何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その六十八

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「は? 雄介何言ってんの?」

「……数ヶ月前、悠斗がバイトしてる先に二人で行った事があって、その時疋田さんとあいつが言い合いしてたの見たんだよ。その時あいつが幼馴染だって言ってた。確かヒロ君、とか呼んでたから、間違いないと思うぞ」

 ……それって、アタシがこれからバイトする喫茶店じゃん。

「でも幼馴染って事は、疋田美里さんに変装してる美久をも知ってるって事かな?」「柊さんの変装って、ずっと昔からやってるわけじゃないんだろ? ならそういう事だろ。要するあいつは、疋田美里さんへの変装を知ってる、と」

 そこでアタシはふと、ヒロ君が言ってた事を思い出す。大学生風のチンピラから初めて助けて貰った日、あの時アタシは面接のためバイト先に行くのに、ヒロ君もついてきたんだよね。で、面接先の喫茶店見て、ヒロ君確か、幼馴染がここでバイトしてたって言ってた。

 それが、疋田美里さんこと、美久だったって事?

 ……マジで? マジで??  マ~ジ~で~??? ちょっと超ヤバくない? ヒロ君が美久の幼馴染って。

「……知らなかったのか?」アタシが超びっくり顔してるからだろう、雄介にそう聞かれ、アタシはブンブンと頭を縦に振る。

 そしてアタシの様子を見た雄介は、はあ~、と大きくため息を付いて頭をガシガシ掻く。

「何て偶然なんだろ。はあ、どうしよう。美久にこんな事言えないよー」「……」

「ん? 雄介どうしたの?」「偶然、ねえ」

 何だか真面目な顔で考え込む雄介。ちょっと怖い顔してる。……怒ってるのかな?

「あの、えっと……。ヒロ君に言い寄られてた事、黙っててごめん」「あ、いやまあ。それは明歩が気を利かせて、敢えて黙ってたんだろ? それはまあいい」

 雄介、理解してくれてたみたいでホッとするアタシ。でも、その事考えてたわけじゃないみたい?

「なあこれ、本当に偶然か? 何か嫌な予感がする」

 ※※※

「うわあー! 天井に沢山お魚泳いでる!」「本当。小さい魚でもあれだけ大群だと迫力あるね」

 俺と疋田美里さんに変装した柊さんは、手を繋いだまま水族館の魚達を見て二人してはしゃいでる。今俺達は、トンネル状になった通路一面に張り巡らされた、強化ガラスに見える沢山の小魚達の大群を見ながら、奥の方に歩いてる。

 トンネルを抜け正面に見えてきたのは、高さ5m、幅20mはありそうなでかい水槽。どうやら淡水魚のコーナーらしく、でっかいピラルクーが数匹、のんびりと泳いでるのが見える。柊さんは目を輝かせながら大きく見開いて、食い入るように見てる。……はあ、めっちゃ可愛い。

「……私じゃなくてお魚見ようよ」「あ、ごめん。つい、めっちゃ可愛くて」

「もうそういうの、遠慮なく言うんだね」「そ、そりゃあ、か、彼氏、ですからね」

 照れながら言う俺を見て、同じく恥ずかしそうにしながらも、クスクス笑う柊さん。何この可愛い生き物。正直水族館の魚達より、ずっと柊さん見てる方が幸せなんですけど。

「あ、武智君! あっちアザラシだって!」「おおー、見に行こう」

 案内表示に書かれてた、(アザラシコーナー)の文字を見て、テンション高めに俺を引っ張りながら、そちらの方に向かう柊さん。こんな無邪気な一面もあるんだ。凄く可愛らしくて、見てるこっちも幸せな気分になるなあ本当、告白して良かった。

 それから柊さんは、水族館の真ん中にある、大きな円柱状の巨大水槽を、まるで空を飛ぶように悠然と泳ぐ巨大マンタにため息を吐きながら見たり、ペンギン達の愛らしい仕草にはしゃいだり、更にペンギン達がロケットみたいに速く泳ぐ様子を見て驚いたり、とにかくコロコロ表情が変わるのがとても可愛くて、俺も充分、柊さんを堪能できた。……、あ、はい。あんまり魚とか見てません。

