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その百二十三
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※※※
「ふう。これでよし、と」
あの色々あった次の日の夕方五時半頃、俺はバイト先の喫茶店の扉に(貸切)の看板をかけた。もう十一月って事もあって、この時間なると結構暗い。西の方角を見ると地面の近くがオレンジ色に染まってる。街の灯りとのコントラストが幻想的に見えてきれいだなー、とその風景に見惚れてると、キキっと背中越しに自転車のブレーキ音が聞こえ、振り返ると柊さんが笑顔で俺を見ていた。
「柊さん。昨日はお疲れ様だったね」「武智君もね。昨日はありがとう」
気にしなくていいよ、と笑顔で柊さんに答えると、柊さんも笑顔になる。
「で、大丈夫だった? 今日午前中に映画の件、お母さんと話に行ったんでしょ?」
「うん。でも何故か思ったより揉めなかった。勿論皆さん苦い顔してたけど、何と言うか仕方ないね、とすんなり受け入れてくれてて。で、今回の映画出演を断る事で発生する違約金等はどうやら必要なさそうなの」
「そうなんだ」「うん。私もお母さんも、更に恩田さんもかなり緊張して行ったんだけどね。何か肩透かし食らった感じ」
ふーん。そんなもんなのかな? 勿論俺は契約の事とか詳しく知らないけど、主演女優が辞めるというのは、多分相当大変な事態だってのは何となく想像つくんだけど。
ま、上手くいったんならいいかな?
「とにかく今まだ準備中だけど、外は少し冷えるし中に入って待ってて」「う、うん。何かここ入るの久々だし緊張するな」
「ハハハ! ずっとここでバイトしてたのに?」「そ、そうだけど……みんなとも久しぶりに会うのも緊張するよ」
「ま、とりあえず自転車置いてきたら? 中で待ってるよ」「うん」
そう返事して慣れた様子で自転車を置きに行く柊さん。長い間ここでバイトしてたから当然だよな。俺はそれを笑顔で見送って先に中に入った。
続いてすぐにカランカラーン、と喫茶店の扉を開ける際の鐘が鳴る。そしてそこからそーっと遠慮がちに、柊さんが顔を覗かせた。
「こ、こんにちは~。お久しぶりで……」
と、柊さんが言いながら入ってきたのと同時に、安川さんがダッと飛び出し力いっぱいギューッと柊さんを抱きしめた。
「美久ー! 美久ーー! 美久ううぅぅぅ~~~!!!!」「ちょ、ちょっと明歩! 痛い痛い!」
「ああ~、美久の声だあ~、クンカクンカ……。ああ~美久の匂いだあ~、ああ~、これ美久のおっぱいだあ~。ああ~ん美久ぅ~」「あ、明歩、分かったから一旦離れよ?」
久々にご主人を迎える犬みたいに柊さんにまとわりつきながら、わんわん泣いきながらずっと美久美久言ってる安川さん。それを若干迷惑そうにしながらも、でもどこか嬉しそうな表情で、目に涙をためてる柊さん。そんな、二人が久々の再開を喜んでいる様子を、俺と雄介は準備をしながら微笑ましく見ていた。
「あ、三浦君も久しぶり」「おっす。柊さんも元気そうでなにより」
俺達の視線に気づいた柊さんが、同じく久々に会う雄介に笑顔で声をかける。安川さんにハグ、というか拘束されたままで。
「あの、……えっと。……そろそろ彼女をお返ししたいんだけど」「まあ暫くはそのままでいいんじゃね? 明歩本当に柊さんに会いたがってたしさ」
「いや、あの……、それは私もそうだし嬉しいんだけど、とにかく身動きできないの。物理的に」「ハハハ。安川さん、そろそろ一旦離れてあげて。柊さんマジで窒息しちゃうよ」
俺がそう安川さんに言うと、仕方ねぇなあ、と雄介が立ち上がって安川さんをやや力づくで引き離す。ああ~、美久~、と名残惜しそうに離れていく安川さん。……コントかよ。
そしてそんな様子を、俺達同様食事の準備をしながら、山本とマスターが微笑みながら見てる。更にその奥には遠慮がちにだけど、それでも安川さん同様、感極まってる綾邊さん。
