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その七十九
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※※※
俺と柊さんは、既に雄介と安川さんと別れ、二人で歩きながら家に向かってる。柊さんは再度茶髪ボブと黒縁メガネの、疋田美里さんの格好をしてる。CMに出ちゃったし万が一大騒ぎにならないよう念の為だ。
しかしあの二人、めちゃくちゃ仲良いなあって改めて思った。あんな事あったからか、安川さんずっと雄介にくっついたままだし、雄介もまんざらでもない様子だし、本当ナイスカップルって感じだな。数ヶ月前遊園地で一緒に遊んだ時とはえらい違いだ。……あの二人、そのまま結婚するんじゃね?
「そうだ。今日そう言えば柊さんと水族館行ってたんだった」「……そうだったね」
ふと思い出して呟く俺に柊さんもハッとしながら返事する。あんな楽しかった事を忘れるくらい、今日の出来事はショッキングだった、という事だろう。そして柊さんはつい、悲しそうにうつむいてしまった。
「さっきも言ったけど柊さん悪くないからね」「うん。ありがとう」
俺はそれが少し気になって声をかけると、そう返事しながらどこか淋しげに俺に笑顔を向ける柊さん。それを見て、俺は何だかいたたまれない気持ちになってしまった。
柊さんにとって恩田社長は親みたいな存在ってのは聞いてて知ってる。恩田社長も自分で保護者って言ってるくらいだしね。でも、その人が幼馴染のヒロ君にを使って安川さんを誘惑して別れさせようとしてた。しかもそれだけじゃなく、その幼馴染は安川さんを拉致して襲おうとしてたんだもんな。柊さんにとっちゃ最悪の出来事だ。気持ちが沈んでしまうの分かるよ。
しかも、そんな恩田社長の元で、柊さんはこれから芸能活動するために東京行くんだよな。……大丈夫なのかな?
「柊さん、これからどうすんの?」「え?」
「だって、恩田社長があんな事したわけだけど、来週から柊さん、あの人の元で芸能人やるんでしょ?」「あ……」
なので俺は気になって聞いてみた。でも、柊さんはどうやらそこまで頭が回ってなかったっぽい。まあ、あんな事あった後ですぐどうこうしようって考えれるわけ無いか。だからか、俺が質問した後、黙ってしまう柊さん。
「さすがに恩田社長のところに行くって抵抗あるんじゃない?」「……」
柊さんは俺の言葉を聞いて、凄く悲しそうな顔をしてうつむく。……俺は恩田社長と柊さんとの関係について詳しくは知らないけど、何だかんだ言ってお世話になってたのは聞いてる。だからこそ、あんな事しでかした恩田社長に対して、柊さんが複雑な思いなのも、俺なりに理解できる。
「なんか余計な事聞いちゃったか。ごめん」「ううん、そんな事ない。大丈夫」
「俺に出来る事があったら何でも言ってね」「フフ。ありがとう」
黒縁メガネの柊さんは、今度は心底嬉しそうな微笑みを俺に向ける。そうだな。この笑顔がずっと続くよう、俺なりに頑張ればいいよな。
そこでふと、俺は前から気になってた事を聞いてみたくなった。
「あの、柊さんって、芸能界に入りたいの?」「え?」
「いや、何と言うか、例えばあの幼馴染みたいに、芸能界に固執してるって感じしないからさ」
俺がそう言うと、柊さんはハッとした顔になった。
「……正直、私も分からない」
そう小さく呟いて、そしてまたもうつむいてしまう。
既にCMデビューしてしまってるから、柊さんはもう芸能人みたいなもんだけど、どうも前から様子見てたら、柊さん、自分の意志で芸能界に入りたいとは思ってない気がするんだよなあ。柊さんの個性やその圧倒的な美貌が、芸能界入りする理由だってのは分かるんだけど、でもそれって仕方がないから渋々やるって感じじゃないか? 昔恩田社長が柊さん家に来た時は、それしか選択肢が分からなかったみたいだし、中学生だったって事もあって、判断がつかなかっただろうし。
でも改めて今考えてみると、そこに柊さんの本当の気持ちがないんじゃないのか? そう疑問に思ったんだよな。
