何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その七十三

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「か、彼氏……だと? 嘘だろ? 美久、俺というものがいながら……」「前々から言ってたと思うけど、私あんたの事なんとも思ってなかったから。というか、嫌いだし」

「な! き、嫌いって……。俺と美久とは幼馴染なんだぜ? 幼馴染ってのは大抵結ばれるもんだろ?」「そのとかどうでもいい。私は私の気持ちに素直になっただけ。あとさっきから美久って呼んでるけど、もう止めてよね」

 既に俺の腕から離れ、今度は自分の腕を組んで仁王立ちになってる柊さん。明らかに怒ってるね。

「そ、そんな事言うなよぉ! 俺達、小さい時一緒に風呂入った仲じゃん! 遊園地もプールも行ったじゃん! それなのに、それなのに……」「それ言うなら他の幼稚園のお友達とも一緒にお風呂入ったし、遊びにも行ってるし。あんたは言わば幼馴染じゃなくて腐れ縁、てところ」

「そ、そんな……、俺、俺ずっと昔からお前の事……」

 そしてガックリうなだれるヒロ君。……ん? どうやら泣いてるっぽい。つか、やっぱ幼馴染だから小さい頃一緒に風呂入ったんだ。……ちょっと羨ましい。

 それはともかく、ヒロ君、どうやら柊さんの事が好きだという気持ちは本物だったみたいだな。……だからといって全く同情しないけど。安川さんをこんな目にあわせた奴だし。

 しかし、柊さんがこんな強い口調で意見言うの初めて見た。これまで俺に見せてた弱々しい女の子って感じじゃない。嫌われ演技してた時の高圧的な柊さんっぽいな。今見た目は疋田さんだけど。

「……帰ろっか」「そうだな。ここに長居しても気分悪くなるだけだし」

 そこで安川さんがポツンと一言。雄介もとりあえず、安川さんを無事……、とは言えないかもしれないけど、取り返す事が出来たし、ヒロ君を殴った事で怒りが収まってるみたいだし。ま、頃合いだな。

 ……でも、柊さんはまだ、解決しなきゃならない問題があるけど。そこで俺はふと思い出す。

「そういや雄介、警察に連絡は?」「いや実はしてねーんだ」

「は? 何でだよ?」「柊さんに賭けてたってのと、俺も正直一杯一杯だったから、警察に冷静に話す自信なかったからさ。でももし、アテが外れたら連絡する気だったけどな」

 ……まあ、確かに柊さんの予想が外れたら、もうどうしようもないから警察を頼るしかないけど。結果的には大事にせず済んだ、と思えばいいか。安川さんはとりあえず無事だったし。

 そして警察、という単語が俺達の口から出てきたからか、明らかにヒロ君の顔色が真っ青になった。ほっぺは赤いけど。

「な、なあ? 警察には言わないよな? 未遂だったんだしよぉ」

「「……」」ヒロ君のその言葉に、俺と雄介はカチンときた。

「お前自分のやった事分かってんの? これ普通に警察事案だからな? 未遂だから大丈夫? ふざけんのもいい加減にしろ!」「たまたま連絡しなかっただけだっつの。柊さん頼れなきゃとっくに警察に連絡したくらいの事しでかしてんの、未だわかんねーのか!」 

 俺と雄介が怒鳴ると、ビクっとなり縮こまるヒロ君。

「……そうね。警察に連絡しちゃったら、大内さんのご家族に余計な迷惑かかっちゃうかも」

 そこで柊さんがヒロ君に助け舟? その言葉を聞いたヒロ君は、柊さんを見て感激してる。

「み、美久、ありがとう! ありがとう!」「何勘違いしてんの? あんたのとこのご家族には昔お世話になったからよ。あといい加減私の名前呼ぶの止めてくれない?」

 冷たい目でヒロ君を見返す柊さんに、またもシュンとうなだれるヒロ君。……そういや初めてバイト先の喫茶店でこいつ見た時は、ヒロ君が威圧的で柊さんはおどおどしてた感じだったんだよなあ。今は完全に立場逆転してんな。

 それから今度は柊さん、おもむろにスマホを取り出し、とあるところに電話をかけた。

 ※※※

「ここは……。山? よね? 美久ったら一体どうしてこんな場所に呼び出したりしたのかしら」

「美久から届いた地図データではここで間違いないはずですが。……しかし社長、美久から我々の警護を外して良かったのですか? 先日も勝手に家を飛び出し、友達の家に泊まったらしいじゃないですか」

「さすがにもう大丈夫でしょう。もうすぐあの子東京に行くのだし、今更何も出来ないわ。まあ、東京で本格的に活動をスタートしたら、マネージャーをつけるつもりだけどね」

「美久のファンクラブから既に得ている写真の加工、既に終わっておりますし、写真集の販売と共に、イベントの企画も進んでおりますからね」

「ええ。ようやく売り出せるわ。長かった……。あの内気な子をそれなりに育て上げるのは本当苦労したわ。間違いなくあの子は芸能界で素晴らしい活躍ができる逸材。演技力もさる事ながら、うちに秘めた強い心と表現力。更に頭の回転も早い」