「ああ! やはり美久様はお美しい! あの素敵な黒髪に黒い瞳。写真集では計り知れないその可憐な表情!」「……れなたんはいいのかよ」
「何言ってるのよ! れなたんは可愛らしい美しさ、美久様はまるで王女様のような可憐で麗しい美しさをお持ちなのよ。全く別物で別腹なの。分かってないわね」
「はいはい、どうせ俺は分かってねーよ。……だから色々理解したくて、こうやって付いてきてんだけどな」「何か言った?」
「なんでもねーよ」「変な飯塚君」
と、場違いな雰囲気を感じてるからか、落ち着かない様子ながらも綾邊さんに対しぶつくさ文句言ってる飯塚。そう。何故か飯塚もここにいる。多分あいつ、この喫茶店に来るの初めてのはず。そもそも俺達、殆どあいつと交流ないからね。
そう。実は俺達、バイトしてる喫茶店で柊さんお帰りなさいパーティを開催する事になった。今日喫茶店は定休日だったんで、俺がマスターに店を貸して欲しいってお願いした。当然俺達だけで食事とか全部用意して、後片付けも全部やるって言ったんだけど、マスターも久々に柊さんに会いたいから手伝うよ、と、貴重な休みを割いて出てきてくれたんだよな。
料理とかも全部マスターが用意してくれたのは本当申し訳なかったけど、マスターは私がやりたいだけだから気にしないで、と笑顔でそう言ってくれた。本当、マスター良い人だ。勿論俺達は出来る限り手伝ったけど。
柊さん関係するメンバー集めようってあれこれ声かけた結果、このメンツが集まった。まあ山本も一応関係ない事ないし。でもまさか飯塚まで来るとは思わなかった。まあだからか、俺達のいるところには来ないで奥の方の席で綾邊さんと二人でひっそり座ってんだろうけど。つか、何であいつ来たんだろ?
「……なあ雄介。お前が飯塚呼んだのか?」「まさか。どうやら綾邊さんについて来たみたいだぞ」
綾邊さんは安川さんが誘ったんだよな。て事は、飯塚は勝手についてきたって事か?
「ふーん。って事は……」「ま。まだ片思いみたいだけどな」
成る程ね。
俺と雄介がそんなやり取りしている間、マスターと山本が用意してた料理をテーブルに広げる。普段店では商品として提供してないアップルパイやガトーショコラまで用意されてる。すげぇ。マスターってスイーツもこんなに作れるんだ。マスターには本当感謝だな。当然腹も減るからピザやスパゲティといった食事もテーブルに並べる。これらは俺や安川さん、それに山本で作ったんだけどね。
ようやく落ち着いたっぽい安川さんが、柊さんの手をずっと握ったまま隣に座る。……いや安川さん、普通に考えたら雄介の隣だよね? そもそも何で俺を差し置いて隣りに座ってんの? 何か柊さんを獲られたみたいな錯覚を覚える。少し嫉妬してるし。柊さんは俺の彼女なんだぞ!
そんなちょっと百合っぽい雰囲気の二人をややジト目で見てると、その席に山本がお皿とかを並べる際、ふと柊さんと目が合うのが見えた。お互いハッとしてたけど、気まずそうにペコリと頭を下げてる。
ぎごちないながらも一応挨拶してる二人を見てホッとする俺。そもそも、今日のこのパーティに山本が参加した事にもびっくりしたんだよな。山本も安川さんが誘ったんだけど。
「ほらほら。安川さんもそろそろ手伝ってよ。綾邊さんと飯塚もそんな遠いとこにいないでこっち来いって」
俺がそれぞれにそう指示すると、安川さんがブーブー言いながら立ち上がり、綾邊さん達は渋々といった感じで柊さんが座ってる席の近くに座った。
「私も何か手伝おうか?」「柊さんはいいって。今日は主役なんだから」「そーそー! こういうのはたけっちーにさせときゃいいんだって!」
「……」「わ、わーってるよ! 冗談だから! やるっての!」
俺が目を細めたのを見て慌てて動き出す安川さん。さすがに本気でイラッとしてたのが伝わった模様。
そんな、みんなの色々な様子を、柊さんは何だか嬉しそうに見てた。
