何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
83 / 130

その八十三

しおりを挟む
 ※※※

「……」「何むくれてんだよ?」

「だーって三浦先輩、彼女いるって」「まあそりゃあな。イケメンだしモテるしな」

 俺がそう言ったところで雄介が突然、ポカンと頭をゲンコツで軽く叩いた。痛ってぇなぁ! 何だよ!

「余計な事言うな」「なんだよ。事実じゃねーか」

 そうだ何が余計な事だよ? 実際、安川さんと付き合う前までは、三人? 彼女いたんじゃねーか。雄介は曖昧に答えてたけどさ。

「つーか武智先輩だって彼女いるんですもんね。二人揃ってリア充ですね。爆発しろ」「……何なんだよ急に」

 そう言って両おさげを揺らしながらむくれてる。ほんっと、こいつ変わり者だな。どうやらこの……山本玲奈っていう名前らしいが、来月からこの学校に転校してくるみたいで、今日はその手続きのために、夏休み中の学校に来たらしい。だから私服だったんだな。いくら部活がないからと言って、学校に私服で来る奴はいないし。

 俺が部室前に山本を連れてきて、偶然雄介が出てきたタイミングでいきなり言い寄っていったはいいが、すぐに安川さんと付き合ってる事伝えて撃沈した後、ついで顧問が出てきたんで、そこでようやく落ち着いて話出来たんだよな。先日の誤解もそれで一応解く事はできたし。

 で、学年は高校二年生らしい。ここK市から少し離れたS市からやってきたんだと。

 ま、学年違うし、これ以上この子と付き合う事無いだろうから、今後トラブルに巻き込まれる事もないだろうけど。

「とりあえず、勝手に勘違いしてたみたいですみませんでした」

 そして改めて頭を下げる山本。

「……まあいいよ。でも、これからは余り思い込んで行動しないようにしたほうがいいかもね」

 俺の言葉を聞いて、はぁーい、そうしまーす、と返事しながら、山本はしゅんとしながら話し始める。

「私あの時、ほら、武智先輩と会った時、久々に外出たんですよね。テンションあがってたのもあってかああなっちゃって。で、私って超可愛いでしょ? だからきっとナンパだ、と思っちゃって。しかもさっきまた会っちゃったから、つい、ね?」「……」

 テヘ、と舌をぺろっと可愛らしく出してごめんなさいポーズする山本。変わり身早ぇーなおい。しかも自分で可愛いって言っちゃうし。自意識過剰甚だしいな。まあ確かに、俺が柊さん以外で見惚れてしまう程の可愛さなのは認めるけどさ。

「しかし、三浦先輩も武智先輩も空手やってるんですねー」「まあな」

 雄介がそう返事した後、ふむ、と顎に手を当て何だか考え込む山本。……まさか入部を考えてるとか?

「あー先に言っとくけど、うち女子の空手部ないぞ」「え? 何でですか?」

「うちは元々進学校だからな。スポーツには余り力入れてないからなんだよ」その質問に雄介が返事した。

 そう。雄介の言う通り、うちの学校は元々偏差値の高い進学校。どちらかというと学業中心で、主に文化系の部活のほうに力を入れてる。一応うちの空手部やラグビー部といった体育系の部活もあるにはあるが、気合入れてやってるとこは少ない。まあうちも、県大会決勝まで行かなきゃ、本来は結構のんびりした部なんだけどね。

「おい、山本とか言ったな? 教員室案内してやるからついてこい」そこで、一旦部室から離れてた顧問の先生が戻ってきて声をかけてきた。山本は分かりましたー、と返事して、俺達にペコリと頭を下げ顧問と共に去っていった。

「しかし、急に嵐がやってきたな」「ホントだな。でもまあ、これ以上関わる事ないだろうけどな。学年違うし」

 そうだな、と俺と雄介はお互い苦笑しながら、部室に入っていった。

 ※※※

「あー、皆聞いてくれ。今日からマネージャーとして来てくれることになった……」「山本玲奈ですっ! 皆さん宜しくねっ!」

 キュピーン、って音と共にハートマークがキラリーンって出てきそうなくらいキャピキャピしながら自己紹介する山本。……ってちょっと待て。

「先生、空手部ってマネージャー募集してましたっけ?」「いや、やってなかったんだが、山本がどうしてもやりたいって言うんでな」

 まいったなあ、と顔を赤くして頭をかくゴリラ顔の顧問。いやあんた、何懐柔されちゃってんの? しかも今日この学校に初めてやってきて、転入手続きしてきたばっかの生徒だぞ? 急展開にも程があるだろ。うちの学生服だって持ってないはずなのに……って、既にちゃっかりうちの学校のジャージ着てるじゃねーか。どうやってそれゲットしたんだ?

