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その百二十
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※※※
『もしもし? 悠斗そろそろ戻れそうかしら?』「……」
『ちょっと悠斗? 聞いてるの?』「……え? あ、ああ、聞いてる。柊さんも落ち着いたし戻れるよ」
『……今の間は何なのよ? まあいいわ。もう夜遅いし柊さんも帰らないといけないから、とりあえず戻ってきて』「りょ、了解」
そう返事して母さんからかかってきた電話を切る俺。
つか、タイミング悪いよ母さん。電話かかってきた時、柊さんが俺に「大好き」と言った後で、キスしてハグしてる最中だったんだから。俺、柊さんに大好きって言われ、ポーっと熱が出たかのようになっちゃってたんだよな。だってめちゃくちゃ嬉しかったから。柊さんも何だか恥ずかしそうにしてるけど、それでも俺に抱きついたまま離れようとしなかったし。だから現実に戻るのに少し時間がかかっちゃって、母さんの言葉にすぐ反応出来なかったんだよな。
つーか、柊さんからあんな風に言われるとこんなに嬉しいのか。人生で一番って柊さん言ってたけど、俺もそうかも。
「今の電話、武智君のお母さん?」「うん。もう遅いから帰ってきなさいって」
「……そうだね」
俺が母さんからの電話の内容を伝えると、どこか残念そうに下を向く柊さん。スマホで時間を見てみるともう夜九時前。確かにこれ以上遅くなるのは良くないだろうな。だって柊さん、K市に戻ってきたのは仕事のためで明日も忙しいだろうから。
「……帰りたくないな」
そう言いながら俺から離れた後すぐ、腕に絡みつく柊さん。その、何と言うか甘えたような言い方と仕草が可愛すぎて。……ヤバいな。超絶美少女の柊さんにこんな事されちゃったら、世の男共はきっと誰ひとり耐えられないだろう。しかも俺はこの超絶美少女の彼氏。こんな事して貰える特権は俺にしかないんだよなあ。
ヤバい。色々ヤバい。あ、今柊さん、上目遣いで俺を可愛く覗き込んだ。とても綺麗なやや切れ長の目と少し潤んだ瞳で。整った顔でとても綺麗な黒髪をなびかせながらのその表情。破壊力抜群だ。
こんな甘えた柊さん初めてだ。途轍もなく愛おしく感じてしまう。どうもさっき、俺に「大好き」って言った事で何かのタガが外れたのかも。……こんな柊さん見てたら、この超絶可愛い彼女と二人で、このままどこかに行ってしまいたい。そんな衝動にかられてしまう。
でも俺は、空手部で鍛えた気合と根性で揺れそうな気持ちを何とか振り切る。当然気持ちに流されてどこか二人で行くわけにはいかない。柊さんには仕事があるんだし、母さん達も心配するし。
「と、とにかく、一旦帰ろ?」「……」
「あ、あの、柊さん?」「……武智君ともうちょっと一緒にいたい」
そう言って更にギュッと俺の腕にしがみつく柊さん。その際柔らかい何かしらを腕に感じる。ヤバい。超可愛い。そしてその超絶綺麗な顔で、お願いするような上目遣い。こんなん抗うのキツいって。
でも俺は心を鬼にする。一旦夜空を見上げ目線を外し、そして柊さんに向き合う。
「俺も、俺も柊さんとずっとこのまま一緒にいたいけどさ、でも戻らないと。明日忙しいんでしょ?」「……」
「それに、恩田社長との今後についても、この機会に話したほうがいいと思うし」「……分かってる。分かってるよーだ」
そう言っていきなりツーンと俺の腕を離し、先にスタスタ歩いて公園を出ていく柊さん。……ありゃ、怒らせちゃったか。でも仕方ない。これでいいんだ。明日からの仕事の事もそうだけど、恩田社長が家にいる今の間、父さんと母さんがいるタイミングで、問題になってる事をキチンと恩田社長と話して終わらせとかないといけない。尾を引いてたら柊さんも辛いだろうし。
そりゃ俺だってずっと柊さんと二人きりでいたいよ。でもそれじゃ、柊さんのためにならないと思うから、気持ちを切り替えたんだし。
俺は公園から出て二人飲み干した空き缶を自販機に捨て、そして追いつこうといて柊さんの後を駆け足で追いかけると、先にスタスタ歩いてた柊さんは、俺の気配を感じたからか、立ち止まってほら行こ、と俺の手を取った。どうやら柊さんも割り切ったかな?
