何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その百十ニ

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 ※※※

「……はあ」

 今はバイト先の喫茶店の閉店作業の途中。そして、後片付けをしながらずっとため息を吐いてる私。

 今日は武智先輩はバイト休みで、安川先輩とマスターで相変わらず忙しい店内を切り盛りしてたんだけど、休憩の合間スマホ見たら、武智先輩からl『買い物には行けない』、とlineで先日私が強引に約束した件の返事が来てた。

 武智先輩の意思はともかく、こうやってはっきり拒否された事が凄くショックで、スマホ見た後はずっと落ち込んでる。当然そんな私の気持ちなど関係なく、お客さんはひっきりなしにやってきてたから、物凄く忙しくしてたんだけど。

 でも、忙しいほうが気が紛れて良かったかも。武智先輩の事考える暇なかったから。今もし、一人っきりになったら、私また……。

「あ、山本さん。外を片付けてる安川さん呼んできて貰えるかな? そろそろ外の電気消すから」「あ、は、はい」

 気持ちが落ちそうになってたところで、不意にマスターから声をかけられビクッと反応してしまう。それを誤魔化すように、私はそそくさと安川先輩を呼びに外に出た。

 ヒュウゥ、と強めの風が吹く。喫茶店内はお客さんの熱気がまだ残ってて薄着だったから、つい寒さを感じて身震いしてしまう。何だか私の悲しい気持ちとシンクロしたような、変な感覚を感じてしまう。

 ……淋しいな。

「あ、玲奈ー? どしたのー?」「え? あ、は、はい! 安川先輩呼びに来たんです。マスターが中に入ってくれって」

 了解ー、と陽気に挨拶しながら、安川先輩はほうきとちりとりを片手に、外に出してた電飾看板を店内にしまう。私も寒いので急いで後に続いた。途端、パッと外の照明が消える。

「マスター。外の掃除オッケー」「ありがとう、安川さん。山本さんももう上がっていいよ。賄いも既に用意してあるから」

 ありがとうございます、とお礼を言った後、安川先輩と一緒に更衣室に向かう。その間も私はずっとため息が出てしまう。

「……玲奈、何か元気ない?」「え? あ、ハハ。そう見えちゃいます?」

「そりゃあいつもは小生意気で元気だからね-」「小生意気は余計な気がします」

「寧ろ小生意気が玲奈の最大の特徴っしょ」と笑いながら私の後頭部をチョップする安川先輩。……はあー、安川先輩は三浦先輩とラブラブだし、こんな感じで幸せいっぱいなんだろうなあ。羨ましい。

 それから安川先輩は着替えた後、スマホを取り出し眺め始める。どうせまた三浦先輩からのlineでもチェックしてるんだろうな。ふんふふ~ん、とか鼻歌聞こえるし。そんな事考えつつ私も着替えてたら、急に安川先輩、鼻歌止めて真剣な顔になった。どうしたんだろ?

「ねえ玲奈。今日一緒に帰ろっか」「え? あ、はい。いいですよ……って、いつも途中まで一緒に帰ってるじゃないですか」

「あ、そうだった。でも今日はちょっと話したいからさ。いつもより長めに。ね?」「はあ……」

 何か神妙な顔してる安川先輩。気になるけど、とりあえず一緒に帰るならその際聞いてみればいいか。

 そして私はマスターから夜食の賄いが入ったタッパを受け取る。今日はオムライスみたい。マスターのオムライス、特製のデミグラスソースが美味しいんだよな。私はありがとうございます、と再度お礼を言い、そしてそのままお疲れ様でした、と挨拶して自転車置き場に向かった。

 そして、先に待ってた安川先輩と自転車を押して歩きだす。話があるみたいだから自転車にはまだ乗らないみたい。

「で、話ってなんです?」「……さっき雄介からlineがあった」

 はあ、と私は返事する。彼氏さんの三浦先輩から連絡があった、だから何なんだろう?

