何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

文字の大きさ
上 下
73 / 130

その七十三

しおりを挟む
「か、彼氏……だと? 嘘だろ? 美久、俺というものがいながら……」「前々から言ってたと思うけど、私あんたの事なんとも思ってなかったから。というか、嫌いだし」

「な! き、嫌いって……。俺と美久とは幼馴染なんだぜ? 幼馴染ってのは大抵結ばれるもんだろ?」「そのとかどうでもいい。私は私の気持ちに素直になっただけ。あとさっきから美久って呼んでるけど、もう止めてよね」

 既に俺の腕から離れ、今度は自分の腕を組んで仁王立ちになってる柊さん。明らかに怒ってるね。

「そ、そんな事言うなよぉ! 俺達、小さい時一緒に風呂入った仲じゃん! 遊園地もプールも行ったじゃん! それなのに、それなのに……」「それ言うなら他の幼稚園のお友達とも一緒にお風呂入ったし、遊びにも行ってるし。あんたは言わば幼馴染じゃなくて腐れ縁、てところ」

「そ、そんな……、俺、俺ずっと昔からお前の事……」

 そしてガックリうなだれるヒロ君。……ん? どうやら泣いてるっぽい。つか、やっぱ幼馴染だから小さい頃一緒に風呂入ったんだ。……ちょっと羨ましい。

 それはともかく、ヒロ君、どうやら柊さんの事が好きだという気持ちは本物だったみたいだな。……だからといって全く同情しないけど。安川さんをこんな目にあわせた奴だし。

 しかし、柊さんがこんな強い口調で意見言うの初めて見た。これまで俺に見せてた弱々しい女の子って感じじゃない。嫌われ演技してた時の高圧的な柊さんっぽいな。今見た目は疋田さんだけど。

「……帰ろっか」「そうだな。ここに長居しても気分悪くなるだけだし」

 そこで安川さんがポツンと一言。雄介もとりあえず、安川さんを無事……、とは言えないかもしれないけど、取り返す事が出来たし、ヒロ君を殴った事で怒りが収まってるみたいだし。ま、頃合いだな。

 ……でも、柊さんはまだ、解決しなきゃならない問題があるけど。そこで俺はふと思い出す。

「そういや雄介、警察に連絡は?」「いや実はしてねーんだ」

「は? 何でだよ?」「柊さんに賭けてたってのと、俺も正直一杯一杯だったから、警察に冷静に話す自信なかったからさ。でももし、アテが外れたら連絡する気だったけどな」

 ……まあ、確かに柊さんの予想が外れたら、もうどうしようもないから警察を頼るしかないけど。結果的には大事にせず済んだ、と思えばいいか。安川さんはとりあえず無事だったし。

 そして警察、という単語が俺達の口から出てきたからか、明らかにヒロ君の顔色が真っ青になった。ほっぺは赤いけど。

「な、なあ? 警察には言わないよな? 未遂だったんだしよぉ」

「「……」」ヒロ君のその言葉に、俺と雄介はカチンときた。

「お前自分のやった事分かってんの? これ普通に警察事案だからな? 未遂だから大丈夫? ふざけんのもいい加減にしろ!」「たまたま連絡しなかっただけだっつの。柊さん頼れなきゃとっくに警察に連絡したくらいの事しでかしてんの、未だわかんねーのか!」 

 俺と雄介が怒鳴ると、ビクっとなり縮こまるヒロ君。

「……そうね。警察に連絡しちゃったら、大内さんのご家族に余計な迷惑かかっちゃうかも」

 そこで柊さんがヒロ君に助け舟? その言葉を聞いたヒロ君は、柊さんを見て感激してる。

「み、美久、ありがとう! ありがとう!」「何勘違いしてんの? あんたのとこのご家族には昔お世話になったからよ。あといい加減私の名前呼ぶの止めてくれない?」

 冷たい目でヒロ君を見返す柊さんに、またもシュンとうなだれるヒロ君。……そういや初めてバイト先の喫茶店でこいつ見た時は、ヒロ君が威圧的で柊さんはおどおどしてた感じだったんだよなあ。今は完全に立場逆転してんな。