でも、二人で手をつないで家の前までたどり着くと、そこで柊さん尻込みしてしまった。中々家に入れない。まあ、あんな話聞いた後じゃ、どんな顔すりゃいいのか分かんないよな。しかも恩田社長に怒鳴って出ていってしまってるし。気まずいよなあ。
でも戻らなきゃ。俺は柊さんの手をグッと握り、「俺が傍にいるから」と伝える。柊さんはやや怖じ気ついたような感じだけど、覚悟を決めたような顔で小さくコクンと頷き、二人一緒に玄関に入った。
すると玄関には、恩田社長以外の見慣れない靴があった。こんな時間に誰か他に来客? しかも今、父さんと母さんが恩田社長と話してるってのに?
※※※
「……お、お母さん?」「み、美久」
リビングに柊さんが入った途端、二人して固まってる。……マジか。新たな来客はまさかの柊さんのお母さんだった。
「あら悠斗。柊さん。お帰りなさい」「お帰り。柊さん、どうやら落ち着いたようだね」
母さんと父さんがにっこり普通に挨拶してくる。俺は、お、おう、としか答えられず、柊さんも固まってたけど、ただいまです、と頭を下げ挨拶を返す。
いや本当、うちの両親マイペース過ぎるだろ。恩田社長と柊さんのお母さんの二人がいる状況で、何普通に挨拶出来んの? ある意味すげーよ。
「ま、とにかく二人共入って座ったら?」
母さんに誘われ、とりあえず俺と柊さんは横に並んでリビングの椅子に腰掛ける。それを見ていた柊さんのお母さんが、俺をキッと睨んだ。
「……あなたが、武智先輩の息子なのね。あなたがうちの美久をたぶらかしてたのね」「ちょ、ちょっと津曲。その言い方は今は止めといたほうが……」
何と恩田社長が柊さんのお母さんを制止する。あのいつも怒ってた恩田社長が。まあ俺の父さんと母さんが目の前だからだろうけど、その態度に驚きだよ。更に初対面の俺に対して、柊さんのお母さんが突然敵視してるような発言した事にも驚いた。
多分父さんと母さんが柊さんのお母さんをここに呼んだんだろうけど、とにかく俺は気になって二人に質問する。
「なあ父さん母さん。柊さんのお母さんにどんな話したの?」
「ああ。津曲……えっと、柊さんのお母さんには、まず恩田との関係について問い正した。結果、やっぱり恩田の言いなりになってて、柊さんの気持ちを考慮せず、全て恩田の指示通りにやってたって白状したんだよ」
「だから私達は、それで柊さん自身は幸せに見える? 娘である柊さんの意思を無視して、恩田の言いなりになってて良いわけないわよね? と、津曲に話してたところよ。他人の家族の事にあれこれ言うのもどうかと思ったんだけどね」
「そうですよ! 川端先輩の言う通り、私の家の事情にあれこれケチをつけないで貰えます? 全く。恩田さんから連絡があって来てみたら、まさか武智先輩と川端先輩に会うだなんて。お二人が結婚してた事も驚きだけど、まさかうちの娘がお二人の息子さんと付き合ってる? ……あーもう! 信じられない!」
そう言って柊さんのお母さんは大声を出してから腕を組み、ブスっとしてツーンとあっちを向いた。……結構感情的な人なんだだな、柊さんのお母さんって。でもやっぱり柊さんの親だけあって結構な美人だけど。
と言うかやっぱり柊さんのお母さん、俺と柊さんが付き合ってるの知らなかったんだな。で、今両親からそれを初めて聞いて怒ってるんだな。まあ確かに、芸能人にさせようとしてる娘に彼氏がいた、となったら腹も立つのは仕方ないかも。
「でもねえ津曲。今日柊さんがこうやって家から逃げ出してウチに来てるの、異常だと思わない? どうして柊さんは、久々に帰ってきた実家には戻らずウチにやって来たのよ?」「そ、それは……」
