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3 奇跡の治癒
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か細い悲鳴が聞こえる。
我が子ルスランが憎き人間に攫われて一年近く経とうとしていた。
散歩に出たまま帰って来ない妻と二歳になったばかりの息子を探し回り、家から少し離れた丘で妻の遺体を見つけた。息子の姿が無く、胸糞悪い人間の残り香から、ルスランが誘拐されたことが分かる。
竜族は同族の絆が強く、生態的にも近親者であれば存在を探索することも出来る。
行方不明になって以来、常に感覚を開いてルスランの存在を探していた。
探し始めて三日目に小さな悲鳴が聞こえた。聞こえたと言っても聴覚で感じたのでは無い。魂、竜玉で感じたのだ。
悲鳴は幼い息子と同じくらい弱く小さい。今居る場所を特定出来る程のはっきりしたものではないが、日々方角や距離を感じ取る事に集中する。
上の息子達三人も探索を続けているが、彼らとルスランでは母親が違うし、私と息子達とではドラグーンとしての年季が違う。
何日か毎に聞こえる声に胸が締め付けられ、自分の不甲斐なさに腹が立つ。我が子一人見つける事ができない。
だが決して諦める事はなかった。
そうして徐々に息子との距離を縮めていく。三百二十五日目にして、ルスランが居る国を突き止めた。やはり人間が治めている土地だ。ここまでくると大体の場所まで分かってくる。その国の王都からはかなり離れた地方。竜体になって夜空から探索する。三人の息子達も一緒だ。息子達と意識を繋いだ状態で手分けして探す。今日は嫌な胸騒ぎがする。急いで見つけなければ。
その時激しい痛みが頭に走り、今までにない大きな悲鳴が響いた。
『たすけて!』
「ルスラン!」
『たすけて、おかあさん』
『たすけて、おとうさん』
『たすけて、にいさん』
ルスランの臭いが分かる位に距離が近い。あの屋敷だ。いや、屋敷を抜け出したな。臭いが風に乗っている。…あの森だ!
わかる。そこに居る。わかるぞ、今行くからな、父がお前を迎えに来たぞ。
ここだ!
「見つけた」
竜族の息子を探すのに暗闇は何の足枷にもならない。ルスランが倒れている場所に降り立つと三人の息子達も同時に集まって来た。
「この醜い人間から血の臭いがする」
ラスカーが鋭い牙を剥き出しに唸る。
「ああ、染みついてやがる」
ギルシュが鬣を逆立てる。
「こいつ、いらない」
エルノアの殺気で気温が下がる。
私も今すぐこの醜く肥え太った人間を八つ裂きにしたいが、ルスランの保護が何より優先事項だ。
人間は竜体に恐れ戦き身動きも出来ずに、お漏らしまでしてしまったらしい。こんな時は自分の嗅覚の良さを呪う。
吐き気を我慢して竜玉を胸から取り出し、ルスランに翳す。私の竜体は赤い色をしていて、人型の時の髪と目も同じだ。そして竜の魂と言われる竜玉も赤い。
赤い光の粒子がルスランの全身を包む。私に治癒能力はないので、今は現状より悪くならないよう竜玉の力で光の内側だけ時間を止めた状態にする。これで私が生きている限り、私の魂の一部に包まれ眠るルスランは安全だ。
「では、裁きといこう」
私の一言に三人の息子達が夜空に向かって咆吼を上げた。
国に戻ってそのまま王城へと向かう。
「宰相殿、困ります!許可なく竜体での登城は禁止されているのはご存じでしょう!?」
竜体での登城は広く開けた場所が必要な為、城の一部に登城場が造られている。
「退け。お前ごときが私に意見できる筈も無い、弁えろ」
竜体のまま一喝すると、騎士は私の竜気に遣られてその場で崩れ落ちた。
息子達をその場に残し、人型に変わってルスランを抱いたまま城内に入り王の居る部屋へ迷う事無く進む。
「数々の規則違反及び無礼に対する処分は後ほど甘んじて受ける決意の元に申し上げる。始祖の瑪瑙を貸して頂きたい」
両開きの扉を勢いよく開け放し言い切った。
