何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その百八

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「「……」」

 いきなりの事で、俺はつい身動きが取れなくなり言葉が出てこない。温かい体温が山本を通じて感じる。女の子特有の甘い香りが、無駄に俺をドギマギさせてしまう。抱きついてる山本も俺の体に腕を回したまま、胸に頭を密着させ、ただじっとしてる。

 でも俺はすぐ正気に戻り、ゴチン、と山本の頭を軽くげんこつで叩いてやった。「いったーい!」と叫びその場で頭頂部を抑えうずくまる山本。

「何するんですかー!」「いや、それは俺のセリフだろ。何でいきなりそんな事するんだよ?」

「何で先輩に抱きついちゃったのかって? 何となくですよ」そう言いながらイテテ、と呟きつつ頭を擦りながら立ち上がる山本。いや、何となく抱きつくなんてあり得ないだろ。

「でも、私みたいな超絶美少女にハグされて嬉しかったでしょー?」今度はニヒヒと、どこか小馬鹿にするような態度で笑いながら俺に詰め寄る山本。だけど俺はそそくさと距離を取る。また密着されると困るから。

「警戒しすぎです」「そりゃするだろ。つか何のつもりだ? それにさっき言ってた事、どういう意味だよ?」

 もっと沢山会える女の子の方が良くないですか? って、どういう意図でそんな事言ったんだよこいつ?

「さあ? 何なんでしょうねー」だけど俺の質問をはぐらかしつつ、フフ、っといたずらっぽく笑う山本。そしてそのまま停めてあった自分の自転車の元まで戻り、今日は一人で帰ります、と言い残して、そのまま跨がって勝手に行ってしまった。

「え? おい……」突然の山本の行動に、俺は何も言えずその場にポツンと一人取り残されてしまう。

 ……一体何なんだ? 訳分かんねえ。

 でもまあ、山本が一人で帰るならさっさと帰ろう、と、俺も少し冷静になってきてから、自転車に跨り一人家に向かった。

 ……未だ山本が抱きついてきた体温が、俺の体に残ってるように感じてる。何だか胸が熱いし。

 何がしたかったんだあいつ? あんな思わせぶりな事言いやがって。しかもいきなり抱きついてきて。……勘違いするところだったじゃねーか。

 そこでふと、以前安川さんが、山本は俺に気があるんじゃないか、と言ってたのを思い出す。でも、俺に彼女いるの知ってるのにそんな想い抱くはずは……、ない、よな?

 ※※※

「キャーーーー!! やらかしたーーーー!」

 つい我慢できずに大声で叫んじゃう私。勿論、武智先輩といたところから全速力で自転車を漕ぎ、ある程度離れてからだけど。

 てか、ヤバいヤバいヤバイ! めっちゃ恥ずかしい! つい気持ちが盛り上がっちゃってやり過ぎたー!

 今の私の顔はきっと恥ずかしさで真っ赤っ赤だ。自転車を力一杯立ちこぎしてるからじゃないはず。だって男の人にあんな事したの初めてだもん! 元々男の人苦手で怖いって思ってたんだから。

 あーもう私、何であんな思わせぶりな事言っちゃったんだろう? 何であんな大胆な事しちゃったんだろう? 

 ああそっか。私、武智先輩に私を見て欲しくなっちゃったんだ。武智先輩に触れたくなっちゃったんだ。

 あんな事になったキッカケは分かってる。彼女からの電話があるから夜電話するの止めてくれって言われたからだ。きっと私、嫉妬しちゃったんだ。だから普段の私ではあり得ない、あんな大胆な事しでかしたんだ。

 だって、家に帰っても私は家族いないから家には誰もいなくて、特に夜はすごく寂しくて。だから武智先輩の声を聞く事だけが、今の私の唯一の幸せだったから。それがダメになった事が……辛くて、悲しかったんだ。そして柊美久の事が羨ましくて妬ましくなったんだ。

 そりゃあ、武智先輩の優しさに甘えてたのは分かってるけどさ。

 あーもう! 武智先輩にアプローチするにはまだ早いはずなのに! 冷静に考えれば今じゃないの分かってるのに! 

 ……でも、悔しかったんだもん。私だけを見てほしかったんだもん。

 何か、そう顧みたら気分が落ちてきた。全力でこいでた疲れも出てきて、自転車のスピードもトーンダウンする。

 東京で見た茶髪ボブの黒縁メガネが柊美久だって事は知ってた。武智先輩の彼女が柊美久だって事も。安川先輩と武智先輩の前では初めて知ったような演技してたけど、改めて言われると、ギュッと胸が掴まれるような苦しさを感じてしまって。

「……理性より感情が動いちゃった、って事か」

 キコキコと自転車をゆっくり漕ぎながら答えを見つける私。これが恋してるって事なんだろうな。でも、今はこの気持がとても煩わしい。とても邪魔だ。こんな想いしなければ、私は今、苦しい気持ちじゃなくて済んだのに。

「……いいなあ。柊美久。私も武智先輩に想われたいよ」

 信号待ちとなり自転車を止め、つい呟いちゃう私。そう考えると、今度は凄く悲しくなってきて、涙が出そうになった。いけない。周りに人いるのに泣いちゃダメだ。私はその気持をぐっとこらえ、目元を拭う。

 ……でも、武智先輩の体温、初めて感じちゃった。それはそれでラッキーだったかも?