※※※
「えー、オッホン! では今日の主役、柊美久さんに一言喋って貰いましょー!」
と、何故か安川さんが司会進行を始める。まあ誰かがこうやってキッカケ作らないと進まないからいいけどさ。そして安川さんは柊さんを半ば無理やり傍らに立たせた。
指名され恥ずかしそうにおずおずと立ち上がり、俺達全員を見渡す柊さん。俺達は皆、ニコニコしながらその様子を見守ってる。飯塚だけは気まずそうだけど。マスターは俺達若い連中に気を使って一番奥の席に移動しながら、俺達同様、笑顔で見守ってた。
「え、えーと。みんな、今日はありがとう。まさかこんな事してくれるなんて思ってなくて。本当に嬉しいです。……学校を夏休み前に辞めてからずっと、映画の主役獲得のために日々東京でレッスンしながらも、高校時代過ごした日々がとても楽しかったから、ずっと懐かしんでた。会いたい人達にも会えず連絡もできず孤独で……。でも、それが私の運命なんだろうって勝手に思い込んでやってた。でも……」
色んな事を思い出しながら、または言葉を選びながらだろうか、時折天井を見上げながら語る柊さん。それを皆黙って聞いてる。
「ただ、自分が弱いだけだった。本当に自分のやりたい事って何だろう? 今私は自分の意志で芸能界に入ろうとしてるのかな? 言われるがままに動いているだけじゃない? って自問自答してたのに、行動できなかったんだから。結局、その場所から逃げてしまって、私の大事な人に迷惑をかけちゃった」
そう言ってから俺をチラリと見る。その視線に俺は小さく笑顔を返すと、柊さんも笑顔になった。
「そうやって迷惑かけて助けられて、運良く私は自分の枷から逃れる事ができた。実は私、両親と余り上手くいってなかったんだけど、それも昨日解決した。これからは自分のために頑張っていこうって決めた。こんな素敵なみんなが、こうやって素晴らしい会を開いてくれた事、心底感謝しています。本当にありがとう」
まるで決意表明のような言葉に俺を含めたみんなが盛大な拍手をした。柊さんは瞳を潤ませながら大きく俺達に向かって頭を深々と下げた。
「ささ! 飯食おう! 超腹減った!」「安川先輩、空気読まなすぎです」「山本の言う通り。安川さん言葉使いもひどすぎる」「明歩、それはさすがにどうかと思うぞ」
「美久~、みんながいじめる~」「あーもう! そうやってまたどさくさ紛れにくっつかないの!」
柊さんの悲鳴とも取れる大声に俺達は大笑いした。それと同時にお帰りなさいパーティがスタート。皆ビュッフェスタイルになってる料理やスイーツを各々取りに向かった。
「ふう。これでよし、と」
あの色々あった次の日の夕方五時半頃、俺はバイト先の喫茶店の扉に(貸切)の看板をかけた。もう十一月って事もあって、この時間なると結構暗い。西の方角を見ると地面の近くがオレンジ色に染まってる。街の灯りとのコントラストが幻想的に見えてきれいだなー、とその風景に見惚れてると、キキっと背中越しに自転車のブレーキ音が聞こえ、振り返ると柊さんが笑顔で俺を見ていた。
「柊さん。昨日はお疲れ様だったね」「武智君もね。昨日はありがとう」
気にしなくていいよ、と笑顔で柊さんに答えると、柊さんも笑顔になる。
「で、大丈夫だった? 今日午前中に映画の件、お母さんと話に行ったんでしょ?」
「うん。でも何故か思ったより揉めなかった。勿論皆さん苦い顔してたけど、何と言うか仕方ないね、とすんなり受け入れてくれてて。で、今回の映画出演を断る事で発生する違約金等はどうやら必要なさそうなの」
「そうなんだ」「うん。私もお母さんも、更に恩田さんもかなり緊張して行ったんだけどね。何か肩透かし食らった感じ」
ふーん。そんなもんなのかな? 勿論俺は契約の事とか詳しく知らないけど、主演女優が辞めるというのは、多分相当大変な事態だってのは何となく想像つくんだけど。
ま、上手くいったんならいいかな?