正面の執務机に座る国王陛下と斜め向かいに控えていた将軍の目が点になっている。
「どうしたノーヴァ。気でも触れたか?」
ジダン・デラボア将軍は親友の正気を疑っているようだが無視する。
陛下は私の腕の中の存在に気づいて立ち上がった。
「見つけたか。でかした、アクロア」
もう一人の親友の国王陛下がクリスタル製の呼び鈴を鳴らして侍従長を呼び寄せ、
「ルート・アガートを月光の間に用意しろ。人払いをして近衛騎士に室外を警護させ、扉前は団長と副団長を立たせろ。今すぐだ」
侍従長はルート・アガートの名に顔色を変えるも、黙って一礼し退出していった。
「陛下!正気ですか?ルート・アガートは王家所有の国宝ですよ!」
「五月蠅いぞジダン。アクロアの小さき宝物が見つかったのだ。ルート・アガートを貸し出すなど大した事では無い」
スタスタと執務室を出る陛下の後に続く。
「!アクロア、それは!」
ようやく私の腕の中に居るルスランに気づいたデラボアは慌てて後ろから覗き込んでくる。
「見るな。汚れる」
「そんな訳あるか!うわっ、ちっせーなー」
伸ばしてきた人差し指の第一関節を反対方向へ曲げてやる。
「あだだだ!」
「だから五月蠅いと言っているだろう、ジダン!」
陛下に叱られたデラボアは「でも」だの「酷い」だの訴えている。
そんないつもとそう変わらない遣り取りをしている内に目的の部屋にたどり着く。
近衛騎士団の団長と副団長が既に控えている。相変わらずこいつらは何処からどうやって来るのかと思うほどの機動力である。
中に入ると部屋の中央に寝台が用意されおり、天井のガラス窓から月光が差し込んでいる。
「アクロア、息子を寝台へ」
陛下の指示で、ルスランを寝台へ寝かせ、竜玉を枕元に置く。
「……酷いな」
やせ細った体からは禄に食事も与えられていなかった事が分かる。発見した時のまま時間を止めているので、頭と足には大量の出血跡。特に足の傷はぱっくりと割れて内側の肉が見えている。デラボアが息を呑むのも仕方のないことだ。
「こんな小さな子供に……悪魔の所業だ」
ルスランを見つめる陛下の目にも人間に対する苛烈な嫌悪が浮かんでいる。
「陛下、お持ちいたしました」
侍従長が持ってきた斑模様が入った濃紺色の玉。それを陛下が受け取り、玉を掴んだ手の甲を上に向けた状態で、ルスランの腹の上に持ってくる。
「少しでも痛みを与えたくはない。タイミングを合わせろよ、アクロア」
「御意」
陛下のカウントダウンに合わせて私の竜玉を枕元から取り上げる。
同時に陛下がルート・アガートから手を離す。手を離してもルート・アガートは中空に浮いたまま。
月光がルート・アガートを介してルスランに当たる。そこからは奇跡の連続だ。出血は止まり、ぱっくり割れていた傷口はみるみる塞がっていく。髪で見えないが、頭の傷も同じように治癒しているのだろう。打たれて鬱血していた皮膚は本来の肌色に戻っていく。
それでも汚れた布きれや体はそのままなので、侍従長と年配の女性侍従が二人掛かりで服とは呼べない襤褸切れを脱がし、体を清拭する。新しく清潔な下着と寝間着を着せ、最後に髪を優しく梳かしてくれる。
「……有り難う……感謝する」
発見した時の惨い状態からここまで綺麗になった事に心から感謝を述べた。侍従長は陛下が皇太子であった頃から知っている。
「本当にようございましたなぁ…よくぞ生きて、帰られました」
大分年を感じるようになった目尻に光る物を見つけてようやく胸に暖かさを感じ始めた。
「よかった…よかったなぁ」
デラボアは滝のような涙を流している。
「これで命の心配は無い」
陛下のお言葉に深く深く頭を下げる。
「だがアクロアよ」
続く言葉に面を上げる。
「この子は……あまり丈夫ではないのだな?」
「……はい」
ルスランの容姿は母親にそっくりなのだが、健康状態もよく似ていた。二人とも生まれながらに病弱だった。うちにはもう三人も息子がいるので、無理に子供を作らなくても良いと言ったが、妻は私との間の子を強く望んだ。
