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その百三
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※※※
「おい……。あそこだ。あのツインテールの」「うっわ、マジだ。超可愛い」
「あの柊先輩がいなくなったと思ったら、また新たな超絶美少女がやってくるなんてな」「おうよ。俺らここの高校生の生徒っての、ある意味ツイてんなぁ」
……そうやって遠目で私を見て騒いでるだけって、あんた達それでいいの? まあでも、言い寄って来ても受け入れるわけじゃないんだけど。
九月に入り暫く経った。二学期からの中途転校という、珍しいタイミングも相まって、私の噂は同学年を中心に一気に広まったみたいで、ああやってクラス以外の男子生徒も、教室の外から覗きに来るようになってる。まあ、ああいうのは前の学校でも経験してたから慣れてるし、ああいう奴らって私に声かける勇気もなく、ただ見てるだけってのも知ってるから、またか、て感じで余り気にしてない。
で、私が座る席の周りには男女混合色んな子達が集まってる。全員クラスメイト。当然みんな初対面。別に私が招集したわけじゃなく勝手に集まってきてる。理由? 多分私が可愛いからじゃない?
「でさあ、山本さんってどんな男がタイプ?」「それだけ可愛いんだから理想高そうよねぇ」
女子生徒の二人が楽しそうに質問するけど、何でそんな事聞きたいんだろ?
「うーん、やっぱ頼りがいのある男らしい人、かなあ?」
と、当たり障りない回答をする。無視して剣が立つのも良くないからね。そう答えたらいきなり取り巻きの二人の男の子が身を乗り出す。
「あ、あのさ! 俺ラグビー部の時期主将候補でさ。三年生で前まで主将だった飯塚先輩のお墨付きなんだぜ?」
「お、俺だって! ほら、山本ってマネージャーだから、空手部の俺の事知ってるよな! 俺だって時期主将の可能性あるって事も」
そうやってアピールしてくるその二人。はあ。正直ウザいし興味ない。でもだからといって顔には出さない。私はニッコリ作り笑顔だけ二人に返す。すると二人揃って顔真っ赤にして押し黙る。……こういう体育会系は大抵ウブだっての、知ってての対応だけどね。
つーか私、早まっちゃったなあ。武智先輩って三年生なんだから、夏休みの大会終わったらそりゃ辞めちゃうよね。でも今更、自分から強引に顧問の先生に言ってマネージャーになった手前辞めるわけにもいかないし。まだマネージャーになってから一月くらいしか経ってないし。
……武智先輩、県の大会で優勝してた。最後雄叫びを上げ拳を天に突き上げ喜びを爆発させてるのを見た途端、胸の奥がドクンと大きく跳ねるような感覚を感じた。こんなの初めて。それから何だか、暫くは武智先輩の顔、見れなくて。
それから武智先輩が引退して寂しいって思ったんだけど、バイト先にはいるから、いつも行くのが楽しみになっちゃった。そして一緒に働いてて気付いた事。武智先輩って、お客さんだけじゃなく、私や安川先輩、それにマスターにまで、普段から気遣いしてるのがよく分かった。
あんな強いのに優しくて、そして気遣いが出来て、しかもバイトと塾、更に部活と全てこなすがんばり屋さん。
「はあ……」
机に頬杖を付きため息が出る。そうやって武智先輩の事を考えると嬉しかったり、寂しかったりする。変に胸が騒がしい。こんな気持ち初めて。男って気持ち悪いものだって、お母さんが連れてくる奴ら見てたから知ってるのに、同じ男なのに、武智先輩に対しては、そうは思えなくて。
「……ん?」あ、そうだ。ふと想いにふけっちゃったけど、未だ私の周りには人だかりになってたんだった。でも、皆して私を赤い顔してぼーっと見てる。
「どうしたの?」
「え! あ、い、いや……」「え、えと……。その」
私の質問に男連中は何故かどもってる。察した女の子達が笑いながら説明してくれる。
「みんな見惚れちゃってたの」「山本さん、そういう儚げな顔すると、めちゃくちゃ可愛いよね」
何だそれ? 心の中でツッコミながら呆れる私。……そっか。そういや私って可愛いんだよね。なら、何とかなる……、かな?
