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その七十二
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「雄介は安川さんを出来るだけ守ってろ」「お、おう」
やや緊張気味に返事する雄介と、不安気な顔の安川さん。まだちゃんと服を着れていなくて、肌を隠すように服持ってる状態だから早くこの状況を何とかしないと。
それから俺は、隣りにいる柊さんに目配せする。
「柊さん、出来るだけ俺のそばから離れないでね」「うん。武智君の強さ知ってるから安心してる」
俺がそうやって皆に小さな声で伝えてる間、三人組は余裕の表情でヘラヘラ笑ってやがった。まあ向こうは三人いて俺達みたいに守るものがないから、余裕かますのも仕方ないか。
そこで、いきなり一人が柊さんにダッとダッシュして向かっていった。
「ばーか! まともにやりあうかっての!」そいつはギャハハと叫びながら柊さんに飛びかかる。だが俺が隣にいる。そうはさせまいと、横蹴りでそいつの腹に打ち込んでやった。
ドゴォ! とそいつの横っ腹に鈍い音がしてクリーンヒット。「う、ぐああ、あ!」と、そいつは唸りながらその場にうずくまる。今度は別のやつが、安川さんの前にいた雄介に、いつの間にか手にしていたナイフを持って襲いかかった。
「く、くそ! 俺だってやってやらあ! 悠斗みたく強くねーけどなあ! めちゃくちゃ腹たってんだからなあ!」雄介はナイフを見て少したじろぐも、緊張した面持ちでスッといつもの上段の構えを作る。そして上から振りかぶったナイフの軌道を読み、それを躱したと同時に、カウンターで顎に正拳突きを「ウラア!」という気合の声と共に打ち付けた。
「うがああ!」叫びながら仰向けにひっくり返るナイフの男。
「……ま、マジかよ」二人共一瞬で倒され驚愕の表情になる残りの一人。俺と雄介はじりっじり、とそいつににじり寄る。
「お、お前らもしかして、格闘技の経験とかあんの?」「俺と悠斗は空手部だ。しかも悠斗は県大会で準優勝してんぞ」
「しゃ、洒落になんねぇ」雄介の一言で、明らかに戦意が喪失してる残り一人。そしてそいつは突然、バッと地面に座って土下座した。
「わ、悪かった! もうお前らの勝ちなんだし許してくれ!」
そいつの突然の行動に一瞬ためらう俺と雄介。だが、そこへようやく着替え終えた安川さんが、俺達の前に出てきた。眉間にシワを寄せこめかみに青筋立てて。
「あんたさあ、アタシを拉致って下着姿にして、その先までヤろうとしたくせに、何が許せ、なんだよ! 調子いい事言うな!」そう怒鳴って思い切りサッカーキックでそいつの顎をバーン、と蹴り上げる。「ぐはあ!」と声を上げる男。そして「いったーい!」と安川さんも叫び声を上げながらケンケンして足を擦ってる。……そりゃ、鍛えてない人が足の甲で蹴り入れちゃ痛いよね。ま、怒りでそこまで冷静になれなかったんだろうけど。
で、安川さんの蹴りは思ったより強かったようで、土下座してた奴はそのまま、前のめりにバタン、と倒れて気絶してしまった。
そこで、ようやく気がついた、ほっぺパンパンに膨れたヒロ君。俺達は皆仁王立ちで、ヒロ君を取り囲んだ。
※※※
「「「「……」」」」
地面に正座してるヒロ君からすべての事情を聞いた俺達。その内容に皆、黙ってしまうしか無かった。いや、柊さんだけが、わなわなと体を震わせてる。それは怒りなのか、それとも悲しみなのか。
「……恩田さんが指示してたなんて、信じられない」「……しかも、アタシと雄介を引き離すため、って?」
絞り出すよう柊さんと安川さんから出た声もどこか震えてる。
ヒロ君から聞いた話は、とても衝撃的な内容だった。
恩田さんは容姿がよくキャラもいい安川さんを手に入れたいがために、邪魔になってる彼氏、雄介と別れさせるため、ヒロ君を使って誘惑し別れさせるよう仕向けてたそうだ。ただ、方法についてはヒロ君に一任されてたみたいだけど。