「それに、柊さんがこうやって家出たの、初めてじゃないんじゃない?」「え、ええ。前は確か……、安川とかいう派手なお友達のところに泊まったって連絡ありましたけど」
あ、それアレだ。柊さんが前に俺ん家泊まった時の話だ。そうやって嘘ついとけって母さんが柊さんに指示したんだよな。そこでこの話を出してくる辺り、本当母さんって策士……、いややり手だなあ。
「で、その時、柊さんが家に戻ってからは何て話したの? まさか頭ごなしに怒ったんじゃないわよね? 事情も聞かずに」
「……」
「あなた柊さんの前に子どもがいたそうじゃない。でもすぐお亡くなりになったらしいわね。柊さんから聞いたわよ。で、だからこそ、柊さんに対して過度なプレッシャーを与えてたんじゃない? 亡くなってしまったお子さんの分までも。その上恩田の言いなりになってたんなら、柊さんの居場所、家の中に無かったのは容易に想像できるわ」
「……」
ゆっくりと、諭すように話す母さんの言葉に、柊さんのお母さんは腕組みしてそっぽを向いてたのを止め、母さんに視線を合わす。母さんはその目をジッと見つめる。まるで、よく娘を見てみなさい、と言わんばかりに。
それを感じ取ったのか、柊さんのお母さんは俺の横に座ってる柊さんを見る。柊さんはもう泣きそうな顔になってた。
「……グス。ウウ……」「ひ、柊さん」
そこで、ずっと黙って母さんと柊さんのお母さんとのやり取りを聞いてた柊さんが、抑えきれず泣き出してしまう。柊さんのお母さんはそれを見て、何だか辛そうで悲しそうな顔になる。
「美久……。辛かったの?」「お、お母さん……グス」
ちょうど正面にいる柊さんに対し、柊さんのお母さんは、申し訳ないような、でも慈愛に満ちた優しい眼差しで柊さんを見つめる。
「……私、必死だったの。あなたには絶対幸せになってほしいって。亡くなったあなたの姉の分までもって。だから英才教育のつもりで、あなたの将来のためにと思って、キツい事沢山言ってきた。だけど中学の時初めて美久が荒れて、私もお父さんもどうしたらいいか分からなくなって。そこで美久の容姿なら、と、芸能プロダクションの社長をしていた恩田さんに連絡したの。後は……そうね。川端先輩の言う通り、ね」
グスグスと泣き続ける柊さんの手を、柊さんのお母さんはギュッと握った。その目には涙が溜まってる。
「……川端先輩の言う通り、自分の家に居場所がないなんておかしいわ。今日も荷物を纏めて私に会わず、逃げ出してるんだものね。……ううん違う。今日美久が帰ってきた時、私美久にキチンと挨拶さえしなかったわね。……そっか。私知らない間に美久を追い詰めていたのね」
今度は正面にいる柊さんの頭を優しく撫でる。柊さんはハッとして柊さんのお母さんを涙目で見つめた。そこで柊さんのお母さんの目から涙が頬を伝う。
「ごめんね、美久。お母さん間違ってたわ」「ウッ……ヒック、お、おかあさあああん!!」
堰を切ったように柊さんが大泣きする。柊さんのお母さんも、机越しに柊さんを抱きしめ、よしよしと言いながら同じく泣いていた。そして感化されちゃったのか、一緒に俺と父さん、そして母さんまでもが目頭を押さえてた。……恩田社長は何だか悔しそうな、辛そうな顔してただけだったけど。
『もしもし? 悠斗そろそろ戻れそうかしら?』「……」
『ちょっと悠斗? 聞いてるの?』「……え? あ、ああ、聞いてる。柊さんも落ち着いたし戻れるよ」
『……今の間は何なのよ? まあいいわ。もう夜遅いし柊さんも帰らないといけないから、とりあえず戻ってきて』「りょ、了解」
そう返事して母さんからかかってきた電話を切る俺。