※※※
「なあ綾邊よぉ~。もういい加減そういうのはやめねーか?」「うるさいわね。飯塚君には関係ないでしょ?」
「い、いや、関係ない、というか……。ほ、ほら俺と綾邊って柊美久のファンクラブ部長と副部長だったじゃねーか。だからほっとけないっていうかさ」「もうファンクラブは無くなったわ。だから飯塚君との関係もおしまいでしょ」
私がそう言うと、何だかショックを受けたような顔する飯塚君。それでものそのそと私の後をついてくる。彼も夏休みが終わってからラグビー部を引退し、これからは受験か就職に向けて本格的に行動する時期。それは私もなんだけど、今はそれどころじゃない。
今朝、武智と三浦から、空手部のマネージャーをやってる後輩の山本さんが、どうやら私の崇拝するれなたんじゃないかって聞いて、私は居ても立ってもいられなくなってしまった。もしそうなら、美久様に続いて、と、とと、とも、も、友達になって貰うのよ!
そして出来れば、れなたんファンクラブを立ち上げて……、あ! き、来たわ! ど、どうしよう? ああ、忘れてた! 私、コミュ障だったあ!
「い、飯塚君! ほ、ほら、あそこ!」「俺との関係が終わりとか言うなよ……、って、何が?」
「ほ、ほら! きっとあの子よ! ツインテールの超可愛い子!」「え? あ、ああ。れなたん、だっけ? 俺はそれより……」
「それより大事な事なんてないでしょう! ほら、さっさと行ってきて!」「へ? 行ってきてってどこに?」
「飯塚君がコンタクトするのよ! 私コミュ障だから無理なの!」
ええ~、とすごく嫌そうな顔をする飯塚君。だけど渋々ながら彼はれなたんであろう、山本さんの元へでかい図体でのっしのっしと歩きながら山本さんの元へ向かう。そしてどうやら飯塚君は、彼女に声をかけたみたい。ここからじゃ二人の声は聞こえないけど、その体の大きさに驚いたのか、山本さんはビクってなって、その後二人で何か話してる様子は伺える。
「ふわあ! き、来ちゃった! こっち来ちゃった!」どうやら飯塚君は山本さんを呼び止める事に成功したみたいで、二人で私の元にやってきてしまった。
「おい。呼んできたぞ」「グッジョブ! 飯塚君!」
サムズアップで答える私と、その横に怪訝な顔をした超絶美少女。……うわあ、この子。めちゃくちゃ可愛い。美久様のような凛とした美しさとはまた違った、可愛らしさ満載の雰囲気だけど。
「あ、あの! れ、れなたんですか!」「……」
テンパりながら私が聞くも、無言のまま私を睨む山本さん。……え? 私何か怒らせる事したっけ?
「どうしてその名前知ってるんです?」「え? だって私、あのユーチューブのチャンネル登録してるし、毎回楽しみにしてるから。あのMMOもれなたんに会いたくてやってたので」
私がテンションアゲアゲ状態でそう話すと、山本さんはにらみながら私にズイっと近づく。……あれ? これ、確実に怒ってる?
「学校生活に支障をきたすかも知れないから、そのハンドルネームを出すの、止めてもらえます? あと私がユーチューバーだって事も誰にも言わないでください。言ったらブロックしますから」
「えええ!? ブロックは嫌ああ!」「じゃあ言うとおりにして下さい」
は、はいい~、と言いながら私はそこで崩れ落ちる。そうよね。知られちゃ困るわよね。私つい嬉しくてコンタクトしちゃったけど、考えたら迷惑な話かも。
「……ごめんなさい」「分かればいいです。……はあ、でもまさか、この学校に私の事を知ってる人がいたなんて。有名になり過ぎちゃったのかなあ?」
「そ、そりゃ、れなたんは超有名人じゃないですか!」「それはユーチューブ内での話。こんな進学校なら尚更、あんなMMOの動画配信、興味ない人の方が多いと思いますよ? テレビじゃあるまいし」
