何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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※※※

「はあ……」

 またこの人はあの写真を眺めてため息をついているな。俺が入ってきた事に気付かず、ずっととある写真を眺めている恩田社長を見て、同様にため息をついてしまう。

「あら? 日向いつの間に?」

 俺のため息を聞いてようやく気付いた恩田社長。

「少し前からおりました。ノックしても全く返事が無かったので、失礼ながら勝手に入らせて貰いました」

「そうだったの」

 そして改めて俺に向かい合うため、一旦その写真を机の上に置いた。そこには、恩田社長肝いりで長年連れ添い、自身で育てていた黒髪の超絶美少女と、恩田社長、そしてそのご両親が揃って写っている。

「彼女も既に卒業して、今は悠々自適に暮らしているでしょうね」

「そうだといいけど……。日向は最近、美久と連絡とったの?」

「いえ。文化祭以来一度も」

「そう。私もなのよ」

 フッと苦笑いしながら写真を大事そうに机の棚に仕舞う恩田社長。

「やはりまだ未練が?」

「ないと言えば嘘になるわ。私がこの仕事を始めてから一番力を注いでいた子だったから……。でもそれも結局、私自身の失態で上手くいかなかったのよね。今になってようやく理解出来てきたわ。遅いけど」

「気づけたのなら良かったのではないですか?」

「その言い方だと、日向は最初から分かってたみたいね」

 普通の感覚なら気付きますよ、という本音は飲み込み、俺は肯定の意味も込め黙って恩田社長を見つめ返した。そんな俺の視線の意味をくみ取ったかどうか定かではないが、恩田社長は自分のカバンへ視線を落とし、そこから手帳を取り出しパラパラとめくる。

「で? 今日は何の用件かしら?」

「玲奈の件です。映画の公開日も決まり彼女も主演として順調に稽古に勤しんでいるのですが……」

「学校の方に問題があったのかしら?」

「……撮影がそろそろ始まるのですが、他のキャストとの兼ね合いもあり、長期間学校を休んで貰わないと撮影が難しいのです」

「……困ったわね」

 恩田社長も当然分かっていた事だが、改めて俺の口からその言葉を聞いて、深いため息を吐いて頭を抱えた。

 美久の代わりに主演の座を射止めた山本玲奈。彼女は現在、高校に通いながら映画出演のため忙しい日々を送っている。日によってはK市から東京に出て来て泊まり込みでレッスンを受け、早朝帰宅してそのまま学校に行く事もしばしば。

 だが、玲奈は美久のように学校を辞める気はないらしい。美久とは違いそもそも単位が足りていない。最低でも高卒の資格は取りたいので辞めたくないという。高校辞めるなら映画出演も辞める、とまで言われてしまった。もし監督お気に入りの玲奈まで辞められたら、恩田プロモーション自体が傾く程の傷を負ってしまうだろう。

 なので渋々在学を認めたのだが、それならせめて東京都内の高校に転校を、と検討してみた結果、どうも玲奈の今の状況を鑑みるに、K市内の高校の方が都合が良さそう、という判断に至り、玲奈は未だずっとあの公立高校に通っている。

 とにかく、玲奈に長期休学させるのは現状非常に難しいという事だ。

「仕方ないわね。監督とスポンサーに、私直々に撮影時期を延ばして貰うよう、頭を下げに行くわ」

「夏休みまで待って貰う、という事ですね?」

「ええ。本当は既に映画公開されている時期なのだけど。それを更に先延ばしにしたいというお願いって、本当にキツイわ」

 もし美久がそのまま主演だったならば、映画はこの夏休み期間、要する掻き入れ時に公開出来たはず。だがそれが出来なくなってしまい、その上今も玲奈の稽古のため待って貰っている状態なのだ。更にそれを先延ばしにして欲しい、と言わねばならない。

 再度、はあ~、と大きなため息を吐きながら、恩田社長は苦渋の顔をする。

「……私がもっと、美久の気持ちを理解してあげていればこんな事にはならなかったのよね。実は上杉から少女漫画借りたのよ。これ読んでみれば恩田社長も理解できますよ、とか言われてね」

 ……上杉。気持ちは分かるが自分の上司、しかも社長に何渡しているんだ? 俺は少し呆れながらも、でも同時に効果あるかもしれない、と若干期待したりしている。

「で、どうですか? 何かヒントでも掴めましたか?」

「……日向も知っている通り、私は今までまともな恋愛してこなかったじゃない? 読んでみてもやはり絵空事。何が面白いのかさっぱりなのよ」

 成る程。あくまで漫画だから妄想の範疇を越えない、という事なのか。

 ……ふむ。

「でしたら恩田社長。もし宜しければ、今度俺と二人でどこか出かけませんか?」

「は? 日向何言ってるの?」

「実際に経験してみた方が良いかと、そう思いまして」

 ※※※

 俺、遠藤衛えんどうこのえは高校三年生! 

 今日も元気に自転車通学! あ~、あったかい春の日差しがチョー気持ちいい! 自転車で感じる風もいいね!

 そして今日も今日とて学校に着いたのは朝七時半。始業は八時五十分だから当然殆どの生徒はまだ来てない。

 ……え? お前誰だよって? やだなあ! 俺だよ俺! 

