の話が終わるや否や、美麗が話を遮った。それに圧倒されたのか平田くんがたじろぐが、それも構わず美麗は平田くんをジッと見つめる。
可哀想に・・・・・・。あの目に見つめられるとなんとなく嘘がつけなくなる。きっとその感覚は僕だけじゃないはずだ。
「えーっと・・・・・・。なんか空気読めないんスよね、津賀美町から来てるのまどかちゃんだけだし友達も少ないって言うか、なんかみんな近寄りがたい感じに思ってます」
なるほど、空気が読めないのはちょっと分かるかもしれない。あの時の見るからに気怠そうな僕に声をかけてくるくらいだし、良くも悪くも、いや悪い方の意味で空気は読めなそうだ。
しかしそれを聞いて僕には一つ気にかかることがあった。
「でも生徒会選挙の時に応援演説をした子がいるでしょ? あの子は友達じゃないの?」
本当は応援演説の人間なんて顔はおろか名前も覚えていないが、さっきのやり取りでどうにもそこが引っかかったのでいかにも覚えてます風に疑問を口にした。
「あー、あれっスね、誰も応援演説したがらないんで担任が学級委員長に頼んだんスよ」
・・・・・・聞かなきゃよかった。
そんな悲しい応援演説がこの世にあるなんて・・・・・・。でもまあ、あういうのは大抵の決まり文句が決まってるし、ある程度の賢さがあれば当たり障りのない演説内容を考えることなんて造作もないだろう。
「可哀想な子だね」
美麗はそう言って同情する素振りを見せるが本当のところはどうだろう。
今の仲村さんと似たような状況を美麗は一度経験している。学校に友人と呼べる人間はいなく、頼れる人間も誰もいない状況を彼女は知っている。
「まあ、私には関係ないし、あの子の勝手でしょ」
その状況を彼女は一人でどうにかしてきた。懐かしみこそすれど同情なんてしないだろう。
「それにまどかちゃんには浅尾先輩がいるから俺らが気を遣わなくても大丈夫っしょ」
「別にそういうんじゃないんだけど」
「またまた~、まどかちゃん可愛いっしょ? 浅尾先輩もお目が高いなあ」
「確かに、女の私から見ても可愛いと思うな」
それを君が言うと皮肉にしか聞こえないんだよなあ。
「それじゃあ僕はこれで」
せっかく平田くんが美麗と一緒にいるのに邪魔をしちゃ悪い。早々にこの場を立ち去ることにした。
「浅尾先輩お疲れっス、じゃあ星川先輩、俺らも行きましょうか」
「あ、ごめん私今日用事あるから帰らなきゃ。言ってなかったね」
「え⁉︎ そうなんスか? 初耳っス」
「言ってなかったって言ったじゃん」
「あっ、そうでした・・・・・・」
え、僕も初耳なんだけど。
「でも用事なら仕方ないっスね、残念ですけどまた明日っスね」
この子聞き分け良すぎだろ。付き合ってんだろ? もっと食い下がれよな。
だってさ、この状況からそれぞれ帰るってなったらさ。
「じゃあ蓮、帰るまでエスコートよろしくね」
「浅尾先輩、大事にしてくださいよ!」
こうなるじゃん・・・・・・。
食欲の秋? スポーツの秋? 読書の秋? 実りの秋? 芸術の秋? 読書の秋?勉強の秋?
これだけ沢山の『◯◯の秋』という言葉が存在するのは、きっと秋の気候が何をするにも適しているからで、でないとこんなに沢山の秋が存在するはずがない。
するはずがないのだが・・・・・・。
今は九月。暦上では秋のはずだ。なのになんだこの残暑の厳しさは、太陽が僕を殺しに来ているとしか思えない。
おかげで季節外れの夏風邪を引いた。熱はそこまで高くないがとにかく体が怠い。ゴールデンウィークの時と言い、こんなに体が弱かったかと自分を疑ってしまう。
しかも、よりにもよって今日は実行委員の定例会の日だ。うちのクラスは僕がいなくて大丈夫だろうか。
休みの日ってのは暇だなあ。暇が一番嫌いだ。何もしないこの時間が最高に憎たらしい。
暇つぶしに部屋から出て家の中をぐるりと一周回ってみる。まずは階段を降りてすぐ右手にある居間に入って、押入れの中に何か食べ物はないかと物色してみるが、残念なことに薬の箱や、あと二ヶ月後には活躍しているであろうコタツ布団だけが寂しく保管されているだけだった。
次に居間を出てまた右に進む。浅尾家のキッチンがあるが、そのまま食べれそうなものは置いていない。野菜や半分だけ残った肉のパックはあるが、軽く何か作る気力も今はない。
その後も座敷や両親の寝室などを適当にブラッとしてみたが目ぼしいものはなく、期待もしていなかったので特に落胆もせず自室へと戻った。
ベッドに寝転んで、窓から差し込む夕日を受けてオレンジ色に染まったアナログの壁掛け時計を見る。
午後四時半過ぎか・・・・・・。恐らく丁度実行委員が終わったくらいだろう。今日はどういう話し合いだったのだろうか。
うちのクラスは結局喫茶店をやることになった。クラスの半分程からは劇をやりたいなどと声が上がったが、当日のステージは演劇部や吹奏楽部などの文化部と二年四組のダンス、一年一組の劇で埋まってしまっていたため、決めるのが遅くなったうちのクラスはやむなく教室での出し物に変更になった。
まあ、喫茶店なら劇と違って配役による諍いなんかも起こりづらいし、妥当なところに落ち着いたと思う。大がかりなセットの手配なんかもしなくていいし、面倒ごとが減って万々歳だ。
不意に携帯がピローンと音を立てた。
誰だ? 船井か? 田中か? まさか美麗?