「それは俺も同意だな。俺、れなたんとか知らなかったからな」そう言って傍にいた飯塚君がガハハと笑う。そんなものなのかしら? でもその飯塚君の反応を見た山本さんがムッとする。
「これでもその界隈では有名人なんですよーだ」そう言って飯塚君にあっかんべーし、山本さんはその場から去っていこうとする。
「あ! 山本さん! ま、待って!」「……まだ何か?」
「あ、あの、そ、そ、その、よ、良かったら……」「……山本と友だちになりたいんだとよ」
言いにくいところをフォローしてくれた飯塚君。さすが元副部長。あ、ラグビー部では部長だけど。でも山本さんは、え~、とあからさまに嫌な顔をする。
「先輩達とは何の接点もないじゃないですか。友達になるって言われても」
「んじゃ、これからたまに会って話したりするくらいならどうだ? 実は綾邊……、ああ、こいつの名前なんだが、コミュ障でよ、山本に声かけるのもかなり勇気いったみたいでな」
「……はあ。それで?」
「普通は友だちになってくれって言って友達になるもんじゃないのは分かってんだけど、その苦労は分かってやってほしいんだ。なあ、頼むよ」
そう言われても、と困った顔してる山本さん。……そりゃ困るわよね。赤の他人がいきなり内緒にしておきたいハンドルネーム知ってて、しかも友達なってくれって言われたら。
と、私は山本さんに謝って引き下がろうとしたところで、玄関口の方から誰か歩いてきた。
「お? あれ飯塚じゃね?」「おー本当だ。夏休み中あいつも部活に来てたはずなのに、全然見かけなかったな……。って、綾邊さんもいるじゃん」
武智と三浦だ。私は屋上での事を思い出し、山本さんに接触してるのが何だか恥ずかしくなって急いでその場から離れようとしたところで、山本さんが突如、ぱあ、と顔を明るくした。
「武智先輩! 今帰りですか?」「おー。山本もいたのか」「……おい山本。俺もいるんだが?」
「三浦先輩は安川先輩とイチャイチャしてたらいいんですよ。武智先輩、今日もバイトでしたよね? 一緒に行きましょう!」
そう言って山本さんは武智の横にピタっとくっついて外に歩き出していった。それを見てがっくりうなだれる私。そんな私の肩をポンと叩いて励ましてくれる飯塚君。
「ま、武智や三浦と仲いいってわかりゃ、今後もチャンスはあるんじゃねーか?」「そ、そうだといいけど」
「つか、それより山本って……」「え? 何?」
いや、何でもねぇ、と言葉を濁す飯塚君。何よ? 気になるじゃない。
……あ! れなた……、いや、山本さんと連絡先交換出来なかったああああ!!!
「おい……。あそこだ。あのツインテールの」「うっわ、マジだ。超可愛い」
「あの柊先輩がいなくなったと思ったら、また新たな超絶美少女がやってくるなんてな」「おうよ。俺らここの高校生の生徒っての、ある意味ツイてんなぁ」
……そうやって遠目で私を見て騒いでるだけって、あんた達それでいいの? まあでも、言い寄って来ても受け入れるわけじゃないんだけど。
九月に入り暫く経った。二学期からの中途転校という、珍しいタイミングも相まって、私の噂は同学年を中心に一気に広まったみたいで、ああやってクラス以外の男子生徒も、教室の外から覗きに来るようになってる。まあ、ああいうのは前の学校でも経験してたから慣れてるし、ああいう奴らって私に声かける勇気もなく、ただ見てるだけってのも知ってるから、またか、て感じで余り気にしてない。
で、私が座る席の周りには男女混合色んな子達が集まってる。全員クラスメイト。当然みんな初対面。別に私が招集したわけじゃなく勝手に集まってきてる。理由? 多分私が可愛いからじゃない?
「でさあ、山本さんってどんな男がタイプ?」「それだけ可愛いんだから理想高そうよねぇ」
女子生徒の二人が楽しそうに質問するけど、何でそんな事聞きたいんだろ?
