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その百二十七
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※※※
校庭に作られていた大きな舞台や機材は既に片付けられ、舞台に上がってた役者や映画関係者、更に報道関係者もどうやら既に帰ったみたいで、今はいつも通りの校庭に戻ってる。あんなでかい舞台だったのに、撤収って速く出来るもんなんだな。
ただ、舞台で使用した角材とかは、これから行われる文化祭恒例のキャンプファイヤーで使われるみたいだ。だからこそ撤収が迅速だったのかも知れないけど。
因みに時間はもうすぐ夕方五時。あの映画発表会の後、柊さんと再度合流して、雄介と安川さんと共に、文化祭の色んな出し物を観たり体験して楽しんでた。
「でも美久、とりあえず良かった、て事なん?」「うん。すんなり……、とは言えないかも知れないけど、とりあえず芸能界入りは回避出来たから」
「ま、確かに柊さん、吹っ切れた顔してんもんな。さっき映画発表会の時、一人電話で呼び出され行った時は、明歩メッチャ心配しててキョドってたけど。美久大丈夫かな~、アタシ達も一緒に行った方が良かったかな~、とか言ってさ」
「ゆ、雄介! それ内緒!」「ハハハ。まあいいじゃねーか。それ程明歩は柊さんを大事に思ってるって証拠だろ?」
もー! とほっぺをぷっくり膨らませ雄介に怒ってる安川さんと、それを笑いながら見てる柊さん。その笑顔は本当に嬉しそうだ。
「とりあえず落ち着いてよかったね」「うん。武智君も色々ありがとう」
「あー! まーた美久とたけっちーが隙見てイチャついてるー!」「「イチャついてない!」」
俺と柊さんがハモって否定する。それを見て今度は雄介が笑ってる。なんかこういういいな。仲間って感じで。もうすぐ終わる高校生活、こんな経験出来たのは結構嬉しい。
そこで安川さんのスマホがバイブした。安川さんが電話に出ると、山本からだった。
※※※
「ふえ~ん。もう疲れたぁ~。芸能界入るの辞める~」「……いやまだ何も始まってないだろ」
「そうなんですよ! 武智先輩の言う通りまだ何も始まってないのに、あれやれこれやれって超うるさいんですよ。特に上杉って人!」「そりゃあ、マネージャーだし仕方ないんじゃね?」
と、さっきからずっと文句垂れてる山本と、それを呆れながら見てる俺達。
あんな事があった後なので、山本が移動するたび人だかりが出来てしまって大変だったらしい。で、いい加減嫌になって俺達に助けを求めてきたわけだが。……って、何で俺達に連絡してくんの? 上杉さんや日向さんの方がそういうのプロじゃないの?
とにかく連絡貰ったからには無視するわけにもいかないんで、俺達は山本が隠れてるっていう、映画関係者用に用意されてた教室に向かった。そしてそこで柊さんと山本さんが服を交換して一緒にそこから出て逃げてきたってわけ。
あの教室にずっと籠もってる事も出来ただろうけど、既に映画スタッフが撤収した後なので、普通の一教室と戻ってしまってる事もあってそこにも生徒が集まってくる可能性があった。だから柊さんが綾邊さんから返して貰ってた屋上の鍵を使って、今俺達全員屋上に来てるんだけど。
つーか寒い。11月の屋上はとにかく寒い。突如ビュウゥ、と冬の空気を含んだ冷たい北風が俺達の間を吹き抜けていく。みんな一斉にブルルと身を震わせた。そりゃこの季節の屋上は寒いのは当然。しかも今は五時半過ぎでもうすぐ夜だし余計に寒さが身に染みる。
「ギャー! 武智先輩寒いー! 風受けになって下さーい!」「おいこら止めろ」
俺を壁にして風を避けようとしてる山本から逃げる俺。それを見てる雄介達は楽しそうに笑ってるけど、今度は山本がそっちに突撃。すると皆して山本から逃げ回る。
「鬼ごっこなんてしてる場合ですか!」「山本が追っかけて来るからじゃねーか」
……で、こんな事してたら身体温まっちゃってマシになったというね。
「はあ、はあ。あー疲れた」「はあ、はあ。ったく山本も余計な事するなあ」
「はあ、はあ。でも、ぜぇ、ぜぇ……。でも寒さマシになったでしょ?」「はあ、はあ。でも玲奈、意図してやったんじゃないっしょ?」