「とにかく今まだ準備中だけど、外は少し冷えるし中に入って待ってて」「う、うん。何かここ入るの久々だし緊張するな」
「ハハハ! ずっとここでバイトしてたのに?」「そ、そうだけど……みんなとも久しぶりに会うのも緊張するよ」
「ま、とりあえず自転車置いてきたら? 中で待ってるよ」「うん」
そう返事して慣れた様子で自転車を置きに行く柊さん。長い間ここでバイトしてたから当然だよな。俺はそれを笑顔で見送って先に中に入った。
続いてすぐにカランカラーン、と喫茶店の扉を開ける際の鐘が鳴る。そしてそこからそーっと遠慮がちに、柊さんが顔を覗かせた。
「こ、こんにちは~。お久しぶりで……」
と、柊さんが言いながら入ってきたのと同時に、安川さんがダッと飛び出し力いっぱいギューッと柊さんを抱きしめた。
「美久ー! 美久ーー! 美久ううぅぅぅ~~~!!!!」「ちょ、ちょっと明歩! 痛い痛い!」
「ああ~、美久の声だあ~、クンカクンカ……。ああ~美久の匂いだあ~、ああ~、これ美久のおっぱいだあ~。ああ~ん美久ぅ~」「あ、明歩、分かったから一旦離れよ?」
久々にご主人を迎える犬みたいに柊さんにまとわりつきながら、わんわん泣いきながらずっと美久美久言ってる安川さん。それを若干迷惑そうにしながらも、でもどこか嬉しそうな表情で、目に涙をためてる柊さん。そんな、二人が久々の再開を喜んでいる様子を、俺と雄介は準備をしながら微笑ましく見ていた。
「あ、三浦君も久しぶり」「おっす。柊さんも元気そうでなにより」
俺達の視線に気づいた柊さんが、同じく久々に会う雄介に笑顔で声をかける。安川さんにハグ、というか拘束されたままで。
「あの、……えっと。……そろそろ彼女をお返ししたいんだけど」「まあ暫くはそのままでいいんじゃね? 明歩本当に柊さんに会いたがってたしさ」
「いや、あの……、それは私もそうだし嬉しいんだけど、とにかく身動きできないの。物理的に」「ハハハ。安川さん、そろそろ一旦離れてあげて。柊さんマジで窒息しちゃうよ」
俺がそう安川さんに言うと、仕方ねぇなあ、と雄介が立ち上がって安川さんをやや力づくで引き離す。ああ~、美久~、と名残惜しそうに離れていく安川さん。……コントかよ。
そしてそんな様子を、俺達同様食事の準備をしながら、山本とマスターが微笑みながら見てる。更にその奥には遠慮がちにだけど、それでも安川さん同様、感極まってる綾邊さん。
「ああ! やはり美久様はお美しい! あの素敵な黒髪に黒い瞳。写真集では計り知れないその可憐な表情!」「……れなたんはいいのかよ」
「何言ってるのよ! れなたんは可愛らしい美しさ、美久様はまるで王女様のような可憐で麗しい美しさをお持ちなのよ。全く別物で別腹なの。分かってないわね」
「はいはい、どうせ俺は分かってねーよ。……だから色々理解したくて、こうやって付いてきてんだけどな」「何か言った?」
「なんでもねーよ」「変な飯塚君」
と、場違いな雰囲気を感じてるからか、落ち着かない様子ながらも綾邊さんに対しぶつくさ文句言ってる飯塚。そう。何故か飯塚もここにいる。多分あいつ、この喫茶店に来るの初めてのはず。そもそも俺達、殆どあいつと交流ないからね。
そう。実は俺達、バイトしてる喫茶店で柊さんお帰りなさいパーティを開催する事になった。今日喫茶店は定休日だったんで、俺がマスターに店を貸して欲しいってお願いした。当然俺達だけで食事とか全部用意して、後片付けも全部やるって言ったんだけど、マスターも久々に柊さんに会いたいから手伝うよ、と、貴重な休みを割いて出てきてくれたんだよな。
料理とかも全部マスターが用意してくれたのは本当申し訳なかったけど、マスターは私がやりたいだけだから気にしないで、と笑顔でそう言ってくれた。本当、マスター良い人だ。勿論俺達は出来る限り手伝ったけど。
柊さん関係するメンバー集めようってあれこれ声かけた結果、このメンツが集まった。まあ山本も一応関係ない事ないし。でもまさか飯塚まで来るとは思わなかった。まあだからか、俺達のいるところには来ないで奥の方の席で綾邊さんと二人でひっそり座ってんだろうけど。つか、何であいつ来たんだろ?
「……なあ雄介。お前が飯塚呼んだのか?」「まさか。どうやら綾邊さんについて来たみたいだぞ」
綾邊さんは安川さんが誘ったんだよな。て事は、飯塚は勝手についてきたって事か?