「うーん、やっぱ頼りがいのある男らしい人、かなあ?」
と、当たり障りない回答をする。無視して剣が立つのも良くないからね。そう答えたらいきなり取り巻きの二人の男の子が身を乗り出す。
「あ、あのさ! 俺ラグビー部の時期主将候補でさ。三年生で前まで主将だった飯塚先輩のお墨付きなんだぜ?」
「お、俺だって! ほら、山本ってマネージャーだから、空手部の俺の事知ってるよな! 俺だって時期主将の可能性あるって事も」
そうやってアピールしてくるその二人。はあ。正直ウザいし興味ない。でもだからといって顔には出さない。私はニッコリ作り笑顔だけ二人に返す。すると二人揃って顔真っ赤にして押し黙る。……こういう体育会系は大抵ウブだっての、知ってての対応だけどね。
つーか私、早まっちゃったなあ。武智先輩って三年生なんだから、夏休みの大会終わったらそりゃ辞めちゃうよね。でも今更、自分から強引に顧問の先生に言ってマネージャーになった手前辞めるわけにもいかないし。まだマネージャーになってから一月くらいしか経ってないし。
……武智先輩、県の大会で優勝してた。最後雄叫びを上げ拳を天に突き上げ喜びを爆発させてるのを見た途端、胸の奥がドクンと大きく跳ねるような感覚を感じた。こんなの初めて。それから何だか、暫くは武智先輩の顔、見れなくて。
それから武智先輩が引退して寂しいって思ったんだけど、バイト先にはいるから、いつも行くのが楽しみになっちゃった。そして一緒に働いてて気付いた事。武智先輩って、お客さんだけじゃなく、私や安川先輩、それにマスターにまで、普段から気遣いしてるのがよく分かった。
あんな強いのに優しくて、そして気遣いが出来て、しかもバイトと塾、更に部活と全てこなすがんばり屋さん。
「はあ……」
机に頬杖を付きため息が出る。そうやって武智先輩の事を考えると嬉しかったり、寂しかったりする。変に胸が騒がしい。こんな気持ち初めて。男って気持ち悪いものだって、お母さんが連れてくる奴ら見てたから知ってるのに、同じ男なのに、武智先輩に対しては、そうは思えなくて。
「……ん?」あ、そうだ。ふと想いにふけっちゃったけど、未だ私の周りには人だかりになってたんだった。でも、皆して私を赤い顔してぼーっと見てる。
「どうしたの?」
「え! あ、い、いや……」「え、えと……。その」
私の質問に男連中は何故かどもってる。察した女の子達が笑いながら説明してくれる。
「みんな見惚れちゃってたの」「山本さん、そういう儚げな顔すると、めちゃくちゃ可愛いよね」
何だそれ? 心の中でツッコミながら呆れる私。……そっか。そういや私って可愛いんだよね。なら、何とかなる……、かな?
※※※
「なあ綾邊よぉ~。もういい加減そういうのはやめねーか?」「うるさいわね。飯塚君には関係ないでしょ?」
「い、いや、関係ない、というか……。ほ、ほら俺と綾邊って柊美久のファンクラブ部長と副部長だったじゃねーか。だからほっとけないっていうかさ」「もうファンクラブは無くなったわ。だから飯塚君との関係もおしまいでしょ」
私がそう言うと、何だかショックを受けたような顔する飯塚君。それでものそのそと私の後をついてくる。彼も夏休みが終わってからラグビー部を引退し、これからは受験か就職に向けて本格的に行動する時期。それは私もなんだけど、今はそれどころじゃない。
今朝、武智と三浦から、空手部のマネージャーをやってる後輩の山本さんが、どうやら私の崇拝するれなたんじゃないかって聞いて、私は居ても立ってもいられなくなってしまった。もしそうなら、美久様に続いて、と、とと、とも、も、友達になって貰うのよ!
そして出来れば、れなたんファンクラブを立ち上げて……、あ! き、来たわ! ど、どうしよう? ああ、忘れてた! 私、コミュ障だったあ!
「い、飯塚君! ほ、ほら、あそこ!」「俺との関係が終わりとか言うなよ……、って、何が?」
「ほ、ほら! きっとあの子よ! ツインテールの超可愛い子!」「え? あ、ああ。れなたん、だっけ? 俺はそれより……」
「それより大事な事なんてないでしょう! ほら、さっさと行ってきて!」「へ? 行ってきてってどこに?」
「飯塚君がコンタクトするのよ! 私コミュ障だから無理なの!」
ええ~、とすごく嫌そうな顔をする飯塚君。だけど渋々ながら彼はれなたんであろう、山本さんの元へでかい図体でのっしのっしと歩きながら山本さんの元へ向かう。そしてどうやら飯塚君は、彼女に声をかけたみたい。ここからじゃ二人の声は聞こえないけど、その体の大きさに驚いたのか、山本さんはビクってなって、その後二人で何か話してる様子は伺える。
「ふわあ! き、来ちゃった! こっち来ちゃった!」どうやら飯塚君は山本さんを呼び止める事に成功したみたいで、二人で私の元にやってきてしまった。
「おい。呼んできたぞ」「グッジョブ! 飯塚君!」
サムズアップで答える私と、その横に怪訝な顔をした超絶美少女。……うわあ、この子。めちゃくちゃ可愛い。美久様のような凛とした美しさとはまた違った、可愛らしさ満載の雰囲気だけど。
「あ、あの! れ、れなたんですか!」「……」
テンパりながら私が聞くも、無言のまま私を睨む山本さん。……え? 私何か怒らせる事したっけ?
