何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その百十三

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※※※

 玲奈から聞いた衝撃の事実。

 まさかあのオバちゃん……、もとい恩田社長がそこまでするなんて。

 まだたけっちーの事を引きずってる玲奈は、アタシを信頼してこの話をする、と言ってくれた。この話をする事で罪悪感を消したい、たけっちーへの想いは本物だったから、騙してる気持ちが許せないからって。

 玲奈は自分の生い立ちから話し始めた。この歳で一人暮らししてるから何か事情はあるんだろうなあとは思ってたけど、でもまさか、母子家庭だっただけじゃなく、母親が連れてきた男に襲われかけた、なんて事があったなんて。それから逃げて家出して途方に暮れ、思い切って売りをしようとして声をかけた人が、たまたま日向っていう、アタシが連れ去られたあの小屋に、恩田社長と一緒に来た男の人だったそうで。

 結局売りはせず日向って人に助けてもらい、最初は色々面倒見て貰ってたけど、そのうちユーチューバーやって稼げるようになってから日向って人に借りてたお金を完済して、身の回りの事は全て自分でできるようになるまで自立したんだって。この子凄い。年下なのに。アタシなんて両親いて家もあるところでぬくぬくと育ってるってのに。

 そしてある日、その日向って人から依頼され、たけっちーを誘惑するためここK市に引っ越してきたんだと。その時はまだたけっちーの彼女が美久だって知らなかったらしいけど。結局言われた通り誘惑してたら、玲奈がたけっちーに惚れちゃった、という。

「ハハハ。こんな突拍子もない話、信じられないですよね?」「……」

 私バカみたいな事言ってますよね、と自虐のコメントを呟きながら問いかける玲奈に対し、返事できないアタシ。

「……安川先輩?」「え? ああ、信じるよ」

「へ? こんなあり得ない話信じるんですか? どこまで純粋なんですか?」

 驚きながら呆れた顔する玲奈に対し、アタシは真面目な顔で答える。

「だってアタシ、恩田社長知ってるもん。会った事あるし。ついで玲奈が言ってた日向さんも知ってる」

「……は?」今度は玲奈が何言ってるんですか? ってな顔をする。……という事は、玲奈にはアタシがこの二人と面識ある事、その日向って人は伝えてないんだ。

 アタシはおもむろにスマホを取り出し、恩田社長と表示された連絡先を見せる。それを見た玲奈は驚いた顔をする。

「ま、日向さんの連絡先は知らないけどね」「……どうして、安川先輩が恩田社長の電話番号を?」

 信じられないといった顔をする玲奈。こりゃややっぱり何も聞かされてないっぽい。ま、アタシの事話するなら、も説明しないといけなくなるかも知れないもんね。

 今度はアタシが恩田社長との繋がりと、今まで何があったか説明した。勿論、拉致された件についても。

「……」玲奈は表情が固まってしまい、何も言えないようだった。そりゃ驚くよね。まさかたけっちーと美久以外に恩田社長と関わってる人間が自分の先輩で、しかも恩田社長の策略のせいでアタシが拉致されたって聞かされちゃ。

 そこで、ブブブ、とアタシのスマホが突如振動する。画面を見ると、ママだ。どしたんだろ?

「もしもし?」『もしもしじゃない! あんたどこほっつき歩いてんの? 何時だと思ってんのよ! 今日は雄介君とこ行くって言ってなかったでしょ!』

 ママの怒りの声を聞いてからスマホで時間を確認すると、ゲッ! もうすぐ午前一時じゃん!

「ごっめーん! こんな遅くなってるとは思ってなくて。バイト先の後輩と話してたら遅くなっちゃって」『ならせめて連絡してきなさい! 心配するでしょ!』

 そして何度も電話口で謝るアタシ。それを見てる玲奈がクスクス笑い出す。……そうだ。

「ママ、アタシ今日、このまま後輩ん家泊まるわ」

 そう言った途端、玲奈の顔が え? ってなってた。そりゃそうだ。だって今決めたし。

 ※※※

「わー超キレイじゃん! 思ったより広いねー」「……」

 マジだ。この人本当に私の家に泊まる気だ。いやまあ別に良いんだけど、何この急展開? そもそも安川先輩、お泊りする準備してないよね? 今さっき急に決めてたもんね? 

