何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その八十

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「まあでも、そのれなたんとやらの方を応援した方がいいんじゃない?」「どうして?」

「いやだってさ、柊さんは友達なんでしょ? ならそういう距離感で接するべきじゃないの?」「……武智のくせにいい事いうじゃない」

 武智のくせにってどういう意味だよ! って心の中でツッコむ俺と、俺達の会話を聞いてクスクス笑う、茶髪ボブ黒縁メガネの柊さん。

「そういや武智。あんたあの有名な清涼飲料水のCM、今年の新バージョン観た?」「え? あ、ああ。観たけど?」

「あれ、どこからどう見ても美久様にそっくりなのよねえ。でもまさか、美久様が芸能界入りするなんてねえ。でもまあ、美久様の超絶美貌ならあり得るかもねえ。でもまさか、うちの高校から芸能人なんてねえ」

 なんてねえ、と何度も言いながら顎に手を当てふむー、と考え込む綾邊さん。

「武智。あんたどう思う?」「ふえ? さ、さあ、ねえ」

「……なんか知ってるような口ぶりね」「ど、どうだろ? あ、疋田美里さん? そろそろ行こっか?」

 誤魔化しづらくなってしまいしどろもどろになっちゃって、つい疋田美里さんに扮する柊さんに声を掛ける俺。

「疋田美里さんって言うのね。私綾邊ひかり。武智の通う学校の生徒会長してるのよ。でもまあ、夏休み終わったら引退だけど。なので私は大体の生徒を把握してるんだけど、どうやら疋田さんはうちの学校の生徒じゃないみたいね」

「ええ。武智君とはバイト先で知り合ったんで」

 ニコニコしながら普通に疋田美里さんとして会話する柊さん。……綾邉さんクラスメイトなのに、ここまで他人になり切れるなんてスゲェな。さすが芸能事務所で練習してただけある。嫌われ演技も凄かったしね。

「ふむふむ? そこで二人は仲良くなって……」「そういう事、かな?」

 臆面もなくそう言いながら、今度は俺に微笑みかける柊さん。完全に疋田美里さんになり切ってるな。これが女優ってやつなのか?

 そしてニコニコしてる柊さんと相対して、何だか恥ずかしそうにしてる綾邉さん。何で照れてんだろ? 

「な、仲がよろしくて結構。でも武智、あんた美久様の事が……」「ん? 柊さんが何だって?」

「いや、何でも無いわ。彼女さんがいる前で話する事じゃないし。とりあえずイチャイチャする時はTPOをわきまえなさいよ」

 そう言い残してじゃあね、と挨拶しながら去っていく綾邉さん。TPOって……。まあでも確かに、二人の世界に入っちゃって周り見えなくなってたのは事実だしなあ。とにかく俺は、綾邊さんにありがとう、とだけ伝えた。

「……あ」「どうしたの?」

「綾邊さんと私、連絡先交換すればよかったかも」「でもそうなると、正体明かす事になっちゃうよ?」

 あ、そっか、と返事する柊さん。そして俺達はそのまま帰路につく。それから暫くして、今日水族館に行く際待ち合わせしてた駅の前に着いた。

「ここでお別れしないとね」「行きは安川さんにお願いして、柊さん家に迎えに行って貰ったから、もし歩道橋の前まで行って、また恩田社長とかに見つかっちゃまずいもんね」

 苦笑いしながら俺がそう言うと、柊さんは寂しそうに微笑む。

「恩田社長の事、ご両親の事、それから芸能界の仕事の事、色々大変だけど無理しないでね」「……うん」

「俺に出来る事があったら何でも言ってよ。って言っても、何が出来るか分かんないけど」「……うん」

「まあ、連絡先消されずに済んだし、lineでも何でも気軽に連絡してきて」「……グス、ヒック。うん、うん」

「……柊さん」「グズ、ごめん。また私、ヒック、泣いちゃった。まだ武智君と離れたくない」

 でももう帰らないと、という言葉を飲み込んでしまった俺。俺だってもっとずっと一緒にいたいから。でも、既に辺りは夕闇に包まれ、街灯の灯りがまだ明るいけど付き始めてる。なので時間はそろそろ夕方六時を過ぎる頃かな? だからこれ以上遅くなるのはさすがに良くない。