つか、タイミング悪いよ母さん。電話かかってきた時、柊さんが俺に「大好き」と言った後で、キスしてハグしてる最中だったんだから。俺、柊さんに大好きって言われ、ポーっと熱が出たかのようになっちゃってたんだよな。だってめちゃくちゃ嬉しかったから。柊さんも何だか恥ずかしそうにしてるけど、それでも俺に抱きついたまま離れようとしなかったし。だから現実に戻るのに少し時間がかかっちゃって、母さんの言葉にすぐ反応出来なかったんだよな。
つーか、柊さんからあんな風に言われるとこんなに嬉しいのか。人生で一番って柊さん言ってたけど、俺もそうかも。
「今の電話、武智君のお母さん?」「うん。もう遅いから帰ってきなさいって」
「……そうだね」
俺が母さんからの電話の内容を伝えると、どこか残念そうに下を向く柊さん。スマホで時間を見てみるともう夜九時前。確かにこれ以上遅くなるのは良くないだろうな。だって柊さん、K市に戻ってきたのは仕事のためで明日も忙しいだろうから。
「……帰りたくないな」
そう言いながら俺から離れた後すぐ、腕に絡みつく柊さん。その、何と言うか甘えたような言い方と仕草が可愛すぎて。……ヤバいな。超絶美少女の柊さんにこんな事されちゃったら、世の男共はきっと誰ひとり耐えられないだろう。しかも俺はこの超絶美少女の彼氏。こんな事して貰える特権は俺にしかないんだよなあ。
ヤバい。色々ヤバい。あ、今柊さん、上目遣いで俺を可愛く覗き込んだ。とても綺麗なやや切れ長の目と少し潤んだ瞳で。整った顔でとても綺麗な黒髪をなびかせながらのその表情。破壊力抜群だ。
こんな甘えた柊さん初めてだ。途轍もなく愛おしく感じてしまう。どうもさっき、俺に「大好き」って言った事で何かのタガが外れたのかも。……こんな柊さん見てたら、この超絶可愛い彼女と二人で、このままどこかに行ってしまいたい。そんな衝動にかられてしまう。
でも俺は、空手部で鍛えた気合と根性で揺れそうな気持ちを何とか振り切る。当然気持ちに流されてどこか二人で行くわけにはいかない。柊さんには仕事があるんだし、母さん達も心配するし。
「と、とにかく、一旦帰ろ?」「……」
「あ、あの、柊さん?」「……武智君ともうちょっと一緒にいたい」
そう言って更にギュッと俺の腕にしがみつく柊さん。その際柔らかい何かしらを腕に感じる。ヤバい。超可愛い。そしてその超絶綺麗な顔で、お願いするような上目遣い。こんなん抗うのキツいって。
でも俺は心を鬼にする。一旦夜空を見上げ目線を外し、そして柊さんに向き合う。
「俺も、俺も柊さんとずっとこのまま一緒にいたいけどさ、でも戻らないと。明日忙しいんでしょ?」「……」
「それに、恩田社長との今後についても、この機会に話したほうがいいと思うし」「……分かってる。分かってるよーだ」
そう言っていきなりツーンと俺の腕を離し、先にスタスタ歩いて公園を出ていく柊さん。……ありゃ、怒らせちゃったか。でも仕方ない。これでいいんだ。明日からの仕事の事もそうだけど、恩田社長が家にいる今の間、父さんと母さんがいるタイミングで、問題になってる事をキチンと恩田社長と話して終わらせとかないといけない。尾を引いてたら柊さんも辛いだろうし。
そりゃ俺だってずっと柊さんと二人きりでいたいよ。でもそれじゃ、柊さんのためにならないと思うから、気持ちを切り替えたんだし。
俺は公園から出て二人飲み干した空き缶を自販機に捨て、そして追いつこうといて柊さんの後を駆け足で追いかけると、先にスタスタ歩いてた柊さんは、俺の気配を感じたからか、立ち止まってほら行こ、と俺の手を取った。どうやら柊さんも割り切ったかな?
