何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その六十九

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 ※※※

「はあー、凄かったあ!」「思ってた以上に迫力あって驚いたよ」

 本当だねー、と、とても楽しそうに笑う柊さん。すっごいキラキラした笑顔だな。……おおっと、また見惚れそうになった。

 たかが水族館のイルカショーっしょ? 動物園じゃないんだし、大した事ないだろう、そう高をくくってたのに、実際見たらイルカがあんなにも高くジャンプしたり、飼育員さんとのコラボも最高で、時間にしてたった十分程度のショーだったけど、この水族館来て一番テンションあがった。

「観れて良かった。本当にここ来て良かった」「そっか。俺も選んだ甲斐あったよ」

 そしてお互いの顔を見合い微笑み合う。何この幸せな感じ。ヤバイね。

 それから柊さんは、エイ、と小さく掛け声? を発して、何と俺の腕に絡まってきた。

「ほ、ほら、か、彼女、彼女だから」「う、うん」

 周りには家族連れやカップル等、結構な人がいるのに、そんな大胆な事するとは。そして柊さん、自分でやっておきながら恥ずかしくなったようで、うつむいちゃった。

「で、でも、そういうのめっちゃ嬉しい」「そ、そう? なら良かった」

 俺が照れながらそういうと、柊さんは赤い顔で俺を見て、超絶素敵なスマイルを見せる。茶髪ボブの黒縁メガネでも、その魅力は破壊力絶大だ。

 そんな疋田美里さんに変装してる、柊さんを見てニヨニヨが止まらない俺だけど、柊さんはふと、目を伏せ話し始めた。

「……あ、あの、ね? 武智君。ちょっと聞きたい事があって」「ん? なに?」

「私が泊まった時、寝る前、武智君の部屋に行ったでしょ? それで、あの、その……」「「?」

 どうも言いにくそうにしてる? 何だろ?

「あの時、あの、えっと、その、私と……、その」「……あ」

 さすがに俺も、柊さんが何を言いたいのか気づいてしまった。

「……そりゃ俺も男だから、柊さんみたいな超絶可愛い子が、深夜俺の部屋に無防備なカッコでやってきたら、期待しちゃったのは事実だよ」「! や、やっぱりそうだったの?」

 めっちゃ驚き俺の腕から離れ、更にササっと数m距離を取る柊さん。……そんな引かなくても良くね?

「じゃ、じゃあ、あの時、私寝ちゃった後、もしかして……。何かした?」「してないしてない。それは誓ってしてないよ」

 そっちの心配ね。ま、そりゃ寝ちゃったしいつの間にか部屋移動してたし、気になるよね。

「だってさ、あの時まだ付き合ってさえいなかったし。それなのに手を出すなんて不誠実な事、したくなかったからね」

「そ、そっか。……ごめんね、疑っちゃって」

 上目遣いで申し訳なさそうにそーっと顔を上げ見つける柊さん。黒縁メガネの奥の瞳がちょっと強張ってる? 何かもじもじしてるぞ? まあその仕草も可愛いけど。

「で、でね? やっぱり、その、武智君って、そういう事……したい?」「え?」

 声が小さくて聞き取れない。

「ごめん聞こえなかった……。あ、ちょっと待って。電話だ」

 そう言って俺がポケットからスマホを取り出すと、柊さんは何故かプクーとほっぺを膨らましてる。……何で怒ってんの? 

 柊さんの態度が若干気になりながら、スマホ画面を見ると電話の相手は雄介だった。どうしたんだろ?

「もしもし? どうした?」

『はあ、はあ、ゆ、悠斗。……デートだってのに電話しちまって悪い』

「いやまあそれはいいけど……。雄介、何か息切れしてねーか? 何かあった?」

『……明歩が、明歩が拐われた』

 ※※※

「は?」安川さんが誘拐? 何言ってんの?

 雄介の言ってる意味が今いち把握出来ない俺。だが、雄介は気にせず言葉を続ける。

『はあ、はあ。クソゥ! あいつら車ってどういう事だよ!』

「落ち着け雄介。安川さんが拐われたってどういう事だよ?」

 俺がやや大きな声でそう言ったからか、急に柊さんが真顔になる。

「え? 明歩に何かあったの?」柊さんは俺に問いかけるけど、続きが気になったのでチョット待って、と手で遮るゼスチャーをする。

『お前がバイトしてた先に来てた、ヒロ君って覚えてっか? ほら、疋田さん……、いや、柊さんの幼馴染っていう』

 ヒロ君? あ、そういやいたいた。雄介と二人でバイトの時間外に覗きに行った時、偉そうにしてた背の高いイケメンだ。俺がバイトしてる時も一回来た事あったな。

 ……そうだ思い出した。あいつ二回目来た時確か、俺に「ピエロ」って言って笑ってたな。それってもしかして、疋田美里さんに変装してる事を、当時俺が知らなかった事を笑ってたんじゃないか? きっとそうだ。