「まあとにかくさ、来週から東京行くのは変えられないんでしょ?」「え? う、うん。今更行くの辞める、なんて言えないかな。既に色々やる事が決まってるみたいだし、ずっとそのために準備してきたし。色んな人に迷惑かけちゃうから」
「もしかしたら、芸能界で仕事するの、柊さんに向いてるかも知れないし、楽しいかも知れないじゃん。恩田社長の事、複雑な気持ちだと思うけど、とりあえず今はその決まってる仕事をこなしてみて、それから考えてみたらいいかもね」
「うん……。うん、そうだね。武智君、ありがとね。色々心配してくれて」「いえいえ。当然だよ」
だって俺彼氏だからね。そこで何となく胸を張ってエッヘン! とか言いたくなりそうになるけど、偉そうだからグッとこらえる。そして柊さんは俺に微笑んだ後、淋しげな顔をした。
「だから、武智君とは、今度こそ今日でお別れ、かな」「あ……」
そうだった。まだ柊さんに言ってなかったな。俺は柊さんに向き直る。
「あのさ。俺東京で一人暮らししてる姉貴いるって言ってたでしょ? 実は俺、空手の大会が終わったら行こうかと思っててさ。その……、出来たら、会いたいから、さ」
俺の言葉に目を丸くする柊さん。俺もつい、会いたいだなんて恥ずかしい事言っちゃったから、照れ隠しに頭をガシガシかいてしまう。
すると、柊さんは突然、フワっと俺に抱きついてきた。「うわっと!」慌てて柊さんをキャッチする俺。
「嬉しい。東京に来てくれるんだ」「あ、ああ。でも、会えるかどうか分からないけど」
「できるだけ時間取るよ。ううん。武智君が東京来てる時には絶対会うんだから!「ハ、ハハ。そっか。ありがと」
俺もついその言葉が嬉しくて、柊さんをギュッと抱きしめる。その圧を感じたからか、柊さんは俺を見上げ、俺は柊さんを見下ろす。二人して抱きついてんだから、顔の距離は近い。黒縁メガネをしててもその奥に見える瞳が潤んでるのがよく分かる。
俺達二人はそのまま、まるで意志が通じ合ったかのようにお互いの唇を近づけ、そして……。
「えー、ウオッホン!」
そこで、突如聞こえた大きな咳払い。俺と柊さんはビクっと思い切り身体を反応させ、咄嗟にバッと距離を取る。それから声の主をキョロキョロ探すと、何だか顔を赤らめ腕組をしながら俺達の横にいた。
「……武智。あんたいつの間にそんな可愛らしい、そ、その、あ、あの、か、かの、彼女をゲットしたのよ?」
何故か恥ずかしそうにムスッとしてるのは、生徒会長の綾邊さんだった。つか、何でキョドってんの?
「や、やあ。綾邊さん。私服で見るの初めてだったから気づかなかったよ」「よく言うわよ。そこの可愛い茶髪で眼鏡の女の子とイチャイチャしてたから気づかなかったんでしょ?」
あ、そうだった。今柊さんは疋田美里さんだったな。柊さんも自分が変装してたの忘れてたみたいで、綾邊さんの言葉でハッしてるみたい。
「というか、私に感謝なさいよ」「へ? なんで?」
「……周りを見たら分かるわよ」
と、言われたので見渡してみる。……ってここ、大通りのど真ん中だった。結構な数の人達が俺達を見てヒソヒソしたりニヤニヤしたりしてる。俺と柊さん、こんな大勢の人がいる中で、え、えーと、キ、キス、しようとしてたのか? そりゃシャレにならない。すんでのところで止めて良かったあ~。……若干手遅れな気もしないでもないけど。
柊さんも周りを見回し俺同様驚いてるし。で、その後俺と目が合ってハッとする。そしてすぐさま、お互いメッチャ恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。
「どう? 分かった? あんた達あのまま放っておいたら、こんな場所で、そ、その、ほ、ほら、あ、あの、キ、キッスを」「……恥ずかしいなら無理やり言わなくていいよ綾邊さん。てか、俺も超恥ずかしいから」
「よ、よく言うわよ! そんな恥ずかしい事この大通りでしようとしてたのよ? 全くもう! 二人の甘~い世界かもしだしてイチャイチャしちゃって! 羨ましいたらありゃしないわ!」
と、半ばキレながら叫ぶ綾邊さん。……なんで怒ってんの?