しかし画面に表示された名前は僕の予想とは違って、最近仲良くなったばかりの一つ年下の女の子だった。
仲村>大丈夫ですか? 今日の定例会は各クラスの進捗状況を確認するだけでそれほど重要なものではなかったので欠席でも特に問題はありませんでした。早く良くなってください。心配です。
「はは、心配性だな、まったく」
仲村さんとはあの後、数度学校で言葉を交わすうちに仲良くなった。最初は真面目くさっただけ面白くない子という印象だったが、話してみると案外そうでもない。コンビニでアルバイトをしているということもあるのか、意外とユーモアがあって話していて楽しい。
浅尾>大丈夫だよ、もう熱も下がったし明日は普通に行けそう。心配かけてごめんね
仲村>それを聞いて安心しました。また学校で会いましょう。
「・・・・・・真面目過ぎるんだよなあ」
真面目で責任感も強く、成績も上々らしい。まあ、一年から生徒会に入る人間なんて案外そんなものだよな。
明日からの学校に備えて今日はゆっくりしてよう。まだ若干体も怠いし、寝て時間を潰そう。
◇◇
「私、人を好きになったことないんですよね」
それはあまりに突然で、あまりに自然な告白だった。
いつものように学校が終わって、僕はすぐに教室を出た。今日は船井と田中が委員会の話し合いで遅くなるからと、たまたま僕一人で帰ろうとしていた時だった。
いつも通り玄関まで来て、いつも通り上履きからローファーに履き替えて、いつも通り外に出ると、少し急ぎ気味の仲村さんと目が合った。
「今日アルバイトは?」 と声をかけると「今日は休みです」 と短い返事が返ってきて、次はどう話題を振ろうかと悩んでいたところに突然その告白を受けたのだから驚く暇もなかった。
「へ、へえ。今まで仲村さんのお眼鏡に叶う相手はいなかったんだね」
「そうですね、なんか同じ世代くらいの男の子ってみんな恋愛の話ばっかりで子供に見えちゃうんですよね。人を好きになるのがそんなに素敵なことなのかと思っちゃいます」
ああ・・・・・・。僕と少なからず理由は違うが、確かに僕と同じような感覚でこの子は生きているんだ。
ここで「僕も同じだよ」 なんて言ってしまえば楽になれるのだろうか。
「浅尾先輩はどう思います? 人を好きになるってそんなに良いものなんですか?」
「え? う、うーん、そうだなあ」
僕が誰かを好きになったことあるの前提か、いやまあそりゃそうか、高二にもなって好きな人がいない方がおかしいはずだ。
この際言ってしまおうか、「僕も人を好きな気持ちが分からない」 と。
「なーんて、ちょっと意地悪な質問でしたね。そんなの明確な答えを持ってる人なんてなかなかいませんよね」
そう言って彼女は右手を口に当ててクスクスと笑った。
僕も仲村さんにつられて変な告白をしてしまうところだった。危ない危ない。
「あ‼︎ もうこんな時間・・・・・・私、今日は用事があるので失礼します」
ペコリと頭を下げて、早歩きで駅の方へと行ってしまった。用事があるのは仕方ない。仕方ないしこれ以上さっきの話を続けられるのもそれはそれで面倒だ。
僕ももう帰ろう。仲村さんが歩いて行ったのとは逆方向のバス停に向けて歩き始めた時、背中越しに聞き慣れた声が聞こえた。
「さっきの誰?」
最悪だ・・・・・・。中学の頃から数え切れないほど聞いた声。
星川美麗だ・・・・・・。振り向かずとも、声の主が美麗であることはすぐに分かった。
無視するわけにもいかず、ゆっくりと振り向いた。
◇◇
「蓮が女子と一緒にいるなんて珍しいじゃん」
「久しぶり、美麗。と・・・・・・?」
振り向いた先には予想通りの星川美麗、そして予想外の男子生徒が一人。
「あれ? 蓮は初めてだっけ? 彼氏」
僕が疑いの目で見ていたからだろう。こちらから聞く前に美麗から紹介された。