それがうまくいけば、ヒロ君は晴れて恩田プロモーション専属俳優になれる、という約束を取り付けてたとの事。それは周りで寝転がってる三人組も同じらしいけど、実は彼らについてはヒロ君が勝手に恩田さんに言っといてやる、と言ってただけで、確約ではないらしい。ま、そこはどうでもいいか。
そもそもどうやってヒロ君と恩田さんが知り合ったのか。それは、柊さんが恩田社長肝いりで、直接関わっている事を幼馴染であるヒロ君は知ってて、ある日柊さんの家に恩田さんが行った時、何とか縁を取り付けようと近づいたのがキッカケだったらしい。そこで、今回の提案を恩田さんから聞いたんだと。
ヒロ君は学校は違えど俺達と同じK市出身。柊さんの幼馴染だからね。地元だから安川さんにも接触しやすいという事も、ヒロ君を使う動機になったみたいだけど。
で、この三人組が安川さんに絡み、ヒロ君が助けて、運命だ縁だなどといって惚れさせようって計画をしたそうだ。しかも二回。そのうちの一回は、俺が疋田さんの正体を知ったあの夏祭りの日。あの日雄介とたまたま廃寺のとこで会ったけど、安川さんが絡まれてたのは、雄介含め今話し聞いて初めて知った。どうやら安川さん、気を使って誰にも言ってなかったみたいだ。
でも結局、誘惑してみたけど失敗したから、今度は強硬手段、恥ずかしい写真を撮ってそれをネタに脅して、無理やり別れさせようと考えたらしい。ま、それもこうやって失敗に終わったけど。
つか、もし俺達がここに来なかったら、こいつら写真撮るだけで終わってなかっただろう。そう考えると、改めて腹が立ってくる。ホンット、こいつらクズだ。
……考えたら、昔俺こいつに負けたと思って泣いた事あったんだよな。バイト先に来た時だ。疋田さんの幼馴染でイケメンだったから、きっと彼氏なんだろうって勘違いして。こんなクソ野郎、柊さんが彼氏にするわけないよな。ま、今は俺が彼氏なんだし。
つーかこいつ、芸能人になりたかったのか。
「でもさぁ、明歩を芸能界に勧誘するなら、別れさせる必要なくね?」雄介の問いに、顔を腫らしたヒロ君が答える。
「……恩田さんは、デビュー前の芸能人に恋人がいるのは邪魔だって言ってた。その上で、たかが高校生のガキ如きが溺れてる恋心なんざ、すぐに脆く崩れるもんだから、俺がけしかければ安川さんはきっと、簡単に別れるだろうって」
「あのオバちゃんそんな事言ってたんだ? あいつもサイッテーじゃん!」ヒロ君の言葉に安川さんが叫ぶ。そしてその様子を、柊さんは凄く暗い顔で見てた。
……自分の大事な友人を、幼馴染が襲った。それだけでも相当ショックなのに、それを計画したのは、実は柊さんもお世話になってる恩田さんだった。そりゃ、辛いよな。
俺が柊さんの手をそっと握る。柊さんは俺の顔を見るも今にも泣き出しそうだ。俺は何も言わずただ見つめた。
そんな俺と柊さんとの様子を見たヒロ君が、何か言おうとしたところで雄介が先に怒気のこもった大声で話す。
「つーかさあ、お前が俺と明歩を別れさせようとしてたのは百歩譲って分かるとしてもだ、今日のこれはやり過ぎだろう?」
「……だって安川さん、俺になびかないんだから仕方ねーだろ? 後は脅すくらいしか方法ねぇし。失敗したら俺、恩田プロモーションに入れねーじゃん。だから仕方なかったんだよ」
床に正座しながらチッ、と舌打ちするヒロ君に、俺はイラっとする。けど、俺より先に雄介が、もう我慢ならない形相でガッとヒロ君の胸ぐらを掴んだ。
「お前の都合なんか知るかよ! 大事な俺の彼女をこんな目にあわせやがって!」
とうとう雄介がヒロ君をガッと殴った。「ぐはあ!」とヒロ君が叫びながら、白い歯がキラリーン、と飛んでったのが見えた。ズサァと地面に倒れるヒロ君。そしてベッと口から血を吐いた。多分中を切ったんだろうな。
「て、てめぇ……。イケメンの俺の大事な歯を……」「知るか! お前のせいで、お前のせいで! 明歩がどんだけ怖かったかわかんねーのか! しかも明歩の気持ちをもて遊びやがってええええ!」
またも怒りに任せ殴る雄介。「ぐああッ!」今度はかなり後方に吹っ飛ぶヒロ君。