 そう考えたらムカつくけど、今は俺もその秘密知ってるし、そもそも俺は今柊さんと恋人同士。幼馴染のイケメンより、柊さんは俺を選んでくれたんだ。だから今は寧ろ、優越感の方が強いから怒りはすぐに収まった。

 それはともかく、雄介の話が気になる。

「おう。覚えてるぞ。あのいけ好かないイケメンだろ? そいつがどうしたんだ?」『……そいつが、明歩を拐った』

「へ?」どういう事だ? 柊さんの幼馴染が、安川さんを拐ったって? 

『お前に電話したのは、柊さんに聞いて欲しかったんだ。ヒロ君ってヤツが行きそうな場所を。俺は柊さんの連絡先知らねぇから、悠斗に連絡して聞きたくてな』

「……安川さんが柊さんの幼馴染に拉致され、車で移動してて、雄介は途中まで走って追いかけてた。そういう事か?」『ああ』

 ……マジか。何故安川さんがあの高飛車な柊さんの幼馴染に連れて行かれたか気になるけど、今は一刻を争う。

「でも誘拐されたんなら、警察に連絡しないと……」『それじゃ間にあわねーんだよ!』

 突如叫ぶ雄介。俺はつい、耳元のスマホから距離を取ってしまう。スマホから雄介の悲痛な叫びが、耳を離していても聞こえる。

『あいつら、あいつらヒロ君ってヤツ含めて四人組で、しかも車で連れていきやがった! 警察なんざチンタラしてやがるし、通報してからじゃおせーんだよ! 俺が行かなきゃ、何されるか……!』

「……とりあえず落ち着け雄介。今どこだ? ……車追いかけて走ってたって? タクシー乗るにしても目的地分かんないから使えなかった、か。分かった。とりあえず目ぼしい場所わかるかどうか、柊さんに聞いてみる。一旦切るぞ。どっちにしても警察には連絡しとけよ」

 そう言って電話を切る俺。そして柊さんは、さっきまでのデートしてたニヤニヤ顔から、真面目な顔になってる俺を見て顔色が変わる。スマホから雄介の声が聞こえてたのもあるからだろうけど。

「ね、ねえ武智君。さっき明歩がどうのこうのって、三浦君、言ってなかった?」

 不安気な顔で確認する柊さん。

「ヒロ君って、柊さんの幼馴染、だよね?」「え? う、うん。……って、三浦君がさっき電話で言ってたヒロ君って、私の幼馴染の?」

「そうらしい。で、そいつが何でか分かんないけど、安川さんを誘拐したって。四人組で」「……え?」

 呆気にとられる柊さん。意味が分からない。正にそんな顔だ。そりゃそうだ。そもそも、ヒロ君って名前自体、雄介には余り縁がはずだし。俺でさえ忘れてたくらいなんだから。

 でも、雄介がそんな突拍子もない嘘、わざわざ電話してきてまでつくわけないから、間違いなく本当の事だ。

「でさ、ヒロ君ってヤツ、どうやら車で移動してるらしくって、幼馴染の柊さんなら、行き先分かるんじゃないかって、雄介電話してきたんだ」

「え? ヒロ君がなんで? 明歩を? どうして? どうして明歩と知り合いなの? 一体何があったの?」

 ずっと、え? え? と呟きながら、焦点の合わない目で地面を眺め呟いてる。そして真っ青な顔をして、その場にうずくまってしまった。

「柊さん、大丈夫?」「え? あ……」

 俺に呼びかけられ顔を上げるも、体は小刻みに震えてる。その目には涙が溜まってる。俺は柊さんの目線に合わせるため、同じようにその場にしゃがんだ。

「ヒロ君が……。どうして? 明歩が……。どうして?」

 徐々に理解が追いついてきたみたいだ。黒縁メガネの横から大粒の涙が零れ落ちた。俺は柊さんの茶髪ボブのカツラを優しく撫でる。

「落ち着いてからでいいから」「グス、うん。ヒック。でも……。グス、急がないと、いけないんでしょ?」

 俺は黙って頷く。

 ……そして実は、柊さんには気づかれないよう、頭を撫でているもう片方の拳をギリリと力一杯握りしめ、怒りをできるだけ抑えてた俺。

 柊さんにこんな悲しい思いさせやがって! 柊さんの大事な友達の安川さんを拐っただと? ふざけんな!




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