何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その百二十四

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 ※※※

「あ、あの、美久様……」「綾邊さん。もうそろそろ美久様やめない? 柊でいいよ。何なら美久でも」

「み、美久などとお呼びするなんて恐れ多い! じゃ、じゃあ、柊……様?」「いや、そこはだよね?」

「と、とにかく! わたくし綾邉ひかりは、今日安川さんに声かけて貰い、お会いしたくて勇気振り絞ちやって参りました!」「うん。来てくれてありがとう……あの、敬礼とか要らないよ」

「で、実は今日お会いしたかったのは、これをお返ししようと思いました」「これって……。あの屋上の鍵? どうして私に?」

「学校を辞めてるのは承知ですけど、これは美久様……、もとい、柊さんの思い出の品だと思うので。それにあの屋上、どうせもう誰も使う事ないしょうから、校長先生に返さなくてもいいかと。そう思いまして」「そうだね……。じゃあ貰っちゃおうかな? ありがとう綾邊さん。それと飯塚君とはどうなの? 遊びに行ったりしてるの?」

「……は?」「あーこれ気付いてないっぽいね。……ねえ綾邊さん? 今日何で飯塚君ついて来たのか分かる?」

「はて? 実は私も不思議でして」「じゃあその辺り、本人に聞いてみたらどうかな?」

「はあ。まあ柊さんがそう言うなら……おーい、飯塚君!」

 ※※※

「柊先輩、ちょっと宜しいです?」「……あ、う、うん。初めまして。山本さん」

「アハハ! 私が東京行った時お会いしてるじゃないですが。ほらあの、疋田美里さんの格好の時に。実はその辺り安川先輩と武智先輩から聞いてるんです」「え? そ、そうだったんだ」

「……」「……」

「プッ! アハハハ! 何か緊張しちゃいますね」「え? あ、い、いや、そ、そうだね」

「そんな風に隙だらけっぽいなら、私まだ武智先輩の事狙ってもいけるかも?」「! そ、それはダメ!」

「お~怖い。顔が急に阿修羅みたいになった」「阿修羅って……。そこまで怖い顔じゃないよきっと。……あの、武智君から山本さんの事は聞いてるの。えっと……、何をしたのかも」

「あーやっぱり。私が武智先輩に告白した事知ってましたか。だから気を使って緊張してたんですね」「う、うん」

「まあ武智先輩、ああ見えて素敵ですもんね。優しいし気が利くし」「そうそう。結構頼りがいあるし喧嘩も強いし、思いやりもあって一緒にいて楽しいし、それに……あ」

「はいはいノロケごちそう様! まあだからこそ、私も惚れちゃったんですけどね。フラれましたけど」「……うん知ってる」

「まあでもそのおかげで、安川先輩ともすっごく仲良くなれたしもゲットできたようなもんだし」「あの件?」

「ん? 今日午前中、お母様と恩田社長と一緒に、映画の関係者の人達と話したんじゃ?」「……何でその事知ってるの?」

「ふむふむ。その様子だと日向さんから連絡いってないのか。ま、そのうち分かりますよ」「……」

 ※※※

「美久~、ああ美久~、もうみっく美久~」「明歩もういい加減にしてくれない?」

「いーやーだー! 今日の美久はアタシのモノ! ずっとイチャイチャするんだもーん!」「あのねぇ……。せめて抱きしめないで離れて欲しいんだけど」

「えーだって離れたらどっか行っちゃうじゃん」「はあ……。じゃあ大人しく隣りに座ってるから、ね?」

「はーい」「フフ、素直。でも私だって明歩にすごく会いたかったんだから」

「だよねー! アタシ達相思相愛! たけっちーになんかあげないんだから!」「……三浦君はいいの?」

「! そ、それはその……」「アハハ! 何かこのやり取り前にもあった気がする。でもとにかく、明歩色々ありがとね。また二人で遊びに行こ?」

「もっちろん! あ、そうだ美久。それなら今度東京案内してよ! 二人でいこっ!」「あ、それいいかも」

「でもそれって可能なん?」「うん。多分可能になると思う。ここじゃなんだから、また落ち着いたら詳しく話すね……あ、マスター手が空いたみたい。ちょっと行ってくるね」

「あー! アタシの横にいるっていったのに逃げたー!」

 ……ってな感じで、柊さんずっと誰かと喋ってて、俺は柊さんと全然会話出来なかったとさ。

 ※※※

「あー楽しかったー」「ハハハ。そう言ってくれるなら企画して良かったよ」

「久々にみんなに会えたしいっぱいお喋り出来たし」「本当、ずっと誰かと喋ってたね。みんなも柊さんに会いたかったし、みんなもきっと喜んでると思うよ」

 うん、と満面の笑みを浮かべ返事する柊さん。俺はついその素敵な笑顔に見とれてしまいながらも笑顔を返した。

 さっきまでマスターの喫茶店で結構大騒ぎしてて、今は夜道を柊さんと二人で自転車押しながら帰ってる最中。昔バイト帰りに自転車を押して歩いてたのを懐かしく思ったので、じゃあそうやって帰るかってなった。

「こうやって武智君と帰るのも楽しい。凄く懐かしくて」「俺は疋田さんとだったから、見た目的に余り懐かしさを感じないけどね」

「……疋田美里と私って、そんなに違う?」「うん。何と言うか、疋田さんの時は凄く内気で大人しいイメージだったよ。で、柊さんはあの嫌われ演技もあって、どこか勝ち気な強いイメージあったし」

