竜の歌

nao

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2 故郷

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 僕の名前はルスラン・ノーヴァ。らしい。
 僕の父親が教えてくれた。
 母が二歳になったばかりの僕を連れて散歩に出かけた所、人間の人攫いに母は殺され、僕は拉致されて人間に売られ、ペットとして飼われていた。
 そんな僕を父達は諦めずにずっと消息を探していたのだそうだ。
 父達とは父以外に兄三人を示す。そう、僕には兄が三人もいたのだ。
 あの時僕と飼い主である人間を取り囲んでいた四つの小山が父達。父達は人間ではなく竜族だった。

 竜。

 この世界には人間の他に竜が存在するのだ。そしてその息子の僕も当然竜族である。

 家族に助け出されて故郷に戻り、四ヶ月後に僕は目を覚ました。瀕死の状態だった僕を助ける為に王様に頼んで秘宝を貸してもらい、意識不明の状態で秘宝による治療を行っていたんだそうだ。そのお陰で僕の命は助かった。
 何故王家の秘宝なんて物を貸して貰えたのかというと、父が国の宰相だから。見た目的には宰相というよりも将軍って感じだけれど、竜族は皆体格が恐ろしく良いので、僕の感覚とはかけ離れているのかも。この屋敷に居る使用人の女性でも骨格からして、その、ゴツ……しっかりしている。
 目覚めてから僕の枕元でニコニコと色々なことを優しく教えてくれている父の名はアクロア・ノーヴァ。
「お前のパパだよー。パパがずっとずーっとルスランの事を守るからねぇ」
 あまりにパパアピールをしてくるので、これは一度呼んだ方がいいのかな?
「……パ、パ」
 おっと、「パパ」とすんなり言いたかったが、やはり初めて言葉を話すとあって、口周りの筋肉がついてこない。
「ルゥ!!」
 僕の名前を縮めて叫んだ父は、ベッドに横たわる僕の頬にゾリゾリゾリゾリ頬擦りしてくる。
 痛い……無精ひげ風に生やした髭が擦れて僕のなけなしの頬肉を削り落とそうとしてくる。
「うぅ……」
 弱々しく両手の指を頬に持って行くと、父が慌て出した。
「ああ!ごめんよ!パパのお髭、イタイイタイねぇ」
 ごめんごめんと謝りながら頭を撫でる父よ、あなたは「パパ」と言う必要はないのですよ。
 男前とは言え、身長二メートルの厳ついおじさまが目尻をさげて「パパ」だの「イタイイタイイねぇ」だの、ギャップが凄い。
 ゴツイ手の意外にも優しく繊細な頭なでなでにウトウトしていると、何やら部屋の外が騒がしくなってきた。
「ルゥは気にしなくていいからねー。もうちょっとお休み~」
 おでこにチュウした父はそのまま部屋を出て行った。
 僕は逆らうことなく眠りへと落ちていった。



「静かにしないか!おまえ達!」
「父上の方が声が大きいですよ。しかもルスランを独り占めして」
「そーだそーだ。俺にも会う権利がある」
「……ずるい」
「おまえ達……」
 余裕で二メートルを超える大男達が身長八十センチメートルの幼児に合わせろとごねる様子を、屋敷の使用人達は信じられないものを見るように様子を伺っている。
 竜族は同族意識は強いが、人間のように肉親を猫可愛がりするような感情は薄いと言われている。特に古代種の血が濃い者ほどその傾向が強いと。
 古代種とは恐竜のような形状と大きさの体を鱗状の皮膚で覆われた古から存在した竜だ。
 時代と環境により、自然と人間型の竜が生まれるようになり、その数が増えていった。
 だが完全に古代の血が無くなったわけではなく、血が濃い者は古代と現代、つまり竜体と人型の二通りの形態をとれる者も生まれるようになった。その者のことをドラグーンと呼ぶ。
 竜族は竜である事に誇りを持っているので、ドラグーンは尊敬の対象となる。
 父、アクロアをはじめ、長男のラスカー、次男のギルシュ、三男のエルノアの全員が竜体にもなれるドラグーンだ。
 竜族の気質は基本、非常に好戦的である。戦闘に長けた身体能力を持ち、かつ戦闘好き。性別は関係無い。
 ノーヴァ家の男達は皆竜族としては最高の資質を備えていた。
 そんな男達が自分の可愛い弟に会わせろ、話をさせろと殺気立っているのだ。
「会わせないとは言っていない。今はまだあの子の体を考えての事だ」 
「そうでございますよ皆様。ルスラン坊ちゃまは治癒を終えてお目覚めになったばかり。口から食べ物を摂ることすらなさっていないのです。どうかルスラン坊ちゃまの為にお静かにお願いいたします」
 恭しく頭を下げた家令のタイニーにバツの悪くなった三兄弟は渋々引き下がって行く。
「やれやれ、あいつらがあんなにも末の弟に興味を示すとはな」
 それをあなたが言うのですか、と心の中でツッコミを入れたタイニーはルスランを目の前にした時の主人の脂下がっただらしない顔を知っている。
「意識が戻られてなによりでございます。坊ちゃま方もルスラン様のお体に障る事はなさらないでしょう」
「そうだな…だが三人もいるからなぁ…使用人全員に、あいつらが行き過ぎた行動を取らないよう、よく見ているように言い渡しておいてくれ」
 心配だ心配だとブツブツ言い続ける主人に、心配なのはこの家の未来では?と表情一つ変えず無言ツッコミをする執事だった。
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