「私の持てる力全てでこの子を守ると妻に誓ったのです」
「そうか……」
この場に居る者は、私が末息子を奪われ、必死に探し続けていた事を知っている。
「では規則違反と無礼に対する処罰は無かったことにせねば、この子の未来を私が奪ってしまうことになりかねんな」
「いえ陛下、この子の上には三人兄がおります故、私が居ずとも問題ありません。覚悟は出来ております。いかようにも処罰を」
「よし。では明日より一週間の自宅謹慎を言い渡す」
「……陛下、それは罰ではなく、休暇なのでは」
「いやいやいや。お前、自宅謹慎ってことは登城できないんだぜ?てことは息子の様子を一週間も見れないって事だ。この上ない罰だと俺は思うがね」
「それは……」
確かにもう大丈夫とは言え、この子を心配する親心が無くなる訳じゃ無い。
「お前も酷い顔色だ。謹慎後の登城で同じような状態だったら、謹慎期間を伸ばすからな。今日はもう帰って眠れ」
犬を追いやるように片手でシッシッとやられて、月光の間を後にした。
登城場に戻ると、息子三人が人型で苛々していた。
「父上!」
「親父!」
「……」
ぎゃあぎゃあと五月蠅いので(一人無言だが、睨んでくる気配がとてつもなく鬱陶しい)とにかく一度家に戻るよう言い渡す。
家に戻ると居間で城内での事を説明し、自分は謹慎になったので八日後からルスランの様子を確認すると告げる。
「……こんな事になるのなら、さっさと団長にでもなるんだった」
「お前じゃ無理だ、人望が足りない。俺のがまだ望みがあるぜ。つっても俺も今はまだ城内に入り込めねぇからな…糞!」
「……会いたい」
城内でもルスランの居る部屋は官僚であっても入るのに厳重な手続きを必要とする範囲にある。宰相である私は毎日登城し勤務している場所だが。
ラスカーは騎士団三年目、ギルシュも同じく騎士団に入団したが、まだ新人の一年目。エルノアは学生だ。
「今はもう少し我慢しなさい。私も辛いんだ。八日後から毎日メモリークリスタルにルスランの様子を記録してくるから」
我が子ながら中々個性の強い者ばかりで大変だ。
我が子ルスランが憎き人間に攫われて一年近く経とうとしていた。
散歩に出たまま帰って来ない妻と二歳になったばかりの息子を探し回り、家から少し離れた丘で妻の遺体を見つけた。息子の姿が無く、胸糞悪い人間の残り香から、ルスランが誘拐されたことが分かる。
竜族は同族の絆が強く、生態的にも近親者であれば存在を探索することも出来る。
行方不明になって以来、常に感覚を開いてルスランの存在を探していた。
探し始めて三日目に小さな悲鳴が聞こえた。聞こえたと言っても聴覚で感じたのでは無い。魂、竜玉で感じたのだ。
悲鳴は幼い息子と同じくらい弱く小さい。今居る場所を特定出来る程のはっきりしたものではないが、日々方角や距離を感じ取る事に集中する。
上の息子達三人も探索を続けているが、彼らとルスランでは母親が違うし、私と息子達とではドラグーンとしての年季が違う。
何日か毎に聞こえる声に胸が締め付けられ、自分の不甲斐なさに腹が立つ。我が子一人見つける事ができない。
だが決して諦める事はなかった。
そうして徐々に息子との距離を縮めていく。三百二十五日目にして、ルスランが居る国を突き止めた。やはり人間が治めている土地だ。ここまでくると大体の場所まで分かってくる。その国の王都からはかなり離れた地方。竜体になって夜空から探索する。三人の息子達も一緒だ。息子達と意識を繋いだ状態で手分けして探す。今日は嫌な胸騒ぎがする。急いで見つけなければ。
その時激しい痛みが頭に走り、今までにない大きな悲鳴が響いた。
『たすけて!』
「ルスラン!」
『たすけて、おかあさん』
『たすけて、おとうさん』
『たすけて、にいさん』
ルスランの臭いが分かる位に距離が近い。あの屋敷だ。いや、屋敷を抜け出したな。臭いが風に乗っている。…あの森だ!
わかる。そこに居る。わかるぞ、今行くからな、父がお前を迎えに来たぞ。
ここだ!
