何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
93 / 130

その九十三

しおりを挟む
 ※※※

 コンビニ行って帰ってきたら、柊さんの頬から涙が。俺はそれを見て固まってしまった。でも、床に置いてあった柊さんのスマホの(恩田さん)の文字を見て、何かあった事はすぐに把握できた。

 そして俺の胸に飛び込んでくる柊さん。何があったか分からないけど、俺はコンビニ袋を床に置き、柊さんの頭をなでた。

 するとごめん、ごめん、と謝りながら、柊さんはそのまま泣き続ける。でも、悲しいってより悔しいって感じみたいだ。

 少し泣き続けてから落ち着いた柊さんに、俺は買ってきたペットボトルのお茶を渡す。まだヒックヒック、と嗚咽しながらも、ありがとう、とお礼を言いながら、柊さんはそれに口をつけた。

「で、どうしたの?」

 俺がそう聞くと、柊さんは、恩田社長から連絡があって、当初柊さんの場所を聞いてただけだったのが、そのうち恩田社長が俺との関係を認めてないと言った事、安川さんから、あのときの音声データを譲ってもらうよう動く事など話して、言い合いになってしまった、と説明してくれた。

「私、もうどうすればいいか分からなくなってきた。確かに恩田さんの言う事も分かる。今の映画のオーディションがうまくいって、万が一主演獲れたとして、そんな女優に彼氏がいたと世間に見つかったら、大騒ぎになるって事くらい。でも、見つからないようこうやって変装してるし、今日だけだし、迷惑かけるつもりは全然ないのに」

 視線を下に落とし、柊さんは続ける。

「もっと言えば、寧ろ私と武智君との付き合いを前向きに捉えてくれて、一緒になって応援してくれて、会社ぐるみで隠してくれたっていいじゃない。どうして否定する選択肢しかないの?」

 そこでまた柊さんは泣きそうになる。おおっと、せっかく落ち着いたのに。

「安川さんの件で反省さえしないって事は、多分恩田社長は自分が悪いなんて全く思ってなくて、その考えは変わらない気がする。だから恩田社長にいくら自分の意見を言っても通用しないんじゃないかな?」

「じゃあ……、どうすればいいんだろ?」

「とりあえず芸能界の仕事は続けながら、俺とはお忍びで会うとか?」「……それが現実的なのかなあ?」

 そう言って柊さんは俺をじっと見つめる。泣きはらしやや腫れている、でも切れ長のきれいな瞳で見つめられると、ついドキッとしてしまう。未だ慣れないなあ。

「私、何のために芸能界で仕事するんだろ? 自分の想いは拒否され、隠し通さなくちゃならないって」

 俺に解答を求めるかのように視線を外さずそう語る柊さん。何だか気まずくなって、俺は無意味に天井を見て視線を逃がす。でもすぐ俺は、柊さんの顔を見つめ返す。

「とにかく目の前のやるべき事をやってみたらどうかな? ……俺みたいな将来何したいか決まってないヤツにいわれても説得力無いかも知れないけど。もしかしたら、芸能界の仕事の中で、柊さん自身が何か見つけられるかも知れないし。俺との事は、まあ連絡さえ付けば何とかなるんじゃないかな?」

 俺の言葉を聞いて少し呆気にとられたような顔をし、でもすぐクスクス笑う柊さん。

「簡単に言うね。でもそうね。武智君の言う通りかも。私結構深刻に考えてた。……親の期待や恩田さんがこれまでやってくれてた事とか考えると、わがまま言えないって考えちゃうけど」

「柊さんの人生は柊さんのものじゃん。サポートしてもらってたかも知れないけど、最悪それが全部無駄になったとしても、親やサポートしてきた大人なら、柊さんの気持ちを優先すべきじゃないの?」

「そんな簡単に受け入れてくれたら良いんだけど」

 そう言いながら、再度ブーブーと床で鳴ってるスマホに目をやる。画面表示は(恩田さん)。さっきから何度も掛けてきてるけど、柊さんは出ずに放置してる。それを見てはあ、と疲れたようなため息をつく。

 どこかあきらめのような表情。その中に不安が入り混じってるような気がする。……柊さん、結構一杯一杯なんじゃないか? でも、詳しい事を余り知らない俺が、あれこれ言っていいんだろうか? でも俺一応彼氏だし、励ましの言葉の一つでもかけるべきなんじゃないだろうか?