俺達全員息を切らして一旦鬼ごっこを止めてたところで、雄介が屋上の物置、あの小屋を指差した。
「つーかそこの小屋行かね?」「そうだね。三浦君の意見に賛成」
そして五人揃って小屋の方へ向かう。相変わらず扉は開いてたけど中は狭いので、とりあえず俺達は中に入らず、小屋の影で寒さをしのぐ事にした。
「はあ。懐かしいな、ここ」「本当。ここでも色々あったもんなあ」
「アタシここで美久から色々聞いたんだよねー」「そうだ。俺もここで柊さんと悠斗の成り染めを見てたんだよな」
「な、成り染めって……」「三浦君言い方」
「だってそーじゃーん? 美久とたけっちーここでイチャイチャして仲良くなってったんでしょ? 嫌われ演技しながら」
「嫌われ演技? なんですかそれ?」
山本が不思議そうな顔になる。そりゃ当然知らないよな。俺達はつい、顔を見合わせ笑いながら、これまで何があったか山本に話した。
※※※
「あー、キャンプファイヤー終わっちゃいましたね」「あ、本当だ。つい話こんじゃったね」
「ま、いいんじゃね? 山本あそこ行ったらまた囲まれるだろ」「そうだね。私の服着てても多分すぐバレるだろうし」
「でも、ずっと話聞いてて思ったけど、皆さん青春してたんですねー。何だか羨ましい」
「山本はまだ二年生だからこれからそういうの沢山経験出来るんじゃねーの? 友達作ったりしてさ」「んー、でも私、映画の出演とか演技の勉強とかしながらですからね。普通の高校生活とは違うようになるかも」
「……そうだね」
柊さんは心底納得したような顔で頷く。そっか。柊さんこそ、その辺り一番良く分かってるよな。
「ねえ山本さん。私で良かったら色々聞くよ。何か悩んだりしたら遠慮なく連絡してきてね」「おおー。柊先輩が私の相談相手とは心強い! 宜しくです! 元恋敵さん!」
「……そういう事言うなら今の無し」「あ、ちょっ、ちょっと待って下さい! 冗談ですから! 冗談!」
焦る山本をジト目する柊さん。
「私はちゃんと別に彼氏探すんで! 武智先輩はもう要らないんで!」「おい」
要らないって言い方もどうなんだよ? でも山本は俺のジト目には気にする事なく、あー本音言っちゃったーとか言いながらケラケラ笑ってやがる。全く調子いいなあ。
「そういや美久、その制服も久々じゃん」「あ、うん。そうだね。山本さんとサイズが変わらなくて良かった」
そう。柊さんは今、既に茶髪ウイッグと黒縁メガネを外し、いつもの綺麗な黒髪の柊さんで、しかも山本と交換したうちの制服を着てる。だから尚更、この屋上で過ごした懐かし日々が蘇ってくる。
……そうだな。振り返ってみたら山本の言う通り、結局俺達、普通に高校生として青春してたんだな。いや、普通でもないかな?
「と言いますか、お会いしてからずっと思ってたんですけど、やっぱ柊先輩って超絶美少女ですよね。私も負けてないって思ってたけど、制服着たら尚更エロさが増してるし」「こら」
さすがに俺は許せなくて山本の頭をゲンコツで軽くコチンとする。いったーい! これパワハラセクハラー! と意味不明に騒ぐ山本。本当、にぎやかな奴。
そんな風にワイワイしながら、色々あった俺達の文化祭は幕を閉じた。
※※※
「あー楽しかったあ」
柊さんは凄く嬉しそうにそう言いながら俺の隣を歩く。俺も柊さんの嬉しそうな顔を見て気分が良い。
来た時は柊さん車だったけど、今は一緒に帰ってるので、俺は自転車を押しながら一緒に柊さんの横を歩いてる。
「でもまさかこうやって、柊さんと一緒に文化祭の出し物見て回れるとは思ってなかったよ」「私も。でもいい思い出がまた一つできちゃった」
フフフと笑いながら俺を見上げる柊さん。時間は既に夜八時。辺りはすっかり暗くなってるのもあって、柊さんは茶髪ウイッグと黒縁メガネはせず、普段通りの格好してる。あ、既に山本から服を返して貰ってるから、文化祭に着てた白のワンピースに赤いカーディガン姿だけど。
しかしさっきから意味もなくクルクル回ってみたり、あざとい感じで俺を見つめてみたりして、相当ご機嫌なのは見て取れる。よほど楽しかったんだろうな。
「私ね、こういう高校生らしい事諦めてた。だってずっと芸能界入りのために時間を使ってたようなものだったから。だから今日みたいに友達と一緒にああやって笑い合ったりするの、凄く嬉しくて」