「見つけた」
竜族の息子を探すのに暗闇は何の足枷にもならない。ルスランが倒れている場所に降り立つと三人の息子達も同時に集まって来た。
「この醜い人間から血の臭いがする」
ラスカーが鋭い牙を剥き出しに唸る。
「ああ、染みついてやがる」
ギルシュが鬣を逆立てる。
「こいつ、いらない」
エルノアの殺気で気温が下がる。
私も今すぐこの醜く肥え太った人間を八つ裂きにしたいが、ルスランの保護が何より優先事項だ。
人間は竜体に恐れ戦き身動きも出来ずに、お漏らしまでしてしまったらしい。こんな時は自分の嗅覚の良さを呪う。
吐き気を我慢して竜玉を胸から取り出し、ルスランに翳す。私の竜体は赤い色をしていて、人型の時の髪と目も同じだ。そして竜の魂と言われる竜玉も赤い。
赤い光の粒子がルスランの全身を包む。私に治癒能力はないので、今は現状より悪くならないよう竜玉の力で光の内側だけ時間を止めた状態にする。これで私が生きている限り、私の魂の一部に包まれ眠るルスランは安全だ。
「では、裁きといこう」
私の一言に三人の息子達が夜空に向かって咆吼を上げた。
国に戻ってそのまま王城へと向かう。
「宰相殿、困ります!許可なく竜体での登城は禁止されているのはご存じでしょう!?」
竜体での登城は広く開けた場所が必要な為、城の一部に登城場が造られている。
「退け。お前ごときが私に意見できる筈も無い、弁えろ」
竜体のまま一喝すると、騎士は私の竜気に遣られてその場で崩れ落ちた。
息子達をその場に残し、人型に変わってルスランを抱いたまま城内に入り王の居る部屋へ迷う事無く進む。
「数々の規則違反及び無礼に対する処分は後ほど甘んじて受ける決意の元に申し上げる。始祖の瑪瑙を貸して頂きたい」
両開きの扉を勢いよく開け放し言い切った。
正面の執務机に座る国王陛下と斜め向かいに控えていた将軍の目が点になっている。
「どうしたノーヴァ。気でも触れたか?」
ジダン・デラボア将軍は親友の正気を疑っているようだが無視する。
陛下は私の腕の中の存在に気づいて立ち上がった。
「見つけたか。でかした、アクロア」
もう一人の親友の国王陛下がクリスタル製の呼び鈴を鳴らして侍従長を呼び寄せ、
「ルート・アガートを月光の間に用意しろ。人払いをして近衛騎士に室外を警護させ、扉前は団長と副団長を立たせろ。今すぐだ」
侍従長はルート・アガートの名に顔色を変えるも、黙って一礼し退出していった。
「陛下!正気ですか?ルート・アガートは王家所有の国宝ですよ!」
「五月蠅いぞジダン。アクロアの小さき宝物が見つかったのだ。ルート・アガートを貸し出すなど大した事では無い」
スタスタと執務室を出る陛下の後に続く。
「!アクロア、それは!」
ようやく私の腕の中に居るルスランに気づいたデラボアは慌てて後ろから覗き込んでくる。
「見るな。汚れる」
「そんな訳あるか!うわっ、ちっせーなー」
伸ばしてきた人差し指の第一関節を反対方向へ曲げてやる。
「あだだだ!」
「だから五月蠅いと言っているだろう、ジダン!」
陛下に叱られたデラボアは「でも」だの「酷い」だの訴えている。
そんないつもとそう変わらない遣り取りをしている内に目的の部屋にたどり着く。
近衛騎士団の団長と副団長が既に控えている。相変わらずこいつらは何処からどうやって来るのかと思うほどの機動力である。
中に入ると部屋の中央に寝台が用意されおり、天井のガラス窓から月光が差し込んでいる。
「アクロア、息子を寝台へ」
陛下の指示で、ルスランを寝台へ寝かせ、竜玉を枕元に置く。
「……酷いな」
やせ細った体からは禄に食事も与えられていなかった事が分かる。発見した時のまま時間を止めているので、頭と足には大量の出血跡。特に足の傷はぱっくりと割れて内側の肉が見えている。デラボアが息を呑むのも仕方のないことだ。
「こんな小さな子供に……悪魔の所業だ」
ルスランを見つめる陛下の目にも人間に対する苛烈な嫌悪が浮かんでいる。
「陛下、お持ちいたしました」
