何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その百十七

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 ※※※

「柊さん。もう一度確認するけど、柊さんがお世話になってる社長って、恩田プロモーションの恩田佳代子、で間違いないわよね?」「え? は、はい。そうですけど……」

 戸惑いながら答える柊さんに対し、了解、と返事した後、母さんは自分のスマホを手にして柊さんから聞いた番号に電話をかけた。

 プルルルル……、と母さんのスマホから着信音が聞こえる。俺と柊さんは息を飲んで母さんの様子を窺ってる。

 結局柊さんは、恩田社長の連絡先を覚えてなくて、代わりに、何かあった時の為に、マネージャーの上杉って人の電話番号はメモで携帯してたらしく、それを母さんに伝えた。なので今母さんが電話してるのは、その上杉って言う人の電話だ。

「もしもし? ああ、初めまして。上杉さん、で宜しいですか?」『え? あ、はい。上杉は私ですが……』

「えーと。実はそちらで面倒見ておられる柊美久さん。うちであずかってるんです」『! み、美久が? そちらに?』

「きっと急に居なくなったから、捜索してるんじゃないかと」『は、はい! 仰る通りです! ずっと探してまして。……で、美久は無事なんですか?』

「ええ。物凄く元気ですよ。きっとそちらから逃げ出して来たのが良かったみたい」『……あの、失礼ですがおたくはどちら様?』

「ああ、ごめんなさい。名前言うの失念しておりました。私は川端と言います」『……川端さん? ですか? 美久とはどのようなご関係で? 何故そちらにいるんですか?』

「そうねえ。とりあえずに繋いで貰えるでしょうか? ああ、突然だと厳しいかしら? とにかく川端美代子から電話だって言えば分かると思いますので。あ、私の電話番号、そちらに表示されてますよね?  恩田がもし今忙しいなら、後ほどかけて貰っても構いません」

 と言って、母さんは電話を切った。それから俺と柊さんにニコっと笑顔を向け、さて、電話かかってくるまでの間にご飯の用意するか、と独り言を呟いてスマホをエプロンのポケットに入れ、キッチンに向かった。

 一連のやり取りを聞いてた俺と柊さんは二人してポカーンとしてしまってる。だけど少ししてから、柊さんが俺に質問してきた。

「……あの、武智君。川端って?」「えと、確か母さんの旧姓だったと思う」

 そ、そう。と、俺の回答を聞いても何の事か分からない、とった表情で返事する柊さん。いや俺もさっぱり意味が分からない。……母さんは何でわざわざ自分の旧姓で名乗ったんだろうか? しかも恩田って終始呼び捨てにしてたし。

「さて、と。夕ご飯は下ごしらえも楽ちんなハンバーグにするわね。柊さんも食べていってね」「え? で、でも……」

「いいからいいから。一人増えたところで変わらないから」

 ニッコリ微笑みながら普段通りな感じで夕飯の準備し始める母さん。……いやいや母さん? 何でいつもの調子なんだよ? こっちは色々驚いてんのに。 

 ※※※

 母さんが用意したハンバーグとサラダ、そして味噌汁に舌鼓を打ちながら、俺は何度も母さんに質問したけど、その度母さんは、いいからいいから、とニコニコしながら何も教えてくれなかった。柊さんも凄く気になってる様子だったけど、夕飯をごちそうになってる引け目からなのか、何も言わなかったけど。

 つーか、教えてくれてもいいじゃん。何で勿体ぶんの? 俺は母さんの態度に若干いらだちを感じながら、食べ終わった食器を片付けてると、そこでブブブ、と母さんのエプロンのポケットから振動音が聞こえてきた。母さんはスマホ画面を見て、かかってきたわよ、と俺と柊さんに伝え、そして何だかニヤリと悪い顔で嗤いながら電話をスピーカーにする。俺達に通話内容を聞かせたいようだ。一体どういう事なんだ? 

