何故か超絶美少女に嫌われる日常

やまたけ

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その六十四

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 ※※※

「そっか。でも良かったじゃん。彼女になったんだからさ」「まあな。前途多難だけど」

 確かに、と返事しながら、雄介はスマホをいじりながら、既に氷しか残ってないアイスコーヒーをストローで啜る。俺は近くのファミレスで雄介と落ち合い、昼飯を食いながら、柊さんと何が会ったのか、そして疋田さんの事も話していた。

「柊さんの嫌われ演技が、実はお前に惚れてたからだったってか? それも疋田さんに変装してた頃にも、想いを募らせてたとか。スゲェな悠斗。お前モテモテじゃん」「モテモテって……。同一人物だし」

「そう言いながら嬉しそうだな」「……うるせぇ」

 雄介がニヤニヤしながら俺に突っ込む。ま、正直嬉しいんだけど。

「つーかお前、柊さんが家に泊ったのになんもしなかったのかよ」「……できねぇよ。親もいたしさ。そもそも、そんな根性ないし、あの時はまだ、彼女じゃなかったしさ」

「でもさあ、状況聞いてたらいつその機会があるか分かんねーぞ」「分かってるけどどうしようもねーじゃん」

 そしてまたもスマホを見てる雄介。何かやたらスマホ気にしてるな。……どうしたんだろ?

「なあ雄介。お前さっきからスマホ見過ぎじゃね?」「え? あ、ああ、すまん。話はちゃんと聞いてるから」

 申し訳なさそうに手にしてたスマホを、一旦机の上に置く雄介。それでも気になるようで、画面をチラチラ見てるけど。

「それは分かってるからいいけど、なんかあったのか?」「……明歩のラインが既読にならねぇ」

「何だよ。そんな事かよ」「いや、今までは寝てる時とか以外は、一度としてそんな事なかったんだよ。だから何か気になってな」

 つーかそれでも気にしすぎだろ、と、若干呆れはしたものの、俺は未だスマホを気にしてる雄介を、何だかちょっと羨ましくも思った。こういうのが彼氏彼女の関係なんだなー、って。

 ※※※

 昼間、雄介が安川さんを気にしてる様子が何だか羨ましかったから、つい夜になって柊さんに『電話していい?』ってライン送っちゃった。するとすぐさま俺のスマホが着信する。画面には’疋田さん携帯’。……これ、名前変えなきゃな。

 そして挨拶もそこそこに、柊さんは今日、家であった事を話してくれた。

「……そっか。でもまあ、俺の連絡先はとりあえず守れたんだ」『うん』

「なんかありがとね」『ううん。だって、私にとっては大事な、一番大事な連絡先だから……』

「アハハ。何か照れる」『言ってる私も恥ずかしい』

 そして二人して電話口で笑い合う。ああ、なんて幸せな一時なんだろう。好きな子とこうやって会話できるって、こんなにも満ち足りた気持ちになるんだなあ。

『でね、お母さんから後で聞いたんだけど、校長先生の図らいで、どうやら私、退学扱いじゃなくって、単位と出席日数足りてる事もあって、卒業扱いにしてくれるんだって』「へえ、でも何で、特別扱いしてくれたんだろう?」

『それは……。清田先生の件、黙っててほしいって言われて、その見返りにって。詳しくは分からないけど、教育委員会? に報告したくないからって』「……柊さんはそれでいいの?」

『清田先生はあの学校辞めさせられるって聞いたし、どっちにしろ私はもう学校に行かないし、ならいいかなって』「そっか。柊さんがいいならいいけど」

 そりゃあ、あれだけの事しでかしたら辞めさせられるわな。清田だって居づらいだろうし。まあ、俺は夏休み中も空手の練習で学校に行くから、会う可能性あったけど。もう会えないんだな。見かけたらもっかいぶっ飛ばしてやりたかったけど。

『……でも、こうやって、そ、その、か、かれ、彼氏と、電話するの、楽しいな』「あ、あはは、はは……」

 たどたどしく照れながら彼氏と言ってくれた柊さんに、嬉しくも恥ずかしくてつい俺も、乾いた笑いをしてしまう。

「ホントは夏休みの間、色んなとこ遊びに行きたかったんだけどなあ」『……ごめんね』

「柊さんは悪くないじゃん。悪いのは運だな」『フフフ。そうだね』

「で、いつから東京に行くの?」『……来週、かな。はっきりした日時は明日に分かるみたいだけど』

 そう。柊さんはK市を離れ、東京住まいになるらしい。仕事の都合だから仕方ないんだけど。一応一人暮らしらしいけど、マネージャーが付いてるし、恩田プロモーションお抱えの賃貸マンションに住むみたいだ。だから、高校三年生の女の子一人でも問題ないらしいんだけど。