でも、二人で手をつないで家の前までたどり着くと、そこで柊さん尻込みしてしまった。中々家に入れない。まあ、あんな話聞いた後じゃ、どんな顔すりゃいいのか分かんないよな。しかも恩田社長に怒鳴って出ていってしまってるし。気まずいよなあ。
でも戻らなきゃ。俺は柊さんの手をグッと握り、「俺が傍にいるから」と伝える。柊さんはやや怖じ気ついたような感じだけど、覚悟を決めたような顔で小さくコクンと頷き、二人一緒に玄関に入った。
すると玄関には、恩田社長以外の見慣れない靴があった。こんな時間に誰か他に来客? しかも今、父さんと母さんが恩田社長と話してるってのに?
※※※
「……お、お母さん?」「み、美久」
リビングに柊さんが入った途端、二人して固まってる。……マジか。新たな来客はまさかの柊さんのお母さんだった。
「あら悠斗。柊さん。お帰りなさい」「お帰り。柊さん、どうやら落ち着いたようだね」
母さんと父さんがにっこり普通に挨拶してくる。俺は、お、おう、としか答えられず、柊さんも固まってたけど、ただいまです、と頭を下げ挨拶を返す。
いや本当、うちの両親マイペース過ぎるだろ。恩田社長と柊さんのお母さんの二人がいる状況で、何普通に挨拶出来んの? ある意味すげーよ。
「ま、とにかく二人共入って座ったら?」
母さんに誘われ、とりあえず俺と柊さんは横に並んでリビングの椅子に腰掛ける。それを見ていた柊さんのお母さんが、俺をキッと睨んだ。
「……あなたが、武智先輩の息子なのね。あなたがうちの美久をたぶらかしてたのね」「ちょ、ちょっと津曲。その言い方は今は止めといたほうが……」
何と恩田社長が柊さんのお母さんを制止する。あのいつも怒ってた恩田社長が。まあ俺の父さんと母さんが目の前だからだろうけど、その態度に驚きだよ。更に初対面の俺に対して、柊さんのお母さんが突然敵視してるような発言した事にも驚いた。
多分父さんと母さんが柊さんのお母さんをここに呼んだんだろうけど、とにかく俺は気になって二人に質問する。
「なあ父さん母さん。柊さんのお母さんにどんな話したの?」
「ああ。津曲……えっと、柊さんのお母さんには、まず恩田との関係について問い正した。結果、やっぱり恩田の言いなりになってて、柊さんの気持ちを考慮せず、全て恩田の指示通りにやってたって白状したんだよ」
「だから私達は、それで柊さん自身は幸せに見える? 娘である柊さんの意思を無視して、恩田の言いなりになってて良いわけないわよね? と、津曲に話してたところよ。他人の家族の事にあれこれ言うのもどうかと思ったんだけどね」
「そうですよ! 川端先輩の言う通り、私の家の事情にあれこれケチをつけないで貰えます? 全く。恩田さんから連絡があって来てみたら、まさか武智先輩と川端先輩に会うだなんて。お二人が結婚してた事も驚きだけど、まさかうちの娘がお二人の息子さんと付き合ってる? ……あーもう! 信じられない!」
そう言って柊さんのお母さんは大声を出してから腕を組み、ブスっとしてツーンとあっちを向いた。……結構感情的な人なんだだな、柊さんのお母さんって。でもやっぱり柊さんの親だけあって結構な美人だけど。
と言うかやっぱり柊さんのお母さん、俺と柊さんが付き合ってるの知らなかったんだな。で、今両親からそれを初めて聞いて怒ってるんだな。まあ確かに、芸能人にさせようとしてる娘に彼氏がいた、となったら腹も立つのは仕方ないかも。