 とにかく俺と柊さんは、声を潜めつつ机の上に置かれたスマホを固唾を呑んで見つめる。母さんも席に座ってコホン、と咳払いしてからスマホに向かって話しかけた。

「もしもし? 川端ですけど」『あ、あの……。お、恩田……ですが。あ、あの、川端って、もしかして……』

「あらやっぱり。その声は間違いなく恩田ね。久しぶり。そうよ。あなたの想像してる川端で間違いないわ。どうやら仕事順調みたいね。良かったじゃない」『は、は、はい……。川端にそう仰って頂けるとは、光栄です』

 恩田社長が明らかに怯えた様子で話してるのを聞いて、俺と柊さんは驚いてついお互い目を合わせてしまった。何この弱そうな恩田社長? 本当にあの偉そうな自信たっぷりな恩田社長当人なのか? しかも今、川端(部長)、って確かに言ってたよね? 何の部長か分からないけど、とりあえず母さんと恩田社長は知り合いっぽい?

「何かしこまってんのよ。知らない間柄じゃないでしょ?」『い、いえ、そうなのですが。……と、ところで、あの、美久、柊美久がそちらでお世話になっていると伺いましたが、どうして川端部長のところに?』

「だって柊さん、私の知り合いだもの」『え? 川端部長の? それはまたどう言った関係で?』

「それがねえ、なんとうちの息子の彼女みたいなのよ」

 もうびっくりよねぇ、てな軽い感じでケラケラ笑いながらまるで世間話するように話す母さん。……あの、それ言っちゃ相当不味いんだけど? 何脳天気に笑ってんの? 柊さんも大きな口開けてびっくりしてるし。俺が心配そうな顔で母さんを見ると、小声で、いいから任せときなさい、とウインクする。……この人一体何者なんだよ? ただの俺の母さんじゃないのかよ?

 そして母さんの爆弾発言を聞いた恩田社長が、驚いたようで大声になる。そりゃそうなるよね。

『! か、かか、彼女!? い、いや、それはおかしいです。だって美久はもう、誰とも連絡をとれる状態じゃないはず。そもそも美久は、確か……』

「……連絡が取れない? それってどういう意味? ……まさか、柊さんのスマホ取り上げてんじゃないわよね?」『ヒェッ! い、いえ、そ、その……』

 恩田社長がなにか言いかけたところで、それを遮るようにドスの利いた低い声で母さんが質問する。ヤダこの人超怖い。俺の知ってる母さんじゃない。しかも今恩田社長に向かってお前って言った。間違いなく川端さん、いや、俺の母さん、恩田社長にお前って言った。

「あー、因みに私、大学卒業した後就職先で出会った人と結婚したのよ。だから川端は旧姓という事になるんだけど。因みに相手は誰だと思う? あの、武智正雄なのよ。恩田もよく知ってる、ね」『! と、という事は……。もしかして……』

「そうよ。恩田が学生の頃ストーキングしてた武智正雄の息子、武智悠斗が柊さんの彼氏なのよ」

 ※※※

「と、言うわけで、後でここに来るって。住所送ったからナビ見て来るみたいだけど、それでも一時間くらいはかかるみたいね」

 と、スマホの電源を切り、開いた口が塞がらない俺と柊さんに気さくな感じで伝える母さん。

「「……」」

 で、そんな普段通りの母さんに対し、俺と柊さんは微動だにできないと言うか、全く反応できない。と、言うわけで、ってどういうわけだよ? さっぱり意味が分かんねぇ。

「ん? どうしたの? 二人揃ってぽかーんとして」

 キョトンとしてる母さんに、俺と柊さんは「「いやいやいやいや」」と揃ってツッコむ。

「そりゃぽかーんとするだろ? つか母さん! どういう事か説明してくれよ! 何で母さんがあんな偉そうに恩田社長に話出来んの?」

「え? だってアイツ、私の後輩だから」

「「後輩?」」

 俺と柊さんがハモって驚く。

「ええそうよ。高校の時の部活の後輩。私と恩田は高校の頃、バレー部に所属してたのよ。ついで、父さんもね。勿論父さんは男子バレー部だったけど。で、私と父さんが結婚して暫くしてから、恩田が芸能事務所を立ち上げて、それから有名になっていったのも知ってたのよね。まさかあの恩田が社長やってるなんてねぇ、って父さんと良く話してたものよ」