 ……それでも何だか心配だなあ。って、俺親かよ。

「それまでに会えるかな?」『努力してみる。会いたいから』

「うん。俺も会いたい」『……ありがと』

 会いたいと言ってありがとう、と返事くれる。スゲェ嬉しいなあ。おっと、つい顔がニヤニヤしてしまった。まあ俺の部屋だから別にいいんだけど。

 そして少しの沈黙。でも、何だろう? 二人して黙ってるのに、何と言うか、不思議と落ち着く。

「あ、そうだ。俺夏の間、空手の試合があるんだよなあ。今年で最後だけど。合宿も行かないといけなくてさあ」『応援、行けないけど頑張ってね』

「おう。柊さんのその言葉だけでメッチャ力出る」『アハハ。そう言って貰えて嬉しい』

 ひとしきり二人して笑う。電話口だけど、それでも何だか繋がってる気がするのが心地いい。そこで柊さんは、何だか決意を込めたような強い口調で話し始める。

『……あのね? 私強くなる。そして武智君に沢山会えるようにする。頑張る。お仕事も周りから認められるように頑張ればきっと、私が自由にできる時間、取れると思うし』「……そっか。俺も柊さんに会えるよう、努力するよ」

 そこでチラッと時計を見る。……ああ、もう夜の零時半だ。電話切らなきゃ。本当はもっと声聞きたいんだけど。

「『……』」またも二人して沈黙してしまう。そりゃそうだ。既に一時間位会話してんだから、もう話す事無いんだもんな。そしてどうやら柊さんも電話切れないっぽい。でもダメだ。

「電話、切らなきゃね。もうこんな時間だし」俺は意を決して伝える。『……うん』そう答えた柊さんの声は、か細く弱々しい。

「じゃあ……」『……うん、じゃあね』そして俺は思い切って電話を切った。

 シーン、という音が聞こえそうなくらい、俺の部屋の中が静かに感じる。名残惜しい気持ちに胸が締め付けられそうになる。

 ……もう柊さんは俺の彼女なんだよな。普通の高校生なら、この夏一杯遊びに行ったり、一緒に塾に行ったりしてるんだろう。でも、柊さんとそれは出来ない。……出来ない事を望んでも仕方ない。それは分かってる。

「でも、淋しいなあ」それでもふと漏れてしまう本音。ああ、もう! 武智悠斗しっかりしろ! 淋しいのは柊さんもだろ!

「あ。そうだ。ちょっと待てよ?」そこで俺はふと、ある事が閃く。そしておもむろにラインを打った。

 ※※※

「よおっす」『久しぶりー』

 ライン打ったらすぐ電話きた。結構夜遅いのに暇なのかよ。

『悠斗こっちに来たいの?』「ああ、うん。東京の大学も受験する予定だし、その前に調べたくてさ」

『あれ? オープンキャンパスとか、説明会とか行ってないの?』「それが、最初は除外してたから」

 すまん姉貴。半分嘘だ。大学は後回しになりそう。下手したら行かないかも……。

 電話の相手は俺の姉貴、武智佐知。俺の三つ上で確か今大学三年生だったはず。現在東京の大学に通ってて、今は一人暮らししてる。

「夏休み中行けたらって思ってんだけど」『ふーん。ま、いいよ。てか、私多分、夏休み中家帰るよ。だからあんた、一人で良ければ鍵貸すよ』

「そうなん? まあもしかしたら数日泊まるかも」『うち狭いから、私がいたら床に布団敷いて寝て貰う事になるけどね。あと着替えとか持ってきてよね』

「つーか、姉貴、まだ彼氏いないの?」『うっさい! 一応これでも結構モテてんだからね! 選り好みしてるだけだっての!』

 まあ、多分事実だろうな。俺の姉貴にしては確かに結構な美人だし。

「まあまた行くとき連絡するわ」『あいあい。待ってるよー』

 電話を切ってつい小さくガッツポーズをする。よし。次は親を説得しないと。柊さんが東京に行くなら、俺が行けばいい。だから東京にいる姉貴に連絡して泊まらせて貰って、時間を作って柊さんに会いに行こう。俺はそう決めた。

 ま、会えるかどうか分かんないけど。でも、行動せず後悔するより、やるだけやった方がきっと後悔しないと思うからね。

 ……でも、父さん母さん、許してくれるかなー?
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