それでも収まりがつかない雄介は、仰向けに倒れてるヒロ君に馬乗りになり更に殴ろうとする。だが、さすがにこれ以上やると、雄介の拳が危ない。そう思った俺は雄介達の元へ行き、腕を掴んで止めた。
「悠斗! 何すんだ! 離せよ!」「これ以上やるとお前の拳が潰れるって。県大会もあるしもう止めとけ」
「だ、だけど!」「雄介! ありがとう、もういい! 気持ちめっちゃ伝わったし嬉しかったし!」そこで、安川さんが何だか頬を赤らめ声を掛けながら、俺の反対側から雄介を抱きしめた。
「あ、明歩がそう言うなら……」そう言いながら、振り上げた拳を何とか下ろし、雄介はヒロ君から退いた。
それから柊さんがツカツカと仰向けに寝転がってるヒロ君の元に歩いていく。俺と雄介、そして安川さんは一旦離れる。
「ヒロ君……。ううん、もうあんたなんか幼馴染でも知り合いでもない。大内君」
「な! み、美久! そ、そんな事言うなよぉ……」「私の名前、気安く呼ばないで」
「で、でもさあ、俺、安川さんが美久の友達って知らなかったんだぜ? 仕方なくねーか?」「……正気なの? 友達じゃなかったとしても、あんたがやった事は最低だという事は変わらない。許せるわけない」
わなわな震えながら拳を握りしめてる柊さん。あ、これヤバい。またヒロ君叩きそうだ。俺は柊さんの横へ並び、腕を掴む。
「柊さん、大丈夫?」「武智君? あ、うん……。ハハ。こんな怒ったの生まれて初めて。私ってこんなに怒れるんだって変に感心してたりしてる。……うん、もう大丈夫」
「そっか」「うん」
俺と柊さんは微笑み合いながら手を繋ぐ。どうやら手は余り腫れてないみたいだ。良かった。
「……何だよお前ら? なんつーか、その、いい雰囲気はよぉ? てか、お前、疋田美里が柊美久って、もう知ってんのかよ」
「え? そりゃそうだよ。だって、武智君は私の彼氏なんだから」
俺が答えるより先に、柊さんがニッコリしながら答える。目は笑ってないけど。そしてあからさまに俺の腕に絡みついた。
「えええ……」
頬が赤く腫れ歯が欠けた残念イケメン君はそれを見て、それはこの世の終わりってくらいに絶望した顔となり、膝からガクン、と地面にへたり込んだ。
やや緊張気味に返事する雄介と、不安気な顔の安川さん。まだちゃんと服を着れていなくて、肌を隠すように服持ってる状態だから早くこの状況を何とかしないと。
それから俺は、隣りにいる柊さんに目配せする。
「柊さん、出来るだけ俺のそばから離れないでね」「うん。武智君の強さ知ってるから安心してる」
俺がそうやって皆に小さな声で伝えてる間、三人組は余裕の表情でヘラヘラ笑ってやがった。まあ向こうは三人いて俺達みたいに守るものがないから、余裕かますのも仕方ないか。
そこで、いきなり一人が柊さんにダッとダッシュして向かっていった。
「ばーか! まともにやりあうかっての!」そいつはギャハハと叫びながら柊さんに飛びかかる。だが俺が隣にいる。そうはさせまいと、横蹴りでそいつの腹に打ち込んでやった。
ドゴォ! とそいつの横っ腹に鈍い音がしてクリーンヒット。「う、ぐああ、あ!」と、そいつは唸りながらその場にうずくまる。今度は別のやつが、安川さんの前にいた雄介に、いつの間にか手にしていたナイフを持って襲いかかった。
「く、くそ! 俺だってやってやらあ! 悠斗みたく強くねーけどなあ! めちゃくちゃ腹たってんだからなあ!」雄介はナイフを見て少したじろぐも、緊張した面持ちでスッといつもの上段の構えを作る。そして上から振りかぶったナイフの軌道を読み、それを躱したと同時に、カウンターで顎に正拳突きを「ウラア!」という気合の声と共に打ち付けた。
「うがああ!」叫びながら仰向けにひっくり返るナイフの男。
「……ま、マジかよ」二人共一瞬で倒され驚愕の表情になる残りの一人。俺と雄介はじりっじり、とそいつににじり寄る。
「お、お前らもしかして、格闘技の経験とかあんの?」「俺と悠斗は空手部だ。しかも悠斗は県大会で準優勝してんぞ」
「しゃ、洒落になんねぇ」雄介の一言で、明らかに戦意が喪失してる残り一人。そしてそいつは突然、バッと地面に座って土下座した。