そして今度は疋田美里さんに変装してる柊さんをジロジロ見る。
「ふん! まあまあ可愛い子じゃない。ま、美久様には及ばないけどね」
……何気に失礼な事言ってるな。でもまあ、当の本人の柊さんはどうやらなんとも思ってないみたいだけど。それどころか笑いをこらえるので必死っぽい。クスクスと何やら漏れてるのが聞こえてるし。
「そ、それよりさ綾邊さん、こんなとこで何してんの?」「何してるのって、単に買い物帰りなだけよ。というかあんた達の方がどうかしてるわよ。こんな往来の真ん中で、そ、その、ほ、ほら、あの……」「うんだから、それ以上言わなくていいって」
何故かもう一回言おうとする綾邊さんの言葉を遮る俺。恥ずかしいから何度も聞きたくないし。柊さん扮する疋田美里さんも耳真っ赤にしてまたもうつむいちゃったし。
「はあ。しかし美久様と会えないから寂しいのよね」「ああ。夏休みだしね」
「そうなのよ。せっかくお友達になれたというのに。私連絡先も知らないのよね」
そこで俺は疋田美里さん扮する柊さんをバッと見ると、柊さんはサッと顔を伏せた。あ、教えるの忘れてるっぽいなこれ。
「お、お友達なんだから、ほら、その、えっと、ほら……」「ああ、遊び行ったりしたかったんだよね」
「そ、そうよ。悪い?」「いや、悪くないけど」
「でもこのままじゃ私、浮気しそうなのよねえ」「浮気?」
「最近有名になってるユーチューバー。れなたんって言うんだけど、この子がまた超かっわい~いの!」「あ、そ、そうなんだ」
そう言いながらイヤイヤンとくねくねしてる綾邊さん。……ちょっと気持ち悪いけど、ユーチューバーねえ。俺全然興味ないから分かんねーや。
俺と柊さんは、既に雄介と安川さんと別れ、二人で歩きながら家に向かってる。柊さんは再度茶髪ボブと黒縁メガネの、疋田美里さんの格好をしてる。CMに出ちゃったし万が一大騒ぎにならないよう念の為だ。
しかしあの二人、めちゃくちゃ仲良いなあって改めて思った。あんな事あったからか、安川さんずっと雄介にくっついたままだし、雄介もまんざらでもない様子だし、本当ナイスカップルって感じだな。数ヶ月前遊園地で一緒に遊んだ時とはえらい違いだ。……あの二人、そのまま結婚するんじゃね?