 そうやって二人で楽しく水族館内巡りしてたら、いつの間にか昼を過ぎて十三時前になったので、館内のイートインスペースで昼飯を食おうって事になった。

「はあ、凄く楽しい」「うん俺も」

 ま、俺は沢山の柊さんを見れる事が楽しいんだけどね。

「この後イルカショーがあるんだって。それ絶対見たい」「これ食った後くらいだよね。丁度いいタイミングだから、観に行こうか」

 うん! とまるで小学生みたいに元気よく返事する柊さん。今の格好は疋田さんだから、何かギャップを感じる。だって元々、疋田さんは大人しいイメージだったからね。それがこんなに元気にはしゃいでて無邪気なんだから。……だがそのギャップがこれまた良い。最高に良い。

「何見てるの?」「え? あ、えーと、疋田さんとこうやってデートできるの、幸せだなあって」

「あ、そっか。私変装してるの忘れてた。それくらい楽しくて」「アハハ! そんなに喜んでるなら、ここに来て良かったよ」

「……まあ、武智君と一緒、ていうのも、関係してるんだけど」「……お、おっす」

 そう言いながら、顔を赤らめクスリと笑う柊さん。はあヤバい。マジで超幸せなんだけど。

 そして俺と柊さんは、十四時から開始するイルカショーの舞台に、手を繋いで向かった。極々自然感じで。

 ※※※

「つーかお前さあ、いくら世話になったからって、見知らぬ男にホイホイ付いて行くなよ」「……ごめん」

「まあ、何もなくて良かったけどさ。あいつ、悠斗がバイトしてた喫茶店で会った時、スゲェ態度悪かったからなあ」「へ?」

 雄介の言葉に、ついアタシは素っ頓狂な声を上げる。あんな紳士的なのに? 二度もアタシを助けてくれたのに? ……態度悪いって?

「何だその意外そうな顔は?」「いや、アタシといる時は凄く良い人だったからさ」

「そりゃあ、お前を口説いてたからじゃねーの? 嫌な部分を見せないよう気を配ってたっていう事だろ?」

 雄介の言葉を聞いて、アタシは背筋が寒く感じる。じゃあアタシの前で見せてた態度って、仮面被ってたって事で、本性は違うって事だもんね。

「……早めにけじめつけようと思って正解だったかも」「ま、そうだな。明歩はうまく騙されてたって事だと思うしな」

 雄介の言う通りだ。そう思ったらアタシ、とんでもない事してた。

「雄介、本当ごめん。もうアタシ、知らない人に会うのやめる」「ま、今回は助けて貰ったお礼ってのもあったんだろ? じゃあ仕方ねーだろ。気にすんな」

 そう言いながら、雑にアタシの頭をガシガシ撫でる。ちょっと痛いけど、愛情籠ってんの分かるから痛いとは言わず我慢してるアタシ。

 何だかんだ話してたら、十四時回ったくらいの時間になってた。雄介がそろそろ出るか、と言ってレジに行く。アタシはトイレに行くから先外で待ってて、って雄介に伝えた。

 そしてバタン、とトイレの扉を閉め中に入り、大きな鏡に映る自分を見ながら、はあ、と大きくため息をついてしまうアタシ。

「もしこのまま、雄介に内緒でヒロ君に会ってたらヤバかったかも。つか、美久になんて話しよう」

 も一度はあ、とため息をついてしまう。

「でもあれこれ気を回すと、またおかしくなるかもだから、美久には正直に言うか」

 そう決めてトイレから出て、雄介が待ってるであろうファミレスの外に出ようとしたところで、アタシはとある光景を見てピタ、と足を止めてしまう。

「……あれ? 雄介、囲まれてる?」

 ここのファミレスは大きな駐車場があるけど、その隅の方で雄介と三人くらいの男達が、何やら言い争いしてるようにしてるのが、ファミレスの大きなウインドー越しに見えた。……てかあれってもしかして、例のアタシに絡んできた三人組じゃないの?

 アタシは慌てて雄介の元に走って行こうと、急いでファミレスのドアを開け、外に駆けだす。

 でもそこで、急に強い力で腕をガシっと掴まれた。そしてファミレスの入り口の影になってるとこに引っ張られる。アタシは咄嗟の事で声も出ず逆らえず、成すがままにされてしまった。

 そしてその犯人を見てみると、

「おーっと。君はストップストップ」

 悪い顔して嗤ってる、ヒロ君だった。 


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