「でもねえ津曲。今日柊さんがこうやって家から逃げ出してウチに来てるの、異常だと思わない? どうして柊さんは、久々に帰ってきた実家には戻らずウチにやって来たのよ?」「そ、それは……」
「それに、柊さんがこうやって家出たの、初めてじゃないんじゃない?」「え、ええ。前は確か……、安川とかいう派手なお友達のところに泊まったって連絡ありましたけど」
あ、それアレだ。柊さんが前に俺ん家泊まった時の話だ。そうやって嘘ついとけって母さんが柊さんに指示したんだよな。そこでこの話を出してくる辺り、本当母さんって策士……、いややり手だなあ。
「で、その時、柊さんが家に戻ってからは何て話したの? まさか頭ごなしに怒ったんじゃないわよね? 事情も聞かずに」
「……」
「あなた柊さんの前に子どもがいたそうじゃない。でもすぐお亡くなりになったらしいわね。柊さんから聞いたわよ。で、だからこそ、柊さんに対して過度なプレッシャーを与えてたんじゃない? 亡くなってしまったお子さんの分までも。その上恩田の言いなりになってたんなら、柊さんの居場所、家の中に無かったのは容易に想像できるわ」
「……」
ゆっくりと、諭すように話す母さんの言葉に、柊さんのお母さんは腕組みしてそっぽを向いてたのを止め、母さんに視線を合わす。母さんはその目をジッと見つめる。まるで、よく娘を見てみなさい、と言わんばかりに。
それを感じ取ったのか、柊さんのお母さんは俺の横に座ってる柊さんを見る。柊さんはもう泣きそうな顔になってた。
「……グス。ウウ……」「ひ、柊さん」
そこで、ずっと黙って母さんと柊さんのお母さんとのやり取りを聞いてた柊さんが、抑えきれず泣き出してしまう。柊さんのお母さんはそれを見て、何だか辛そうで悲しそうな顔になる。
「美久……。辛かったの?」「お、お母さん……グス」
ちょうど正面にいる柊さんに対し、柊さんのお母さんは、申し訳ないような、でも慈愛に満ちた優しい眼差しで柊さんを見つめる。
「……私、必死だったの。あなたには絶対幸せになってほしいって。亡くなったあなたの姉の分までもって。だから英才教育のつもりで、あなたの将来のためにと思って、キツい事沢山言ってきた。だけど中学の時初めて美久が荒れて、私もお父さんもどうしたらいいか分からなくなって。そこで美久の容姿なら、と、芸能プロダクションの社長をしていた恩田さんに連絡したの。後は……そうね。川端先輩の言う通り、ね」
グスグスと泣き続ける柊さんの手を、柊さんのお母さんはギュッと握った。その目には涙が溜まってる。
「……川端先輩の言う通り、自分の家に居場所がないなんておかしいわ。今日も荷物を纏めて私に会わず、逃げ出してるんだものね。……ううん違う。今日美久が帰ってきた時、私美久にキチンと挨拶さえしなかったわね。……そっか。私知らない間に美久を追い詰めていたのね」
今度は正面にいる柊さんの頭を優しく撫でる。柊さんはハッとして柊さんのお母さんを涙目で見つめた。そこで柊さんのお母さんの目から涙が頬を伝う。
「ごめんね、美久。お母さん間違ってたわ」「ウッ……ヒック、お、おかあさあああん!!」
堰を切ったように柊さんが大泣きする。柊さんのお母さんも、机越しに柊さんを抱きしめ、よしよしと言いながら同じく泣いていた。そして感化されちゃったのか、一緒に俺と父さん、そして母さんまでもが目頭を押さえてた。……恩田社長は何だか悔しそうな、辛そうな顔してただけだったけど。
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