「そうだ。今日そう言えば柊さんと水族館行ってたんだった」「……そうだったね」
ふと思い出して呟く俺に柊さんもハッとしながら返事する。あんな楽しかった事を忘れるくらい、今日の出来事はショッキングだった、という事だろう。そして柊さんはつい、悲しそうにうつむいてしまった。
「さっきも言ったけど柊さん悪くないからね」「うん。ありがとう」
俺はそれが少し気になって声をかけると、そう返事しながらどこか淋しげに俺に笑顔を向ける柊さん。それを見て、俺は何だかいたたまれない気持ちになってしまった。
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「柊さん、これからどうすんの?」「え?」
「だって、恩田社長があんな事したわけだけど、来週から柊さん、あの人の元で芸能人やるんでしょ?」「あ……」
なので俺は気になって聞いてみた。でも、柊さんはどうやらそこまで頭が回ってなかったっぽい。まあ、あんな事あった後ですぐどうこうしようって考えれるわけ無いか。だからか、俺が質問した後、黙ってしまう柊さん。
「さすがに恩田社長のところに行くって抵抗あるんじゃない?」「……」
柊さんは俺の言葉を聞いて、凄く悲しそうな顔をしてうつむく。……俺は恩田社長と柊さんとの関係について詳しくは知らないけど、何だかんだ言ってお世話になってたのは聞いてる。だからこそ、あんな事しでかした恩田社長に対して、柊さんが複雑な思いなのも、俺なりに理解できる。
「なんか余計な事聞いちゃったか。ごめん」「ううん、そんな事ない。大丈夫」
「俺に出来る事があったら何でも言ってね」「フフ。ありがとう」
黒縁メガネの柊さんは、今度は心底嬉しそうな微笑みを俺に向ける。そうだな。この笑顔がずっと続くよう、俺なりに頑張ればいいよな。
そこでふと、俺は前から気になってた事を聞いてみたくなった。
「あの、柊さんって、芸能界に入りたいの?」「え?」
「いや、何と言うか、例えばあの幼馴染みたいに、芸能界に固執してるって感じしないからさ」
俺がそう言うと、柊さんはハッとした顔になった。
「……正直、私も分からない」
そう小さく呟いて、そしてまたもうつむいてしまう。
既にCMデビューしてしまってるから、柊さんはもう芸能人みたいなもんだけど、どうも前から様子見てたら、柊さん、自分の意志で芸能界に入りたいとは思ってない気がするんだよなあ。柊さんの個性やその圧倒的な美貌が、芸能界入りする理由だってのは分かるんだけど、でもそれって仕方がないから渋々やるって感じじゃないか? 昔恩田社長が柊さん家に来た時は、それしか選択肢が分からなかったみたいだし、中学生だったって事もあって、判断がつかなかっただろうし。
でも改めて今考えてみると、そこに柊さんの本当の気持ちがないんじゃないのか? そう疑問に思ったんだよな。
「まあとにかくさ、来週から東京行くのは変えられないんでしょ?」「え? う、うん。今更行くの辞める、なんて言えないかな。既に色々やる事が決まってるみたいだし、ずっとそのために準備してきたし。色んな人に迷惑かけちゃうから」
「もしかしたら、芸能界で仕事するの、柊さんに向いてるかも知れないし、楽しいかも知れないじゃん。恩田社長の事、複雑な気持ちだと思うけど、とりあえず今はその決まってる仕事をこなしてみて、それから考えてみたらいいかもね」
「うん……。うん、そうだね。武智君、ありがとね。色々心配してくれて」「いえいえ。当然だよ」
だって俺彼氏だからね。そこで何となく胸を張ってエッヘン! とか言いたくなりそうになるけど、偉そうだからグッとこらえる。そして柊さんは俺に微笑んだ後、淋しげな顔をした。
「だから、武智君とは、今度こそ今日でお別れ、かな」「あ……」
そうだった。まだ柊さんに言ってなかったな。俺は柊さんに向き直る。
「あのさ。俺東京で一人暮らししてる姉貴いるって言ってたでしょ? 実は俺、空手の大会が終わったら行こうかと思っててさ。その……、出来たら、会いたいから、さ」
俺の言葉に目を丸くする柊さん。俺もつい、会いたいだなんて恥ずかしい事言っちゃったから、照れ隠しに頭をガシガシかいてしまう。
すると、柊さんは突然、フワっと俺に抱きついてきた。「うわっと!」慌てて柊さんをキャッチする俺。
「嬉しい。東京に来てくれるんだ」「あ、ああ。でも、会えるかどうか分からないけど」
「できるだけ時間取るよ。ううん。武智君が東京来てる時には絶対会うんだから!「ハ、ハハ。そっか。ありがと」
俺もついその言葉が嬉しくて、柊さんをギュッと抱きしめる。その圧を感じたからか、柊さんは俺を見上げ、俺は柊さんを見下ろす。二人して抱きついてんだから、顔の距離は近い。黒縁メガネをしててもその奥に見える瞳が潤んでるのがよく分かる。
俺達二人はそのまま、まるで意志が通じ合ったかのようにお互いの唇を近づけ、そして……。
「えー、ウオッホン!」
そこで、突如聞こえた大きな咳払い。俺と柊さんはビクっと思い切り身体を反応させ、咄嗟にバッと距離を取る。それから声の主をキョロキョロ探すと、何だか顔を赤らめ腕組をしながら俺達の横にいた。
「……武智。あんたいつの間にそんな可愛らしい、そ、その、あ、あの、か、かの、彼女をゲットしたのよ?」
何故か恥ずかしそうにムスッとしてるのは、生徒会長の綾邊さんだった。つか、何でキョドってんの?