 それから今度は柊さん、おもむろにスマホを取り出し、とあるところに電話をかけた。

 ※※※

「ここは……。山? よね? 美久ったら一体どうしてこんな場所に呼び出したりしたのかしら」

「美久から届いた地図データではここで間違いないはずですが。……しかし社長、美久から我々の警護を外して良かったのですか? 先日も勝手に家を飛び出し、友達の家に泊まったらしいじゃないですか」

「さすがにもう大丈夫でしょう。もうすぐあの子東京に行くのだし、今更何も出来ないわ。まあ、東京で本格的に活動をスタートしたら、マネージャーをつけるつもりだけどね」

「美久のファンクラブから既に得ている写真の加工、既に終わっておりますし、写真集の販売と共に、イベントの企画も進んでおりますからね」

「ええ。ようやく売り出せるわ。長かった……。あの内気な子をそれなりに育て上げるのは本当苦労したわ。間違いなくあの子は芸能界で素晴らしい活躍ができる逸材。演技力もさる事ながら、うちに秘めた強い心と表現力。更に頭の回転も早い」

「まあ、だから社長自ら手をかけておられたんですよね」

「ええまあね。……下らない邪魔が入りそうだったけど」

「武智、とかいう男子生徒ですか」「そうよ。美久にはスマホの連絡帳から名前を消すよう言ったけれど、無理やり消させてあの子がへそ曲げて、これまでの事がパーになっちゃったら大変だったから、消さずに置いていていいって言ったのよね」

「それ、大丈夫ですか?」「大丈夫に決まってるでしょう? たかが高校生程度の子どもに我々の邪魔が出来るとでも? そもそも、美久が東京に行ってしまえば繋がりは絶たれるのよ? 万が一、お互い想いを秘めていたとしても、離れ離れになってしまえば、子どものおままごと程度の恋心、直ぐに泡のように消えてしまうわよ」

「まあ社長がそう仰るなら……。ん? どうやらこの先は私有地になっているようです。一旦車を停めます」

「私有地? 一体ここは何なのかしら。美久の意図も良くわからないわ。あら、丁度美久から電話だわ。もしもし?」『お疲れ様です。今どちらですか?』

「何だか山? の私有地の前にいるわよ。ねえ、ここで合ってるの?」『はい。車のまま、中に入ってきて下さい。道なりに来ると小屋が見えてくると思います。そこにいますので』

「はあ? 小屋? ねえ、美久、それって一体……、って切れちゃった」

「まあ、行くしか仕方なさそうですね」「ドッキリでも仕掛けてるのかしらねえ。全く、私だって暇じゃないのに」

 ※※※

 小屋の外から車のエンジンの音と、続けざまドアをバタンバタン、と閉じる音が聞こえてきた。それを聞いた柊さんは、すぐさま小屋の外へ出た。

 そして柊さん以外にも誰かの声が聞こえてくる。あの声は間違いない、恩田社長だ。安川さんも知ってるみたいだから、俺と目を合わせ互いにうなずく。

「恩田さん、ご足労おかけし申し訳ありません」「全くよ。こう見えて私社長なのよ? 暇じゃないんだから余計な呼び出しなんてしないでよね」

「まあまあ社長。そもそも美久が呼び出しするなんて初めての事じゃないですか。何かあったんだろ? 美久」

「ええ、そうです。日向さんもすみません」「今日はお前の護衛じゃなく運転手だから問題ない。それはいいとして、ここは何処なんだ?」

「とりあえず中に入って貰えればわかります」「え? この小屋の中に入るの?」

 そしてキイとドアのきしむ音が聞こえ、恩田社長と既に茶髪のボブと黒縁メガネを外した、いつもの柊さん、それに黒服のいかついグラサンをした男の人、が入ってきた。……てか誰? この人。

「……あなたは! 何で美久と一緒にいるの?」

 俺を見つけるなり大声で叫ぶ恩田社長。

「いや社長、ちょっと待って下さい。それより……」

 いかつい黒服のグラサンの男の人が恩田社長の言葉を遮ろうとするも、どうも怒りが先に来てるみたいで確認せずそのまま大声を出す恩田社長。

「それよりって、これより重大な事ないわよ! 美久! これは一体どういう事なの! 何であなたと武智君が一緒にいるのよ! 説明しなさい!」

 やはり俺の姿を見て恩田社長は怒鳴っちゃうか。怒りのせいか、どうやらその後ろの壁際に座らせてる連中に気づいてないっぽい。いかつい男の人は気づいてて、さっきその事を言おうとしてたみたいだけど。