「わ、悪かった! もうお前らの勝ちなんだし許してくれ!」
そいつの突然の行動に一瞬ためらう俺と雄介。だが、そこへようやく着替え終えた安川さんが、俺達の前に出てきた。眉間にシワを寄せこめかみに青筋立てて。
「あんたさあ、アタシを拉致って下着姿にして、その先までヤろうとしたくせに、何が許せ、なんだよ! 調子いい事言うな!」そう怒鳴って思い切りサッカーキックでそいつの顎をバーン、と蹴り上げる。「ぐはあ!」と声を上げる男。そして「いったーい!」と安川さんも叫び声を上げながらケンケンして足を擦ってる。……そりゃ、鍛えてない人が足の甲で蹴り入れちゃ痛いよね。ま、怒りでそこまで冷静になれなかったんだろうけど。
で、安川さんの蹴りは思ったより強かったようで、土下座してた奴はそのまま、前のめりにバタン、と倒れて気絶してしまった。
そこで、ようやく気がついた、ほっぺパンパンに膨れたヒロ君。俺達は皆仁王立ちで、ヒロ君を取り囲んだ。
※※※
「「「「……」」」」
地面に正座してるヒロ君からすべての事情を聞いた俺達。その内容に皆、黙ってしまうしか無かった。いや、柊さんだけが、わなわなと体を震わせてる。それは怒りなのか、それとも悲しみなのか。
「……恩田さんが指示してたなんて、信じられない」「……しかも、アタシと雄介を引き離すため、って?」
絞り出すよう柊さんと安川さんから出た声もどこか震えてる。
ヒロ君から聞いた話は、とても衝撃的な内容だった。
恩田さんは容姿がよくキャラもいい安川さんを手に入れたいがために、邪魔になってる彼氏、雄介と別れさせるため、ヒロ君を使って誘惑し別れさせるよう仕向けてたそうだ。ただ、方法についてはヒロ君に一任されてたみたいだけど。
それがうまくいけば、ヒロ君は晴れて恩田プロモーション専属俳優になれる、という約束を取り付けてたとの事。それは周りで寝転がってる三人組も同じらしいけど、実は彼らについてはヒロ君が勝手に恩田さんに言っといてやる、と言ってただけで、確約ではないらしい。ま、そこはどうでもいいか。
そもそもどうやってヒロ君と恩田さんが知り合ったのか。それは、柊さんが恩田社長肝いりで、直接関わっている事を幼馴染であるヒロ君は知ってて、ある日柊さんの家に恩田さんが行った時、何とか縁を取り付けようと近づいたのがキッカケだったらしい。そこで、今回の提案を恩田さんから聞いたんだと。
ヒロ君は学校は違えど俺達と同じK市出身。柊さんの幼馴染だからね。地元だから安川さんにも接触しやすいという事も、ヒロ君を使う動機になったみたいだけど。
で、この三人組が安川さんに絡み、ヒロ君が助けて、運命だ縁だなどといって惚れさせようって計画をしたそうだ。しかも二回。そのうちの一回は、俺が疋田さんの正体を知ったあの夏祭りの日。あの日雄介とたまたま廃寺のとこで会ったけど、安川さんが絡まれてたのは、雄介含め今話し聞いて初めて知った。どうやら安川さん、気を使って誰にも言ってなかったみたいだ。
でも結局、誘惑してみたけど失敗したから、今度は強硬手段、恥ずかしい写真を撮ってそれをネタに脅して、無理やり別れさせようと考えたらしい。ま、それもこうやって失敗に終わったけど。
つか、もし俺達がここに来なかったら、こいつら写真撮るだけで終わってなかっただろう。そう考えると、改めて腹が立ってくる。ホンット、こいつらクズだ。
……考えたら、昔俺こいつに負けたと思って泣いた事あったんだよな。バイト先に来た時だ。疋田さんの幼馴染でイケメンだったから、きっと彼氏なんだろうって勘違いして。こんなクソ野郎、柊さんが彼氏にするわけないよな。ま、今は俺が彼氏なんだし。
つーかこいつ、芸能人になりたかったのか。
「でもさぁ、明歩を芸能界に勧誘するなら、別れさせる必要なくね?」雄介の問いに、顔を腫らしたヒロ君が答える。
「……恩田さんは、デビュー前の芸能人に恋人がいるのは邪魔だって言ってた。その上で、たかが高校生のガキ如きが溺れてる恋心なんざ、すぐに脆く崩れるもんだから、俺がけしかければ安川さんはきっと、簡単に別れるだろうって」