「「……」」その衝撃的な事実に、またも俺と柊さんはぽかーんとしてしまう。いや、確かに父さんと母さんがバレー部だったのは聞いた事あったよ? でもまさか、恩田社長の先輩だなんて思うわけ無いじゃん。つーか凄い偶然だな本当。

 そこで、柊さんがそっと手を挙げる。……その仕草可愛い。じゃなくて、母さんに質問するみたいだ。

「……あの。さっき恩田さんが、ストーキングしてたって、仰ってませんでした?」「ええ、そうなのよ。正直、余り思い出したくない過去なんだけどね……。あら、お父さん帰ってきたみたいね。丁度良かった」

 説明しようとしたところで、外の気配を察知した母さんがそう言うと、確かに家の駐車場に車を入れる音が聞こえてきた。そして玄関のドアを開ける音と同時に、ただいま、と父さんの声が聞こえてきた。

「母さん、誰かお客さんかい? 玄関に靴が……って、おお、柊さんじゃないか」「あ、お邪魔してます」

 父さんがリビングに入るやいなや、柊さんを発見し驚いた声をあげ、それと同時に柊さんがガタっと立ち上がってお辞儀をした。

「久しぶりだねえ。テレビ観たよ。凄いねえ。……なあ悠斗。サイン貰っていいかな? どうかな?」「……本人目の前にいんのに俺に聞く意味あんの?」

「いやだって、サイン欲しいって直接本人に言うの恥ずかしいだろ?」「いやそれ、既に隣に本人に聞こえてるし」

 そりゃそうか! とワハハと笑う父さんと、釣られて笑ってる母さん。ついで柊さんもクスクス笑ってる。……いやまあ、ほのぼのしてんのはいいけどさ、何でうちの父さんと母さんはこんなにマイペースなの? 緊張してる俺がバカみたいじゃん。

 そして今日は母さん特製のハンバーグかあ、 と何やらご機嫌な様子で声を上げながら、自分で冷蔵庫にビールを取りに行く。……柊さんいるのにいつもと変わらない父さん。何だか呆れてしまう。まあでも無駄に気使うよりかはいいかもね。その方が柊さんもリラックス出来るだろうし。

「あ、お父さん。柊さんがいてご機嫌なところ恐縮だけど、実はこれから来客なのよ。しかも余り会いたくないだろう人が来るのよ」「……ん? 誰だ?」

「……恩田よ、恩田」「え? 恩田って、あの、高校の時の後輩の? 何でまた?」

 父さんがご機嫌だったのは柊さんがいたからなのかよ。つか、さすが夫婦。母さんだからこそ気づけたんだろうな。それはともかく、父さんは恩田社長の名前を聞いた途端、顔色が変わる。

 そこで母さんは掻い摘んで父さんに説明する。それを聞いた父さんは、せっかく取り出したビールを冷蔵庫に戻した。

「そういう事なら、酒は飲まない方が良いな」「そうね。後で晩酌付き合ってあげるわ」

 ありがとう、とにっこり笑顔で母さんに答える父さん。

「あの……。事態が余り飲み込めてないんですけど、私のせいで色々ご迷惑おかけしてしまったみたいですみません」

「良いのよ。これも何かの縁よ。きっと意味があると思うの。だってこんな偶然あり得ないから」「そうそう。まさかあの恩田の名前がここで出てくるなんてね。そもそも俺も母さんも、そして恩田も同郷だけどK市じゃないんだよ。だから奇跡的な偶然だって事だし、何やら困ってるなら当然協力したいしね」

 そう、柊さんを気遣うように話す両親に対し、柊さんは有難う御座います、と恐縮しながら頭を下げた。

 そこでピンポーン、と家のチャイムが鳴る。

 来た来た、と母さんが玄関に向かう。俺と柊さんはとにかく緊張した面持ちでリビングの席に座ったまま待つ。父さんもどこか緊張してるような雰囲気だけど、一応お茶の準備しとくか、と言いながら立ち上がってキッチンに向かった。

 ……これからどんな話になるのか、全く想像がつかないけど、もうこうなったらなるようにしかならない。俺は腹をくくって恩田社長を待った。






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