「ご両親はともかく、恩田社長には俺達の事認めて貰ったじゃん。……まあちょっと強引だったけどそれに、さっき言ってたように会いに行くから」「グス……。うん」

 黒縁メガネの端から頬を伝う涙。それを指先で拭いつつ、柊さんは寂し気に俺を見上げる。

「グス……。ダメだね。また私武智君に迷惑かけちゃってる」「気にしなくていいよ。俺にならいくらでも迷惑かけてくれていいから」

「ヒック。相変わらずカッコいい事言っちゃって」「あ、相変わらずって何だよ」

「アハハ。でもそういうところが武智君らしくて良い感じ」「……褒められてんのかなあ」

 頭をガシガシ掻く俺に、柊さんはようやく泣き止んでクスクス笑ってる。良かった。落ち着いたみたいだな。

「よし! 帰るね。うん、私頑張らないと。強くなるって決めたんだから」「ああ。応援してる」

「……この世で一番嬉しい応援だね」「そう? そう言ってくれて嬉しい」

 そして見つめ合う俺と柊さん。いつの間にか、示し合わせたようにお互い手を繋いでる。黒縁メガネの奥から、潤んだ瞳で気持ちのこもった熱い眼差しを感じる。俺も視線を外せずその瞳を見つめる。

「おっと柊さん。これ以上はダメだ。またやらかしちゃうから」「……あ。そ、そうだね」

 ハッとしながら柊さんは恥ずかしそうに手を離す。でもどこか名残惜しそうに。

「じゃあ、私が先に行くね」「OK。じゃあ俺、見送るね」

 うん、とまだ少し寂し気ながらも、元気よく返事して踵を返し、柊さんは小走りで駅の改札に走って行った。俺はその姿が見えなくなるまでずっと見てた。

「……寂しい、なあ」つい零してしまう本音。電話やlineは出来るから繋がってはいる。でも会えないのはやはり寂しい。東京に行くと言っても少しの間だし、柊さんは出来るだけ会えるよう時間とると言ってくれたけど、どこまでそれが可能か分からないし。正直少し不安だ。

「ハハ……グス。柊さんが先に行ってくれて良かった」今度は俺が泣けてきた。かっこ悪いなあ、全く。

「うわあー! カッコ悪っ!」「へ?」

 突如聞こえてきた声に、驚いて振り向いてしまう俺。そこには、両側茶色と桃色の混ざったツインテールの髪に、目鼻立ちの整った、めちゃくちゃ可愛い女の子が俺の方を呆れた顔で観てた。

 ※※※

「あ! いっけない! 声に出ちゃったー」と、言いながら自分で頭をげんこつでポコンと叩く超絶美少女。

 つい、その可愛らしさに呆気に取られボーっと見てしまった。この感覚柊さん以来だ。でも、その子は柊さんのような美人ではなく、どちらかと言うとアイドルっぽい可愛らしい感じ。紺と白のボーダーシャツにデニム地のタイトスカート。傍らには大きなキャリーケースを持ってる。……て事は、旅行者かな?

「あー、やっぱ聞こえちゃったか―。ごめんねつい本音出ちゃった」「え? あ、ああ。、まあでも、君の言う通りだよ」

「認めちゃうんだ」「まあね。というか、そんなデカいキャリーケース持ってるって事は、旅行の帰りか何か?」

「え? ああ私このK市に引っ越して来る事になったから、どんなとこかなーって気になってつい飛び出してきちゃって。で、お泊りする可能性もあるから荷物が多くなっちゃって……って、つーかあんたさあ、あんな可愛い彼女? いるのに、私をそうやってナンパするんだ?」

 は? ナンパ? そんなわけないだろ! ただ単に会話だ会話!

「ちょっと待て、何勘違……」「確かに私は超絶美少女だから仕方ないかも知れないけど! 女に節操ない男は大っ嫌いなの! あーあ、あの彼女可哀想~。あんたみたいなクズが彼氏なんてねー」

「おいちょっと待てよ。いきなり赤の他人にそれは言い過ぎだろ」「だって事実じゃない」

 なんだこいつ? 勝手に盛大な勘違いして、しかも初対面の俺をクズ呼ばわりしやがって。

「何勝手な事言ってんだよ。俺はただ……」「はいはいー。最低男の言い訳始まりまーす。でも私はそういうの聞くほど優しくないのでここでさよならしまーす」

 そう言いながら俺に思い切りあっかんべーした後一睨みして、スタスタとどこかに歩いていってしまった。

「~~なんなんだよあいつ! せっかく柊さんとのお別れの名残を惜しんでたってのに台無しじゃねーか!」

 すっごく腹が立つ! 勝手に悪者にして行きやがって! 俺は悔しくて仕方なくて、ついその場でダンダン! と地団太を踏んでしまった。
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