「説明してほしいのはこっちです。恩田さん」「美久それどういう意味? 私に何の説明をしろっていうの?」

 そう言いながら柊さんは、冷めた目で恩田社長を見つめてる。そこでまたもや、グラサンのいかつい男の人が話しかける。

「……社長、とりあえず奥の方を御覧ください」「日向! あなたは余計な口出し……、え?」

 日向って呼ばれた人が指差した方向を見た恩田社長が、言葉に詰まる。てか、その男の人の名前、日向っていうんだ。恩田社長の部下っぽいな。

「ちーっすぅ。恩田社長~」「や、安川さん? あ、あなたもここに?」

 壁際に座らせてる奴らの傍にいた安川さんが恩田社長に挨拶する。隣りにいる雄介も、ペコリと頭を下げた。

「始めまして。その安川明歩の彼氏、三浦雄介です」「あ、あなたが安川さんの彼氏? いや、それより……」

 ようやく壁際に座らせてる連中気づいた恩田社長は、唖然とした顔になってる。

「もう一度聞きます。これ、どういう事ですか?」

 再度柊さんが恩田社長に質問する。何だか冷めた声色で。

「……それより、何故大内君はそんなに顔を腫らしているの? そこの三人は私知らないけど、まあ、おおよそ見当はつくわ。きっと大内君の協力者ね」

 柊さんの問には答えず、はあ、とため息を吐きながら手を額に当てる恩田社長。そこで、柊さんが再び、やや怒気のこもった声で恩田社長に話しかける。

「……やはり、彼に依頼して、明歩に余計な事をしてたんですか」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

約束へと続くストローク

葛城騰成
青春
 競泳のオリンピック選手を目指している双子の幼馴染に誘われてスイミングスクールに通うようになった少女、金井紗希(かないさき)は、小学五年生になったある日、二人が転校してしまうことを知る。紗希は転校当日に双子の兄である橘柊一(たちばなしゅういち)に告白して両想いになった。  凄い選手になって紗希を迎えに来ることを誓った柊一と、柊一より先に凄い選手になって柊一を迎えに行くことを誓った紗希。その約束を胸に、二人は文通をして励まし合いながら、日々を過ごしていく。  時が経ち、水泳の名門校である立清学園(りっせいがくえん)に入学して高校生になった紗希は、女子100m自由形でインターハイで優勝することを決意する。  長年勝つことができないライバル、湾内璃子(わんないりこ)や、平泳ぎを得意とする中條彩乃(なかじょうあやの)、柊一と同じ学校に通う兄を持つ三島夕(みしまゆう)など、多くの仲間たちと関わる中で、紗希は選手としても人間としても成長していく。  絶好調かに思えたある日、紗希の下に「紗希と話がしたい」と書かれた柊一からの手紙が届く。柊一はかつて交わした約束を忘れてしまったのか? 数年ぶりの再会を果たした時、運命の歯車が大きく動き出す。 ※表示画像は、SKIMAを通じて知様に描いていただきました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

どうしてもモテない俺に天使が降りてきた件について

塀流 通留
青春
ラブコメな青春に憧れる高校生――茂手太陽(もて たいよう)。 好きな女の子と過ごす楽しい青春を送るため、彼はひたすら努力を繰り返したのだが――モテなかった。 それはもうモテなかった。 何をどうやってもモテなかった。 呪われてるんじゃないかというくらいモテなかった。 そんな青春負け組説濃厚な彼の元に、ボクッ娘美少女天使が現れて―― モテない高校生とボクッ娘天使が送る青春ラブコメ……に見せかけた何か!? 最後の最後のどんでん返しであなたは知るだろう。 これはラブコメじゃない!――と <追記> 本作品は私がデビュー前に書いた新人賞投稿策を改訂したものです。

処理中です...