「どうも、平田空です。さっきのまどかちゃんスよね? 同じクラスなんすよ」
同じクラス、ということは一年生か。前に美麗が一年と付き合い始めたって噂を聞いたしこの子がそうかな? 美麗にしてはまあまあ続いてるな。
「へえー、見慣れないと思ったら一年生だったんだ。蓮にもとうとう春が来たんだねえ」
「え⁉︎ 浅尾先輩彼女いないんスか?」
いないよ。いて何になる。というかなぜ僕のことを知ってるんだ。
「そうなんだよー。蓮って理想高いからさ」
「別にそういうわけじゃないよ」
「浅尾先輩って一年からも結構人気ですけどねー。まあ星川先輩ほどじゃないですけど」
「仲村さんってどんな子なの?」
平田くん、と言ったっけか。彼の話が終わるや否や、美麗が話を遮った。それに圧倒されたのか平田くんがたじろぐが、それも構わず美麗は平田くんをジッと見つめる。
可哀想に・・・・・・。あの目に見つめられるとなんとなく嘘がつけなくなる。きっとその感覚は僕だけじゃないはずだ。
「えーっと・・・・・・。なんか空気読めないんスよね、津賀美町から来てるのまどかちゃんだけだし友達も少ないって言うか、なんかみんな近寄りがたい感じに思ってます」
なるほど、空気が読めないのはちょっと分かるかもしれない。あの時の見るからに気怠そうな僕に声をかけてくるくらいだし、良くも悪くも、いや悪い方の意味で空気は読めなそうだ。
しかしそれを聞いて僕には一つ気にかかることがあった。
「でも生徒会選挙の時に応援演説をした子がいるでしょ? あの子は友達じゃないの?」
本当は応援演説の人間なんて顔はおろか名前も覚えていないが、さっきのやり取りでどうにもそこが引っかかったのでいかにも覚えてます風に疑問を口にした。
「あー、あれっスね、誰も応援演説したがらないんで担任が学級委員長に頼んだんスよ」
・・・・・・聞かなきゃよかった。
そんな悲しい応援演説がこの世にあるなんて・・・・・・。でもまあ、あういうのは大抵の決まり文句が決まってるし、ある程度の賢さがあれば当たり障りのない演説内容を考えることなんて造作もないだろう。
「可哀想な子だね」
美麗はそう言って同情する素振りを見せるが本当のところはどうだろう。
今の仲村さんと似たような状況を美麗は一度経験している。学校に友人と呼べる人間はいなく、頼れる人間も誰もいない状況を彼女は知っている。
「まあ、私には関係ないし、あの子の勝手でしょ」
その状況を彼女は一人でどうにかしてきた。懐かしみこそすれど同情なんてしないだろう。
「それにまどかちゃんには浅尾先輩がいるから俺らが気を遣わなくても大丈夫っしょ」
「別にそういうんじゃないんだけど」
「またまた~、まどかちゃん可愛いっしょ? 浅尾先輩もお目が高いなあ」
「確かに、女の私から見ても可愛いと思うな」
それを君が言うと皮肉にしか聞こえないんだよなあ。
「それじゃあ僕はこれで」
せっかく平田くんが美麗と一緒にいるのに邪魔をしちゃ悪い。早々にこの場を立ち去ることにした。
「浅尾先輩お疲れっス、じゃあ星川先輩、俺らも行きましょうか」
「あ、ごめん私今日用事あるから帰らなきゃ。言ってなかったね」
「え⁉︎ そうなんスか? 初耳っス」
「言ってなかったって言ったじゃん」
「あっ、そうでした・・・・・・」
え、僕も初耳なんだけど。
「でも用事なら仕方ないっスね、残念ですけどまた明日っスね」
この子聞き分け良すぎだろ。付き合ってんだろ? もっと食い下がれよな。
だってさ、この状況からそれぞれ帰るってなったらさ。
「じゃあ蓮、帰るまでエスコートよろしくね」
「浅尾先輩、大事にしてくださいよ!」
こうなるじゃん・・・・・・。
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