 そしてこの突如やってきた超絶美少女マネージャーに、俺と雄介以外の部員達はもうメロメロになってやがる。皆して目がハートマークになってるし。……お前らめちゃくちゃ気持ち悪い。

 今日から空手部は県大会のための練習に入る。俺は三年生なんで今年で最後。柊さんとの事もあって、俺はかなり気合入れてたんだけど。……この山本って後輩の出現で何だか興をそがれた気持ちだ。

 で、さっき顧問にも確認した通り、空手部ではこれまでマネージャーを募集してた事は一度もない。雑用は基本後輩達がやるのがうちの伝統みたいなもんだからね。それなのに急遽こうなっちゃって、雄介も何だか困惑してるっぽいな。他の部員達は違うみたいだけど。

 桃色の混じった茶髪のツインテールで、やや大きめの赤いリボンが二つ動くたびに揺れてる。ジャージ姿でもその抜群のスタイルは分かるくらい凹凸がはっきりしてるが、背丈はは150cmくらい? 柊さんより背は低いみたいだ。そしてぱっちり二重の大きな目。……ま、確かに超のつく美少女ではあるな。部員の連中がメロメロになるのも分からなくはないけど。

「つーか、武智と三浦。お前ら何で無反応なの?」「「は?」」何やら不満げに部員の一人が俺達に声を掛ける。てゆーか、何怒ってんの?

「このむさ苦しい男しかいない空手部に、あんな超絶可愛い子がやってきてくれたんだぞ! もっと喜べよ」「そうだそうだ!」

「そう言われても、なあ?」「うーん」

 俺と雄介は二人して困った顔。正直お互い興味ないもんな。

「何でそんなテンションなんだよ!」

「あ! そうだ三浦先輩、めっちゃ美人の彼女いますよね! 前の団体戦の時応援に来てたの見ましたよ!」

「そうだ! あれ確か、俺らの学年で有名な美女、特進科の安川だったぞ! しかも確か、あの時帽子かぶっててはっきり見えなかったけど、もう一人女の子来てたよな? それってもしかして……」

 そして俺と雄介を、後輩含めた部員達が何やら殺気めいた、というより、嫉妬めいた視線で一斉にギロリと睨む。……いやお前ら怖いぞ?

「くっそ、リア充しね」「なあ、武智先輩強いけど、俺ら全員でかかったらイケんじゃね?」「そうだな、やってみようぜ」

 いやお前ら本気かよ? つーか、やってみるかって言ったやつ誰か分かったからな? 乱取りの時覚えてろよ。

「お前ら下らない事言ってないでそろそろ始めるぞ。じゃあ山本、改めて今日から宜しくな」「はーい!」

 そう言って元気一杯顧問に答えながら、高く手を挙げる山本。その際それなりに実ったたわわなソレがぷるんと震える。それを見た部員達は一斉にニヘラってなってた。ちょっと内股になって。……こいつら県大会大丈夫か?

 しかしもう関わる事ないと思ってたのに、まさかマネージャーになるとはなあ。何だか波乱の予感がする。俺ははぁ~、と大きなため息をついて、雄介とペアを組んでストレッチを開始した。

 ※※※

「おい山本! それを運んでくれ」「はーい!」

「山本! 部員達のタオルは……」「これですよね? 了解です!」

 顧問の先生の指示に、まだ慣れない様子ながらも、それでもテキパキ雑用をこなしている山本。

「……」「何だ? 気になるのか?」

 俺の視線を察した雄介が突っ込む。いや、気になってんじゃなくて、結構真面目に頑張ってんじゃん? と感心してただけなんだけどな。まあ、雄介も質問しつつも俺が何考えてるか分かってる様子だけど。しかし、今日登校してきたばっかで結構こき使われてんのに、頑張ってんなあ。チャラいと思ったけど案外真面目なんだな。