 エアコンのおかげで部屋内はかなり快適な涼しさになってきてる。防音が効いてるからか、外の音も一切聞こえないほど静かな空間。既にスマホのバイブは止まってるから、部屋の中はシーンと静まり返ってる。

 かける言葉が見つからない。柊さんは特に俺の言葉を待ってるわけじゃなさそうだけど、さっきからずっと黙ってる。何だかいたたまれない雰囲気。

 そこで突然、俺の腹がグウ~ゥ、と、部屋が静かだった事もあって、かなりでかく響きわたった。

「……プッ、アハハハハハ!」

 柊さんがお腹を抱えて笑う。俺もまさか自分の腹が鳴るとは思ってなくて、すごく恥ずかしくなる。

「アハハハ! 何でこのタイミングでお腹鳴るの? アハハハ! あーおかしい!」「お、俺だってびっくりしたよ」

 自分の腹の音にびっくりするってのも結構恥ずかしいけど、……って柊さん笑いすぎ!

「も、もう笑うの止めてもいいだろ! あーめっちゃ恥ずかしい」

「アハハハ……、ごめんごめん。そうだね。そろそろお腹空いたね」「お、おう」

 まだクスクス笑ってるし。……まあ確かに、何か緊張感漂う雰囲気だったから、余計面白いのは分かるけどさ。

 そして柊さんは突然立ち上がりキッチンに移動する。それから何やらブツブツ言いながら物色しだす。冷蔵庫も開けたりして。何してんだろ?

「食材は何もないけど、調味料はあるね。武智君のお姉さんも料理してるだろうから当然か。多分暫く家を空けるから、食材は敢えて置いてなかったのかな? とりあえず食材買いに行こっか。ご飯作るよ」「え? 柊さん作ってくれるの?」

 うん、と笑顔で返事する柊さん。おお、それはかなり嬉しい。彼女が作る晩ご飯って結構テンションあがるじゃん。

「そういやコンビニ行く途中にスーパーがあったよ。よし、じゃあ行くか」「うん」

そして俺と柊さんは、二人で買い出しに繰り出した。

 ※※※

「じゃあ武智君、卵とパン粉とコショウとひき肉を混ぜたタネをこねてね」「ういっす」

 玉ねぎを細かく刻みながら俺に指示する柊さん。スーパーに行く途中、今日はハンバーグを作る事になって俺も手伝ってる。二人でやったほうが早いからね。って、これっていわゆる共同作業だよな? やばい。こんな可愛い彼女と一緒に晩ご飯作ってるって考えただけでも何か嬉しくて、ついにやけてしまうな。

「どうしたの?」「え? あ、い、いや……」おおっと。テンション上がってニヤニヤしてました、なんて言えない。俺は柊さんから視線を外すため、わざとらしくタネをこねてるボールを見る。

「……って、そんなに玉ねぎ使うの?」そう。さっきから気になってた。既に柊さんが刻む玉ねぎは五つ目だ。滅多に料理しない俺でも、このタネの量からして多すぎるのは分かる。てか、じゃがいもに人参? それとひき肉とは別の肉も買ったみたい。何でだろ?

「あ。実はハンバーグとは別にカレーも作ろうと思って」俺がそっちの食材を見てるのに気付いた柊さんが答えてくれた。

「え? カレー? 何で?」確かに腹減ってるけど、ハンバーグとカレー両方食うって事? まあ食えなくはないけど多いような? 