「俺もだよ。みんなといて本当楽しかった。……でもまあ俺の場合、柊さんと、そういう事したいなあって気持ちの方が強かったけどね」
俺がそう言うと、柊さんはピタ、と歩くのを止めた。
「ねえ武智君」
「ん? 何?」
「これから、もっとそう言う事しようよ。私はこうして自由になった。だから前に武智君が言ってた、クリスマスや初詣とか、私と一緒に楽しもうよ。ううん。それだけじゃなくて、卒業してからもずっと……」
その先を言おうとして、柊さんは急にうつむく。ああ、言ってて恥ずかしくなったんだな。
「そうだよな。その先もずっと、俺、柊さんの傍にいるよ。俺柊さんの事が大好きだから」
「……うん。私も。武智君の事が大好き。だからこれからもずっと、傍にいさせてね」
そう言いながらも、今度は柊さん、俺の顔をじっと見つめる。相変わらず長いまつ毛に黒くてきれいな瞳。頬は赤くなってるけど、それでも整ったその超絶きれいな顔は、俺の気持ちを爆発させるのに充分だった。
自転車を一旦停め、俺は柊さんをギュッと抱きしめる。「あ……」と柊さんから声が漏れる。その、切なそうな声に俺は庇護欲を駆り立てられたかのように、ますます腕に力を入れてしまう。
「ずっと、傍にいたい。もう離したくない」「うん。ずっと、傍にいてね」
「これからも俺が守るから」「うん。私弱い子だから、これからも武智君に甘える」
「……ハハハ」「……フフフ」
お互い凄く恥ずかしい告白をしてる事に気付いてしまって、つい顔を見合わせ照笑いをしてしまう。
そしてそのまま俺達は見つめ合う。柊さんの黒くて綺麗な瞳がやや潤んでる。その彫刻のような整った顔立ちが、俺に何を求めてるか容易に理解できた。
柊さんを抱き寄せ顔を近づける。瞬間、柊さんは小さく微笑み、そのまま唇を重ねた。
校庭に作られていた大きな舞台や機材は既に片付けられ、舞台に上がってた役者や映画関係者、更に報道関係者もどうやら既に帰ったみたいで、今はいつも通りの校庭に戻ってる。あんなでかい舞台だったのに、撤収って速く出来るもんなんだな。
ただ、舞台で使用した角材とかは、これから行われる文化祭恒例のキャンプファイヤーで使われるみたいだ。だからこそ撤収が迅速だったのかも知れないけど。
因みに時間はもうすぐ夕方五時。あの映画発表会の後、柊さんと再度合流して、雄介と安川さんと共に、文化祭の色んな出し物を観たり体験して楽しんでた。
「でも美久、とりあえず良かった、て事なん?」「うん。すんなり……、とは言えないかも知れないけど、とりあえず芸能界入りは回避出来たから」
「ま、確かに柊さん、吹っ切れた顔してんもんな。さっき映画発表会の時、一人電話で呼び出され行った時は、明歩メッチャ心配しててキョドってたけど。美久大丈夫かな~、アタシ達も一緒に行った方が良かったかな~、とか言ってさ」
「ゆ、雄介! それ内緒!」「ハハハ。まあいいじゃねーか。それ程明歩は柊さんを大事に思ってるって証拠だろ?」
もー! とほっぺをぷっくり膨らませ雄介に怒ってる安川さんと、それを笑いながら見てる柊さん。その笑顔は本当に嬉しそうだ。
「とりあえず落ち着いてよかったね」「うん。武智君も色々ありがとう」
「あー! まーた美久とたけっちーが隙見てイチャついてるー!」「「イチャついてない!」」
俺と柊さんがハモって否定する。それを見て今度は雄介が笑ってる。なんかこういういいな。仲間って感じで。もうすぐ終わる高校生活、こんな経験出来たのは結構嬉しい。
そこで安川さんのスマホがバイブした。安川さんが電話に出ると、山本からだった。
※※※
「ふえ~ん。もう疲れたぁ~。芸能界入るの辞める~」「……いやまだ何も始まってないだろ」
「そうなんですよ! 武智先輩の言う通りまだ何も始まってないのに、あれやれこれやれって超うるさいんですよ。特に上杉って人!」「そりゃあ、マネージャーだし仕方ないんじゃね?」
と、さっきからずっと文句垂れてる山本と、それを呆れながら見てる俺達。
あんな事があった後なので、山本が移動するたび人だかりが出来てしまって大変だったらしい。で、いい加減嫌になって俺達に助けを求めてきたわけだが。……って、何で俺達に連絡してくんの? 上杉さんや日向さんの方がそういうのプロじゃないの?