「ま、あの子のおかげで後輩達も雑務する必要なくなって練習量増やせるし、可愛いからやる気満ちてるし、良かったんじゃね?」「……まあ、そうかもな」

 雄介の言う通り、こいつら、山本にいいとこ見せようといつも以上に張り切ってやがるしな。

「武智先輩! 次俺お願いしまっす!」「おう、宜しくな」

 俺を名指した後、チラチラ山本の方を見る後輩君。ほう。俺を利用して山本にアピールしようってか?

「余裕あんじゃん」「え? あ、い、いや、そういうわけでは……」

 魂胆がバレて一気に血の気が引いていく後輩君。全く、可愛い子にアピールしたくなる気持ち分からんでもないけど、真面目にやれよな。で、俺は後輩君をコテンパンにやっつけた。

「イテテ……。武智先輩容赦ないっす大人気ないっす」「なーにが大人気ないだよ。おーい山本! こいつ診てやってくれ」

 俺がそう言って山本を呼ぶと、遠くからはーい、と返事する声。そして途端にパアァと顔を明るくする後輩君。そしてさっきまで俺にのされて座り込んでたくせに、急にビシィと立ち上がって俺の手を力強く握ってきた。キモい。すっげぇキモい。

「いいから早く行ってこい」「武智先輩! 最高っす! 大好きです!」

 そして嬉々としてスキップしながら山本のところに駆けていく後輩君。いやお前、のされてたんじゃねーの? めっちゃ元気だなおい。でも数分後、しょぼーんとしてトボトボ帰ってくる後輩君を見て、何があったか察した俺だった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

勇者の日常!

モブ乙
青春
VRゲームで勇者の称号を持つ男子高校生の日常を描きます

食いしん坊な親友と私の美味しい日常

†漆黒のシュナイダー†
青春
私‭――田所が同級生の遠野と一緒に毎日ご飯を食べる話。

ONE WEEK LOVE ~純情のっぽと変人天使の恋~

mizuno sei
青春
 永野祐輝は高校3年生。プロバスケットの選手を目指して高校に入学したが、入学早々傷害事件を起こし、バスケット部への入部を拒否されてしまった。  目標を失った彼は、しばらく荒れた生活をし、学校中の生徒たちから不良で怖いというイメージを持たれてしまう。  鬱々とした日々を送っていた彼に転機が訪れたのは、偶然不良に絡まれていた男子生徒を助けたことがきっかけだった。その男子生徒、吉田龍之介はちょっと変わってはいたが、優れた才能を持つ演劇部の生徒だった。生活を変えたいと思っていた祐輝は、吉田の熱心な勧誘もあって演劇部に入部することを決めた。  それから2年後、いよいよ高校最後の年を迎えた祐輝は、始業式の前日、偶然に一人の女子生徒と出会った。彼女を一目見て恋に落ちた祐輝は、次の日からその少女を探し、告白しようと動き出す。  一方、その女子生徒、木崎真由もまた、心に傷とコンプレックスを抱えた少女だった。  不良の烙印を押された不器用で心優しい少年と、コンプレックスを抱えた少女の恋にゆくへは・・・。

海になった友達

小紕 遥
青春
主人公は、友達が実は海になったという信じがたい状況に出くわす。夜の海辺で再び彼と語り合うことになった主人公は友達の言葉に戸惑いながらも、その奇妙な会話に引き込まれていく。友達は本当に海になったのか?

コミュ障な幼馴染が俺にだけ饒舌な件〜クラスでは孤立している彼女が、二人きりの時だけ俺を愛称で呼んでくる〜

青野そら
青春
友達はいるが、パッとしないモブのような主人公、幸田 多久(こうだ たく)。 彼には美少女の幼馴染がいる。 それはクラスで常にぼっちな橘 理代(たちばな りよ)だ。 学校で話しかけられるとまともに返せない理代だが、多久と二人きりの時だけは素の姿を見せてくれて──。 これは、コミュ障な幼馴染を救う物語。 毎日更新します。

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...