「や、やあ。綾邊さん。私服で見るの初めてだったから気づかなかったよ」「よく言うわよ。そこの可愛い茶髪で眼鏡の女の子とイチャイチャしてたから気づかなかったんでしょ?」
あ、そうだった。今柊さんは疋田美里さんだったな。柊さんも自分が変装してたの忘れてたみたいで、綾邊さんの言葉でハッしてるみたい。
「というか、私に感謝なさいよ」「へ? なんで?」
「……周りを見たら分かるわよ」
と、言われたので見渡してみる。……ってここ、大通りのど真ん中だった。結構な数の人達が俺達を見てヒソヒソしたりニヤニヤしたりしてる。俺と柊さん、こんな大勢の人がいる中で、え、えーと、キ、キス、しようとしてたのか? そりゃシャレにならない。すんでのところで止めて良かったあ~。……若干手遅れな気もしないでもないけど。
柊さんも周りを見回し俺同様驚いてるし。で、その後俺と目が合ってハッとする。そしてすぐさま、お互いメッチャ恥ずかしくなって視線を逸らしてしまった。
「どう? 分かった? あんた達あのまま放っておいたら、こんな場所で、そ、その、ほ、ほら、あ、あの、キ、キッスを」「……恥ずかしいなら無理やり言わなくていいよ綾邊さん。てか、俺も超恥ずかしいから」
「よ、よく言うわよ! そんな恥ずかしい事この大通りでしようとしてたのよ? 全くもう! 二人の甘~い世界かもしだしてイチャイチャしちゃって! 羨ましいたらありゃしないわ!」
と、半ばキレながら叫ぶ綾邊さん。……なんで怒ってんの?
そして今度は疋田美里さんに変装してる柊さんをジロジロ見る。
「ふん! まあまあ可愛い子じゃない。ま、美久様には及ばないけどね」
……何気に失礼な事言ってるな。でもまあ、当の本人の柊さんはどうやらなんとも思ってないみたいだけど。それどころか笑いをこらえるので必死っぽい。クスクスと何やら漏れてるのが聞こえてるし。
「そ、それよりさ綾邊さん、こんなとこで何してんの?」「何してるのって、単に買い物帰りなだけよ。というかあんた達の方がどうかしてるわよ。こんな往来の真ん中で、そ、その、ほ、ほら、あの……」「うんだから、それ以上言わなくていいって」
何故かもう一回言おうとする綾邊さんの言葉を遮る俺。恥ずかしいから何度も聞きたくないし。柊さん扮する疋田美里さんも耳真っ赤にしてまたもうつむいちゃったし。
「はあ。しかし美久様と会えないから寂しいのよね」「ああ。夏休みだしね」
「そうなのよ。せっかくお友達になれたというのに。私連絡先も知らないのよね」
そこで俺は疋田美里さん扮する柊さんをバッと見ると、柊さんはサッと顔を伏せた。あ、教えるの忘れてるっぽいなこれ。
「お、お友達なんだから、ほら、その、えっと、ほら……」「ああ、遊び行ったりしたかったんだよね」
「そ、そうよ。悪い?」「いや、悪くないけど」
「でもこのままじゃ私、浮気しそうなのよねえ」「浮気?」
「最近有名になってるユーチューバー。れなたんって言うんだけど、この子がまた超かっわい~いの!」「あ、そ、そうなんだ」
そう言いながらイヤイヤンとくねくねしてる綾邊さん。……ちょっと気持ち悪いけど、ユーチューバーねえ。俺全然興味ないから分かんねーや。
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