とにかく連絡貰ったからには無視するわけにもいかないんで、俺達は山本が隠れてるっていう、映画関係者用に用意されてた教室に向かった。そしてそこで柊さんと山本さんが服を交換して一緒にそこから出て逃げてきたってわけ。
あの教室にずっと籠もってる事も出来ただろうけど、既に映画スタッフが撤収した後なので、普通の一教室と戻ってしまってる事もあってそこにも生徒が集まってくる可能性があった。だから柊さんが綾邊さんから返して貰ってた屋上の鍵を使って、今俺達全員屋上に来てるんだけど。
つーか寒い。11月の屋上はとにかく寒い。突如ビュウゥ、と冬の空気を含んだ冷たい北風が俺達の間を吹き抜けていく。みんな一斉にブルルと身を震わせた。そりゃこの季節の屋上は寒いのは当然。しかも今は五時半過ぎでもうすぐ夜だし余計に寒さが身に染みる。
「ギャー! 武智先輩寒いー! 風受けになって下さーい!」「おいこら止めろ」
俺を壁にして風を避けようとしてる山本から逃げる俺。それを見てる雄介達は楽しそうに笑ってるけど、今度は山本がそっちに突撃。すると皆して山本から逃げ回る。
「鬼ごっこなんてしてる場合ですか!」「山本が追っかけて来るからじゃねーか」
……で、こんな事してたら身体温まっちゃってマシになったというね。
「はあ、はあ。あー疲れた」「はあ、はあ。ったく山本も余計な事するなあ」
「はあ、はあ。でも、ぜぇ、ぜぇ……。でも寒さマシになったでしょ?」「はあ、はあ。でも玲奈、意図してやったんじゃないっしょ?」
俺達全員息を切らして一旦鬼ごっこを止めてたところで、雄介が屋上の物置、あの小屋を指差した。
「つーかそこの小屋行かね?」「そうだね。三浦君の意見に賛成」
そして五人揃って小屋の方へ向かう。相変わらず扉は開いてたけど中は狭いので、とりあえず俺達は中に入らず、小屋の影で寒さをしのぐ事にした。
「はあ。懐かしいな、ここ」「本当。ここでも色々あったもんなあ」
「アタシここで美久から色々聞いたんだよねー」「そうだ。俺もここで柊さんと悠斗の成り染めを見てたんだよな」
「な、成り染めって……」「三浦君言い方」
「だってそーじゃーん? 美久とたけっちーここでイチャイチャして仲良くなってったんでしょ? 嫌われ演技しながら」
「嫌われ演技? なんですかそれ?」
山本が不思議そうな顔になる。そりゃ当然知らないよな。俺達はつい、顔を見合わせ笑いながら、これまで何があったか山本に話した。
※※※
「あー、キャンプファイヤー終わっちゃいましたね」「あ、本当だ。つい話こんじゃったね」
「ま、いいんじゃね? 山本あそこ行ったらまた囲まれるだろ」「そうだね。私の服着てても多分すぐバレるだろうし」
「でも、ずっと話聞いてて思ったけど、皆さん青春してたんですねー。何だか羨ましい」
「山本はまだ二年生だからこれからそういうの沢山経験出来るんじゃねーの? 友達作ったりしてさ」「んー、でも私、映画の出演とか演技の勉強とかしながらですからね。普通の高校生活とは違うようになるかも」
「……そうだね」
柊さんは心底納得したような顔で頷く。そっか。柊さんこそ、その辺り一番良く分かってるよな。
「ねえ山本さん。私で良かったら色々聞くよ。何か悩んだりしたら遠慮なく連絡してきてね」「おおー。柊先輩が私の相談相手とは心強い! 宜しくです! 元恋敵さん!」
「……そういう事言うなら今の無し」「あ、ちょっ、ちょっと待って下さい! 冗談ですから! 冗談!」
焦る山本をジト目する柊さん。
「私はちゃんと別に彼氏探すんで! 武智先輩はもう要らないんで!」「おい」
要らないって言い方もどうなんだよ? でも山本は俺のジト目には気にする事なく、あー本音言っちゃったーとか言いながらケラケラ笑ってやがる。全く調子いいなあ。
「そういや美久、その制服も久々じゃん」「あ、うん。そうだね。山本さんとサイズが変わらなくて良かった」
そう。柊さんは今、既に茶髪ウイッグと黒縁メガネを外し、いつもの綺麗な黒髪の柊さんで、しかも山本と交換したうちの制服を着てる。だから尚更、この屋上で過ごした懐かし日々が蘇ってくる。
……そうだな。振り返ってみたら山本の言う通り、結局俺達、普通に高校生として青春してたんだな。いや、普通でもないかな?
