何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その六十七

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 ※※※

「よっすよっすー」「お、安川さん。今回はありがとね」

「いいって事よ! つかたけっちー、や~るねー」「……あ、はい」

 相変わらずのハイテンションな安川さんに若干引きつつも、やっぱり彼氏彼女になった事、伝えたんだなあと思ったりしてる俺。今日は昨日振りに柊さんと会ってデートだ。作日お別れだってわんわん二人して泣いてたくせになあ。ま、そこはもう割り切ろう。

 ……ただ単に、お別れの日が今日に変わっただけなんだけどね。きっと今日が終われば、暫く柊さんには会えなくなる。

 だから今日は一杯、カップルとして楽しもう。そう決めた。

「美久……、じゃなかった。疋田美里さんも超絶幸せそうだし! 万々歳だね!」「明歩、そういう事大声で言わない」

 そう。今日柊さんは疋田美里さんに変装してる。昨日のCMが流れたし、早速ネット上では「衝撃! あの有名CMに無名新人女優起用!」とか「有名女優のみ起用していたあのCMに、無名の美少女登場!」とかの文字が踊ってたし仕方ない。

 まあでも俺としては、元々疋田さんが好きだったわけだから、むしろ嬉しかったりするんだけどね。

「とりま、邪魔者は消えるよーん。美久ー! また連絡するねー!」「分かったー! ……というか、明歩結局美久って呼んでるし」

 大声で柊さんに声かけながら帰っていく安川さん。ま、名前言ったところで、今はまだあのCMの超絶美少女が柊美久って名前だって、殆どの人は知らないだろうから大丈夫だろうけど。……しかし安川さん、相変わらず嵐みたいだなあ。基本余り目立ちたがらない雄介と、よくもまあうまくいってるよな。

 因みの柊さんとの待ち合わせ場所であるここは、地元から電車を乗り継いで数駅のところ。離れたほうが学校の連中に合う確率下がるだろうって事でここにしたんだよな。

 そして疋田さんの変装は完璧なので、柊さんとバレる可能性は低いだろう。ここまで念には念を入れて隠してたら、まあまず見つかる事はないな。

 で、早速柊さん、俺の手をギュッと握る。そして俺を見て可愛く微笑む。それを見てついニヘラ、と顔が緩んでしまう俺。めっちゃ嬉しい。あーもう幸せ。

「フフ。昨日別れ際、あんなに二人して泣いたのにね」「そうだね。でも、まあ、それは一旦忘れて今日一杯楽しもうか」

 うん、と素敵な笑顔で答える柊さん。茶髪ボブの黒縁メガネで疋田美里さんもやっぱり素敵で可愛い。……何だか、柊美久さんと疋田美里さん、二人と付き合ってる感じで、スゲェ得した気分だな。

「よしじゃあ行こうか」「うん。でも今日どこ行くの?」

「あれ? この駅と言えば有名じゃん。知らない?」「……あ! 水族館?」

 正解! と俺は柊さんに笑顔で答える。柊さんも嬉しそうな顔をした。水族館なら館内だし多分暑くないだろう。そう思って急遽思いついたんだよな。

「実は私、水族館初めて」「おー、じゃあ丁度良かったね」

 そして俺達は手を繋いだまま、仲良く水族館に向かって歩いた。

 ※※※

「えっと、電話貰ってたみたいで」『うん。今日どうしてるかなって。時間あれば会いたいって思ってさ』

 電話の相手はヒロ君。アタシはさっき出れなかった事を詫びながら、電話を掛け直してる。

「えーと、地元のファミレスでいいなら。そこでなら時間とれるけど」『そっか。前みたいに車でどこか連れて行ってあげようと思ったけど。じゃあそっち向かうね』

 そう言ってヒロ君は電話を切った。それからアタシは、大きくフゥー、と息を吐き、今度は別のところへ電話する。

『おう。どした?』「雄介、今日会う約束してたよね? ちょっとお願いがあって、出てこれない? ほら、あのファミレスに来て欲しい」 

『あ? 何で? 家でいいじゃん』「……話したい事があるから」

『話するだけなら家でもいいと思うけどな。……でもえらく神妙だな。訳ありか。分かった』「ごめんね」

 そして電話切ってもう一度大きく息を吐く。よし。ちゃんとけじめつけなきゃ。美久の言葉が後押しになった。ありがとね、美久。

 そして数分後、先に雄介がファミレスにやってきて、アタシが入口前で待ってるのを見つけて、挨拶代わりに黙って手を挙げる。

「入んないのか?」「そ、そっか。入ろうか」

「何でそんな緊張してんだ?」「ま、まあ。入ってから話す」

 そして二人して中に入り、丁度お昼時って事もあって、二人してランチを頼んだ。

 それからアタシは、ずっと言えなかった、ヒロ君との事を雄介に話した。話してるうち、みるみる雄介の顔が怖くなる。……怒ってる。間違いない。

「……何で黙ってた?」「ややこしくなるかなって思ってさ」

「何がだよ?」「だって、アタシが襲われた、とか聞くと、雄介きっと、犯人探し出そうとするっしょ? それに、助けてくれた、その、大内君って言うんだけど、その人と会ってたのだって、他意はないけど誤解産むかなって」