「あのオバちゃんそんな事言ってたんだ? あいつもサイッテーじゃん!」ヒロ君の言葉に安川さんが叫ぶ。そしてその様子を、柊さんは凄く暗い顔で見てた。
……自分の大事な友人を、幼馴染が襲った。それだけでも相当ショックなのに、それを計画したのは、実は柊さんもお世話になってる恩田さんだった。そりゃ、辛いよな。
俺が柊さんの手をそっと握る。柊さんは俺の顔を見るも今にも泣き出しそうだ。俺は何も言わずただ見つめた。
そんな俺と柊さんとの様子を見たヒロ君が、何か言おうとしたところで雄介が先に怒気のこもった大声で話す。
「つーかさあ、お前が俺と明歩を別れさせようとしてたのは百歩譲って分かるとしてもだ、今日のこれはやり過ぎだろう?」
「……だって安川さん、俺になびかないんだから仕方ねーだろ? 後は脅すくらいしか方法ねぇし。失敗したら俺、恩田プロモーションに入れねーじゃん。だから仕方なかったんだよ」
床に正座しながらチッ、と舌打ちするヒロ君に、俺はイラっとする。けど、俺より先に雄介が、もう我慢ならない形相でガッとヒロ君の胸ぐらを掴んだ。
「お前の都合なんか知るかよ! 大事な俺の彼女をこんな目にあわせやがって!」
とうとう雄介がヒロ君をガッと殴った。「ぐはあ!」とヒロ君が叫びながら、白い歯がキラリーン、と飛んでったのが見えた。ズサァと地面に倒れるヒロ君。そしてベッと口から血を吐いた。多分中を切ったんだろうな。
「て、てめぇ……。イケメンの俺の大事な歯を……」「知るか! お前のせいで、お前のせいで! 明歩がどんだけ怖かったかわかんねーのか! しかも明歩の気持ちをもて遊びやがってええええ!」
またも怒りに任せ殴る雄介。「ぐああッ!」今度はかなり後方に吹っ飛ぶヒロ君。
それでも収まりがつかない雄介は、仰向けに倒れてるヒロ君に馬乗りになり更に殴ろうとする。だが、さすがにこれ以上やると、雄介の拳が危ない。そう思った俺は雄介達の元へ行き、腕を掴んで止めた。
「悠斗! 何すんだ! 離せよ!」「これ以上やるとお前の拳が潰れるって。県大会もあるしもう止めとけ」
「だ、だけど!」「雄介! ありがとう、もういい! 気持ちめっちゃ伝わったし嬉しかったし!」そこで、安川さんが何だか頬を赤らめ声を掛けながら、俺の反対側から雄介を抱きしめた。
「あ、明歩がそう言うなら……」そう言いながら、振り上げた拳を何とか下ろし、雄介はヒロ君から退いた。
それから柊さんがツカツカと仰向けに寝転がってるヒロ君の元に歩いていく。俺と雄介、そして安川さんは一旦離れる。
「ヒロ君……。ううん、もうあんたなんか幼馴染でも知り合いでもない。大内君」
「な! み、美久! そ、そんな事言うなよぉ……」「私の名前、気安く呼ばないで」
「で、でもさあ、俺、安川さんが美久の友達って知らなかったんだぜ? 仕方なくねーか?」「……正気なの? 友達じゃなかったとしても、あんたがやった事は最低だという事は変わらない。許せるわけない」
わなわな震えながら拳を握りしめてる柊さん。あ、これヤバい。またヒロ君叩きそうだ。俺は柊さんの横へ並び、腕を掴む。
「柊さん、大丈夫?」「武智君? あ、うん……。ハハ。こんな怒ったの生まれて初めて。私ってこんなに怒れるんだって変に感心してたりしてる。……うん、もう大丈夫」
「そっか」「うん」
俺と柊さんは微笑み合いながら手を繋ぐ。どうやら手は余り腫れてないみたいだ。良かった。
「……何だよお前ら? なんつーか、その、いい雰囲気はよぉ? てか、お前、疋田美里が柊美久って、もう知ってんのかよ」
「え? そりゃそうだよ。だって、武智君は私の彼氏なんだから」
俺が答えるより先に、柊さんがニッコリしながら答える。目は笑ってないけど。そしてあからさまに俺の腕に絡みついた。
「えええ……」
頬が赤く腫れ歯が欠けた残念イケメン君はそれを見て、それはこの世の終わりってくらいに絶望した顔となり、膝からガクン、と地面にへたり込んだ。
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