 今度は武智先輩にハグした事を振り返り、ちょっと嬉しくなってしまう。ああもう、忙しいなあ恋ってやつは! 悲しんだり喜んだり! でも、私はすぐに首をフルフルと横に振り、その甘い気持ちを振り払う。

 武智先輩とはまだまだ距離がある。もしかしたら、今日の私の言葉と行動で、以前より変に意識されるかも知れない。更に、さっき先輩達が話してたけど。、文化祭のある十一月に柊美久が戻ってくるらしい。もしそこで柊美久と武智先輩が出会っちゃって、更に関係が強固になっちゃったら、せっかくの今のこの状態が無駄になる。

「それまでに、もっと頑張ってアピールして、私が武智先輩の彼女になれるよう頑張らないと」

 一時的な甘い気持ちにほだされてる場合じゃない。柊美久がいない今のうちに何とかするんだ。

 そうだ。私がやろうとしてるのは略奪愛だ。……って、ちょっと大げさかな?

 しかしまあ、元々は恩田社長と日向さんに言われて、武智先輩を誘惑するって話だったのに、まさか私が惚れちゃうなんてね。でも、あの柊美久が惚れた相手なら、私が惚れるの無理ないのかも?

「そうだ。そうだよ。私くらいの超絶美少女が好きになるなんて贅沢なんだから。武智先輩にはその辺りも分かってもらわないと!」

 フンス、と拳を作り気合を入れ、信号が青になったタイミングで自転車を漕ぎ出す私。

 今はまだ成就しない恋だけど、できる限り頑張ろう! 

 ※※※

 ブブブ、とスマホがバイブしたのに気づき、画面を確認すること無く速攻出る俺。

『……えっと、もしもし?』「柊さん?」

『エヘヘ。武智君だ。そう、柊美久だよ』「柊さんだぁー! あーもう本当久々だね。声聞けて良かったぁ」

 俺はつい喜びいっぱいの声をあげてしまう。それを聞いた柊さんが電話口で笑ってる。

『ウフフ。私だって。ずっと武智君の声聞きたかったんだから。だから明歩に一週間以内、って言ってたけどすぐかけちゃった』

 そう嬉しそうに電話口で話す柊さんの上ずった声を聞き、俺もついアハハと笑ってしまう。

『元気してた?』「ああ、元気だよ。空手はとっくに引退したけど、今はバイトと塾で忙しくしてるけどね。そういや安川さんから聞いたよ。柊さん十一月に帰ってくるんだって? しかも俺達の高校の文化祭に出るって?」

『そう。映画のプロモーションを、文化祭に便乗してやる事になったの』「じゃあもしかしたら、その時会えるかな?」

『……そうなるといいんだけど。実家に帰る時間くらいは取れるかも知れないけど、自由時間がまだ不明で……。恩田さんは地元に戻るの猛反対だったから、そんな時間もらえるかどうか。監督に言われちゃって拒否できないから渋々引き受けたって感じだったし』

「じゃあ、うまく抜け出さないといけないのか」

『しかも私のスマホ、未だ取り上げられてて、そっちに戻ったからと言って返してもらえるか分からないし』

 そっか。柊さんが帰ってくると聞いてテンション上がってたけど、会えるかどうかは微妙なんだな。

『でも、きっと何とかしてみせる。だって久々に武智君に会いたいから。こんなチャンス二度と無いと思うから』「うん。俺も柊さんに会いたい。だから、何かできる事があったら教えてほしい。協力するから」

 うん、と元気な声で嬉しそうに返事する柊さん。とりあえず元気そうでホッとする。しかし本当、こうやって話するだけでも心躍ると言うか、嬉しくなる。やっぱ彼女っていいなあ。

『ところで何でずっと電話繋がらなかったの? 私ずっと寂しかったんだけど?』「え? あ、それは……」

 柊さんがちょっと怒ったような、それでいて可愛くおどけた感じで質問してきたけど、返答に困る俺。やましい事はしてないけど、ずっと山本から電話がかかってきてたから、と、言っていいものかどうか……。

『……どうしたの? 私に言えない理由とか?』「いや。そういうわけじゃないんだけど……」

『あ! いけない! 上杉さんが出てきちゃった! ごめん切るね!』「あ……」

 俺が返答に困ってると、柊さんはそう言って一方的にガチャリと電話を切ってしまった。

「……」

 静かになった自分の部屋のベッドに大の字になって寝転がり、天井を黙って見つめる。

 ……言えなかった。別に、悪い事はしてないから正直に言えばよかったのに。でも、山本からの電話のせいだと言ってしまうと、柊さんに余計な心配かけてしまうんじゃないか? そう思ったから。

 いや違う。それは逃げだ。俺にとって都合のいい言い訳だ。本当は怖かったんだ。山本とは勿論一切何もないけど、今は距離があるしメールとかで連絡が取れないから、変な誤解をされて怪しまれて、関係が壊れるのが嫌だったんだ。

「勝手な奴」自分の事を蔑みコツンと軽くげんこつで自分のおでこを小突く俺。

 それから少しして、ピコン、とスマホ画面に文字がポップアップされる。山本からのlineだ。内容は『お休みなさい。明日は塾一緒ですね』という他愛もない言葉と何かのキャラのスタンプ。確かに電話はするなとは言ったけど、lineはダメだとは言ってないからなあ。

「でも、安川さんの言う通り、しっかりしないとな」

 あいつが高校生ながら一人暮らししてて、夜は寂しくしてるから、ずっと毎晩俺に電話してきてたのは知ってる。だから無下に山本を拒絶するのもはばかられるけど、安川さんが言ってた通り、優先すべきは柊さんだ。山本にもキチンと話して理解してもらおう。

「……つか、結局今日のアレが何だったのか、分からずじまいだな」

 安川さんの予想通り、俺に気があるのか? でも、俺の事好きなのか? なんて質問できるわけないし。

「考えたって分からない事は考えても仕方ないよな」

 俺は多忙だったバイトの疲れに負け、そのまま眠りについた。
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