「何そんなとこに突っ立ってんの? ほら入りなよ」「……いやここ私の家なんですけど」

 玄関で呆然と立ってる私を一人置いて、勝手に先々中に入って興味深そうにあちこち見てる安川先輩。ある意味凄いなこの人。

「わー! 凄い大きなパソコン! ヘッドセットもあるじゃん! シートも革製で超カッコいいし!」「あーそれ一応仕事道具です……って、その部屋も入っちゃうんだ」

 その部屋は私がユーチューバーする時に使う別室。そしてその周辺は触られると困るものも置いてるから、私は急いで玄関から中に上がり、安川先輩の元に行く。まあ一応、気を使って何一つ触ってないみたいだけど。でもさっきからキョロキョロ物珍しそうに見てる安川先輩、ちょっと可愛いかも。

 触らないでくださいね、と釘を差し、ふう、と一息ついてお風呂のお湯を貯めに行ってから、マスターに作って貰ったオムライスをレンチンする。それから私は制服からパジャマ代わりのスウェットに着替える。

「安川先輩ー! ちょっとこっち来て下さーい」「あいあーい」

 ずっとハイテンションな先輩を呼び、もう一着取り出したスウェットを渡す。

「制服シワになっちゃいますから、これに着替えて下さい。寝る時もそれでお願いします。ちょっと小さいかも知れませんけど」特に胸の辺りが。と言いかけたところで止めた。虚しいから。まあスウェットだし大丈夫だと思うけど。そもそも私だってそんな小さい方じゃないんだから。……明らかに負けてるけど。

「ちょうどリビングのソファがベッドに変わるタイプなんで、今日はここで寝てくださいね」「何から何までごめんねー」

 てへぺろしながら笑う先輩。確かに半ば無理やり押しかけてきたけど、でもまあ、正直余り迷惑だとは思ってなくて、寧ろありがたいとさえ感じてたりする。

「まあ、一人だと沈んじゃってたので、来て貰って良かったかもです」「そっかそっか。じゃあ遠慮しない」

「……少しは遠慮してほしいですけど。そう言えば下着とかはないですよ? 特に胸のサイズ違いすぎるから私のは貸せませんし」「それは大丈夫! 今日偶然体育あったんだけど、先生の都合で授業自体無くなったから、替え持ってきてたんだよねー」

 そう言いながらエッヘン、と豊満な胸を張る先輩。本当、この人スタイルいいなあ。こんな胸大きいのにウエストくびれてるし足細いし。そりゃ三浦先輩も夢中になるよね。顔も結構美人だし。

 まあ、だから恩田社長に目をつけられちゃったんだろうけど。確かに安川先輩ほどのビジュアルとキャラなら、芸能界でやっていけそう。

「ま、当然寝る前に色々話するっしょ? ガールズトークってやつ」「はあ……。まあでも、既に一時半ですからそんなに話せないんじゃないですか?」

「なーに言ってんの! 今日はオールっしょオール!」「それは嫌です」

 何でよ-、と安川先輩が抗議してるところでレンジがチーンと鳴った。私は台所へ移動しオムライスをお皿に移す。ついで冷蔵庫の中の、前買って置いてあったケーキを取り出し用意する。それからお湯を沸かしコーヒーと紅茶を淹れ机に持っていった。

 安川先輩はありがとー、と屈託のない笑顔でケーキとコーヒーを受け取りリビングの椅子に座る。私も安川先輩の対面に座って、早速オムライスにスプーンを入れた。うーん、やっぱ美味しい。

「ま、玲奈とこうやってキチンと話したかったんだよね」「でも余り遅くまでは勘弁して下さいね。そう言えばさっき、なんで謝ってたんですか?」

 私が大泣きしてた時、安川先輩がずっと私の傍でごめんごめんと言ってたのが気になってたんだよね。安川先輩はフォークを止め、真面目な顔になる。

「だって玲奈は、アタシの大事な後輩だから。本当は、玲奈の恋も応援したかった。でもやっぱり、美久の事は裏切れない。特にあの子は今一人ぼっちで頑張ってるから、万が一たけっちーを失っちゃったら、その途端、あの子崩れ落ちちゃう。だから、アタシの中で美久とたけっちーとの恋を優先しちゃった。だから、それについて申し訳ないって思ったんだよ」

 そしてもう一度ごめん、と頭を下げる先輩。……正直だなあ。黙ってれば良い事なのに。別に言う必要ないのに。

「そっか。……私の恋は始まってさえ無かった、て事だったんですね」

「ううん、それは違う。そもそも、玲奈の気持ちが本気だったのは分かってたし。バイトで一緒に働いてる時、たけっちーの事をずっと目で追ってたの知ってるし。塾に一緒に行ってた事だって、きっとたけっちーとの関係を何とかしたいって思いからだったって分かってるし。アタシも雄介と付き合えない頃、とにかく必死だったから玲奈の気持ちがよーく分かる。アタシはラッキーな事に成就したけど、上手く行かない時のショックも容易に想像できるから」

「……ハハ。そんな事言われちゃったら、私また泣いちゃいます」

「玲奈はタイミングが悪かった。運も無かった。それだけ。でもそれで結果が出てしまうのが恋だから」

「ハハ……グス。だから……ヒック。そんな、事、ウウ……」

 オムライスのデミグラスソースの上にポタポタと落ちる私の雫。それを見た安川先輩は私の傍に移動し肩をギュッと抱きしめた。それがスイッチのように、私はそこで声を上げて泣いてしまう。安川先輩は力になれなくてごめん、と何度も小さく呟きながら、そのまま私を抱きしめ続けた。

 
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