「ふーん。って事は……」「ま。まだ片思いみたいだけどな」
成る程ね。
俺と雄介がそんなやり取りしている間、マスターと山本が用意してた料理をテーブルに広げる。普段店では商品として提供してないアップルパイやガトーショコラまで用意されてる。すげぇ。マスターってスイーツもこんなに作れるんだ。マスターには本当感謝だな。当然腹も減るからピザやスパゲティといった食事もテーブルに並べる。これらは俺や安川さん、それに山本で作ったんだけどね。
ようやく落ち着いたっぽい安川さんが、柊さんの手をずっと握ったまま隣に座る。……いや安川さん、普通に考えたら雄介の隣だよね? そもそも何で俺を差し置いて隣りに座ってんの? 何か柊さんを獲られたみたいな錯覚を覚える。少し嫉妬してるし。柊さんは俺の彼女なんだぞ!
そんなちょっと百合っぽい雰囲気の二人をややジト目で見てると、その席に山本がお皿とかを並べる際、ふと柊さんと目が合うのが見えた。お互いハッとしてたけど、気まずそうにペコリと頭を下げてる。
ぎごちないながらも一応挨拶してる二人を見てホッとする俺。そもそも、今日のこのパーティに山本が参加した事にもびっくりしたんだよな。山本も安川さんが誘ったんだけど。
「ほらほら。安川さんもそろそろ手伝ってよ。綾邊さんと飯塚もそんな遠いとこにいないでこっち来いって」
俺がそれぞれにそう指示すると、安川さんがブーブー言いながら立ち上がり、綾邊さん達は渋々といった感じで柊さんが座ってる席の近くに座った。
「私も何か手伝おうか?」「柊さんはいいって。今日は主役なんだから」「そーそー! こういうのはたけっちーにさせときゃいいんだって!」
「……」「わ、わーってるよ! 冗談だから! やるっての!」
俺が目を細めたのを見て慌てて動き出す安川さん。さすがに本気でイラッとしてたのが伝わった模様。
そんな、みんなの色々な様子を、柊さんは何だか嬉しそうに見てた。
※※※
「えー、オッホン! では今日の主役、柊美久さんに一言喋って貰いましょー!」
と、何故か安川さんが司会進行を始める。まあ誰かがこうやってキッカケ作らないと進まないからいいけどさ。そして安川さんは柊さんを半ば無理やり傍らに立たせた。
指名され恥ずかしそうにおずおずと立ち上がり、俺達全員を見渡す柊さん。俺達は皆、ニコニコしながらその様子を見守ってる。飯塚だけは気まずそうだけど。マスターは俺達若い連中に気を使って一番奥の席に移動しながら、俺達同様、笑顔で見守ってた。
「え、えーと。みんな、今日はありがとう。まさかこんな事してくれるなんて思ってなくて。本当に嬉しいです。……学校を夏休み前に辞めてからずっと、映画の主役獲得のために日々東京でレッスンしながらも、高校時代過ごした日々がとても楽しかったから、ずっと懐かしんでた。会いたい人達にも会えず連絡もできず孤独で……。でも、それが私の運命なんだろうって勝手に思い込んでやってた。でも……」
色んな事を思い出しながら、または言葉を選びながらだろうか、時折天井を見上げながら語る柊さん。それを皆黙って聞いてる。
「ただ、自分が弱いだけだった。本当に自分のやりたい事って何だろう? 今私は自分の意志で芸能界に入ろうとしてるのかな? 言われるがままに動いているだけじゃない? って自問自答してたのに、行動できなかったんだから。結局、その場所から逃げてしまって、私の大事な人に迷惑をかけちゃった」
そう言ってから俺をチラリと見る。その視線に俺は小さく笑顔を返すと、柊さんも笑顔になった。
「そうやって迷惑かけて助けられて、運良く私は自分の枷から逃れる事ができた。実は私、両親と余り上手くいってなかったんだけど、それも昨日解決した。これからは自分のために頑張っていこうって決めた。こんな素敵なみんなが、こうやって素晴らしい会を開いてくれた事、心底感謝しています。本当にありがとう」
まるで決意表明のような言葉に俺を含めたみんなが盛大な拍手をした。柊さんは瞳を潤ませながら大きく俺達に向かって頭を深々と下げた。
「ささ! 飯食おう! 超腹減った!」「安川先輩、空気読まなすぎです」「山本の言う通り。安川さん言葉使いもひどすぎる」「明歩、それはさすがにどうかと思うぞ」
「美久~、みんながいじめる~」「あーもう! そうやってまたどさくさ紛れにくっつかないの!」
柊さんの悲鳴とも取れる大声に俺達は大笑いした。それと同時にお帰りなさいパーティがスタート。皆ビュッフェスタイルになってる料理やスイーツを各々取りに向かった。
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