侍従長が持ってきた斑模様が入った濃紺色の玉。それを陛下が受け取り、玉を掴んだ手の甲を上に向けた状態で、ルスランの腹の上に持ってくる。
「少しでも痛みを与えたくはない。タイミングを合わせろよ、アクロア」
「御意」
陛下のカウントダウンに合わせて私の竜玉を枕元から取り上げる。
同時に陛下がルート・アガートから手を離す。手を離してもルート・アガートは中空に浮いたまま。
月光がルート・アガートを介してルスランに当たる。そこからは奇跡の連続だ。出血は止まり、ぱっくり割れていた傷口はみるみる塞がっていく。髪で見えないが、頭の傷も同じように治癒しているのだろう。打たれて鬱血していた皮膚は本来の肌色に戻っていく。
それでも汚れた布きれや体はそのままなので、侍従長と年配の女性侍従が二人掛かりで服とは呼べない襤褸切れを脱がし、体を清拭する。新しく清潔な下着と寝間着を着せ、最後に髪を優しく梳かしてくれる。
「……有り難う……感謝する」
発見した時の惨い状態からここまで綺麗になった事に心から感謝を述べた。侍従長は陛下が皇太子であった頃から知っている。
「本当にようございましたなぁ…よくぞ生きて、帰られました」
大分年を感じるようになった目尻に光る物を見つけてようやく胸に暖かさを感じ始めた。
「よかった…よかったなぁ」
デラボアは滝のような涙を流している。
「これで命の心配は無い」
陛下のお言葉に深く深く頭を下げる。
「だがアクロアよ」
続く言葉に面を上げる。
「この子は……あまり丈夫ではないのだな?」
「……はい」
ルスランの容姿は母親にそっくりなのだが、健康状態もよく似ていた。二人とも生まれながらに病弱だった。うちにはもう三人も息子がいるので、無理に子供を作らなくても良いと言ったが、妻は私との間の子を強く望んだ。
「私の持てる力全てでこの子を守ると妻に誓ったのです」
「そうか……」
この場に居る者は、私が末息子を奪われ、必死に探し続けていた事を知っている。
「では規則違反と無礼に対する処罰は無かったことにせねば、この子の未来を私が奪ってしまうことになりかねんな」
「いえ陛下、この子の上には三人兄がおります故、私が居ずとも問題ありません。覚悟は出来ております。いかようにも処罰を」
「よし。では明日より一週間の自宅謹慎を言い渡す」
「……陛下、それは罰ではなく、休暇なのでは」
「いやいやいや。お前、自宅謹慎ってことは登城できないんだぜ?てことは息子の様子を一週間も見れないって事だ。この上ない罰だと俺は思うがね」
「それは……」
確かにもう大丈夫とは言え、この子を心配する親心が無くなる訳じゃ無い。
「お前も酷い顔色だ。謹慎後の登城で同じような状態だったら、謹慎期間を伸ばすからな。今日はもう帰って眠れ」
犬を追いやるように片手でシッシッとやられて、月光の間を後にした。
登城場に戻ると、息子三人が人型で苛々していた。
「父上!」
「親父!」
「……」
ぎゃあぎゃあと五月蠅いので(一人無言だが、睨んでくる気配がとてつもなく鬱陶しい)とにかく一度家に戻るよう言い渡す。
家に戻ると居間で城内での事を説明し、自分は謹慎になったので八日後からルスランの様子を確認すると告げる。
「……こんな事になるのなら、さっさと団長にでもなるんだった」
「お前じゃ無理だ、人望が足りない。俺のがまだ望みがあるぜ。つっても俺も今はまだ城内に入り込めねぇからな…糞!」
「……会いたい」
城内でもルスランの居る部屋は官僚であっても入るのに厳重な手続きを必要とする範囲にある。宰相である私は毎日登城し勤務している場所だが。
ラスカーは騎士団三年目、ギルシュも同じく騎士団に入団したが、まだ新人の一年目。エルノアは学生だ。
「今はもう少し我慢しなさい。私も辛いんだ。八日後から毎日メモリークリスタルにルスランの様子を記録してくるから」
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