「まあ、だから社長自ら手をかけておられたんですよね」

「ええまあね。……下らない邪魔が入りそうだったけど」

「武智、とかいう男子生徒ですか」「そうよ。美久にはスマホの連絡帳から名前を消すよう言ったけれど、無理やり消させてあの子がへそ曲げて、これまでの事がパーになっちゃったら大変だったから、消さずに置いていていいって言ったのよね」

「それ、大丈夫ですか?」「大丈夫に決まってるでしょう? たかが高校生程度の子どもに我々の邪魔が出来るとでも? そもそも、美久が東京に行ってしまえば繋がりは絶たれるのよ? 万が一、お互い想いを秘めていたとしても、離れ離れになってしまえば、子どものおままごと程度の恋心、直ぐに泡のように消えてしまうわよ」

「まあ社長がそう仰るなら……。ん? どうやらこの先は私有地になっているようです。一旦車を停めます」

「私有地? 一体ここは何なのかしら。美久の意図も良くわからないわ。あら、丁度美久から電話だわ。もしもし?」『お疲れ様です。今どちらですか?』

「何だか山? の私有地の前にいるわよ。ねえ、ここで合ってるの?」『はい。車のまま、中に入ってきて下さい。道なりに来ると小屋が見えてくると思います。そこにいますので』

「はあ? 小屋? ねえ、美久、それって一体……、って切れちゃった」

「まあ、行くしか仕方なさそうですね」「ドッキリでも仕掛けてるのかしらねえ。全く、私だって暇じゃないのに」

 ※※※

 小屋の外から車のエンジンの音と、続けざまドアをバタンバタン、と閉じる音が聞こえてきた。それを聞いた柊さんは、すぐさま小屋の外へ出た。

 そして柊さん以外にも誰かの声が聞こえてくる。あの声は間違いない、恩田社長だ。安川さんも知ってるみたいだから、俺と目を合わせ互いにうなずく。

「恩田さん、ご足労おかけし申し訳ありません」「全くよ。こう見えて私社長なのよ? 暇じゃないんだから余計な呼び出しなんてしないでよね」

「まあまあ社長。そもそも美久が呼び出しするなんて初めての事じゃないですか。何かあったんだろ? 美久」

「ええ、そうです。日向さんもすみません」「今日はお前の護衛じゃなく運転手だから問題ない。それはいいとして、ここは何処なんだ?」

「とりあえず中に入って貰えればわかります」「え? この小屋の中に入るの?」

 そしてキイとドアのきしむ音が聞こえ、恩田社長と既に茶髪のボブと黒縁メガネを外した、いつもの柊さん、それに黒服のいかついグラサンをした男の人、が入ってきた。……てか誰? この人。

「……あなたは! 何で美久と一緒にいるの?」

 俺を見つけるなり大声で叫ぶ恩田社長。

「いや社長、ちょっと待って下さい。それより……」

 いかつい黒服のグラサンの男の人が恩田社長の言葉を遮ろうとするも、どうも怒りが先に来てるみたいで確認せずそのまま大声を出す恩田社長。

「それよりって、これより重大な事ないわよ! 美久! これは一体どういう事なの! 何であなたと武智君が一緒にいるのよ! 説明しなさい!」

 やはり俺の姿を見て恩田社長は怒鳴っちゃうか。怒りのせいか、どうやらその後ろの壁際に座らせてる連中に気づいてないっぽい。いかつい男の人は気づいてて、さっきその事を言おうとしてたみたいだけど。

「説明してほしいのはこっちです。恩田さん」「美久それどういう意味? 私に何の説明をしろっていうの?」

 そう言いながら柊さんは、冷めた目で恩田社長を見つめてる。そこでまたもや、グラサンのいかつい男の人が話しかける。

「……社長、とりあえず奥の方を御覧ください」「日向! あなたは余計な口出し……、え?」

 日向って呼ばれた人が指差した方向を見た恩田社長が、言葉に詰まる。てか、その男の人の名前、日向っていうんだ。恩田社長の部下っぽいな。

「ちーっすぅ。恩田社長~」「や、安川さん? あ、あなたもここに?」

 壁際に座らせてる奴らの傍にいた安川さんが恩田社長に挨拶する。隣りにいる雄介も、ペコリと頭を下げた。

「始めまして。その安川明歩の彼氏、三浦雄介です」「あ、あなたが安川さんの彼氏? いや、それより……」

 ようやく壁際に座らせてる連中気づいた恩田社長は、唖然とした顔になってる。

「もう一度聞きます。これ、どういう事ですか?」

 再度柊さんが恩田社長に質問する。何だか冷めた声色で。

「……それより、何故大内君はそんなに顔を腫らしているの? そこの三人は私知らないけど、まあ、おおよそ見当はつくわ。きっと大内君の協力者ね」

 柊さんの問には答えず、はあ、とため息を吐きながら手を額に当てる恩田社長。そこで、柊さんが再び、やや怒気のこもった声で恩田社長に話しかける。

「……やはり、彼に依頼して、明歩に余計な事をしてたんですか」


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