 あの、昨年の文化祭で一躍時の人となった山本玲奈と同じクラスの空手部員だよ! 

 ……まあ、あの時はにっくき武智先輩が、めちゃくちゃ可愛い茶髪で黒縁メガネの彼女連れて来てて、見せつけられたって言う嫌な思い出もあるけどね! 俺がかじってたお盆弁償させられたしね!

 とにかく! 今年も山本と同じクラスになって俺はチョーハイテンション! しかも空手部って事で、高校生活を満喫したい山本を守るべく、昨年優勝した空手部が、山本を守る係、要する親衛隊に抜擢されたというね!

 ……え? 優勝したの武智先輩じゃね? お前関係なくね? だって? 

 …………。

 こまけぇーこたぁいいんだよ! 

 で、こんな朝早く来てるのは朝練をするためだ。親衛隊は俺含め二、三年生合同で十人程度いるが、俺が一番気合い入ってる。一応俺が主将だからだ。そういや武智先輩って何で主将やらなかったんだろうな? 仲良かった三浦先輩もそこそこ強かったのにあの人もやってなかったな?

 因みに親衛隊は山本が連日マスコミや変な奴とかから守るために自然に出来た。山本は今、学校へは車で送り迎えして貰ってる。でも学校内までは芸能事務所の人達はノータッチ。だから学校内で山本が変な奴に絡まれたりしないよう、守ってやろうってんで始まったんだよな。

 あいつ元々空手部のマネージャーだったしファンも多いし、気心知れてる俺達空手部が適任だったっていう事。ま、キッカケは、学校内で絡まれてて困ってる山本から、俺が助けてやったからだけどな。

 そして俺は早速道着に着替え、まずは心頭滅却するため道場の真ん中で正座する。

 目標は県大会ベスト四進出。優勝? んなもん簡単に出来っこねーって! 武智先輩は普段頼んないけど、空手になったらマジで天才だったからな! あの人だから優勝できたんだよ! 俺なんて無理無理!

 とりあえず、武智先輩程じゃなくても俺は強くなって、そして実績残して、そして……。

 そして今度こそきちんと、山本に告白する! そう誓ったんだ。

 ……遊びに行った事さえねーけどな! ポジティブが俺の信条なんだから気にしない気にしない!

 って、全然心頭滅却出来てねー……。

 ああ、もう! 今は山本の事は置いといて、空手に集中!

 ふう、と深く息を吐き、今度こそ精神を落ち着かせる。

 そこでふと、ガララと道場の扉が開いた。

 え? この時間誰も来ないはずなのに? 俺は不審に思って正座を止め立ち上がって扉の方を向く。

「あれ? 誰かいたんだ」

 ……え? 何で? 

「……山本?」

 扉を開けたのは、俺が恋焦がれてる山本の姿だ。何で山本がこんな早朝の道場に?

 俺がキョドってると、山本はふわりと桃色がかった両おさげをひらめかせながら、可愛らしい笑顔を俺に見せる。ドキっと心臓が飛び跳ねる。さっきまでこいつの事考えてたってのもあるだろうけど。

 で、笑顔のまま声を掛ける。

「あ! なーんだ権藤君かぁ」

「権藤じゃねぇ!」

「あ、そうだったごめんごめん! 進藤君」

「進藤も違ぇ!」

「え? じゃあ斉藤君」

「……わざとだな? 絶対わざとだよな?」

 ……俺の名前覚えてないの? 二年も三年もクラス一緒なのに? 今まで何度も声かけてきてたのに? 助けた事もあったのに?

 ちょっと泣きそうになってる俺を見て、山本はケラケラ笑う。

「何泣きそうになってんの? 冗談だよ冗談!」

「じゃ、じゃあ名前言ってみろよ」

「……安ど」「もういい!」

 さすがにイラっとしてしまった俺は、朝練の事もすっかり忘れて出ていこうとする。

「ちょっと待ってよ。私ここに用があってきたんだけど」

「……何の用だよ?」

 怒り口調で山本に聞いてしまう。……何やってんだよ俺。好きな子に話す口調じゃないだろ? でもこれはさすがに山本が悪いだろ?

「映画のシーンで空手でやりあう、ってのがあるらしくって。ほら私元々空手部のマネージャーでしょ? ここ来たら何かヒント得られるんじゃないかなあって思って。で、この時間なら誰もいないだろうなあと思って来てみたら、遠藤君がいたってわけ」

「ふーん。じゃ、見ていけば? 俺行くから」

 ……ん? 今俺の名前言ったよな?

「あ! ちょっと待ってよ。丁度いいじゃん。私に空手教えてよ」

「……まあいいけど? ようやく名前呼んでくれたしな」

「だって道着に書いてあるもん」

 と言って道着の襟を指さす山本。あ、そうだった。って事はこいつ、俺が近くに来たから分かったのかよ。

「ま、元々名前知ってたけどね」

「どうだか」

「とりあえず私ジャージに着替えてくる」

 そう言って山本は奥の更衣室に走って行った。

「……でもま、こうやって山本と二人きりになれたのは良かった。早起きは三文の得、だっけか?」

 結局テンションあがってしまう俺。

 ……あ、心頭滅却すんの忘れてた。ま、今日はいいか。





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