「どうしてその名前知ってるんです?」「え? だって私、あのユーチューブのチャンネル登録してるし、毎回楽しみにしてるから。あのMMOもれなたんに会いたくてやってたので」
私がテンションアゲアゲ状態でそう話すと、山本さんはにらみながら私にズイっと近づく。……あれ? これ、確実に怒ってる?
「学校生活に支障をきたすかも知れないから、そのハンドルネームを出すの、止めてもらえます? あと私がユーチューバーだって事も誰にも言わないでください。言ったらブロックしますから」
「えええ!? ブロックは嫌ああ!」「じゃあ言うとおりにして下さい」
は、はいい~、と言いながら私はそこで崩れ落ちる。そうよね。知られちゃ困るわよね。私つい嬉しくてコンタクトしちゃったけど、考えたら迷惑な話かも。
「……ごめんなさい」「分かればいいです。……はあ、でもまさか、この学校に私の事を知ってる人がいたなんて。有名になり過ぎちゃったのかなあ?」
「そ、そりゃ、れなたんは超有名人じゃないですか!」「それはユーチューブ内での話。こんな進学校なら尚更、あんなMMOの動画配信、興味ない人の方が多いと思いますよ? テレビじゃあるまいし」
「それは俺も同意だな。俺、れなたんとか知らなかったからな」そう言って傍にいた飯塚君がガハハと笑う。そんなものなのかしら? でもその飯塚君の反応を見た山本さんがムッとする。
「これでもその界隈では有名人なんですよーだ」そう言って飯塚君にあっかんべーし、山本さんはその場から去っていこうとする。
「あ! 山本さん! ま、待って!」「……まだ何か?」
「あ、あの、そ、そ、その、よ、良かったら……」「……山本と友だちになりたいんだとよ」
言いにくいところをフォローしてくれた飯塚君。さすが元副部長。あ、ラグビー部では部長だけど。でも山本さんは、え~、とあからさまに嫌な顔をする。
「先輩達とは何の接点もないじゃないですか。友達になるって言われても」
「んじゃ、これからたまに会って話したりするくらいならどうだ? 実は綾邊……、ああ、こいつの名前なんだが、コミュ障でよ、山本に声かけるのもかなり勇気いったみたいでな」
「……はあ。それで?」
「普通は友だちになってくれって言って友達になるもんじゃないのは分かってんだけど、その苦労は分かってやってほしいんだ。なあ、頼むよ」
そう言われても、と困った顔してる山本さん。……そりゃ困るわよね。赤の他人がいきなり内緒にしておきたいハンドルネーム知ってて、しかも友達なってくれって言われたら。
と、私は山本さんに謝って引き下がろうとしたところで、玄関口の方から誰か歩いてきた。
「お? あれ飯塚じゃね?」「おー本当だ。夏休み中あいつも部活に来てたはずなのに、全然見かけなかったな……。って、綾邊さんもいるじゃん」
武智と三浦だ。私は屋上での事を思い出し、山本さんに接触してるのが何だか恥ずかしくなって急いでその場から離れようとしたところで、山本さんが突如、ぱあ、と顔を明るくした。
「武智先輩! 今帰りですか?」「おー。山本もいたのか」「……おい山本。俺もいるんだが?」
「三浦先輩は安川先輩とイチャイチャしてたらいいんですよ。武智先輩、今日もバイトでしたよね? 一緒に行きましょう!」
そう言って山本さんは武智の横にピタっとくっついて外に歩き出していった。それを見てがっくりうなだれる私。そんな私の肩をポンと叩いて励ましてくれる飯塚君。
「ま、武智や三浦と仲いいってわかりゃ、今後もチャンスはあるんじゃねーか?」「そ、そうだといいけど」
「つか、それより山本って……」「え? 何?」
いや、何でもねぇ、と言葉を濁す飯塚君。何よ? 気になるじゃない。
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