「と言いますか、お会いしてからずっと思ってたんですけど、やっぱ柊先輩って超絶美少女ですよね。私も負けてないって思ってたけど、制服着たら尚更エロさが増してるし」「こら」
さすがに俺は許せなくて山本の頭をゲンコツで軽くコチンとする。いったーい! これパワハラセクハラー! と意味不明に騒ぐ山本。本当、にぎやかな奴。
そんな風にワイワイしながら、色々あった俺達の文化祭は幕を閉じた。
※※※
「あー楽しかったあ」
柊さんは凄く嬉しそうにそう言いながら俺の隣を歩く。俺も柊さんの嬉しそうな顔を見て気分が良い。
来た時は柊さん車だったけど、今は一緒に帰ってるので、俺は自転車を押しながら一緒に柊さんの横を歩いてる。
「でもまさかこうやって、柊さんと一緒に文化祭の出し物見て回れるとは思ってなかったよ」「私も。でもいい思い出がまた一つできちゃった」
フフフと笑いながら俺を見上げる柊さん。時間は既に夜八時。辺りはすっかり暗くなってるのもあって、柊さんは茶髪ウイッグと黒縁メガネはせず、普段通りの格好してる。あ、既に山本から服を返して貰ってるから、文化祭に着てた白のワンピースに赤いカーディガン姿だけど。
しかしさっきから意味もなくクルクル回ってみたり、あざとい感じで俺を見つめてみたりして、相当ご機嫌なのは見て取れる。よほど楽しかったんだろうな。
「私ね、こういう高校生らしい事諦めてた。だってずっと芸能界入りのために時間を使ってたようなものだったから。だから今日みたいに友達と一緒にああやって笑い合ったりするの、凄く嬉しくて」
「俺もだよ。みんなといて本当楽しかった。……でもまあ俺の場合、柊さんと、そういう事したいなあって気持ちの方が強かったけどね」
俺がそう言うと、柊さんはピタ、と歩くのを止めた。
「ねえ武智君」
「ん? 何?」
「これから、もっとそう言う事しようよ。私はこうして自由になった。だから前に武智君が言ってた、クリスマスや初詣とか、私と一緒に楽しもうよ。ううん。それだけじゃなくて、卒業してからもずっと……」
その先を言おうとして、柊さんは急にうつむく。ああ、言ってて恥ずかしくなったんだな。
「そうだよな。その先もずっと、俺、柊さんの傍にいるよ。俺柊さんの事が大好きだから」
「……うん。私も。武智君の事が大好き。だからこれからもずっと、傍にいさせてね」
そう言いながらも、今度は柊さん、俺の顔をじっと見つめる。相変わらず長いまつ毛に黒くてきれいな瞳。頬は赤くなってるけど、それでも整ったその超絶きれいな顔は、俺の気持ちを爆発させるのに充分だった。
自転車を一旦停め、俺は柊さんをギュッと抱きしめる。「あ……」と柊さんから声が漏れる。その、切なそうな声に俺は庇護欲を駆り立てられたかのように、ますます腕に力を入れてしまう。
「ずっと、傍にいたい。もう離したくない」「うん。ずっと、傍にいてね」
「これからも俺が守るから」「うん。私弱い子だから、これからも武智君に甘える」
「……ハハハ」「……フフフ」
お互い凄く恥ずかしい告白をしてる事に気付いてしまって、つい顔を見合わせ照笑いをしてしまう。
そしてそのまま俺達は見つめ合う。柊さんの黒くて綺麗な瞳がやや潤んでる。その彫刻のような整った顔立ちが、俺に何を求めてるか容易に理解できた。
柊さんを抱き寄せ顔を近づける。瞬間、柊さんは小さく微笑み、そのまま唇を重ねた。
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