「……多分、その、内気で大人しいのが、本来の私だと思う。元々人前に出るのあんまり好きじゃなかったし」「そうなんだ」

 柊さんってその美貌のせいで、黙ってても目立つからそういうのは寧ろ大丈夫かと思ってたけど。

「そういや山本とは話できた?」「うん。向こうから声かけてくれて。武智君の良さに気付いてたからちょっとドキっとした。まあだからこそ、武智君の事を好きになってたんだろうなあ、とは思ったけど」

「ハハ……」乾いた笑いでしか返せない俺。俺の良さに気付いた、とか言われるとめっちゃ照れる。

「でもその後、色々話ししてたら意気投合しちゃって仲良しになったの。連絡先も交換したし。私が学校にいない間の武智君の事とか、根掘り葉掘り聞いちゃおかと思ってるよ」「やましい事はないからまあ……いいけど」

 ……本当はちょっと勘弁してほしいかも。山本と二人で塾行ったりバイト一緒に帰ったりしてるし。まあバレても大丈夫だとは思うけど。俺は山本をフッた事は柊さんも知ってるから。でも何か気まずい。

「そう言えば山本さんと話してて引っかかる事があったなあ。私今日の午前中、映画関係者が集うミーティングにお母さんと恩田さんと共に出席してたでしょ? 何故かその事知ってたんだよね」「あーそれもしかして、日向って人から聞いたのかも」

「そっか。山本さんって日向さんと繋がりあるんだよね? 私もそれは武智君から聞いてて知ってたけど、何か私の知らない事を山本さんが知ってる風だったの。言いかけて終わってたから気になって。そのうち分かるとも言ってたけど」

 何だろう? 柊さんからの又聞きだから俺には尚更さっぱり分からないなあ。

「でも山本がそのうち分かるって言ってたなら、放置してていいんじゃない? 気になるなら直接聞いてみればいいし」「そうだね」

 そこでふと、柊さんが自転車を器用に片手で押しながら俺の腕を組んできた。

「どしたの? 急に」「えへへ。何となく彼女らしい事したくなっちゃった」

「またそんな可愛い事を言うんだから」「か、可愛い? そ、そう?」

 ふと出た本音に、柊さんが急に顔を赤くしてうつむく。それを見た俺もつい顔が熱くなる。素直に言い過ぎたかも? 

「ま、まあでも、彼氏なんだからそれくらいの本音言ってもいいよね?」「……本音って。う、うん。まあ、武智君に言われるのが一番嬉しいし」

「……昔さ、疋田美里さんと二人でバイト終わり帰ってた頃、俺本当ドキドキしてたんだよな。いつか必ず告白したいって思ってたけど、中々踏ん切りつかなくて。で、雄介に相談してダブルデートしようぜって焚き付けられて、そして誘った時は本当に緊張したの未だに覚えてるよ」「フフフ。私も覚えてる。凄くびっくりしたのと同時に、私も嬉しかったから」

「そっか」「うん」

 そうして二人で歩いてると、あの歩道橋が見えてきた。俺と柊さんは一旦自転車を止める。

「あーここ。あれが見えるといつも寂しい気持ちになってたんだよなあ。ここでお別れかあって」「私もそうだったよ……そしてそれは今も」

 柊さんがそう言いながらギュッと強く俺の腕を抱き寄せる。暖かく柔らかい感触が俺の肘から伝わってくる。そして柊さんは俺を見上げる。頬が赤くなってはにかんでるけど、どこか嬉しそうで幸せそうな笑顔。相変わらず顔が小さくて整ってる。黒い瞳が何となく潤んでるように思える。

 俺も、このまま別れたくないって思ってしまってる。何だ一緒じゃん。じゃあ、もう少し一緒にいてもいいよな? だって昔と違って俺達付き合ってんだから。俺の彼女なんだから。

 柊さんも同じ事考えてる。きっとそうだと何故か確信が持てる。

 そのまま、俺と柊さんは見つめ合う。やや寒くなってきた夜のこの時間、周りには誰も人影がなく、電柱につけられた街灯が、俺と柊さんの二人だけをこうこうと照らす。

 一旦組んでた腕を離し、自然と引き合うようにお互いを抱きしめる。お互いの腕が腰に回る。柊さんの身体は小さくて腰回りも細くて、でも凄く温かで柔らかくて……。

 自然と顔が近づきそのまま唇を重ねる。その後二人共はにかむように笑顔になった。

 ……もう、我慢できないや。

「あのさ、このまま……」「あ、電話だ」

 俺が柊さんに声をかけようとした瞬間、柊さんのスマホがバイブしたらしい。俺はそれを聞いてつい体を離してしまった。どうやら相手は柊さんのお母さんみたいだ。

『美久? もうパーティは終わったの? いつくらい帰ってくるの? 今日はお父さんにこれまでの出来事をお話する約束でしょ? もうお父さん帰って待ってるわよ』「あ……う、うん。もうすぐ帰る」

 そうだったのか。今日は柊さん用事あったのかあ。……あーーもう! めっちゃいい雰囲気だったのにーー!!

「あ、あの武智君、ごめんね? そ、その……、武智君が何言いたいか分かってたし、私も、その……」「あ、う、うん」

 電話を切った後柊さんは両手を合わせごめん、と謝りながら、慌てて自転車にまたがる。

「本当にごめん。必ず埋め合わせする」「その話し合いは大事だし仕方ないよ。……そうだね。また時間取って二人でどっか行こう」

 うん、また、と返事しながら柊さんは自転車をこいで家に向かった。俺は頑張って笑顔で手を振った。心の中では泣いてたけど。



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