「明日も明後日も武智君、ここにいるんでしょ? ご飯に困るんじゃないかなあって。カレーなら沢山作っておいて食べれるかなあと思って。あ、ちゃんと冷蔵庫に保管してね」

 俺の気持ちを察したのか、包丁を持つ手で額の汗を拭いながらニコッと俺に微笑みかける柊さん。……俺の明日以降の飯の事を考えてくれてたのかよ。

 ヤバい。つい嬉しくて抱き締めたくなる。けどグッとこらえる。だって手がハンバーグのタネで汚れてるからね。しかし柊さんのうなじが近い。ちょうど俺の位置から見下ろす感じで見えるけど、何と言うか、ただの首筋なのにそそるというか。

 そんな邪な事を考えてる俺を注意するかのように、突然ピーっとご飯が炊きあがる音が鳴り響く。俺はビクッと反応してしまい、柊さんがそれを見てクスクス笑う。どうやら俺の邪な思いはバレてないようでホッとする。

 そしてハンバーグが出来上がったところで、皿に盛り付けテーブルに運び、二人で美味しく頂いた。

 ※※※

 カレーのいい匂いが部屋中に充満してる。そういや合宿とか以外で他人が作るカレーって初めてかも? しかもそれが俺の彼女って。ヤバいな。嬉しくて仕方がない。

「換気扇付けたんだけど……。大丈夫かな?」

 そんな変なテンションの俺を差し置いて、柊さんは匂いを気にしてるようだけど。

「大丈夫大丈夫。姉貴帰ってくるのもうちょい先だし、それまでにはさすがに匂い無くなってると思うし」「そう? ならいいけど……、って武智君、さっきから何でそんなに嬉しそうなの?」

「だって彼女が俺のためにカレー作ってくれたんだからね。嬉しいに決まってんじゃん。ハンバーグだってそう。俺も一緒に作ったってのがすげぇ嬉しい」

 俺がニコニコしながらそう答えると、一気に顔が赤くなる柊さん。

「も、もう。またそうやって平気な顔して恥ずかしい事を言うんだから。そもそも、お弁当なら作った事あったじゃない」

 そういや柊さんと屋上で会ってた時、作って持ってきてくれた事あったな。

「あの時はまだ彼女じゃなかったし、あれって元々お詫び目的だったじゃん。でも今日のは俺のために作ってくれたじゃん。それは大きな違いだよ」「そ、そうなの?」

 何だかモジモジして恥ずかしそうにしてる柊さん。その姿もまた可愛い。

「わ、私も実は……、嬉しかったりするんだから」そう言いながらプイ、と拗ねた感じで顔を背け、いそいそとテーブルの食器を片付け始める。そんな柊さんが可愛いなあと思いながら、俺も同じく手伝おうと立ち上がった。

 よし。作ってくれたお礼じゃないけど、食器は俺が洗おう。柊さんにそれを伝えようとしたところで、またも柊さんのスマホが振動する。慌てて柊さんが片付けかけてた食器類を机に一旦置き、画面を確認してから出る。どうやら恩田社長じゃなかったみたいだ。

 俺は机に置かれた食器類をカウンターキッチンに運ぶ。柊さんは俺を見てごめんね、と口パクして頭をペコリと下げる。俺はいいって、と手でゼスチャーしてそれに返事した。なんかこのやり取りもカップルっぽくていいね。

 なんて一人勝手に妄想しつつ、洗い物を始める俺。水の音で柊さんが何を喋ってるか聞こえないが、柊さんは神妙な顔をしながら、電話口で謝ったり相づちを打ったりしてるのを何となく見ながら食器類を洗う。

 そしてキュッと蛇口を締め水を止めたところで、柊さんの声が聞こえた。

「……はい。今日はとりあえずこっちで泊まって、明日そちらに戻ります」

 ……え? 今泊まるって言わなかった?

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...