「雄介、たけっちーから美久……、えっと、たけっちーの彼女について相談受けたんだって」「……そうですか」

 そこでふう、と安川先輩は一呼吸置いてから、何だか覚悟するような口調で話す。

「それで、たけっちーはもう、気持ちの整理がついたから、多分ぶれないって」

「それって……」

 ぶれない、という事は、武智先輩はもう他の女子に目を向ける事はない、という事、だろう。

 って事は、もう、武智先輩は……。

「そう……です、か」「……うん」

 理解したくない気持ちと、理解しなければいけない現実との狭間に混乱したような、たどたどしい私の呟きに対し、言葉少なに返事する安川先輩。

 ……そっか。武智先輩は柊美久とは、……離れない。と、いう、事……か。

「ウウ……。グス……」

 もう耐えられなくなって、自転車のハンドルを持ったままその場に座り込み泣いてしまった。その様子を見た安川先輩が自転車を止め、慌てて私の元に駆け寄る。

「ごめん。ごめんね玲奈。玲奈にとってキツいの分かってる。でも、こういう事って早めに知っといた方が良いって思ったから」

 それから何度もごめん、ごめん、と言いながら私の体を抱きしめる。

 ……止めてよ。安川先輩。そんな優しくされちゃったら私、もう、抑えられないよ。

「グズ……、ウウ……。うわあああーーん!!」

 夜遅い街のとある道すがら、私は堰を切ったように大声で泣き喚いた。まるで赤ん坊のようにただひたすら。その間、安川先輩は何も言わず、ずっと私を抱きしめてた。何故か頬から涙を流しながら。

 ※※※

「ヒック……。グズ。ごめんなさい」「いいっていいって」

 そう言って安川先輩は、近くの自販機で買ってきたホットのミルクティーを差し出してくれる。私はまだ嗚咽が止まらないので、ペコリと頭だけ下げそれ受け取った。

 あれから三十分は経っただろうか。私は安川先輩の豊満な胸の中でずっと泣き続けてた。その間安川先輩は何も言わず、ただ私が泣いているのを黙って抱きしめてくれてた。その温かさが、優しさが嬉しかった。

 だけど、それは安川先輩の贖罪のような気がした。だって涙を流しながら何度もごめん、と謝ってたから。

 今は二人で道の隅に自転車ごと移動してる。通行の邪魔になるかも知れないから。まあこの時間帯、この辺りは殆ど人通らないんだけど。

「どう? 落ち着いた?」「……はい。ご迷惑おかけしました」

「これくらい気にすんなって」「安川先輩って時々男前ですよね」

「男前って……。まあでもアタシどっちかってーと男っぽい性格かも」「アハハ。分かります」

 ようやく笑ったね、と安川先輩も笑顔を返す。笑えたけど、でもまだ胸の奥は苦しい。カラ元気って感じかも。

 そこでビュウゥ、と強めの風が二人の間を吹き抜ける。突如来たその風を感じ、つい私達は首をすぼめてしまう。

「さすがに十月だと夜は寒いね-」歯をカタカタさせ震えながらやや無理やりな笑顔を向ける安川先輩。早く帰ればいいのに、きっと私を一人にできないって思って付き合ってくれてるんだ。

 安川先輩の優しさに感謝しながら、私も同様に寒さに震えるのを感じたので安川先輩から貰ったホットミルクティーをすする。薄い湯気が空に昇っていき消えるのを何となく見ていると、安川先輩も自分のホットコーヒーを飲んでふう、と一息ついてる。

 ほんのりと二人の白い息が空に上っていく。もう季節は十月。後少ししたら冬になる。クリスマスがあるんだよなあ。恋人達が幸せになれる時。あ、でもその前に十一月には文化祭か。これも高校生はこの機会に告白したりするんだよね。

 ……その、文化祭には柊美久が来るらしい。クリスマスはもしかしたら、武智先輩は柊美久と過ごすのかも。……ああダメだ、そんな事考えちゃったら、また胸が苦しくなってきて泣けてきちゃう。だから私は、このK市に来た理由を話してみようと思った。気が紛れると思ったし、こんなに親身になってくれる安川先輩なら信用できるから。

 そもそも、内緒にしろ、なんて言われてなかったしね。

「……えっと、安川先輩。私今から告白します」「……え?」

 驚いた顔して私から距離を取る安川先輩。……あ。何か勘違いしちゃったっぽい。

「あ、いやいやそうじゃなくて」やや引きつった顔した安川先輩を諭すようにそう伝えるも、それでも警戒して近づこうとしない。せっかくかなり大事な話しようとしてるのに、何だかその態度が気に入らなくてイラッとしてしまう。

「……あのですねえ。つい今さっき失恋したからといって、いきなり百合に走りませんから。そもそも安川先輩、相手いるじゃないですか。もう相手いる人はこりごりです」「あ、そう? なら良かった」

 若干引きつった笑顔でそう答える安川先輩。全く、失礼だなあ。

「で、玲奈何言おうとしたの?」気を取り直して質問する安川先輩。私はその様子を見てからふう、と息を吐く。ちょっと緊張するから。だって誰にも言ってない事だし。まあでも、そもそも信じてもらえるかどうか分かんないけど。でも安川先輩には本当の事を言っておきたくて。

「実は私、とある人から武智先輩を誘惑するよう、言われたんです」

 そう言った途端、安川先輩、真剣な顔に変わった。


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