「じゃあ何で今更俺に打ち明けたんだ?」「……その、やっぱり隠し事したくないって思い直して」

 ……本当は雄介との関係に疑問符がついたから、とは言えないから、それは黙っとくけど。隠し事したくなくなったのは本当だし。

 シュンとしてるアタシを見ながら、雄介は、はあー、と大きくため息を付いて頭をガシガシ掻いてる。

「ま、気分良くねーわ。でも、明歩の誠意に免じて不問でいい」「そ、そう? 黙っててホントごめんね」

「で、何でファミレスなんだ? その話だけなら家でも良かったじゃねーか」「あ、実は……」

 と、アタシが言いかけたところで、ヒロ君がファミレスに入ってきた。それを見つけ、アタシは座ったままペコリと頭を下げる。

「ああ、安川さん……、と、えーと?」「……誰?」

 アタシを見つけ笑顔でやってくるヒロ君だけど、背中越しに振り向いた雄介を見て一瞬たじろぐ。雄介は機嫌悪そうにヒロ君見てるけど。

「あ、えっと。この人が以前助けてくれた大内君」「ああ。さっき話てた、助けてくれて二人で飯行ったっていう?」

「ごめん! 彼来るの黙ってて!」「安川さん。もしかして……」

「……あ、うん。彼氏の雄介、三浦雄介君、です」と、アタシに紹介され、機嫌悪そうな顔のまま、ペコリと頭を下げる雄介。

「ああ、やっぱり。君の事は安川さんから聞いてたよ」そう言いながら、にこやかに爽やかに握手しようと手を差し伸べるヒロ君。雄介もぞんざいに出来ないから、黙って握手に応じてるけど、不機嫌な雰囲気のままだ。

「で? どういう事だ?」「そうそう。俺も安川さんに呼び出されたんだよ」

 そうなのか? と雄介がアタシに声を掛けたところで、アタシはバッと立ち上がり、ヒロ君に頭を下げた。

「ごめんなさい! アタシこれ以上ヒロ君には会えません! 二度もピンチのとこ助けてくれたのは感謝してるけど、雄介がいるから。ごめんなさい!」

 そして少しの静寂。アタシが恐る恐る顔を上げると、ヒロ君は呆気に取られた顔をしてたけど、すぐ苦笑いをする。雄介はぽかんとしたままだけど。

「……ああ。それを彼氏の前で言うために、俺を呼び出したってわけか」「……うん」

 そう。アタシはけじめをつけたくて、二人を引き合わせて、その場で謝りたかったんだ。

 さっき美久と話してて、キッカケはともかく、雄介と過ごした思い出こそ、大事だと改めて気づいた。正直、美久みたいな運命の出会いって憧れてたけど、重要なのはそこじゃない。そしてやっぱり、アタシ雄介好きなんだって、思い返したから。

 アタシが立ったままいると、ヒロ君は、そこいい? と自然な感じで雄介の隣に座る。その行動にアタシと雄介はちょっとびっくりしたけど、とりあえずアタシも席に座った。

「いやあまさか、そう来るとは思ってなかったよ。しかし残念だなあ。きっと安川さんとは縁があると思ったのに」「……ごめんなさい」

「俺にもチャンスがあると思ってたのになあ。安川さんもまんざらじゃなかったじゃない?」「……チャンス?」

 雄介がその言葉を聞いて、片方の眉をピクリと上げる。え? ちょっと待って? それ言っちゃうの?

「ああ。ごめんごめん。実は安川さんを口説いてたんだ。……、あれ?もしかしてその事、言ってなかった?」

「……!」あ、あんた! 何言ってくれちゃってんの? せっかくアタシ、余計なトラブルになるから、その事黙ってるつもりだったのに! 

「……あ? それどういう意味だ?」「いや? そのままの意味だけど?」

 その言葉を聞いた雄介の雰囲気がガラリと変わる。上目遣いでギロッとヒロ君を睨んでる。あーもう! 何でこうなっちゃうの! ていうか、ヒロ君の雰囲気が、会ってた時と違って何だか軽薄な感じになってる気がする。

「人の彼女を口説くって、頭おかしいのか?」「おーおー、怖い怖い。そんな怒んなよ。彼氏いようが口説くのはこっちの勝手でしょ? ま、結局たった今フラれちゃったけど」

 雄介がギリリと拳を強く握りしめてる。間違いない。メチャクチャ怒ってる。ヤバい。こんな怒ってる雄介初めて見るよ。

 だけどヒロ君は、そんな雄介を気に留める事なさそうに、スッと席を立ち上がった。

「……俺をフるってか。アハハハ! ホンットおかしいや!」

 そう言い残して、ヒロ君はそのまま店の外に出ていった。一触即発の雰囲気だったのに、どっか行ってしまった事で、アタシと雄介は気を削がれたみたいにポカンとしてしまった。そして何だか雄介、それで怒りが風船みたいにフシュ~って抜けた感じになってる。……というか、なんか考え込んでる?

「……そういやあいつ、どっかで見た気がするな」「え? そうなの?」

 そう言ってうーん、と顎に手を置き考え込む雄介。少しして、あ! と思い出したようで声を出す。

「あいつ確か、疋田美里さんの幼馴染って言ってた奴だ」「……え?」
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